孤高のディザード、吸血鬼の築く理想郷   作:うまみちゃん

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20.迫りくる「死神」と、おっさんの名前

「……そういえば、自分の名前すらまともに名乗っていなかったな。この世界での名は、『ルクレツィア・ヴィスティリア』。中身はただの気弱な、でも土壇場で冷静になるおっさん……『佐藤(さとう)』なんだけどね」

 

ハルツーム自治領の最高執務室で、ルクレツィア(佐藤)はディザードのコンソールを眺めながら、自嘲気味に微笑んだ。ハルツームの「友好的な中立宣言」に対し、案の定、地球連邦軍の軍閥「ティターンズ」は過剰なまでの拒絶反応を示した。

特にキリマンジャロ基地を統括するバスク・オムは、ハルツームの持つ独自の環境再生技術と謎のモビルスーツ技術を「連邦への反逆の芽」と断定。国境沿いの「超巨木ジャングル」の正体を暴くため、ティターンズが誇る冷酷無比な実戦部隊を差し向けてきたのだ。

 

「諜報部『黒の触手』からの報告よ。敵の指揮官は……ヤザン・ゲーブル大尉。まさか、あの宇宙世紀屈指の野生の猛獣(ネームド)が最初の相手になるとはね」

 

おっさんの心臓が気弱に跳ね上がる。だが、それと同時に、彼の中に眠る「スパロボプレイヤーとしての計算」が、パチリと音を立てて火を灯した。

 

「ヤザン・ゲーブル。ハンブラビを駆る最強のエース。……最高じゃない。スパロボのルールが生きているなら、あのレベルの『ネームド(名前付き)』を戦闘不能(撃墜)に追い込めば、必ず強力な『強化パーツ』がドロップするはずよ」

 

ディザードの「4スロット」と、幽霊船の戦闘力

 

ルクレツィアが駆るディザードには、スパロボのシステムとして、全部で4つの『強化パーツスロット』が存在していた。転生特典として最初から1番目のスロットに装備されているのは、機体をメンテナンスフリーにしている『ナノマシンユニット(HP回復・小)』。残りの3スロットはまだ空席だった。

 

「ヤザンを綺麗に無力化して、2つ目のパーツをもぎ取るわよ。……エレン、レムレス・テラのバックアップを」

 

「了解です、ルクレツィア様。我が方の『レムレス・テラ』の性能、ヤザンごときに遅れは取りません」

 

エレンが不敵に微笑む。隠密揚陸艦『レムレス・テラ』のパーツスロットは、戦艦の巨体と可変ムーバル・フレーム構造を考慮し、『2スロット』に設定されていた。この艦は隠密・ステルス特化型でありながら、その戦闘力は宇宙世紀の常識を遥かに凌駕している。

 

防御力:船体全体を覆うIフィールドにより、ティターンズの戦艦(アレキサンドリア級等)のメガ粒子砲の直撃を受けても、ビームの熱量を完全にいなし、実質的なダメージをゼロに抑え込む。

 

攻撃力:エルガイム世界のHM級戦艦が搭載する「バスターランチャー(超大型長射程高出力ビーム砲)」を艦首に極秘裏に内蔵。その威力は、宇宙世紀のソーラ・システムやコロニーレーザーの縮小版に匹敵し、単機で連邦の主力艦隊を一撃で「蒸発」させる火力を秘めている。

 

「これだけの力があっても、私は平和主義者だからね。ヤザンだって、殺しはしない。ただ……パーツだけ置いて、大人しくキリマンジャロへ帰ってもらうわ」

 

ハルツーム国境沿い。不気味に蠢く超巨木ジャングル。3機の可変MS「ハンブラビ」が、光学迷彩を施したかのように冷式推進で木々の隙間を低空飛行していた。

 

「チッ……気味の悪い森だ。レーダーも赤外線もクソの役にも立たねえ。だが、そこに隠れてる奴を引きずり出せば、俺の獲物だ!」

 

真ん中のハンブラビのコックピットで、ヤザン・ゲーブル大尉が野獣のような笑みを浮かべていた。その瞬間、ハンブラビのモノアイが、森の開けた中央広場に、ただ1機でぽつんと立ち尽くす赤色のヘビーメタル――ディザードの姿を捉えた。

 

「出たな、ハルツームのバケモノめ!……仕掛けるぞ!」

 

ヤザンのハンブラビが、背部ビーム砲から強烈な閃光を放つ。さらに左右の部下が電磁ネット『蜘蛛の巣』を展開し、ディザードを拘束せんと躍り出た。だが、ルクレツィアの操縦するディザードは、冷静に拘束を回避した。ヤザンが放ったビームは、ディザードのビ構えたバインダー(盾)に接触した瞬間、大気圏突入時のように熱量を歪曲され、爆音すら立てずに霧散した。

 

「な、何だと!? ビームが融けただと!?」

 

「悪いわね、ヤザン大尉。これが『スパロボ仕様』の防御補正なのよ」

 

ディザードのコックピットで、6歳の幼女が操縦桿のトリガーを絞る。

『スパロボ仕様:パワーランチャー――精神コマンド【必中】同等補正、展開』。

ガンダム世界の物理法則や、ヤザンの驚異的な回避能力(ニュータイプをも凌駕する直感)を完全に無視し、システム的に「100%命中」としてロックされた極太のエネルギー光線が、ハンブラビを襲った。

 

ズサァァァン!!

 

「う、うわああああああっ!?」

 

ヤザンのハンブラビは、回避運動を取る暇すらなく、その右腕と左腕(ウイング・バインダー)、そして脚部スラスターを一瞬にして「消失」させられた。爆発は起きない。スパロボ性能の命中補正が、コックピットやジェネレーターを完璧に避け、機体の「戦闘能力(五肢)」だけを精密に消し飛ばしたのだ。

左右の部下の機体も、森の中から伸びてきた『レムレス・テラ』の冷式電磁対空レーザーによって、同様に四肢を綺麗にモギ取られ、地面へと墜落していった。

 

撃破報酬:2つ目のスロットの覚醒

完全にダルマにされ、ジャングルに転がったヤザンのハンブラビ。

 

「クソッ……! 何て強さだ……! 化け物め、殺すなら殺せ!」

 

ヤザンが悔しさに歯噛みする。だが、ディザードのハッチが開き、生身のまま宇宙世紀の重力下に降り立った銀髪紅眼の幼女――ルクレツィアは、ハンブラビを見下ろしながら、フッと優しく微笑んだ。

 

「殺さないわよ、ヤザン大尉。私は態度はあくまで『友好的』な隣人だもの。貴方たちの無礼は、このボロボロの機体(お土産)をキリマンジャロへ持ち帰らせることで不問にしてあげる。バスク大佐に、ハルツームはいつでも対話の準備があるとお伝えしてね」

 

おっさんの気弱な部分が「ヤザンを殺したらティターンズが本気で核とか撃ち込んできそうで怖い」と叫んでいたため、見逃すのは当然の生存戦略だった。

リリィの下位眷属たちが、ダルマになった3機のハンブラビを、国境の外へとトトト……と静かに押し出していく。ヤザンたちは、命を救われた困惑と、圧倒的な実力差への戦慄を抱えたまま、キリマンジャロへと敗走するしかなかった。そして、ヤザンの機体が戦闘不能(撃墜)となったその瞬間。ディザードのコックピット内のシステム画面に、ピコン、とスパロボプレイヤーなら誰もが知る、あの快い電子音が響き渡った。

 

『――ネームドエネミーの戦闘不能を確認。ドロップアイテムを獲得しました』『強化パーツ:【ハロ】を検出。ディザードのスロット2へ自動装備します』『効果:移動力+2、運動性+25、全ての兵器の射程+1、命中率+20%』

 

「……っ!! 【ハロ】が来た!?」

 

幼女の姿をしたおっさんは、コックピットの中で小さくガッツポーズを決めた。ただでさえ狂っていたスパロボ仕様の命中率と射程が、スパロボ界最強クラスのバグパーツ【ハロ】によってさらに跳ね上がる。これでディザードの4スロットのうち、2つが埋まった。

 

「ふふ、見逃してあげれば、また新しいモビルスーツ(ハンブラビやバイアラン)に乗って、何度も私に挑んでくるわよね……。そのたびに、私は撃破して、パーツを『収穫』させてもらうわ」

 

友好的な態度で世界を欺き、攻めてくるネームドエースたちを「パーツの自動販売機」として利用する。絶対不落のハルツーム自治領の地下で、真祖の幼女のどこかゲームライクな生存戦略は、地球圏の誰一人として気づかぬまま、ネクストステージへと突入するのだった。

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