焦燥のバスクと、放たれた刺客たち
「エゥーゴのクワトロとアムロが、ハルツームの領域に入り、無傷で出ていっただと……!? おのれ、やはりあの未承認国家、エゥーゴの息がかかった反連邦の拠点だったか!」
ニューギニアのティターンズ司令部で、バスク・オム大佐は残された片目でモニターを睨みつけ、拳を激しく叩きつけていた。ヤザン大尉の敗退に続き、エゥーゴの首脳陣との極秘会談。ティターンズ上層部にとって、ハルツーム自治領の存在はもはや無視できない最大級の「癌」へと跳ね上がっていた。
「キリマンジャロ基地の全戦力に告ぐ! ハルツームの国境線を突破し、あの忌々しい巨木ジャングルごと、すべての謎のモビルスーツを焼き尽くせ!」
バスクの狂気的な命令により、キリマンジャロ基地からティターンズが誇る最新鋭のMS大部隊が出撃した。指揮を執るは、ヤザンの敗北に雪辱を誓うジェリド・メサ中尉、そしてその相棒であるマウアー・ファラオ少尉。
彼らが駆る高性能モビルスーツ「マラサイ」の集団、さらには地球連邦軍のニュータイプ研究所が開発した、全高40メートルを超える超巨大サイコミュ搭載型MA――「サイコ・ガンダム」までが、地鳴りを響かせてハルツームの国境へと進軍を開始した。
「ふふ、予想通りの過剰反応ね。バスク大佐は本当に分かりやすくて助かるわ」
ハルツームの最高執務室。ルクレツィアは、モニターに映る敵のネームド(名前付き)たちの顔触れを見て、妖しく真紅の瞳を輝かせた。
「ジェリドにマウアー、そしてサイコ・ガンダム……。最高じゃない。スパロボのルールなら、彼らをまとめて戦闘不能(撃墜)に追い込めば、残りの空きスロットを埋める極上の強化パーツが一度に手に入るわ」
空きスロットはあと2つ。ルクレツィアは、ディザードのハッチを開け、操縦席へと滑り込んだ。
ハロ仕様ディザードの狂気ハルツーム国境沿い。不気味に蠢く超巨木ジャングル。
「マウアー! 油断するなよ、ヤザンをハメた仕掛けがこの森のどこかにあるはずだ!」
マラサイのコックピットで、ジェリドが鋭く周囲を警戒する。
「分かっているわ! だからこその物量と、あのサイコ・ガンダムじゃない。どんなバケモノが相手だろうと、今の私たちなら圧殺できる!」
マウアーのマラサイが、ビーム・ライフルを構えて木々をなぎ倒しながら前進する。だが、彼らが国境の一歩内側へ足を踏み入れた瞬間、ジャングルの大地の底から、あの赤色のヘビーメタル――ディザードが、音もなく滑り上がるように姿を現した。
「出たな、ハルツームのバケモノめッ!」
ジェリドとマウアーが一斉にトリガーを引き、無数のビームがディザードへ集中した。しかし、バインダー(盾)を構えたディザードは動かない。ヤザンの時と同様、ビームコーティングがビームの熱量を歪曲させ、表面をただ滑るようにして霧散させていく。
「何っ!? マラサイの出力でも傷一つ付かないだと!?」
「悪いわね。これでもう終わりじゃないのよ」
ディザードのコックピットで、ルクレツィアが操縦桿を軽く傾ける。スロット2に装備された神パーツ【ハロ】のシステム恩恵――『移動力+2、運動性+25、兵器射程+1、命中率+20%』。これに『スパロボ仕様』の元々の異常な補正が加算された結果、ディザードの機動性は、宇宙世紀の物理法則を完全に置き去りにした「オカルトの領域」へ突入していた。
シュン……!
「消えただと!?」
ジェリドのモニターから、ディザードの機影が一瞬で消失した。次の瞬間、マウアーのマラサイの真後ろに、ディザードが音もなく佇んでいた。残像すら残さない、システム的な「絶対移動」。
「マウアー、後ろだーーっ!」
ジェリドの叫びよりも早く、ディザードのパワーランチャーが火を噴いた。【ハロ】によって射程と命中率がバグレベルまで底上げされたビームは、ミノフスキー粒子のジャミングを完全に切り裂き、マウアーのマラサイのバックパックと両腕の関節を、爆発を起こさせないミリ単位の精度で正確に消し飛ばした。
「あああああっ! 操縦不能……!? そんな、一撃で駆動系だけを!」
マウアーの機体が、ジャングルの地面へと崩れ落ちる。
「マウアーッ! おのれぇぇぇっ!!」
怒り狂ったジェリドがビームサーベルを抜いて突撃するが、ルクレツィアは冷徹に操縦桿を引いた。ディザードはただ軽くステップを踏むだけで、マラサイの刃を紙一枚の差でひらりとかわし、すれ違いざまにセイバーでジェリドの機体の両脚を叩き切った。
「う、うあぁぁぁっ! 足が……足がやられた!?」
ジェリドのマラサイもまた、一瞬にしてダルマにされ、地面へと転がった。最強のエース2人が、僅か数十秒で、殺されることすら許されずに完全無力化されたのだ。
「……チッ、最後の真打ちのお出ましね」
ルクレツィアが視線を上げると、ジャングルを押し潰しながら、黒い巨神――サイコ・ガンダムが、その圧倒的な質量で迫ってきていた。コックピットのサイコミュが、ルクレツィア(真祖)が放つ強烈なカリスマ・プレッシャーを感知し、過負荷でエラー警告を鳴らし始めている。
「よく分からないけれど……その大きなオモチャ、私のコレクションにさせてもらうわ」
ルクレツィアはディザードのランドブースターとランダムスレートを展開し跳躍した。サイコ・ガンダムの胸部から放たれた3連装拡散メガ粒子砲の光の網を、【ハロ】の圧倒的な運動性補正で紙一重ですべて回避。巨神の頭上を奪うと、パワーランチャーで狙いを定めた。
「これで……終わりよ」
システム上の「確定命中」のビームが、サイコ・ガンダムの巨体を貫いた。狙ったのはコックピットではない。サイコ・ガンダムの胸部に内蔵された大型ジェネレーターの「冷却配管」と、四肢の駆動油圧系だ。
エネルギーを完全に遮断されたサイコ・ガンダムは、爆発することすらできず、ただの鉄の塊となって、ズゥゥゥン……と地響きを立ててジャングルの大地の底へと沈み込み、機能停止した。
敵部隊の完全なる戦闘不能(撃墜)。その瞬間、ルクレツィアの脳内、そしてディザードのコンソールに、ピコン、ピコンと、脳汁が溢れ出るような快い電子音が連続して鳴り響いた。
『――ネームドエネミーの戦闘不能を複数確認。ドロップアイテムを獲得しました』『強化パーツ:【チョバムアーマー】を獲得。スロット3へ自動装備します』『効果:最大HP+500、装甲+100』『強化パーツ:【大型ジェネレーター】を獲得。スロット4へ自動装備します』『効果:最大EN+50』
「……素晴らしいわ! これで4つのスロットがすべて埋まった!」
ルクレツィアは、コックピットの中で小さく歓喜の声を漏らした。
スロット1:【ナノマシンユニット】(HP回復・小)
スロット2:【ハロ】(移動力・運動性・射程・命中率の大幅底上げ)
スロット3:【チョバムアーマー】(元々頑丈なジーンプラが、さらに強力に)
スロット4:【大型ジェネレーター】(パワーランチャーを惜しみなく撃てる)
ガンダム世界のどのモビルスーツ、どのMA、どのニュータイプであっても、この「スパロボの仕様」が完全に完成したディザードに傷一つ付けることは、もはや非常に困難となった。
「う、動けない……。クソ、殺せ……! 殺しやがれ!!」
ジャングルの地面に転がったマラサイの中で、ジェリドが悔し涙を流しながら通信へ怒声を浴びせる。だが、ディザードのハッチが滑らかに開き、生身のままジャングルの大気に佇んだ銀髪紅眼の美しい幼女――ルクレツィアは、彼らを見下ろしながら、どこまでも優しく、慈愛に満ちた声で語りかけた。
「言ったはずよ、ティターンズの諸君。私たちは、平和と対話を愛する『友好的な隣人』だって。……貴方たちの無礼は、そのボロボロになった機体をキリマンジャロへ持ち帰らせることで不問にしてあげる。バスク大佐に、ハルツームはいつでも温かい紅茶を淹れて、対話の準備を待っているとお伝えしてね」
おっさんの中の気弱な魂が「ここでネームドを殺してティターンズと泥沼の全面戦争になったら、私の静かな老後が台無しになる」と強く叫んでいたため、生かして帰すのは当然の生存戦略だった。
ジャングルの木々の中から、音もなく動き出した下位眷属(不死の兵士たち)が、ダルマになったジェリドたちのマラサイ、そして完全に機能停止したサイコ・ガンダムを、国境の外へとトトト……と静かに押し出していく。
ジェリドもマウアーも、そしてサイコ・ガンダムのパイロットも、命を救われた圧倒的な困惑と、人知を超えた謎の超技術への底知れない戦慄を抱えたまま、キリマンジャロへと敗走するしかなかった。
ハルツームの国境線(生体ジャングル)は、ティターンズの総力を挙げた猛攻を、一人の戦死者も出さずに、文字通り「完全拒絶」してみせたのだ。
「ふふ、これで私のディザードは完全無欠の無敵の盾になったわ。……次は誰が、私のところに新しいパーツを運んできてくれるかしらね?」
アステロイドベルトの本拠地(エリュシオン)の存在は完全に闇に伏せたまま。地球上に突如現れた謎の第三勢力ハルツームは、ティターンズの最強部隊を完封し、4つのパーツスロットをすべて覚醒させた。
攻めてくるエースたちを「パーツの自動販売機」として利用しながら、気弱だが誰よりも冷徹なルクレツィア(おっさん)のサバイバルは、地球圏の歴史そのものを手のひらの上で転がすように、絶対不落の神話へと到達するのだった