孤高のディザード、吸血鬼の築く理想郷   作:うまみちゃん

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26.楽園の「染み」とルクレツィアの冷徹な法廷

「どれほど完璧な福利厚生(水・空気・食料)を整え、病気や飢えを根絶したところで……人間が集まれば、必ず『犯罪』という名の脳のバグが発生する」

 

宇宙世紀0090年代。地球の半分(不毛の地)の環境再生権を握り、ハルツーム自治領を完璧なユートピアへと成長させたルクレツィアは、最高執務室で数枚の治安報告書を眺めながら、冷徹に目を細めていた。

人口が数百万人規模に膨れ上がったハルツーム領内でも、人間の強欲や嫉妬、激情による犯罪はゼロにはならなかった。横領、傷害、あるいは防諜上の掟を破ろうとする密告未遂。

 

「ルクレツィア様、どうなさいますか? 通常の連邦法や、旧ハルツームの法律で『裁判』を行い、拘置所にぶち込みますか?」

 

人間のまま法務部門を統括する元外交官が、眼鏡の奥の目を光らせて問いかける。

 

「いいえ。そんな税金の無駄遣いはしないわ。私たちはボランティアで人間を養っているわけじゃないのよ。……リリィ、彼らに『吸血鬼の国』ならではの、最も合理的な刑罰を与えなさい」

 

ルクレツィアが下した処遇は、通常の「死刑」や「禁錮」よりも遥かに合理的で、かつ凄惨なものだった。

「生きた部品(下位眷属化)」への強制執行。一定以上の重大犯罪(殺人や防諜違反など)を犯した者は、裁判にかけるまでもなく、リリィの手によって「下位の従僕(グール・サイボーグ)」へと強制的に作り変えられた。知性や感情の不必要な部分は精神暗示で完全にロックされ、肉体は疲労も眠りも感じない「不変の労働力」となる。

彼らは、国境沿いの「生体ジャングル防衛網」の樹木の中に文字通り『生きた部品』として埋め込まれるか、あるいは宇宙の本拠地(エリュシオン)の最も過酷なデブリ解体現場へと送られ、死ぬことも許されずに何百年も国のために働き続けることになる。

 

「血液バンク」への強制ドナー登録

比較的軽度な犯罪(窃盗やインフラの不正利用など)を犯した者は、一定期間の隔離施設への収容と共に、ルクレツィアやリリィの「強制血液ドナー(餌)」として登録された。

「男の血は気持ち悪いから極力吸いたくない」というおっさんとしての我が儘に基づき、彼らの血は直接吸われるのではなく、医療用カプセルで事務的に抽出され、合成血液パックの『ブレンド用原材料』として保管される。

 

「この国で罪を犯すということは、人間としての『権利(幸福)』を剥奪され、私たちの『部品』になることと同義よ」

 

この冷徹な「吸血鬼の法(ヴァンパイア・コード)」が裏で徹底された結果、ハルツーム領内の犯罪率は宇宙世紀のどのコロニーよりも驚異的な低さを維持していた。

 

「前世の記憶」の解放と、国の文化の尊重

 

「恐怖で縛るだけでは、文化は窒息する。犯罪者を厳しく裁く反面、善良な国民たちには、彼らが持つ独自の文化を100%尊重し、精神的な豊かさを与えなさい。それが、最高品質の人間(資源)を育てるための土壌よ」

 

ルクレツィア(おっさん)の中にある「前世の小市民としての記憶」が、今度はハルツームの『娯楽・文化の爆発的な発展』へと舵を切らせた。

元々ハルツームはアフリカ東部の独自の歴史と伝統、音楽文化を持つ土地だった。ルクレツィアは連邦政府のようにスペースノイドの文化を弾圧・均一化するような愚は犯さず、地元の祭事や伝統芸能、音楽を「国営文化財」として手厚く保護・予算を投入した。さらに、ルクレツィアは自身のディザードの電子脳の片隅、そして宇宙のエリュシオンのアーカイブから、西暦時代の莫大な「娯楽データ」を地上へと大量に移植(サルベージ)していった。

 

「ハルツーム・キネマ・パラダイス」の創設領内のすべての居住区に、無償で入れる巨大な立体ホログラム映画館が建設された。上映されるのは、宇宙世紀の戦争プロパガンダ映画ではない。ルクレツィアが提供した、西暦時代の往年の名作映画、往年の2Dアニメ、そして特撮ヒーロー番組だった。宇宙世紀の住人たちにとって、CGに頼らない手描きのセル画アニメや、熱い人間ドラマは「極めて新鮮で贅沢な芸術(サブカルチャー)」として爆発的な大流行を巻き起こした。

 

ゲーム文化の「国技化」おっさんの大好物である『スーパーロボット大戦』をはじめとするクラシックな2D・3Dゲームのソースコードが解放され、ハルツーム領内で独自のゲーム開発産業が勃発した。年に一度、首都の中央広場で開催される「ハルツーム・eスポーツ大祭」には、数十万人の国民が熱狂。優勝したチームには、エレンの技術部がリサイクル資材で作った「純金の特製トロフィー」と、破格の特級食料配給券がルクレツィアの手から直接授与された。

 

「お姉様! 今年のゲーム大会、私が開発した戦術AIを搭載したチームが優勝したよ!」

 

「私の方のチームは、昔のアニメの『必殺技』を完璧に再現した機体で準優勝だった!」

 

玉座の周りで、成長した8人のプルシリーズの妹たちが、嬉しそうにゲームのコントローラーやデータパッドを掲げてルクレツィアに報告する。

 

「よく出来たわね。みんな本当に賢い子たちだわ」

 

ルクレツィアは6歳の幼女の姿で、彼女たちの頭を満足そうに撫で回していた。おっさんとしての趣味(幼女趣味)がこれ以上ないレベルで満たされているのはもちろん、彼女たちはゲームやアニメを通じて、西暦時代の高度な「戦術思想」や「プログラミング言語」を遊びながら100%吸収し、エリュシオンの次世代の頭脳として完璧に仕上がりつつあった。

 

 

宇宙世紀0090年代初頭。地球圏の各地では、連邦政府の腐敗に絶望した者たちが、のちに「ネオ・ジオン」の再興を掲げるシャア・アズナブルの元へと密かに集まりつつあった。

世界は、再び巨大な戦争(逆襲のシャア)の足音に怯えている。しかし、ハルツーム自治領に生きる人間たちにとって、外の世界の戦争など、もはや別次元の寓話に過ぎなかった。ハルツームの国境を一歩跨げば、そこには病気も飢えもなく、伝統の音楽が鳴り響き、夜には西暦時代の面白いゲームやアニメ、映画を家族で楽しむことができる、完璧な「楽園」が広がっている。そして、その楽園の平和を破ろうとする「悪人(犯罪者)」が現れれば、彼らは神隠しに遭ったように音もなく消え去り、国を護る緑のジャングルの『兵隊(部品)』となって消えていく。

 

「連邦の大義も、ジオンの独立も、私たちにこの贅沢な眠りと幸福をくれなかった。……私たちを生かし、この楽園を護ってくれる『真祖のルクレツィア様』のためなら、私たちはいつでも喜んで、この血と命を捧げよう」

 

国民たちの間には、連邦への愛国心など微塵もなく、自分たちを支配する「真祖の幼女」への、狂気的なまでの絶対的忠誠心が完成していた。

 

「ふふ、人間は本当に現金な生き物ね。厳格な法(恐怖)と、圧倒的な娯楽(快楽)をバランスよく与えてあげれば、誰一人として反乱を起こそうなんて思わなくなる」

 

執務室の玉座で、ルクレツィアは、プルたちが作ってくれた特製のイチゴパフェを小さなスプーンで口に運びながら、冷酷に、しかしどこまでも満ち足りた微笑みを浮かべた。

 

ディザード(完全無敵の4スロット)。レムレス・テラ(移動力+1、射程+1の超長距離隠密仕様)。そして、完璧な治安維持(下位眷属化)と、圧倒的な文化の自給自足(娯楽の発展)。ガンダムの世界がどれほど凄惨に燃え上がろうとも、その歴史のレールを何一つ歪ませることなく、そのすべての美味な果実だけを裏から完璧に掠め取り、飼い慣らしていく。

 

気弱だが誰よりも冷徹なルクレツィア(おっさん)のサバイバルは、いよいよ宇宙世紀0093年――「シャア・アズナブルの反乱(逆襲のシャア)」という、地球圏最大の危機を特等席から見下ろすため、その絶対的な楽園の牙を、さらに深く、静かに研ぎ澄ませていった。

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