孤高のディザード、吸血鬼の築く理想郷   作:うまみちゃん

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6.秘められた業と、冷徹な生存の閾(しきい)

「……ハッ。私は何を血迷っているんだ」

 

エレンの細い首筋に牙が触れる寸前、おっさんの魂に強烈な冷水が浴びせられた。

中身がおっさんである彼の趣味は、実は年上の妖艶な美女などではない。もっと若く、可憐で、庇護欲をそそる存在――いわゆる「幼女趣味(ロリコン)」だった。

 

しかし、目の前にいるエレンは、どう見ても20代前半の成熟した人間の女性。

「……いや、ダメだ。美人だが、私のストライクゾーンからは完全に外れている。これでは『対価』としてのモチベーションが保てない。何より、男たちの血を吸うよりはマシという消去法で、真祖の神聖な初吸血(ファースト・バイト)を妥協して捧げていいはずがない」

 

気弱だが、自分の性的嗜好に対してだけは妙に頑固なおっさんの理性が、暴走する真祖の吸血衝動を力技でねじ伏せた。

 

「……様?」

 

怯えるエレンの首筋から、幼女はスッと顔を離した。

その瞳は、先ほどまでの獣じみた発光から、冷静さを取り戻したルクレツィアへと戻っている。

 

「エレン。君を今すぐ『私と同じ側(吸血鬼)』にするのは止めるわ。私の血の価値は、君が思っているよりもずっと重いの。だから……まずは『人間のまま』、私の城で働いてもらう」

 

「え……? は、はい……」

 

「ディザードに乗りなさい。ここにはもう用はないわ」

 

おっさんは、怯えるエレンをディザードのコックピットの隙間に押し込み、即座にハッチを閉じた。

本当の理想を言えば、自分と同じように連邦の棄民政策の犠牲になった、10歳前後の「可憐な少女の技術者や資質を持った子」を見つけ出し、彼女たちを不老不死の愛娘(眷属)として迎え入れたい。サバイバルの中に、そんな歪んだ願望を隠し持ちながら、ディザードは再びエリュシオンへと針路を取った。

 

エリュシオンへと帰還する道中、おっさんはコックピットの狭い空間で、エレン、そして通信越しに3人の密輸業者に向けて、これからの絶対的な鉄の掟を言い渡していた。

 

それは、「外部組織(アナハイムや連邦、民間企業)との接触を、今後一切厳禁とする」という極端なまでの隠蔽方針だった。

 

「いい? 私たちはこれから、この宇宙世紀のどの勢力とも関わらない。アナハイムから物資を買い叩くことも、横流し品を闇市場で捌くこともしないわ」

 

「な、なぜですか?」

 

エレンが狭いシートの横から、不思議そうに問いかける。

 

「私のジャンク屋のコネや、彼らの密輸ルートを使えば、もっと効率的に拠点の資材が集まるはずです。このままじゃ、ただのジリ貧に……」

 

「それが破滅への特急券だからよ」

 

おっさんの声は、どこまでも重かった。

宇宙世紀0010年という時代を、彼は知っている。アナハイム・エレクトロニクスという企業は、一見ただの巨大複合企業だが、その実態は地球圏の兵器市場を独占するためにあらゆる陰謀を巡らせる「怪物の巣窟」だ。

 

「もし、私たちが接触して、彼らに『この世界にない装甲(ジーン・プラスチック)』や『画期的なムーバル・フレーム』の存在を僅かでも察知されたらどうなると思う?」

 

おっさんの言葉に、エレンは息を呑んだ。

 

「アナハイムの技術者どもは、狂ったようにこのディザードを解体しにくるわ。連邦のモビルスーツ開発部門も、予算を無限につぎ込んで私を捕獲しにくる。私のこの『真祖の肉体』だって、不老不死の生体サンプルとして研究所のガラス瓶の中に漬けられるのがオチよ」

 

この世界において、卓越したオーパーツ(HM)と異形(吸血鬼)の存在がバレることは、地球圏すべての勢力を敵に回すことを意味する。

どれだけ効率が悪かろうとも、外部との通信、取引、接触はすべて「露見のリスク」へと直結するのだ。

 

「私たちは、完全に『存在しない亡霊』でいなければならない。物資が足りない? ならば、この暗礁宙域に漂う数十万トンの『宇宙のゴミ(戦艦やコロニーの残骸)』を直接解体して、私たちの手で文字通り1からリサイクルするのよ」

 

エリュシオンに到着した一行を待っていたのは、息の詰まるような、しかし完璧に計算された「要塞化へのタイムスケジュール」だった。

おっさんは、真祖の力(完全には制御できていないため、時折背中から漆黒の翼が勝手に生えて周囲を恐怖に陥れる)を誇示し、恐怖による絶対的な規律を植え付けた。

 

1. 人間奴隷(密輸業者3名):

もっとも過酷な、デブリの回収と初期の岩盤掘削を命じる。彼らには最小限の酸素と、水耕栽培で出来た味のない合成食料のみが与えられる。裏切りや外部への通信を試みた瞬間、文字通り「真祖の餌」になるという恐怖が、彼らの生存本能を労働へと向かわせる。

 

2. 人間のエンジニア(エレン):

回収したデブリ(宇宙世紀のチタン合金など)を溶解し、拠点の気密隔壁やソーラーパネルの修復プラントへと再加工する「工廠(ファクトリー)の立ち上げ」を任せる。

 

3. 防衛・主戦力(ディザードとルクレツィア):

ジーンプラの装甲と、自己修復機能のおかげで、デブリの衝突や掘削時の岩盤崩落など、通常のモビルスーツなら即座に大破するような危険作業をすべてディザードが単機で肩代わりする。メンテナンスフリーの強みを活かし、24時間体制で小惑星の内部を穿ち続ける。

 

「ふぅ……。おっさんの趣味としては、早くこの埃っぽい岩塊を片付けて、可憐な少女の眷属(お姫様たち)を迎え入れるための、綺麗な居住区(パレス)を作りたいんだがね……」

 

作業の合間、ディザードのコックピットで合成血液パックを啜りながら、おっさんは小さな吐息を漏らす。

徹底した隠蔽と、外部との遮断。

宇宙世紀の歴史の教科書には絶対に載らない、しかし数十年後の大戦火を完全にシャットアウトするための「自己完結型要塞」の建設は、こうして静かに、地下深くへと掘り進められていくのだった。

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