孤高のディザード、吸血鬼の築く理想郷   作:うまみちゃん

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9.圧倒的な物量の恐怖と、おっさんの危機感

「……これでは足りない。全く、話にならないぞ」

 

宇宙世紀0010年代の終わりが近づく頃、おっさんはエリュシオンの最深部で、コンソールに表示された「未来の戦力予測データ」を睨みつけながら、幼い小さな拳でデスクを叩いていた。

 

拠点の自給自足システムは完成しつつある。リリィの統率する下位眷属(従僕)たちによるデブリ回収と岩盤掘削、エレンの構築したリサイクルプラントにより、小惑星の内部空間は拡大していた。

 

しかし、おっさんの「気弱で冷静な魂」は、迫りくる歴史の足音に恐怖を覚えていた。

これから宇宙世紀は、ミノフスキー粒子というレーダーを無効化する悪魔の技術を生み出し、巨大なモビルスーツが何千、何万機と飛び交う、狂気の総力戦(一年戦争)へと突入する。

 

今のエリュシオンにある戦力は、以下の通りだ。

 

* 決戦兵器:ディザード(OE性能、ジーン・プラスチック装甲、自己修復)×1機

 

* 生体兵器:真祖の幼女(おっさん)、上位眷属(リリィ)、下位眷属(不死の従僕たち数十名)

 

「ディザードがどれだけ『スパロボ』の異常な命中率や防御補正を持っていようが、ナノマシンで無敵だろうが、それはタイマン(局地戦)の話だ。もし連邦やジオンの『マゼラン級やチベ級の艦隊』にこの小惑星を取り囲まれ、数百機のザクやジムに一斉に実弾とメガ粒子砲を叩き込まれたら、ディザード1機で守りきれるわけがない」

 

どれだけ隠蔽していても、何かの弾みで、あるいは戦火の拡大によって、この宙域に大艦隊がなだれ込んでくる可能性はゼロではない。

対抗できるだけの「面(エリア)を制圧する防衛戦力」の確保。それが、不老不死の亡霊となったおっさんが直面した、最大の課題だった。

 

「お姉様、海賊の巡洋艦から回収した武装を解析しましたが……これらを量産して要塞の対空砲に回しても、艦隊戦を拒否できるほどの火力にはなりません」

 

チーフエンジニアのエレンが、渋い顔で報告を上げる。

この宇宙世紀0010年代、まだメガ粒子砲の小型化技術(エネルギーCAP)は完成していない。要塞の固定砲台を作るにしても、巨大な核融合炉を何基も設置しなければならず、それは「強力な熱源」となって外部に拠点の存在を暴露する自殺行為だった。

 

「なら、エルガイム(HM)世界の技術をコピーすれば……」と一瞬考えたが、それも不可能だ。

ディザードの動力である「ソーラージェネレータ」や、装甲材の「ジーン・プラスチック」は、すべて転生特典のナノマシンがリアルタイムで分子構造を維持・修復しているからこそ機能している。この世界のチタン合金や安価なプラスチックでHMの形を真似て作ったところで、それはただの「動かないハリボテ」にしかならない。

 

「技術のコピーもダメ。宇宙世紀の兵器の量産も、熱源のせいでダメ。……なら、私たちが増やすべき『戦力』は、もうこれしかないわね」

 

ルクレツィアは自身の小さな、白い5本の指を見つめた。

科学(モビルスーツ)の物量に対抗できるのは、科学ではない。オカルトをも凌駕する、吸血鬼の「異能の物量」だけだ。

 

ルクレツィアは、上位眷属であるリリィを呼び出し、要塞の新しい防衛ドクトリンを言い渡した。

 

「リリィ。これから私たちは、この小惑星の周囲に浮遊している何百万、何千万トンという『デブリ(宇宙ゴミ)』のすべてを、私たちの防衛システムに変えるわ」

 

「デブリを……ですか?」

 

「そうよ。下位眷属(従僕)たちをさらに増やし、彼らの肉体をこの宇宙空間の寒冷と真空に『完全同化』させる。そして、回収した戦艦の残骸や、動かなくなったプチモビルスーツの中に、彼らを『生きた部品』として埋め込むの」

 

おっさんが考案したのは、あまりにも冷徹で、かつ狂気的な「生体防衛ネットワーク」だった。

 

宇宙世紀のレーダー(光学、熱源、赤外線)は、冷え切った宇宙ゴミ(デブリ)をただの岩や鉄屑としてしか認識しない。

そのデブリの内部に、心拍も、体温も、呼吸すらも必要としない吸血鬼の従僕たちを「潜伏」させる。彼らは何年でも、何十年でも、微動だにせず闇の中で眠り続ける。

 

そして、もしエリュシオンの絶対防衛圏内に敵の艦隊やモビルスーツが侵入した瞬間、リリィの精神波(テレパシー)によって一斉に覚醒するのだ。

 

「熱源も出さず、レーダーにも映らない数千、数万の『死人のデブリ』が、突然宇宙空間で動き出し、敵のモビルスーツの関節に掴みかかり、戦艦のブリッジのガラスを素手で叩き割る。……想像してみて。どんなニュータイプのパイロットだって、発狂するわよ」

 

「……素晴らしいです、お姉様。それなら、エネルギーも、弾薬も、メンテナンスも一切必要ありませんね」

 

リリィは真紅の瞳を妖しく輝かせ、深く一礼した。

彼女を通じて、要塞の下位眷属化のペースは爆発的に加速していく。おっさんは「あまり気は進まないが、背に腹は代えられない」と、連邦の棄民政策で暗礁宙域に流れ着いた難民や、遭難した密輸船の人間たちを、一切の情を捨てて次々と要塞の「生きた防衛システム」として取り込んでいった。

 

宇宙世紀0010年代の終わり。

小惑星エリュシオンの周囲数十キロメートルは、一見すると、ただの不気味で静まり返った暗礁宙域(デブリ帯)だった。

 

しかし、その浮かんでいる鉄屑の一つ一つ、岩塊の一つ一つには、真祖の血の末端を分け与えられた「不老不死の兵士たち」が、息を潜めて埋め込まれている。

そして要塞のドックには、傷一つない赤色のヘビーメタル・ディザードが、いつでも出撃できる状態で冷たく佇んでいた。

 

「ふぅ……。これでようやく、一年戦争の化け物ども(ガンダムやザク)が攻めてきても、追い返せるだけの『罠』は張れたかしらね」

 

コックピットのシートで、幼女の姿をしたおっさんは、合成血液のボトルを飲み干しながら、小さく独りごちた。

徹底的な隠蔽。

そして、科学の法則を歪める「スパロボ性能のHM」と「無限の不死の軍勢」。

 

宇宙世紀の歴史がどれだけ凄惨に歪もうとも、この暗黒の魔城だけは、誰にも触れさせない。

気弱だが冷徹なおっさんのサバイバルは、地球圏の誰一人として気づかぬまま、完璧な「絶対防衛領域」を完成させつつあった。

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