あなたがトリニティでやってはいけない事リスト 作:装甲アッサム春雨
スラム時代はあまり銃を使わなかった。
今は鈍器
先輩の秘密
精神が肉体を凌駕してる系。
多分、オラトリオ編のあれに対しても淑女として正面から向き合う。
ここはトリニティ総合学園一年生のあなたのトリニティ並びにキヴォトスでの禁則事項です。
よく確認しておいてください。
39.いくら共通の趣味を持つ方に会ったとしても、淑女として慎みを忘れてはいけません。
・以前にも申しました通り、あなたの趣味については私は何も言いませんし、意見する権利はありません。
ですが、淑女としての慎みを忘れてはいけません。
・いやしかし、まさか先生が共通の趣味をお持ちとは思いませんでした。
ですが、これは一体何なのですか?
・超合金カイテンジャーロボ?
五体のロボットが合体する?
明らかに子供向け……。んんっ……、しかし先生は大人で……。
・いえ、やめておきましょう。
趣味に年齢も性別も関係ありませんし、他人が口を挟む様な公序良俗に反した趣味という趣味でもありませんから。
40.他人の秘密を探るのはよい事ではありません。……不可抗力は仕方ありません。
・人というのは誰しも、他人には言えない言いたくない秘密というものを抱えています。
あなたもそうである様に、私もそうです。
これは万人が抱えるものなのです。
・ええ、そうです。あなたが夜遅くまで何か作業をしている事を私は知っています。
しかし、何をしているのかは知りませんし、聞く気もありません。
・なので、人の首がどれだけ回るのかを聞くのはやめなさい。
私の首は生まれつき柔軟なだけです。
・でも、ものすごい音がした?
……肩と首が酷く凝った時に回すと、あの様な音が鳴るのです。あなたは気にする必要はありません。
……何です? 学園の七不思議になっている?
何ですかその噂は?
あ、こら! 待ちなさい! あなたまた妙な悪戯をしましたね!
41.古書館で知識を深める事は素晴らしい事ですし、そこで仕事を手伝うのは良い心掛けです。しかし、古関さんの虫干しとは何ですか?
・あなたが古書館で知識を深める事は素晴らしい事です。そして、書籍の運搬整理を手伝うのは良い心掛けです。
しかし、古関さんの虫干しとは何ですか?
・古関さんが古書館から出ないから、定期的に日の光に当てる必要がある?
円堂さんと若葉さんが言っていた。ですか。
・確かに古関さんは古書館の魔術師と呼ばれる程、あの施設と蔵書に精通した方ですが、あの出不精癖には困ったものです。
・しかし、古関さんを尾に巻き付けて走るのは淑女のする事ではありません。
古関さんの悲鳴を聞き慣れない先生が、何事かと慌てていたではありませんか。
・いいですか。古関さんはあれでも古書館を守り続けた腕利きにして、トリニティの知識の泉とも言える方なのです。
あなたが手帳に書いていた様な、不思議な鳴き声を出す生き物ではないのです。
そこのところ、ちゃんと留意……。覚えておく様に。
「……以上がトリニティとアリウスの現状になります」
「報せてくれて有難う、皆。しかし、根が深い話だね」
ティーパーティーテラス、そこに四人の姿があった。
三人は何時ものホスト、一人は見馴れない項の辺りで髪を結んだ大人。
連邦生徒会長が設立した超法規的組織〝シャーレ〟の先生、その人だ。
「根が深い話。確かにそうだ。だが、私達はこれを越えなくてはならない」
「まあ、これをやっちゃった私が言うのも何だけど、お願い先生」
「大丈夫、任せて」
口は軽いが、先生の頭ではトリニティとアリウスの現状について情報が目まぐるしく巡っている。
さて、まずは何をどうするべきか。
トリニティとアリウスの歴史による軋轢、彼女達はそれを乗り越えようとし、存在を消されてしまったアリウス分校の再興に関する準備も進めている。
学校が国家という器の役割を果たすキヴォトスで、学校の再興というのはなかなか難しい。
だが、アリウス自治区があるとされる場所はトリニティ自治区圏内。立地的に開発がいまだに手付かずな半地下の様な場所で、今は地下のカタコンベを通る以外の道が無い。
言ってしまえば、トリニティも傘下の自治区も手出しが出来てない未開の地にあるという事だ。
これは条件の一つとして強味だ。キヴォトスで学校の再興というのは校舎の再建だけではない。
そこに暮らす生徒や人々の居住区も再建しなくてはならない。
そして、その為には土地が必要になり、再興するという事は隣接していた自治区に接収された土地を回収する必要も発生する。
別にその自治区内に存在していた校舎の再建だけが条件の場合なら、上記の手間は要らない。その自治区の管理者である生徒会と連邦生徒会に届け出を出して認可されればいいだけだ。
そして、アリウス自治区はトリニティ自治区圏内に存在し、トリニティ生徒会のティーパーティーも認可の流れで動いている。
通常なら、何も問題無くアリウス分校の再興は達成出来る。
そう、通常なら。
「……この歴史が厄介だね」
「今、ウイさんとサクラコさんにアリウスとの歴史を紐解いてもらっていますが、痛みは避けられないでしょう」
「うん、皆がアズサちゃんみたいに乗り越えられないよ」
「しかし、我々にはその痛みを受け入れる覚悟と器がある。そう自負出来る」
「それは、何故かな? こう言っては何だけど、私の世界でもこういった問題はなかなか越えられていないよ」
「ふむ、それはだね……」
と、セイアが語ろうとした時だった。
「ぴ、ぴえぇぇぇっ!!」
「お待ちなさい!!」
逃げ回る悲鳴とそれを追う怒声が、テラスの下を駆けていった。
「……あの二人のお陰さ」
「尻尾ちゃん、また怒られてるじゃんね」
「あそこまで怒らなくてもいいと思うのですが……」
「ナギちゃんはこの前ので怖がられちゃったもんね」
「元はと言えばあれはミカさんが……!」
「とまあ、こんな感じでね。あの子が来てから和やかになった」
「そ、そうなんだ。でも、あの二人のお陰って?」
「ふむ」
先生が疑問すると、セイアは少し考えた後、まずはと前置きをして話を続けた。
「彼女の出自はアリウスと似ている。〝0番スラム〟、先生はこの呼び名に覚えはあるかい?」
「ごめん、初めて聞いたよ」
「いいさ。普通にしていれば聞く事はまず無い呼び名だからね。簡単に説明するなら、キヴォトス最悪の悪所。スケバンやヘルメット団すら近寄らず、カイザーコーポレーションですら易々とは手を出さない。このトリニティとゲヘナを跨ぐ緩衝地帯にあるスラムの事だ」
「この話の流れで出てきたという事は……」
「その通りです。彼女はそこで生きて、〝0番スラム〟の頂点捕食者として君臨していたそうです」
「まあ、我々もそれを見た訳ではない。先代が残した資料から得た情報だ」
「でも、あれ見た時びっくりしたよね。マジヤバな子じゃんって」
三人の話から先生もタブレットで〝0番スラム〟について軽く調べてみるが、出だしだけでも眩暈がしそうになる情報しか並んでいなかった。
しかし、そんな場所から来たというのに、テラスから見える彼女にはその気配をまるで感じない。
「それについては説教をしている彼女のお陰だね」
「元々はエデン条約に向けたスラム減少政策の一環として、先代ホストが彼女を迎えたのですが……」
「あれはこっちの子達も悪かったし、私達も余裕が無かったからだったけど悲惨の一言だったよね」
「それはどういう意味なの?」
「引き継ぎの際にちょっとばかりいざこざが起きてね。その時に先代が所有していた情報が消し飛んで、彼女の事が上手く我々に伝わってなかったのさ」
と、その辺りでセイアとミカの二人がナギサを見る。
当のナギサは明後日の方向に体を向け、涼しげな様子で紅茶を満たしたカップを傾けている。
「……ナギサ?」
「違うのです先生。あれは少々、予定外の事が連続しただけで……」
「まあ、それでキレたナギサがこの会館の一部を榴弾砲で吹き飛ばした訳だ」
「ナギサ……?」
「セ、セイアさん? 先生、私はそんな……」
「あれにはびっくりしたじゃんね。分派の会合で遅れて着いたら、砲兵隊の子達が泣きながら止めるのを振り切ったナギちゃんがぶっぱなしたんだもん」
「ナギサ、……ナギサさん?」
「ちが、違うのです先生……。私、私は……」
「前々から決まってはいたが、あれが決め手になって私達がホストになった訳だ」
話を戻そう。
セイアがナギサからの恨めしい視線を涼しい顔で受け流し、ミカが空いた先生のカップに紅茶を注ぐ。
お嬢様学校と聞いていたが、ここもやはりキヴォトス。先生は紅茶の香りで気を落ち着けながら、セイア達の話を聞いた。
「ナギサが全て悪い訳ではないがそれも関係して、彼女に関する情報の大半が一時消失。我々も学内を安定させる為に奔走し、気付いた時には手遅れになりかけていた」
「手遅れ?」
「先生はさ、慣れない、見知らぬ環境。しかも周りが敵か味方かも判らない状況にいきなり放り込まれたらどうする?」
「それは、まず周りと自分の状況を確認して話をするかな?」
「そうだね。でもそれは我々の様な恵まれた環境に生まれ育った者がする事だ。いや、彼女もそうした。だが、育った環境が違いすぎた」
「端的に言うなら、彼女は周りから攻撃を受け自衛の為に力を振るいました。それも曾て頂点捕食者であった頃の力を」
トリニティ入学までの極僅かな期間で、彼女は先代ホストからある程度の教育は受けていた。
下手に力を振るってはいけない。周りは自分よりも弱い。
学力も元々高かったのか。入学基準は満たし、どうにか周りに馴染もうとはした。
だが、当時のトリニティには彼女は異物でしかなかった。
「それはもう凄まじいとしか言いようがなかった。鎮圧に当たった正義実現委員会はツルギ以外吹き飛ばされ、ツルギも今まで見た事が無い傷を負っていた」
「え、皆大丈夫だったの?」
「吹き飛ばされた委員会の子達は軽傷、ツルギちゃんはすぐに治っちゃうから大丈夫だったけど、その後だよね。びっくりしたのは」
「ええ、まさかあんな事になるとは……」
ナギサが遠い目をした。
先程の話から先生は、ナギサがまた何かしたのかと思ったが、二人の様子を見るにそうではないらしい。
「あそこで思いっきりお説教してる翼の大きい子、あの子を尻尾ちゃんの教育係にナギちゃんが任命したの」
「彼女はこのトリニティでも、鉄の淑女と呼ばれる程に規律に厳しく、融通が効かない事で有名だったが下の者に対する面倒見は良かった。だから任せたのだが……」
「な、何があったの?」
「ツルギ委員長によりどうにか捕縛され、いまだ興奮状態で暴れ狂う彼女と同じ檻に入り、落ち着くまでその暴力を一身に受けていたそうです……」
ツルギが強いという事は聞いていた先生は、そのツルギがどうにか捕縛した彼女の力がどれ程か。想像がつかなかった。
だが、同じキヴォトス人の三人の表情から二人は突き抜けた強さを持つ。言えばアビドスの小鳥遊ホシノやミレニアムの美甘ネルと同等の生徒だと理解した。
その彼女の暴力を落ち着くまで受け続けた。
体が頑丈なのかとも思ったが、そうではなさそうだ。
「戻ってきた時の彼女は、救護騎士団のミネさん曰く、動くどころか立つ事も難しい状態でした」
「それで血塗れでボロボロ以外は普段と変わらない様子で、ここにあの子連れて来たからナギちゃん卒倒しちゃって」
「それって……」
「……〝出血も骨折も身を裂かれる痛みも、全て私共が勝手に連れてきたこの子に与えたもの。であるなら、淑女たらんとする私がその痛みを受けずして、どうしてこの子に向き合えましょうか〟。彼女はそう言い切ったのさ」
「か、覚悟が凄い……」
「その後も一切の痛みも呻いたりせずに、あの子が寝静まってからようやく治療を受けていたというよ」
「次の日もさも当然の顔して現れましたからね。目に見える跡は全てお化粧で隠して」
テラスに聞こえるお説教は何についてなのか。
何か悪戯がどうとか聞こえてくるが、今の話の様な子達には見えない。
周囲も微笑ましいものを見る目で通り過ぎ、中には彼女の尾鰭にお菓子の袋を引っ掛ける者も居る。
「……〝猛獣〟や〝悪竜〟と呼ばれたその彼女も今となっては、皆から珍獣扱いさ」
「珍獣って……」
「文字通りです。何と言いますか、私達が知っている事を彼女は殆ど知りませんでした。ケーキを見た時はそれが食べ物かすら……」
「あれはナギちゃんが持ってきたケーキがよくなかったじゃんね」
「切り分けるまで、私はあれがショートケーキだと判らなかったよ。一体何だったんだい? あの全面に苺を貼り付けたショートケーキは」
「で、でも、喜んでくれましたよ!?」
「いや、あれ少し怯えてたよ?」
「白いショートケーキが来たと思ったら、真っ赤な苺の塊が来たからね。君があれをショートケーキと言い張った時のあの子の顔を見たかい? 何を言ってんだこいつ?だったよ?」
カップ片手に悔しそうに震えるナギサだが、反論材料が見当たらないのか。歯噛みするばかりだ。
しかし
「そんな状態の子を、よくあそこまで持っていったね」
「いやもう、ホントに24時間体制の教育だったもん」
「あれは凄かった。兎に角徹底的な淑女教育、常に隣で手本を見せて生活してたからね」
「反抗されて尻尾に弾き飛ばされても、すぐに復帰してのお説教でしたから本当に決死の覚悟でしたね」
だが
「その介もあって皆に認められ、今ではトリニティの〝守護竜〟と呼ぶ人も居る程です」
「まだグダグダ言ってる子は居るけどね」
「長くなったが先生。つまりそういう事さ。我々はまるで違う世界から来た子も受け入れられた。時間は掛かるだろうが、アリウスとだって手を取り合える。そう思っての判断だ」
「そっか。なら安心だ。でも、助けが要る様な事が起きたらすぐに呼んでね。今回のこれみたいにさ」
先生が手で弄ぶ資料には〝補習授業部開設のご案内〟と書かれていた。
『あなた』
〝0番スラム〟で支配層に居るマフィアとは別に絶対者として君臨していた。
マフィア的にも邪魔だが、手を出せば確実に壊滅させられるが、縄張りからは出ないので基本放置が安定の扱いだった。
スラムにおける頂点捕食者、それが今や珍獣だよ。
先輩
誰も見てないと思っていたが、しっかり見られてトリニティの七不思議の仲間入りを果たした。
二人の名前
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要る
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要らない