あなたがトリニティでやってはいけない事リスト 作:装甲アッサム春雨
塵塚アヤコ
トリニティ総合学園二年
所属¦シスターフッド・器物保全部
身長¦イチカと同じくらい
趣味¦アンティーク収集・修理、食べ歩き
器物保全部というトリニティのインフラ、設備、施設等の保全・修繕を一手に引き受ける部活の長。実質、トリニティの屋台骨を支えていると言っても過言ではない。
いつもツナギ姿で、腰には多種多様な工具をぶら下げ、ハンチング帽を結構目深に被り、ショウコを引き連れて学園中を走り回っている。
また、結構喧嘩早く、直したばかりの建物を破壊したツルギとミネに金槌と釘抜きで殴りかかった事もある。あと、ミネからダウンを取れる程度にはかなりのハードパンチャーでもある。
よく昆布やスルメ、ビーフジャーキー等を咥えていて、塵塚のビーフジャーキーは塩分補給を目的としている為かなり塩辛い。具体的にはサクラコ様が慌てて紅茶を飲む程度。
また、ショウコと揃ってかなりの大飯食らいで、学園の食堂では足りないと、裏路地の食堂で白飯を掻き込んでいる。塵塚さんの体型は割りとしっかりとした太目。
こちらの世界線では何も起きずに二人が居た為、退学届けを提出していない。
「毎度、器物保全部です。エアコンの点検に……。あ?」
連絡があり、保全部の塵塚が旧校舎の教室の扉を開けると、教卓の影に隠れた彼女が目に入った。
珍しく彼女がこちらに気付いていない。
こういう時は、大体が少女の堪忍袋の緒が切れてる。
そう思い、よくよく教室を見ればマリーが奥に居る六人に苦笑いを向けていた。
「……皆様の言い分、よく理解しました」
「え、じゃあ……」
「理解した上でもう一度申し上げます。皆様、一体何をしているのですか?」
あー、こりゃダメだわ。
塵塚はポケットからビーフジャーキーを二枚取り出すと、一枚を怯える彼女の口に放り込み、もう一枚を口の端に噛んで、鞄を床に置いて適当な椅子に腰を降ろす。
ああなっては、暫くは無理だ。
堅いジャーキーをスナック菓子の様に咀嚼する彼女にもう一枚与えながら、塵塚は説教が終わるのを待つ事にした。
「まず第一に成績不振、これは人には得手不得手がある以上、仕方ない面もあります。しかし、アズサさん以外の方は勉学に向ける姿勢というもの自体を間違えております」
「あの、それは……」
「先生はお静かに」
「はい……」
「最初にヒフミさん」
「は、はい」
「貴女が前回のテストを欠席した理由を、もう一度お聞かせ願えますか?」
「……ペロロ様の限定ライブがあって、それに参加する為に……」
ヒフミの言い訳に少女が翼を僅かに広げ、小さく息を吐く。
そして、猛禽類の如く鋭い視線をヒフミに向ける。
「ヒフミさん。意味は少々違いますが、好きこそものの上手なれ。という言葉がある様に、好きなものにひたむきに励む事は素晴らしい事です」
「で、ですよね! ペロロ様ですし!」
「そのペロロ様という方を私は存じ上げませんが、貴女が夢中になる程に魅力的な方なのでしょう。しかし、学生の義務であり本分である勉学を疎かにしていい理由にはなりません。そして、今の貴女はペロロ様を理由に勉学から逃げて、この様な状態になっています。果たして、そのペロロ様という方は今の貴女を見てどの様に思うのでしょうか?」
「あぅ、それは……」
「何も私はペロロ様のライブに行くな。とは申しません。ただ、遊行に向かうなら義務から逃げずそれを果たしてからという話をしています。ご理解いただけましたか?」
「はいぃ……」
「宜しい。ではコハルさん」
「な、なに!?」
「自身の実力を信じ常に高みを目指し、尊敬する方々の期待に応えようとする姿勢は見事です。流石は剣先ツルギ委員長率いる正義実現委員会のメンバーです」
「そうよ! 私は正実のエリートなんだから!」
コハルのその言葉に少女の目が見開かれ、翼が大きく広がり、五人を威圧する。
「ですが、貴女の態度はいただけません。正義実現委員会とは、このトリニティ総合学園の治安維持の象徴。つまりは無辜の民に安寧と安心、安堵を約束する立場にあります。その一員である貴女が、そうでない者を見下す様な発言をすれば、正義実現委員会とは他者を見下す組織だと見なされる事に繋がり、貴女だけでなく他の方々の印象を悪化させる事にも繋がります」
「で、でも……」
「そして、自身の実力を信じるのも大事な事ですが、貴女は少々自身を過信している部分があります。過信は緩みを、緩みは怠惰を呼び、怠惰の果てにあるのは周囲からの不信と落胆です」
「うぅ……」
「自分に自信を持つな。という話ではありません。ですが、過剰な自信は目を曇らせ、自身と周りを見えなくします。時には周囲に助力を申し出て、周囲からの助けを素直に受け入れる。それも大事な事です。助けを乞う、求める事は決して恥ではありません。この補習授業部で貴女が更なる成長を遂げる事、正義実現委員会両委員長も願っております。尽力する様に」
「……はい」
「そして、アズサさんですが」
「なんだ?」
「内容としてはコハルさんに申し上げた通り、自身の実力を過信し過ぎている節があります。そこを見直し、分からない事は遠慮無くお聞きください」
「わかった」
「ちょっと何でそいつだけ、そんなに軽いのよ!?」
「先程申し上げた通りです。アズサさんは自身の学力に過信はあれど、自身の理解が及ばぬ事に対して真摯に向き合っています。お二人の様に逃げたり目を逸らしたりをしていないからです」
それ以外の理由は今は言えんわな。塵塚は説教をBGMにアズサと今の状況を頭で整理する。
今のアズサの立場は非常にデリケートだ。アリウスから仕向けられた刺客とミカが迎えたアリウスとの和解の象徴。
事実はアリウスという不明瞭な存在から来たから成績不振なのだが、それを明言するにはまだ早い。
アズサ曰く、学園に居るアリウス生は自分一人だと言うが、アズサが知らされていないアリウス生が潜んでいる可能性も全く無い訳ではない。
もしアズサが語るマダムやアリウス・スクワッドに正体がバレたと知られたら、アズサを回収にしに来るか、最悪消しに来る事は確実だ。
そうなればせっかく取れた優位を失い、トリニティは後手に回る。
一応、アリウスに繋がっているであろうカタコンベの出入口と周辺には仕掛けをしたが、後手になる事は避けたい。
そして、塵塚にはもう1つ。気になる事がある。
「最後にハナコさん」
「はい、どうしました?」
「……貴女に何があったのか。私に知る由はありません。ですが、今の内にはっきりと申し上げます。貴女、何をしているのですか?」
「どういう意味でしょう?」
この浦和ハナコだ。クラスは違うが同じ学年、塵塚は他者を圧倒する才能を見てきた側だ。
天は二物を与えずとは言うが、ハナコに関しては別だろう。しかし、その浦和ハナコが何故、補習授業部に居るのか。
その答えは自身の能力で役目と立場を両立している塵塚には判らない。
「……判りませんか?」
「ええ」
「そうですか。では、今の私から言える事はありません。しかし、一つ言うのであれば、貴女のそれは貴女だけのもの。故に貴女が受け入れ決着を着けねばならない事です」
「…………」
「……お茶が冷めてしまいましたね。淹れ直して参ります」
そう言うと少女は人数分のティーセットを盆に載せ、再び教室を後にする。
「ふん、お前も行ってやれ」
「分かった。です」
塵塚が促すと、彼女も少女の後に着いていく。
そして、新しいジャーキーを口の端に噛み、沈黙していたマリーに状況を確認する。
「おう、どんなもんよ」
「塵塚さん。冷風は出ていますが、ちょっと風と冷えが弱い様な気がしまして」
「ま、こっから一気に気温が上がるからな。おう、正実の」
「な、なに!?」
「脚立持ってくるから、ちょっと下で支えといてくれ」
言って、塵塚は廊下に置いていた脚立を担ぎ、エアコンの下にセットする。
「具合としちゃどんなもんか、と。あー、掃除忘れか。マリー、鞄持ってきてくれ」
「はい」
「んで、お前はフィルター受け取れ」
「え? う、うん」
マリーが鞄を取りに教卓まで向かう間に塵塚はエアコンのフィルターを外して、下で脚立を支えるコハルにフィルターを渡す。
「うわ、なにこれ……」
「へっ、そんだけこいつが仕事してたってこった」
「ごめんね、アヤコ。助かるよ」
「気にすんな。これがアタシらの仕事だっと」
脚立から降り、マリーから鞄を受け取ると、鞄からいくつかの工具とライトを取り出す。
そして、周りを見るとほぼ全員が神妙な顔付きになっていた。
「随分効いたみたいだな」
「それはまあ……」
「ふんだ! 大体、ティーパーティーになんで私達があんなに言われなきゃいけないのよ」
「まあ、言いたい事は判るが、あいつも色々あったんだよ」
「色々、ですか?」
「あー、一年は知らねえし、ヒフミとハナコも微妙に知らねえ顔だな。まあ、なんだ? 去年までのトリニティは内情がぐちゃぐちゃでな。ちっと笑えん話もあった訳だ」
それに巻き込まれたのがあいつだ。
一年から保全部だった塵塚は、資材管理部であった少女と割りと長い付き合いでもある。
入学当初は今よりも融通が利かない性格で、腐敗していた当時のティーパーティーでは攻撃の的になっていた。
だが、少女はそれら全てを弾き返し、面倒に思った周りから次第に腫れ物として扱われる様になっていた。
「だからか、あいつは周りがそうなっても困らない様に、自分なりの自衛方法ってのを教えてる。つまり、きっちり規律を守ってやってりゃ、バカ共は手が出せねえし、出したとしても周りの信用に保証される」
塵塚は窓から身を乗り出し、フィルターをブラシで叩きながら話を続ける。
「お前らにした説教も結論言っちまえば、ちゃんとしなさいの一言で済む。だが、それだとお前ら判らねえだろ? だから、あそこまで煩く言うんだ。万が一にもお前らが不当な攻撃を受けない様にってな」
「わ、分かりにくいな」
「だろ? あいつは昔からそうなんだよ」
因みに
「あの尾っぽの面倒見る様になってから大分丸くなったからな」
「え、あれで?」
「言うじゃねえか先生」
苦笑する先生を尻目に洗浄スプレーで細かい汚れを洗い流し、ビニルテープを繋いだ洗濯バサミを使いフィルターを吊るして干していく。
本当に丸くなった。以前なら論外として吐き捨てていた可能性だってあったのに、今ではこうだ。
人生、何があるか判らない。
「よし、後はフィルターが乾くのを待ってからだ。後の話は茶でも飲みながらだ」
新たに茶を淹れ直してきた二人が、塵塚の言葉に怪訝な顔をしていた。
『あなた』
サクサクと食べているが、ジャーキーは普通に硬い。
過去のツルギ戦ではハスミの援護が一瞬でも遅れていたら、ツルギの右肩を食い千切っていた。
先輩
一年時には周囲からかなり陰湿な攻撃を受けていたが、淑女硬度が今より高かった為、全て弾き返していた。
塵塚さんとは一年からの付き合い。アズサを名前呼びになったのは、トリニティの一員と受け入れたから。
先生
この前に結構長めの説教を食らっている。
一応、女先生。鞄に最新の食玩を隠しており、後でこっそり『あなた』と交換会をするつもり。
補習授業部
一体何故こうなったかを答えたら、先輩の淑女メーターが振り切れた。
二人の名前
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要る
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要らない