あなたがトリニティでやってはいけない事リスト   作:装甲アッサム春雨

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『あなた』の秘密
実は顎の可動域が人より広い。
魚介類、チーズは生食の方が好きだが、サーモンはトリニティに来てからソテーか燻製の方が好き。
最近は百鬼夜行にある〝ちゃんちゃん焼き〟なる料理に興味を持つ。
夜な夜な何か細かい作業をしている。

先輩の秘密
実は割りと漫画好きで、こちらで言うところの〝邪神のお弁当屋さん〟や〝ハクメイとミコチ〟等の系統を好む。
好物のステーキは両極端な焼き方を好み、基本ウェルダンかブルーレア。味付けは塩コショウのみで、ニンニクなどはあまり好まない。肉の味を食べたいタイプ。


十八冊目

「だぁからっ! そこはそうじゃねえって言っただろうが!」

 

二人が補習授業部の教室に入って、一番最初に聞いたのはそんな塵塚の怒声だった。

 

「そんな事言ったって分かんないものは分かんないの!」

「何回も言ってんだろ! この公式の使い方はこうじゃねえ!」

 

地味に数学に関してトリニティ総合学園で二位の塵塚に、カタコンベ内部のルート割り出し作業の息抜きにと、補習授業部の補佐を頼んだのだが、なかなかに白熱している。

 

「浦和ぁ! てめえも何やってんだ?!」

「あら、ナニってお勉強ですよ?」

「今は数学だ。保健体育じゃねえ! 先生!」

「え? は、はい!」

「お前どうなってんだこいつら?! 基礎レベルからパァじゃねえか!」

 

ヒフミ以外の全員を怒鳴り付けながら、塵塚はそれでも参考書を片手にどうにかしようと躍起になっている。

 

「いいか! 公式は道具だ。問題って材料から答えっつう家を建てる為の道具。だから、この材料ならこの道具って使い方を覚えろ!」

「そんなの……」

「無理じゃねえ! お前、銃撃てんだろ。銃ならどう構えてどう撃てば当たるかだ。どっちにしろ使い方と撃ち方でしかねえ」

「ふむ、塵塚さん。なかなかに白熱していますね」

「あ? やっと来たか。浦和と阿慈谷はなんとかなるが、白洲と下江が問題だ」

 

腰のホルダーに提げていたボトルを取り、中身を一気に呷りながら、塵塚は交代だと言わんばかりに椅子に座る。

 

「ごめんね、アヤコ。なかなか上手く進められなくて……」

「ああ、気にすんな。急凌ぎだが、基礎から建て直してやる。ほぼ全員やる気はあんだ。なんとかなるだろ。で、お前らは?」

「私共も所用が済みましたので、応援にと」

「そりゃ助かる。だが、その前に休憩だ休憩。補習なんざ根詰めても良いことねえ」

 

ポケットから赤い箱を取り出し、中身の濃い緑色を口に噛む。今日はジャーキーではなく昆布の様だ。

 

「では、皆様。本日もお茶の用意が出来ております」

 

少女がそう言うと、彼女がティーセットを載せたカートを廊下から押してくる。

 

「本日は皆様の労を労う為、ハーブティーになっております」

 

とりあえず、前回と同じ様に机を寄せ合うと、ケーキプレートとフォークが並べられていく。

そして、全員のカップへティーポットから薄い琥珀色の液体を注ぎ、順に全員の前に並べ直していく。

 

「お茶請けは簡素ながらレモンタルト、桃のムース、夏蜜柑のチーズケーキとなります。また、お茶の方はお好みでこちらの蜂蜜をお使いください」

「腹に溜まるもんはねえのか?」

「……貴女、以前の健康診断でミネ団長から血圧について苦言を呈されてはいませんでしたか?」

「それは生まれつきだ。ほれ、尾っぽ」

 

塵塚がお構い無しにケーキサーバーでタルトとチーズケーキを皿に載せると、少女の凄まじい視線をものともせず彼女に渡す。

 

「いただき……」

「席に着きなさい。今は立食の場ではありません」

「はい……」

 

すごすごと席に着く彼女に少女は頷くと、自身も席に着く。

 

「それでは皆様、ご自由にお楽しみください」

 

さっと自分と彼女の分のお茶も入れると、何食わぬ顔でカップを傾け始める。

勘違いかもしれないが、何か妙な緊張感があり、こちらを伺う様な視線もある。

ヒフミは違う。ハナコだ。

ハナコはこちらが教室に入った時から、うっすらとこちらを伺う様な視線を向けていた。

その視線の意思を少女が伺い知る事は出来ない。元より、少女ではハナコの知謀の足元にも及ばない。

どう足掻いても踠いても、少女に勝ち目は無い。

なら、正面から迎え撃つだけだ。

少女は何食わぬ顔を一切崩さず、彼女も少女の意思を汲んでか、目の前のケーキに釘付けになっているのか。ハナコの視線に気付いた様子を見せない。

 

「とりあえず、ここからの計画だけど、目標は合格点の平均点。これは全科目合わせてだから皆ならいけるよ」

「やる気出せばな」

「や、やる気はあります」

「そうでなければ困ります。貴女方は栄えあるトリニティ総合学園の一員、この様な事で未来に傷を付けるなどあってはなりません」

「この様な事、ですか」

「ええ、この様な事です。皆様でしたら、問題なく乗り越えられる程度の」

「固い固い。お前らが心配だから頑張れでいいじゃねえか」

「塵塚さん、貴女はもう少し品格というものを意識してください」

「へーい」

 

一瞬、二人の間に緊張感の様なものが走る。

だが、それを意に介さずに少女の上着の裾を引っ張る姿があった。

彼女だ。

 

「どうしましたか?」

「ムズムズする。です」

「分かりました。少々お待ちなさい」

 

塵塚以外の面子がどうしたのかと二人に視線を向けると、少女が腰のポーチから紙袋を取り出し、そこから一枚をクッキーを彼女に手渡す。

 

「久し振りに見たな。その鉄板クッキー」

「この子以外は普通には食べられないものですから」

「鉄板クッキー? なにそれ?」

「ん? ああ、説明するより試したが早いな。まだあるか?」

「ありますが、大丈夫なのですか?」

「割れば食えるし、アタシなら均等に割れる」

 

と、塵塚は少女からもう一枚のクッキーを受け取り、先生に手渡す。

普通ならつかない鉄板という名称に、全員が興味を惹かれ先生の手にある大判のクッキーに注目する。

 

「ん? んんん……?」

 

普通のサイズより一回り大きいそれを、先生は割ろうと力を籠める。

だが、手にしたクッキーはびくともしない。指先が白くなる程、力を籠めても割れるどころか罅が入る気配すらない。

 

「あの、先生?」

「いや、これ、え? えぇ……?」

 

あまりの事態にヒフミを始めに全員で試すが、何も変わらない。

鉄板という名の如く、不動のクッキーを最後にチャレンジしたハナコが皿に置くと、彼女の方から軽快な咀嚼音が出た。

 

「嘘でしょ……。これ、食べれるの?」

「ちょうどいい堅さ。です」

「この子は少々、顎と歯が強いので時折堅いものを食べたがるのですが、トリニティに流通しているものでは物足りなかった様で、私が焼いております」

 

全員が疑いの目を向けるが、一枚だけ違うものを仕込む理由は無く、コハルに至ってはあのツルギに血を流させた歯と顎を知っている。

だから彼女は、この堅さのクッキーを平気で、しかも嬉しそうに食べている事になる。

 

「味は良いんだよ。ちょっと貸してみな」

 

言って、塵塚がハナコからクッキーが載った皿を受け取ると、腰のポーチから丸鏨と金槌を取り出し、念の為と除菌シートで丸鏨の刃を入念に拭きライターで炙ると、片目を閉じて刃先を真っ直ぐにクッキーの中央に当てる。

 

「お前は?」

「私共は結構ですので、皆様でどうぞ」

「なら、アタシ入れて六人分な。よっ」

 

塵塚が軽く金槌を鏨に落とすと、クッキーが綺麗に六等分に割れた。

 

「すっごいキレイに割れた」

「普段相手にしてる石材より目が読み易いからな」

「いや、それでもこんなにキレイに割れませんよ」

「すごいな。保全部は全員こんな事が出来るのか?」

「アタシだけだな。ショウコはどっちかといったら木材の方だ。ほら、食え」

 

促されるまま、割れたクッキーを齧ると少し堅いがそれだけで味は普通のバタークッキーだった。

 

「ふ、普通のバタークッキーだ」

「しかもちょっと良いやつ」

「ええ、少し高級な感じの……」

「お気に召された様で何よりで御座います」

「しかし、どうやってここまで堅く仕上げたんですか?」

「調理部の皆様にご協力戴きまして、材料から生地の練り方からオーブンの温度まで、これ専用のレシピを制作しただけです」

「わざわざですか?」

「ええ、何か問題が? 私はこの子の教育係、ならば彼女の不備不満は解決に協力する立場にあります」

 

故にこの程度は当然と、少女は言い切る。

先生は流石にそれはやり過ぎではとは思ったが、口には出さなかった。

少女にとって教育とは、その知識や心構えを伝えるだけではなく、それらを身に付ける環境を整える事も含んでいる。

トリニティ総合学園という淑女教育にはこれ以上無い環境、しかしそれは彼女には当てはまらない箇所が多い。

ならばと、少女は一つ一つ彼女に関する資料を一言一句逃さず読み込み、彼女と毎日接し続けて足りないものを周囲の助けを借りながら揃えた。

これからも続くのだろう。それはただ彼女を一人前の淑女に育てるだけでなく、彼女が誰かを育てる立場になった時の一つの手本となる為の事だ。

徹頭徹尾、少女は彼女と周囲の為に動いている。自己犠牲や無私の奉仕ではない。

ただ、自身の生き様と周囲に恥じない様に少女は、ただそうしているだけだ。

教育者として負けている気がしながらも、少女のその在り方に危うさも感じる。

その在り方から何時か自身を押し潰してしまうのではないか。そんな危うさを。

だが、

 

「……先輩」

「ダメです。このクッキーは一日一枚までと約束したでしょう」

「うぃ……」

 

少女の袖を摘まんで引っ張る彼女を見る表情から、その危惧も薄れた。

少女と彼女は二人で一人という訳ではないが、彼女という存在が少女の過剰を止め、少女という存在が彼女の停滞を止めている。

ひとまず安心して、先生はハーブティーを口にする。

ハーブの爽やかな香りが鼻を通り、頭冴えさせてくれる。

これなら午後からの授業も頑張れそうだ。

 

「ああ、そういえば塵塚さん。こちら頼まれていた〝資材〟の納品予定です」

「モモトでよかったんだぞ?」

「申し訳ありません。私の端末が少々不具合を起こしまして」

「なら、しゃあねえか。遅れは?」

「予定通り、配送ミスが無ければ過不足無しで揃えております」

「なら安心だ。お前の管理がミスった事なんざねえからな」

「過分な信頼、痛み入ります」

 

今のやり取りに先生は何か違和感を感じたが、その違和感に気付けない。

だが、ハナコは少女が塵塚に折り畳んだメモ用紙を渡した辺りで、一瞬だが目線が鋭くなった。

 

「そうだ。今日は皆でお泊まりにしませんか?」

「あ? どういうこった?」

「塵塚さんもお二人も度々来られて、ただ授業をするだけなんて寂しいじゃないですか。だから、親睦も兼ねて、どうです?」

 

ああ、これは何か企んでるな。

塵塚はハナコの考えまでは判らないが、間違いなく企みがある事だけは判る。

そして、それは少女もだ。彼女もただ普段通りの顔でハナコを観察している。

頭脳戦でハナコには勝てない。ここで逃げても別の搦め手を使ってくる。

なら、仕掛けられた勝負に挑むだけだ。

 

「……そうですね。この子も交流を広める機会、御相伴に預かりましょう」

 

猛禽の如き目と底知れない目が交差し、言い様の無い緊張感が生まれた。




『あなた』
今回の三人のやり取りをよく判ってない。
判ってないが、ハナコが何か企んでる事は気付いてるので、何かするつもりなら容赦はしないつもり。
もうそろそろ、〝0番スラムの絶対強者〟のお暴力が披露される予定。

先輩
ハナコがアリウス関係に薄々気付いているだろうと、ここで手を打つ事にする。
鉄板クッキーは調理部の協力により、当初より硬度を増している。

調理部
いきなり堅いクッキーを焼きたいと先輩に言われ困惑したが、先輩がそういう冗談を言わないタイプなのは知っていたので協力。
最近、ミレニアムからキッチン用高圧焼結炉を導入した。

塵塚さん
大体の石材や自然石は見れば、何処に衝撃を加えれば割れるか解る。なので、煉瓦造りや石造りの建物に籠城しても一発で崩落させられる。
御手洗は木材特化。

鉄板クッキー
鉄板クッキー、鉄板の如き硬度を誇るクッキー。
やっぱり物足りなさそうな『あなた』の為に先輩が調理部に協力を仰ぎ、キヴォトス中の製菓製パン、他小麦粉を使用する料理のレシピと材料を組み合わせ、高温で何度も焼き締めて焼き固めたもの。
先輩だけで作っていた初期型より堅くなりつつも、味の向上にも成功している。

もう一回 二人の名前情報

  • 要る
  • 要らない
  • 要る様な気がする
  • 要らない気がする
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