あなたがトリニティでやってはいけない事リスト 作:装甲アッサム春雨
今回で夜中にやってる作業の正体が明らかに
先輩
いよいよエデン条約の大詰めとなり、古巣の資材管理部へ
生徒プロフィール
生物部部長〝鴨下〟
学年¦二年
身長体重¦ゲヘナのちいかわとほぼ一緒
見た目 ¦ゲヘかわとあまり変わらないが、髪色はこちらの方が暗い
趣味¦生物観察、ビオトープ管理制作
トリニティの狂人集団の長で、ハナコに次ぐ天才。
だが、生物学にしか興味は無く、各派閥からの勧誘を悉く断り今の生物部部長となった。
また、ところ構わず温泉開発をする鬼怒川カスミらとは敵対しており、姿を見るなり襲い掛かるが、二人はかなり遠縁の親類縁者でもある。
ここはトリニティ総合学園一年生のあなたのトリニティ並びにキヴォトスでの禁則事項です。
よく確認しておいてください。
56.誰も知らない自分だけの場所を作る事は構いません。ですが、もう少し場所を考えましょう。
・秘密基地、並びに自分だけの場所を作る事は構いません。プライベートな空間を必要とするのは誰しもが同じです。
ですが、もう少し場所を考えましょう。
・少なくとも、地下水路からは移動しなさい。
何かあった時に、あなたを探しに行った人が迷う可能性があります。
・迷わない? それはあそこに慣れているあなただからです。
トリニティの地下水路は、長い歴史の中で増改築を繰り返し行った影響で、迷路の様になっています。
もし万が一の事が起きない様に、秘密基地は地下水路以外の場所に移設する様に。
・救護騎士団は来た?
…………緊急時における救護騎士団は別に考えなさい。
57.心配だからと顔を出すのは悪い事ではありません。ですが、頻度を考えましょう。
・あなたがアリウスの皆様の事を心配しているのは、悪い事ではありません。しかし、皆様には今は時間が必要です。
・アリウスの皆様は今、心境はどうあれ敵地に居る状態なのです。肉体的にも精神的にも、今は不安定な状態。
ですので、今は救護騎士団の皆様に任せましょう。
・見舞いの品? それならば、救護騎士団経由でお渡しておきます。
現状がどうあれ、私とあなたは彼女らと直接戦い、捕縛した側です。
今は顔を出す事は控えた方が良いでしょう。
58.見舞いの品は構いませんし、あなたが彼女達を心配しているのは理解しています。ですが、少々加減をしましょう。
・……今回は見舞い品に問題があったという訳ではありません。いや、問題と言えば問題でしたが、品自体に問題があった訳ではありません。
問題なのは量です。
・食べねば治らない。という、あなたの考えには私も賛同します。
食は全ての根幹、彼女達にはまず質の良い食事と休養が必須です。
しかし、あの大鍋は何ですか?
・保全部が贔屓にしている定食屋の店主様に頼んで持ってきてもらった?
……成る程、道理で学園に普通に入ってきた訳です。
・いえ、先程も申しましたが、品に問題はありませんでした。
ミネ団長も納得出来るレシピの鍋、先んじて手配した事は流石です。
ですが、量が問題だったのです。
・調理部ですら二度見する寸胴鍋が、軽トラックに満載されて来たのですよ?
食べねば治らないと言うにしても、あれは流石にやり過ぎです。
・なんです? そんな量頼んでない? 頼んだのは弱ってる人でも食べれるスープ?
……んんっ、前言を撤回します。ですが、何故あのような事に?
……店の連絡先を忘れたから、塵塚さんにお願いした?
………………ええ、あなたも解りましたね。恐らく、いえ確実に、保全部が自分達基準で人数から量を割り出して注文しています。
お二人には、少々、お話をする必要があるようですね。
59.祝い事といってもはしゃぎすぎてはいけません。
淑女たる者、常に慎みを持ちましょう。
・常々、言い含めている事ですが、淑女たる者、常に慎みを持ちましょう。
まあ、今回はそれほどはしゃいでいた訳ではありませんので、お説教はここまでとします。
しかし、補習授業部全員が平均点を大きく越える90点台とは、私としても嬉しい限りです。
・……あなた、どうしましたか?
「ふむ?」
その影が首に掛けたタオルで汗を拭い、視線を上げると見覚えのある尾が揺れていた。
帽子の庇越しに見える背中と尾は警戒ではなく喜悦のそれで、つまりは上機嫌なのだろう。
しかし、この場で上機嫌になる理由となると、あまり思い付かない。
ここは自分達が管理しているビオトープで、生徒の憩いの場でもあり、そして釣り堀の役割も果たしている。
トリニティで釣りを趣味とする者は少なくない。元より狩猟に纏わるものは貴族の趣味とされ、釣りもその一環に入るからだ。
狩猟が免許制になった昨今、その人数は減ったがそれでもその趣味を持つ者は居る。
そして、いまだに当たりの無い釣糸を垂らす彼女も、その釣りを趣味とする一人だ。
「釣れているかね?」
「あ、部長」
トリニティの狂人集団こと、生物部の部長〝鴨下〟。
少女の次に彼女に目を付けたトリニティ随一の才媛でもあり、ゲヘナの狂人集団の長に似ている。だが、それを言うと、あれ程見境を無くした覚えは無いと怒り出すが、周りからすれば似た様なものだ。
「んー、あんまり。です」
「ふむり、その様だな」
彼女の傍らにある魚籠は数尾の小魚が泳いでいるだけでほぼ空だ。
「今日は暑い。日陰を多くしているが、やはりこの時間帯は厳しいだろう」
「やっぱり、ですか」
「うむ、一部例外を除いてほぼ全ての生物に、暑さ寒さは最大の敵であり味方でもある。現に、暑さから隠れたお陰で君に釣られずに済んだ魚も居る事だ」
「そっか」
彼女は基本、釣果をあまり気にしない。ボウズだろうと平然としている。
だが、揺れる尾は確かに上機嫌を示している。
釣果は芳しくなくともも、ここまで上機嫌となると何か理由がある。
それが何か、鴨下は一瞬思案を巡らせるとすぐに答えに辿り着いた。
「その様子から、渡せた様であるね」
「はい」
「それは良かった。あれの包装に使われたドライフラワーは、トリニティでは祝い事にも使われる由緒ある花だ」
「有難う御座います」
「なに、我々の研究に協力してくれている感謝である。気にする事はない」
「でも、お礼は大事。先輩が言ってた。ました」
「ならば遠慮無く受け取ろう。はぁっーはっはっはっ!」
鴨下が高らかに笑う。その横で、やはり釣れぬとリールを巻き疑似餌を上げ、片付けを始める。
釣りの極意は片付け、釣糸や針、餌も残らず回収して魚籠の小魚も池に還す。
このビオトープではキャッチ&リリースが絶対なのだ。
そして、片付けを終えた彼女が立ち上がると、一瞬よろめいた。
「む、大丈夫かね?」
「んー、なんか最近頭がチクチクする。です」
「ふむ、熱中症かもしれんな。早く戻って休みたまえ」
「はい」
そう言って、寮へと戻る彼女を見送り、鴨下は端末で天気予報を確認する。
「やはり、気温は平年よりも高いか。それになんだ? この焦燥感、私の生物としての本能が危険だと言っているのか?」
鴨下は一度頷き、帽子の庇越しに天を見る。
日射しはそれほど強くなっていないというのにこの暑さ。やはり、何かある。
「調べるか。いや、その前に塵塚からカタコンベの変化パターンの割り出しの手伝いがあったか。建築からだけでなく、生物学からの視点もとは奴も苦戦している様だな。しかし、ここの整備も、いや……」
鴨下は腰のホルダーに仕舞った筈の鎌をいつの間にか手にしていた事に気付き、再びそれを仕舞うとビオトープの整備を切り上げた。
何か妙だ。あの頑丈な彼女が頭痛を覚え、そして、自分が記憶していない行動を取っている。
否、違う。自分は彼女に声を掛ける時、何故か仕舞った鎌を手に取った。
何かある。生物とは自身の意図しない行動を取る時、そこには必ず外部からの干渉がある。
「……カタコンベの変化割り出し、急ぐべきであるね」
鴨下はこれまでのトリニティでの出来事から、アリウスに何かがあると推測し、行動を開始した。
「…………」
少女は古巣とも言える資材管理部の部屋で一人、テーブルから奏でられる旋律に耳を傾けていた。
それは聞く者が聞けば、辿々しく聞こえるかもしれないが、今の少女には上質な旋律に他ならない。
「……失礼します。あら」
「これは、ナギサ様。お耳汚しを……」
「いえ、構いませんし、お耳汚しなんて」
突然のナギサの来訪に、少女はテーブルの上に置いていたオルゴールを閉じようとするが、ナギサはそれを止めた。
知っているからだ。
「それは彼女が?」
「ご存知なのですか?」
「ええ、貴女に贈るのだと。ミカさんと一緒にラッピングをしてましたから」
「そうでしたか。ミカ様にもお礼を言わなくてはなりませんね」
軽く微笑み、少女はテーブルにあるそれ、懐中時計型のオルゴールに目を向ける。
丁寧にラッピングされ、ドライフラワーまであしらわれた箱を渡された時は、一体何事かと思った。
だが、普段のお礼にと彼女の言葉に、そんな迷いは吹き飛んでいた。
「珍しく狼狽えていた。と、塵塚さんが言ってましたよ」
「あの人はまた軽々しく……。いえ、嬉しかったのは事実です」
「確かに、貴女が仕事場でこうしているのを見たのは初めてですから」
「お恥ずかしい限りです。しかし、ナギサ様。ここに何か御用でしょうか?」
「いえ、少々確認したい事がありまして、保護したアリウス生の皆さんの制服ですが……」
「その件につきましては、既に手配を済ませてあります」
「そうですか。では、追加の資材の確認を……」
「そちらの方も、予備を含めて手配済みです」
「そうですか……」
何やら、ナギサの様子がおかしい。
確かに資材管理等の最終確認も、首長であるナギサの役目の一つではあるが、それは各室長や部長が提出した報告書を確認する事で、ナギサが直々に確認に来る事ではない。
これは何かある。
少女が何か悩むナギサを観察していると、遠くの方から何か騒がしくなってきたのが耳に届く。
「む、来ましたね」
「ナギサ様?」
「いいですか。私がここに居る事は言わないでください」
それだけ言うと、ナギサはテーブルと資料棚の間に隠れてしまった。
最近ではめっきり見なくなったが、彼女の隙間潜りの様だと懐かしさを感じつつ、オルゴールを閉じて仕事を再開する。
「失礼! ナギサ様は何処に居られるか!? こちらの古書館からの報告書とアリウス緊急予算案にサインを!」
「……淑女たる者、何時如何なる時でも慎みと静粛を心掛けなさい」
部屋に飛び込んで来たのは、先日のアリウス襲撃でパテル分派隊を率いた隊長だった。
武力のパテル分派は各派閥首長の護衛も務める。少女は何が起きているのか。この隊長の様子から察した。
「し、失礼を!」
「そして、ナギサ様でしたら先程出ていかれました」
「何処に?!」
「確か……、調理部の方に」
「感謝する!」
先程よりはそっと扉を閉めて、足音が遠ざかるのを見計らい、隠れていたナギサが出てくる。
「た、助かりました」
「ナギサ様、一体何を?」
「では私は調理部とは反対に行きますので……!」
少女の疑問に答える間も無く、ナギサは部屋から抜け出した。
今、トリニティは保護したアリウス生の受け入れ等で、各部署はてんてこ舞いになっている。
エデン条約も残すは調印式のみのこのタイミングで、しれっとアリウス生を編入させて馴染ませようと画策しているのだ。
「あの子も休みの様ですし、早く終わらせましょうか」
テーブルにあるオルゴールに微笑み、少女はペンを手に取った。
オルゴール
『あなた』がフリーマーケットで買って、夜な夜な保全部の助けを借りて直していた懐中時計型オルゴール。
アンティークに詳しい塵塚曰く、機構と意匠から公会議以前の物で、その筋のマニアに売ればちょっとした中古車が買える額で売れるとか。
古書館からの報告書
ウイが古書館の奥から発見した古書。
かなり古い言葉で書かれているが、著者は公会議以前の時代に実在したとされる予言者である事が解る。
サクラコと解読を進めるが、ウイが発狂するレベルで劣化と破損が酷く、修復はほぼ不可能であるが、
〝混沌よりこの地に悪なる竜来たれり
悪なる竜、この地に混沌振り撒くも、善なる人に傅きこの地の守護者となれり
しかし、善なる人。天より降りし悪なる火に倒れ、悪竜再び顕現す〟
と、どうにか修復し解読出来る部分を抜き出した一文がこれであった。
しかし、この予言者は騙る者が多く、これも本人のものではない可能性が高い。
「以上が報告になります」
「分かりました。下がりなさい」
「はっ」
大量の古文書がうず高く積まれた部屋で、明らかに異形と言える女が吐き捨てる様に言うと、生徒は怯えた様子で部屋から出る。
それを見下し、女。ベアトリーチェは禍々しく口を三日月にする。
「端から数に入れてなかったとは言え、自ら罪を抱き込んでくれるとは、やはり生徒は愚かですね」
そう言って、側に立て掛けていた杖とも宝剣ともつかないオブジェクトを手に取る。
それはベアトリーチェら、ゲマトリアに通じていたとあるスラムで姿を消したという生徒から産み出されたものだった。
「腹立たしいのはこれを使わなくてはいけない事ですが、まあいいでしょう。これも崇高に至る為、私が有効活用してあげましょう」
禍々しい嗤いは確かにトリニティに向けられていた。
本編後モチベがあればトリニティバカンス 『あなた』初めての海&遭難レイダース
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