あなたがトリニティでやってはいけない事リスト 作:装甲アッサム春雨
「さて、動けるかね。……とは愚問か」
「無論。淑女たる者、この程度は止まる理由にはなりません」
入院着から制服へと着替える。
その姿はどう見ても瀕死の重症患者だが、少女の動きからはそれは感じられない。
いくら頑丈なキヴォトス人であっても痛覚はある。
痛みとは、生物が持つ必然の生存能力だ。なのに、少女はそれを淑女たる者としての矜持で当たり前に捩じ伏せる。
「いやはや、やはり君も興味深い。なぜこうも容易く精神が肉体を凌駕するのか。いや、もしくは肉体の弱さを精神で補っているのか?」
生物部の、生物学を学ぶ学徒の一人として、少女のこの異常性は鴨下の好奇心を擽って止まない。
瞬く間に考察の海に落ちる鴨下に、少女は溜め息を吐きながら問う。
「それで鴨下さん。何故、貴女がここに? 確か、突撃隊に志願していた筈では?」
「……ん?ああ、折角の舞台に役者が足りんのでは、観客も興醒めだろう。だから、私は案内役であり、ちょっとした興味から動く傍観者である。そして、彼女達は護衛だよ」
「あ……」
扉を開き、現れた四人に彼女は驚いた。
「……ようこそ、我がバシリカへ」
「貴女がベアトリーチェだね。単刀直入に言うよ。アツコを返して、アリウスから出て行ってもらえないかな」
先生は何時もと変わらない柔和な笑顔で、バシリカに入るなりベアトリーチェに告げた。
バシリカ内部は荒れ果てた外とは違い、厳重に管理され、丁重に整えられた聖堂そのもので、これだけでベアトリーチェの本質が見える。
だから、交渉は無意味だと先生は即座に判断した。
「おや? 貴女も大人ならもう少し余裕というものを持ってみては? 底が透けて見えますよ」
「いやー、私ってさ。所謂子供大人なところがあってさ。気に入らない相手には、とことん冷たくなれるんだよね。だから、アツコを、私の生徒を、私の生徒の家族を返せ。そして、今すぐその薄汚い面を提げて失せろ」
「おやまぁ、はしたない事で……」
ベアトリーチェは余裕を崩さない。
これはベアトリーチェ自身の性格故もあるが、それ以外にも生徒という支配するべき対象に迎合する先生を見下している事と、自身が手にした力によるものが大きい。
矮小な、なんの力も神秘も持たない。銃弾一発で危機に陥る弱い存在。
ベアトリーチェにとって、先生はその程度の存在でしかなく、そして先生の隣に立つサオリ達も同様だ。
「サオリ、貴女には落胆しました」
「だろうな。余裕を見せても、結局は見下していた生徒を超えるものを見せられなかったお前は、私達にそう言うしかないだろうな」
「ふん、負け惜しみを」
「負け惜しみ? アラサカの狂気にすがり、アツコの力に頼るしかないお前に、私達が今更怯えると?」
「貴様……!」
「余裕が崩れたな。それがお前の底だ」
そう言い放つと同時に、サオリはベアトリーチェに向けて発砲した。
その躊躇いの無い一発に合わせ、ヒヨリの対物ライフルがベアトリーチェの背後、アツコを捕える棘に向けて放たれた。
「……だと思いましたよ。サオリ」
「なっ?!」
「なんですかぁ今のぉ!?」
サオリの銃弾はベアトリーチェの額に当たった。だが、ベアトリーチェの額は鱗の様なもので覆われ、当たった筈の弾丸はひしゃげて軽い音を立てて落ちた。
ヒヨリも同様だ。アツコを捕える棘に当たる寸前に、何か見えない壁に阻まれ弾かれてしまった。
「うわ……、なにそれ?」
「分かりませんか。しかし、それも仕方ない事。先生、貴女程度には理解出来ない高み。このバシリカとロイヤルブラッドの神秘。アラサカが遺した〝悪神〟の欠片。……そして、〝悪竜〟から吸い上げた神秘。それらを用い、私は崇高に至る……!!」
瞬間、ベアトリーチェに異変が起きる。
全身に鱗が覆い首と胴が伸び始め、顔はステンドグラスの華の様に裂け広がり、その花弁が鬣の如く広がり蛇の様に鎌首をもたげる。
それだけではない。体も下半身が蛇の様にうねり、両肩からは同じく蛇の頭が姿を見せ、背からは棘が無数に生え繁る。
端的に言って化物、赤い肌のラミアといった風体に変わったベアトリーチェは宝杖を掲げ、その縦に割れた六眼で先生達を睨む。
「素晴らしい。〝悪神〟と〝悪竜〟、僅かばかりで期待していませんでしたが、欠片程度でこれとは……。やはり〝悪竜〟を捕え、その神秘を頂きましょう」
「先生……」
「反則、みたいだね。じゃ、撤退!!」
恍惚と力に打ち震えるベアトリーチェを尻目に、先生はサオリに担がれバシリカから撤退を開始する。
「は、ははははは! 大見得を切ってもその程度! やはり、貴女如きでは……!!」
「ごめんねー、ベアトリーチェ。ホントはさ、交渉で終わるならそうしたかったんだ。だけど、やっぱりダメみたい」
棘を伸ばし、先生達を捕え様とするがサオリ達がそれを許さない。
的確な連携で棘を撃ち、避けて、バシリカの外へと脱出する。
ベアトリーチェはそれを追い、バシリカの扉を巨体で破り、眼下に先生を捉える。
「さあ、先生。覚悟を……。ん?」
先生は捉え、ほんの少し尾を振れば無惨なひき肉に変える事が出来る。
そう、出来るのだが、視界に違和感があった。
――なんです? あの奇妙なドラム缶は
横にしたドラム缶の両端に車輪を取り付け、その車輪には爆竹が付けられた異物。
それがバシリカの入口を取り囲む様にして、隙間なく三列程並んでいた。
そして、その最後列の奥にはハンチング帽を目深に被った作業着の生徒と、やけに手入れされた金髪の有翼の生徒が発破機、ダイナマイトプランジャーに手を置いていた。
「よし、発破」
にこやかな良い笑顔だった。
先生達が逃げたのを見計らい、塵塚と御手洗がダイナマイトプランジャーのレバーを押し込むと、ドラム缶の爆竹に火が入った。
そして車輪付きドラム缶、先生が居た世界ではパンジャンドラムと呼ばれ、〝英国面〟〝紅茶の申し子〟〝天才が産み出した狂気〟と謳われる兵器が、次々とベアトリーチェに襲い掛かった。
「なんですかこれ……!!?」
「アタシ達トリニティ器物保全部がお前の為に用意した自走式爆弾だ! ジャイロとバランサー載せた特別品、よく味わえ!!」
言いながら中指を立て、保全部二人は全速力で逃げ出した。
この時の為だけに態々ジャイロとバランサーを載せ、走行試験までした特別品。
そう、特別品なのだ。
アリウス自治区とカタコンベで走らせた量産品とは違う。
真っ直ぐ走るし、跳ねも飛びもしなければ、いきなり止まったり逆走もしない。
確実に吹き飛ばす。保全部のその意思を忠実に実行する為、このパンジャンドラムには爆薬を通常の四倍を詰め込んである。
それを三十機、つまり今から起きるのは並みの爆発ではない。
「うひょー!!」
「ねえ、アヤコ! これ大丈夫?! ホントに大丈夫なの!?」
「任せろ先生、アリウスに地下は暗渠がちょっとだ! 生き埋めにはならねえよ!」
「いや、違くてバシリカの方!」
「「あ……」」
「ひ、姫ー!!」
先生達と合流した塵塚達が、その身を巻き上げそうな爆風の中で振り返ると、バシリカは半分程が倒壊し、ベアトリーチェも全身が焼け焦げていた。
「おい、姫は! アツコは無事なのか!?」
「待て待て待て! 見た感じ倒壊したのは前半分だし、爆発も尾っぽのパクリババアがほぼ受けてる。直撃してないから大丈夫だ。……多分」
「おい!」
「大丈夫、大丈夫だって! アタシを信じろ。それより早く離れるぞ。そろそろ、さっきの話を無線で聞いてたナギサさんがキレる!」
サオリに両肩を掴まれて揺すられる塵塚が言うなり、遠くで重い音と振動の連続が始まった。
「今度は一体何が……」
ベアトリーチェの眼の一つが見上げたものは、雨霰と降り注いでくる砲弾だった。
「はい、どんどん撃ってください」
砲撃ポイントでは、ナギサの指示によりフィリウス分派砲兵隊による全力砲撃が行われていた。
だが、観測地点で双眼鏡を覗くマコトはひきつった笑みを浮かべている。
「凄いわね。噂には聞いてたけどトリニティ砲兵隊がここまでやるなんて」
「……キキキ、ヒナ。お前の目は節穴か?」
「どういう事?」
ヒナに驚愕の目を向けるマコトだが、その目は明らかにヒナではなくナギサに向いている。
「桐藤ナギサは観測射撃無しで、今の砲撃を当てている」
「そう。でも、それくらいならこっちも……」
「砲弾の爆発すら、バシリカとやらに当てずにか?」
「は?」
「はい、次弾装填からのドーン」
ヒナが見るナギサは特に指示らしい指示を出していない。
ただ、椅子に座って紅茶を嗜みながらハンドサインを射手に送っているだけで、マコトは一度も観測情報をナギサに送っていない。送る前、あの爆発を見た瞬間に砲撃準備を済ませて砲撃を開始した。
それなのに、フィリウス砲兵隊はナギサの指示通りにベアトリーチェにのみ砲撃を当て、バシリカには爆発の余波の風しか当たっていない。
なんだこれ。
もしかして、トリニティに喧嘩売ったらこれが飛んできたのか。
「おーい、ヒナちゃーん。そろそろ私達の番だよ」
つい先程、この砲撃地点を行き掛けに轢いた筈の
「ミカ」
「いやー、久し振りのナギちゃんのマジギレ砲撃だけど、まだマシかな?」
「おい、どういう事だ?」
「え? ナギちゃんが本気でマジになったら、自分で引き金弾くし、あのベアトリーチェの頭に直当てするよ?」
「あの、ウネウネ動く頭にか?!」
「え? うん。だって、ナギちゃん。フィリウスの首長にならなかったら、間違いなく砲兵隊の隊長だし」
本気で喧嘩売らなくてよかった。
これに喧嘩売ったら、この砲撃の間を
「さて、行こっか」
「砲撃は大丈夫なの?」
「あー、爆風は当たるかもだけど、砲弾は絶対当たらないから大丈夫大丈夫」
「そう。なら、大丈夫ね。行きましょう」
「よし、ツルギちゃん待ってるし行こう」
なんか凄い、ピクニックにでも行くかの様な気軽さで二人は砲弾の雨が降り注ぐ現場へと向かって行った。
砲弾は絶対当たらないとか言ってたが、マコトには言っている意味がちょっと解らない。
解るのは、これから現場にはトリニティとゲヘナに生息する三大怪獣が降臨するという事だ。
「あ、ミカさん達が行きましたね。じゃあ、弾種を変えましょうか。ふふふふふふ。うちの子に手を出したのですから、ちょっとどころじゃなく後悔してもらいましょう。ね、マコトちゃん!」
「あ、ああ、そうだな」
おい、なんでまた幼児退行が始まってる。
さあ? 議長がなんかスイッチ押してんじゃないすか。
アイコンタクトで問い掛けるが、こっちを舐めた答えしか返ってこない。
こいつら、本当に私の部下か。
「ねえ、マコトちゃん。私達も行こうよ」
「ん? ふむ、確かにベアトリーチェとやらの吠え面を直に拝むのも悪くない」
「じゃあ、行こう。では、皆さん。移動準備を」
「はっ!」
やっぱり、私に対して幼児退行してないかこれ。
議長、何したんすか一体。
もう一度、アイコンタクトで確認するが、やはり本当に自分の部下か怪しくなってきた。
――私、本当に何かしたか? ……助けてくれイブキ
サツキ達と留守番をしているイブキに内心で助けを求めるが、そんなものは届く筈も無く。
マコトは三大怪獣が暴れ始めた現場へと向かった。
『あなた』
久々に会ったハルカとキャッキャッしながら、貰った鉢植えに花が咲いたと報告
先輩
痛みはあるが、それで立ち止まるのは淑女ではないので強制起動
鴨下
保護したアリウス生からベアトリーチェの事を聞いて行動開始
ナギちゃん
キャッキャッ!
マコト
なあ、ホントに大丈夫なのか?
フィリウス隊
さあ? まあ議長に任せますね
サオリ
姫ー!?
保全部
……こぉれ、やっちまったか?
アツコ
色々大変だったけど、やっとここまで来れた。
あとはサッちゃん達が援軍を……
え?????????
もう一回 二人の名前情報
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要る
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要らない
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要る様な気がする
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要らない気がする