あなたがトリニティでやってはいけない事リスト 作:装甲アッサム春雨
次回から通常営業に戻ります。
「知らん。とっとと消え失せろ」
「つれないなぁ。お前と私の仲じゃないか」
聞く者に不快と恐怖、理解し難い感情を与える声音。
ベアトリーチェの意識を押し退け、姿を現したアラサカは下卑た笑みを彼女に向けるが、当の彼女は最初に威嚇はしたものの、興味を失ったかの様に軽くあしらう。
その事にアラサカは僅かに疑問を抱きつつも、他に興味は無いと彼女だけに視線を向けていた。
「そうは言うが、お前と私が揃ったのだ。この機会に、もう一度やり直さないか?」
「ほざけ。お前の様なゴミと誰が手を組むか」
本当に、心底不愉快だと、彼女はアラサカの誘いを吐き捨てる。
少女はそれに違和感を覚えた。
彼女の今の口調は彼女生来の、スラムで生きていた頃のもので、彼女は生まれつき他人にあまり興味を示さず、敵かそれ以外かで判断していた。
少女が一番最初に改善させたのがこれだ。
スラムとは違う世界で生きるのに、これらは障害となる。
だからこそ改善させたのだが彼女の話と資料から、アラサカは彼女にとって不倶戴天の敵という事も知っているし、気を失っている間の記憶からアラサカの性分も理解している。
故に、少女は違和感を覚えた。
「まあ、そう言うな。お前と私なら、このキヴォトスを好きに出来る。お前の生きたい様に生きられる世界に出来るんだ」
「オレはもう好きに生きてる」
「そうか? お前は随分と窮屈そうだ。思い出せよ。頂点捕食者、絶対強者を」
やはり、何かがおかしい。
少女の次に気付いたのは、ツルギだった。
アラサカの事は資料で目を通した程度だが、間違い無く彼女が敵と認定している存在の筈だ。
そして、彼女は敵と認識した相手は即座に潰しにかかる。
曾ての自分に対してそうだった様に、敵に容赦する性格ではない。
なのに、彼女は目の前の不倶戴天の敵に襲い掛かるどころか、何処か興味無さげにしている。
「オレはもう私だ。〝悪竜〟はもう居ないし、〝悪神〟も居ない」
「寝惚けた事を。私はここに居て、お前も居る。なにが違う?」
「……はぁ、皆様。帰りましょう」
「いいのですか?」
「はい、あれはもう終わってます」
完全に興味を失った顔で、彼女はアラサカに背を向けた。
一体どういう意味なのか。
「終わっている? 私がか?」
「終わってるよ。お前はアラサカだけどアラサカじゃない。多分、あいつのよく判らん技術で作った分身か何かだ」
「なぜ、そう言える? 私は欠片だが、確かにアラサカだ。本体亡き今、私がアラサカだ」
「だからだよ。お前はあいつを解ってない。お前とその小物みたいな奴は、あいつが大好きな玩具だ」
『御名答。流石は君だ』
ずるり、と、暗い、何処か深く暗い光が一切差し込まぬ場所から、得体の知れない怪物とすら呼べない存在が顔を見せた。
ノイズ混じりのその声を聞いた彼女以外の全員がそう感じ、全身から冷たい汗を吹き出し、流石の少女も目を見開いた。
『ああ、安心してくれ。この録音が流れたという事は私は君に負けたか半ばで倒れ、ベアトリーチェ辺りがこの杖を使った。という事だろう』
彼女に滅多打ちにされ手離し、地面に突き立った宝珠が欠けた杖から流れる言葉は理解出来る。だが、耳に入れたくない。聞きたくない、耳を塞ぎたい。
そんな衝動に駆られるが、それすら許さぬと声だけでこの場を支配する。
「お前……」
『君の事だ。どうせ、縄張りを荒らされたかでその廃棄品と小物を潰した頃だろう。ああ、これは録音だから質問には答えられないよ。久々に君と言葉を交わしたかったが残念だ』
何処か演技の様だが、最後の一言には本音の様な色があった。
「廃棄品、だと? この私が廃棄品?」
『そうだよ。彼女を相手するのに、お前は邪魔だった。だから切り離した。ああ、録音ではないのかと野暮な事はいいよ。忌々しいが、お前も私だ。お前が言いそうな事くらい判る』
「…………」
『そのついでにベアトリーチェ辺りが使うだろうと、この杖に放り込んでアリウスに置いた。するとどうだ? ものの見事に嵌まってくれた。この舞台を観劇出来なかったのが残念で仕方ないよ』
彼女と少女、欠片すら無言。
親しみすら感じる口調で、過去からの悪意は滔々と語り続ける。
『さて、そろそろ終幕の時間だ。負けた悪役にはご退場願おう』
「何をふざけた事を! 退場するのは貴様だ敗北者!」
叫ぶ欠片だが、杖からはただ嗤い声が返るだけで、彼女に至っては既に背を向けて連合に帰還を促し始めていた。
ツルギを始めとしたアラサカについての情報を持っている面々も、彼女の様子と言葉に何か気付いたのか。
その促しに反対する者は居ない。
欠片にはそれが我慢ならず、彼女の次に背を向け、自身を一度打ち負かした少女へと狙いを定める。
満身創痍の半死半生の少女、この巨体をぶつければ簡単に散らせる。
そう思い、身を動かそうとした時、杖から更なる嘲笑が響いた。
そして、気付いた。
『あはははははははは! そうだろうそうだろう。動かない。動けないな。当然だろう? お前は欠片だ。欠片でしかない。そのお前が、ロイヤルブラッドが抜けた今、彼女の神秘を動かせる訳がないだろう』
「な、ぜ……」
『お前は私なのに判らないんだな。まあ、だから切り捨てたんだが。私はね、私を利用する者、私を見下す者が嫌いだ。その格を持つ者なら例外だがね。だから、一つの嘘を吹き込んだ。私と彼女、ロイヤルブラッドの神秘を用いれば崇高に至れる、とね』
「ふざ、けるな! 貴様、私を、子供風情が……!!」
『小物の器で三つの神秘を抱えられる訳が無いだろうに。本当に愚かで愛おしいよ。そして、お前は私を敗北者と罵るだろうが、実にくだらない。常なる勝者など、この世には居ない。居るとすれば、それは常に正しくある者だけだ』
欠片の異形が崩れ始め、押し退けられていたベアトリーチェの意識も表出するが、その躯は動かない。
『そして、私とお前は敗北者だ。敗者は大人しく舞台に背を向け去る。これが悪の、敗北者の美学。復活? 復讐? 信奉? くだらん。悪は栄え、倒された時点で消えるべきなのだ』
「嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 私はアラサカ、〝悪神〟アラサカだ! 私は崇高に至り、この世界を……!!」
砂の如く崩れ、塵の様に散っていく。
その様相に少女と彼女以外が目を逸らし、欠片の異形が苦し紛れか抵抗か、罅が入り始めた杖を掴んだ。
『……溺れる者は藁をも掴むというが、だがそれが本当に藁なのか。まあ、お前には解るまい』
「あ…………」
杖を掴んだ手から崩壊が加速する。
欠片とベアトリーチェは、それ以上は何も口には出せず、ただ塵となり消え失せた。
「終わった……?」
「何だったの今の?」
何処からか吹いてくる風に巻かれて散っていく塵を眺めながら、誰もが現状を把握出来なかった。
「先輩」
「……判りました。では、各員撤収準備。アリウス生を同行して、各委員会はアリウス自治区再興に向けた準備を」
少女の静かな号令に、呆然としていた全員が動き出す。
「終わった、のか? 本当に?」
「みたいだね」
アツコを抱え、サオリは慌ただしい世界の中でただ呆然としていた。
あまりにも呆気なく、こちらを置いてけぼりにした幕切れ。
終わった実感も何も無い。
「サッちゃん」
「アツコ」
「まずは休もう。多分、これからすごい忙しくなるよ」
「そう、なのか?」
「うん。私吹っ飛ばしかけた爆発みたいに」
首だけを動かし、背を向け口笛を吹く保全部に凄まじい視線を送るアツコと、プロテインバーを齧りながら嘆息する蒲郡。
先生と共にミメシスを足止めしていたパテル隊も周辺の警戒を解除して戻って来ているが、陸八魔アルは何故全身黒焦げでアフロになっているのか。
「錠前さん」
「ん? ああ、こちらはもう大丈夫だ」
「そうでしたか」
塵が風に消えていくのを見送った少女が、サオリ達の前に立っていた。
「この度は私共が到らぬせいで、多大なるご迷惑を」
「いや、構わない。この光景を見ていると何というか、目が覚めた様な気がするからな」
「左様ですか。では、また後程……」
と、そこまで言った辺りで少女の動きが止まった。
「補佐殿?!」
「とうとうバッテリー切れやがったか」
「救護……!!」
後ろ向きに倒れていく少女に間一髪で担架を担いで駆けてきたミネ達が間に合い、担架に乗せられ運ばれていく。
見れば、他のアリウス生も皆、トリニティとゲヘナの方に足を向けている。
そう、終わったのだ。
永い、ひたすらに長かった。
それも今日で終わった。
「サッちゃん」
「なんだ?」
「ただいま」
「ああ、おかえり。アツコ」
アツコに、ミサキとヒヨリに微笑み、サオリは皆の所へと向かった。
「…………」
皆の所へと向かったサオリ達を見送り、彼女は首を鳴らして宝杖を見ていた。
「お前、本当に何がしたかったんだ?」
返事は無い。ある訳が無い。
奴はあの日、自分が右手を噛み砕き、そのまま嗤って炎の中に消えていった。
跡には何も遺さず、ただアラサカの名前だけを置いて消えた。
気にはなったが、ただそれだけだ。
彼女は罅だらけで、今にも砕けそうな杖に尾を向ける。
『ああ、そうだ。邪魔者も消えた事だし、最期に一つだけ』
そんな時だった。
先程までのノイズ混じりの声とは違う。やけに明瞭な声が杖から出た。
『そう、一つだけ。………君は今、幸福かね? タツキ』
「………」
彼女はそれに言葉を返さなかった。
ただ尾を振り抜き、宝杖を粉砕する。
そして、小さく息を吐くと、彼女は砕けた杖を一瞥もせず、因縁と別れを告げた。
『あなた』
たとえ録音でも、お前に答える義理は無い。
実は出会った当初は、そこまで不仲ではなかった。
先輩
HP1のまま淑女バッテリーが切れたが、帰り道で再起動して、『あなた』にお説教を開始した。
アル
ムツキが投げた爆弾によりアフロになった。
ハルカ
張り切りモード全開でバルバラを轢いた。
サオリ
ここから大変なんだろうな。とか考えているが、大変という言葉で済むと思うなよ。
アツコ
如何にトリニティから復興予算を引き出すか考え中
アラサカ
本名不明、悪逆の限りを尽くした。
だが、その本当の目的は不明。
炎の中に消えていく直前、去っていく『あなた』の背を寂しそうに見送っていた。
もう一回 二人の名前情報
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要る
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要らない
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要る様な気がする
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要らない気がする