あなたがトリニティでやってはいけない事リスト   作:装甲アッサム春雨

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今回は『あなた』の外見の一部が出ます。


四冊目

ここはトリニティ総合学園一年生のあなたのトリニティ並びにキヴォトスでの禁則事項です。

よく確認しておいてください。

 

 

 

20.……わっぴー、とはなんですか?

 

・あなた、わっぴーとはなんですか?

いや、首を傾げられても困ります。あなたがわっぴーと、いきなり言ってきたのでしょう?

 

・いや、本当に何なのか解ってなかったのですか。

……サクラコ様が仰っていた?

いやいや、そんな事が……。サクラコ様ですよ?

あのサクラコ様がその様な事を仰る訳が……。

トリニティの暗黒卿、トリニティの闇を知る者、エンジェルダスト、救済執行者と呼ばれるサクラコ様ですよ?

 

・いえ、これも偏見かもしれません。

サクラコ様とは私もそこまで深く交流がある訳ではありません。この噂に過ぎない異名も何らかの要因が重なった偏見かもしれません。

なので、サクラコ様はもしかしたら案外気さくな方なのかもしれません。

 

 

 

21.誰が何と言おうとあなたはトリニティ総合学園生徒で、ティーパーティーの一員です。

 

・……くだらない噂に耳を貸す必要はありません。

あなたはトリニティ総合学園の生徒でティーパーティーの一員。

そして、私はあなたの教育係です。

 

・……くだらない。本当にくだらない話です。

あなたの容姿がトリニティに相応しくない?

そんな事を気にしていたのですか……。

もし仮にそうだとしたら、あなたはここに居ませんしティーパーティーテラスに呼ばれる事もありません。

 

・まったく、何時もは気にもしなさそうだというのに、何故今回に限って……。

……ほら、こっちに来なさいな。

やり返さなかった事、くだらない話に乗らなかった事、よく出来ました。以前のあなたなら、この〝尾〟で強かに相手を打ち据えていたでしょう。

しかし、あなたはそれをせず耐える事を選び、それを覚えました。あなたの日々の成長、それを一番よく知っているのは私です。

 

・胸を張りなさいな。あなたはトリニティ総合学園のティーパーティーの一員なのです。

今日は私が〝尾〟の手入れをしてあげますから、そこのお茶とクッキーを楽しみなさい。

 

 

 

22.シスターフッドは健全な組織です。

 

・シスターフッドは健全なトリニティの組織です。

巷で噂される様な闇の組織ではありません。

 

・シスターマリーとシスターヒナタの両名を見れば判る通り、トリニティの闇の組織ではありません。

……サクラコ様は笑顔が少々、その、えーと、少し胡散臭い方ではありますが、非常に敬虔で善良な方です。

噂にある様に、夜な夜な光る剣を持って不届き者を斬り捨てる異常者ではありません。

 

・まあ、あなたの言いたい事も解らないではないですが……。前からも申している通り、偏見とは真実を曇らせます。

見たいものしか見えなくしてしまうもので、物事は慎重に見定めなくてはなりません。

 

 

 

23.古書館で騒いではいけません。

 

・トリニティの古書館は今は流通していない貴重な書籍が保管されている場所です。

言ってしまえば、トリニティの歴史が納められている場所です。

 

・ええ、あなたが騒いだ訳ではないというのは、ウイさんから聞いています。ですが、今回は少しやり過ぎましたね。

 

・あなたがルールを守ろうと、狼藉者達に言葉で諭そうとした事、最後まで手を出さなかった事、よく出来ました。

 

・以前の、私が教育係となったばかりのあなたなら、周りの被害も顧みず己の力に任せて暴れていた筈。

しかし、あなたはそうはしなかった。

あなたの成長、私はとても誇らしく思います。

 

 

 

24.買い食いは淑女のする事ではありません。

 

・買い食いをするな。という話ではなく、何かを食べる時はテーブルやベンチ等、座って落ち着いて食べましょう。

ええ、買い食いくらいは私もします。ですが、食べながら歩くのは淑女としてはしたない事です。

 

・そうですね。あなたの気持ちも解ります。串焼きは座って食べるより、市を散策しながら食べる方が美味しいものです。

 

・何故、私がそんな事を知っているか、ですか?

私も常に気を張っている訳ではありませんよ?

それに、ティーパーティーの制服を脱げばただの一生徒、私服の学生が食べ歩いていたとして誰が気に留めましょうか。

 

・ズルい? 

ふふ、そうですね。私もこういう事をする事があるのです。毎日、あなたに淑女とは何たるかをお説教しているばかりではありませんよ。

しかし、私の秘密を知ったあなたには、何か口止めをしなくてはなりませんね。

 

・そうですね。今度のお休みは私に付き合いなさい。

そういった買い食いをしても、周りにバレ難い場所を知っていますから。

 

 

 

24.泳ぐ時は規定の場所で泳ぎましょう。

 

・あなたが水が好きで、泳ぎが得意だという事は知っています。

しかし、学園には常時開放されているプールがあるのですから、泳ぐならそこで泳ぎましょう。

 

・なんです? プールは流れも無くて、深くないから面白くない。ですか?

んんっ……、流れはともかく一応、学園のプールは足が着かない程度には深いのですが……。

 

・……あなた、何故私の隣に立つのですか?

私が翼は大きい癖に小さいと?

ほう? 言うではありませんか。

 

 

 

25.他人の身体的特徴を論うのは宜しくない事です。

 

・……その様に怯えなくても大丈夫ですよ。

私が周囲に比べても小柄である事は事実ですから。

しかし、他人の身体的特徴を論うのは淑女として人として宜しくない事です。

今回の様にジョークの範囲で収まる程度であれば問題にはなりませんが、そうではない時もあります。

言わぬに越したことはありません。

 

・しかし、あなたは本当に泳ぐが上手ですね。

あの流れが早い河で、よく流されないものです。

ふむ、学園に入る前はああやって魚を獲って生計を立てていたのですか。

昔取った杵柄、というものですね。

 

・私達有翼の生徒は泳ぎが苦手ですから、水の中をあのように自由に泳ぎ回れるあなたが少し羨ましくもあります。

 

・泳ぎを教える、ですか?

申し出は有難いですが、私達有翼の生徒は翼が水を弾いてしまってどうしても潜れないのです。

あなたも知っているでしょう。

あなたの泳ぎを初めて見た時、あなたが溺れていると勘違いして飛び込んで、そのまま流されたのですから。

 

・ええ、私は特に体に対して翼が大きいので浮いたりは出来ますが、泳ぐとなると平泳ぎが限界ですね。

では、私は用事がありますので、機会があればお願いしますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと貴女」

「なんでしょうか?」

 

呼び止める声に小柄な姿が立ち止まり、振り返る。

声は穏やかだが、その目は猛禽の如く鋭く呼び止めた相手を捉えている。

 

「言わなくても解るでしょう? あの尻尾付きの事です」

「……あの子が何か?」

 

問い掛けに猛禽の如き双眸が剃刀の刃の様に鋭く細められ、相手を縫い付ける。

小柄な自分より更に小柄だというのに、その眼光からくる圧は本当に同学年かと疑いたくなる。

だが、少女はその圧に負けじと言葉を続ける。

 

「あの尻尾付きの面倒を何時まで見るつもりなのです」

「私はあの子の教育係です。あの子が一人立ちをする日まで、任を解かれぬ限りはそうします」

「それがティーパーティー、引いてはトリニティ総合学園の品位に関わるとしてもですか」

「申し訳ありません。仰られている意味が私には理解しかねます。何故、私があの子の教育係を務める事と学園の品位が関係あるのでしょうか?」

「貴女も知っているでしょう。あの尻尾付きは先代ティーパーティーホストからの推薦で入学しましたが、その出は決して褒められたものではありません。あの者はスラムの出なのですよ?」

 

その言葉に小さな姿からの圧は更に強まる。

桐藤ナギサ、聖園ミカ、百合園セイアの三名が今のティーパーティーホストに就いてから、学区内の環境は劇的に改善した。

腐敗と汚職の温床となった部署を切り捨て、正当に自身の役割を全うしていた者達を保護し、各派閥の関係の改善を勧め、それでも抵抗する者達には正義実現委員会という暴力を以て答えた。

権力、政治争いは有れどそれは暗く陰湿な以前のものよりは正常なものとなりつつある。

そして、それら改革の中にはトリニティ学区内のスラム減少政策もあった。

キヴォトスの中でも特に裕福なトリニティ自治区だが、それでも貧富の差は存在し、裕福だから故にスケバンやヘルメット団等の不良達も、命を繋ぐ為に仕事を求めて流れ込んでくる。

 

「あの子の出自に何か問題が?」

「あるのでしょう。ドロップアウトこそしていませんが、あの尻尾付きはそこらの不良と変わりません。ティーパーティー、いえ、トリニティ総合学園の門を潜るに相応しいとは到底思えません」

「……ご心配には及びません。彼女は淑女です。いまだ及ばぬ点は多々あれど気品と知性、自身の芯を確立しています」

 

彼女はそんな不良達が作ったスラム、そこに程近いトリニティ自治区傘下の小さな自治区の出だった。

暴力による支配と恐怖、その中で生きていた。

それを先代ティーパーティーホストが視察の際に見付け、ある目的の為に推薦したのだ。

 

「……では、はっきりと申してあげます。あの尻尾付きは、ナギサ様達の盾として拾われたに過ぎません。それを我らの一員として教育する意味など……っ!」

 

少女が気付いた時には、小柄な姿に見合わぬ巨翼を浅く広げた鋭い視線が眼前にまで迫っていた。

自身を囲う様に広げられ、こちらを貫かんとばかりに鋭く研ぎ澄まされた眼光で真っ直ぐにこちらを見詰め、しかし淑女としての姿勢を一切崩す事無く、威圧に固まるこちらに言葉を向けてくる。

 

「……お言葉ではありますが、彼女は盾ではなく淑女です。そして、私も彼女を盾などと考え教育を担当した事は微塵もありません。もう一度、言います。出自など関係ありません。彼女は淑女で、私がナギサ様より教育を賜ったティーパーティーの一員です」

「……っ! 何かが起きてからでは……!」

「その時には、私の首でお答え致します。それでは、私は用事がありますので失礼致します」

 

怖じ気ついた相手に恭しくカーテシーを贈り、少女は淑女としての姿勢を崩さず背を向け歩き出す。

そして、暫く長い廊下を進むと立ち止まり溜め息を吐く。

 

「……聞いていましたね?」

「うん。じゃなくて、はい……」

 

廊下に並ぶ調度品、そこの隙間からひょっこりと彼女が顔を出す。

その表情は暗い。

 

「なんですかその顔は。何度も言っているでしょう? 淑女たる者、常に凛とありなさい」

「でも、オレ……じゃない。私のせいで先輩に迷惑が……」

「だから何だと言うのですか。何度も言っていますが、私はあなたの教育係です。不出来な者を正すのが私の役目なのです。何も気にする必要はありません」

「でも……」

「何度でも言いますよ。私はあなたの教育係で、あなたは私が面倒を見るティーパーティーの一員です。そこに何も問題はありません」

「はい……」

「宜しい。では、背筋を伸ばしなさい。そして、手は体の前に揃え大股で歩かない。覚えていますね」

「はい」

 

まったく手の掛かる。とは言わない。

今まで生きてきた世界とはまったく違う世界に来た娘。であるなら、この世界での生き方を教えるのが自身の役目だ。

 

「それで、あなた。自分の仕事は済んでいまして?」

「え? あ、はい。もう提出してる。ます」

「宜しい。では、私の仕事を手伝ってくださいますか?」

「わ、分かりました」

 

視界の端で揺れる蛇とも御伽話の竜とも言える太く強靭な尾。それを出来る限り揺らさず、周りの邪魔にならない様に歩く姿は以前とは見違えている。

 

「以前はそこら辺りにぶつけてばかりでしたが、よく自省出来る様になりましたね」

「はい」

「しかし、引き摺るのは淑女としてまだ未熟です。次からは引き摺らぬ様にしなさい」

「えっ? それはちょっと難しい……」

「いいえ、あなたなら出来ます。ここまで立派な淑女になったのですから」

 

言って歩いていると、ふと気になる事が出来た。

 

「そう言えばあなた、どうやってあそこに? あの部屋からでは、私達の前を通る以外に道は無い筈ですが」

「えと、塵塚さん達が使う秘密の通路があって、そこを使っ……いまして」

「……器物保全部には、少々お話をしなくてはならない様ですね」

 

眉間の辺りを押さえると、二人だけの廊下に溜め息が落ちた。

そして、ふと思い当たる節から隣のきょとんとした顔を見上げる。

 

「……そうなると、時折あなたがお稽古の場から姿を消すのは、まさか……」

「あ、ヤッベ……!!」

「お待ちなさい!!」

 

突然の気付きに飛び退き、開いていた窓から這う様に飛び出す。

そして、それを追い掛ける様に小さな姿が大きな翼を揺らし追い掛けた。




『あなた』
元々、ティーパーティーに入る予定は無かったが、ナギサ達が先代からの学内政治を改革した時に、どうせならとティーパーティー入りさせられた。
尾鰭の様な薄い甲殻がある尻尾が生えていて、泳いだり木を登る時にはこれを器用に使う。力も戦車の砲身を軽く曲げる程度には強い。


『先輩』
くだらない派閥争いにうんざりしながら、『あなた』の教育係は良い息抜きになっている。
実はかなり小柄で、ひょっとするとコハルより小さいが、翼はハスミクラス。
広げるとかなりの威嚇になる。
最近はエデン条約関係で忙しく、『あなた』を連れて学内を走り回っている。
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