あなたがトリニティでやってはいけない事リスト   作:装甲アッサム春雨

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五冊目

ここはトリニティ総合学園一年生のあなたのトリニティ並びにキヴォトスでの禁則事項です。

よく確認しておいてください。

 

 

 

26.お稽古のサボタージュは淑女として例外を除いて避けるべきです。

 

・いいですか。日々のお稽古は全て、あなたを立派な淑女にする為に必要な事なのです。

それをあなたは……!!

 

・いや、それはいいんだが、なんでアタシらまで呼び出されてんだ?

サボりはそいつだろ?

 

・そーだそーだー、ティーパーティーの横暴はんたーい。

 

・お黙りなさい! 元はと言えば、貴女方が秘密の通路をこの子に教えたからでしょう?!

いえ、それよりも秘密の通路とはなんですか?!

 

・あ? お前、新しいの見付けたのか。何処だ?

 

・あー、ここはチェック漏れだー。ナイス発見!

 

・話を聞きなさい!! というより、お二人もその通路を把握してないのですか?

 

・いやー、歴代の先輩達が整備の為に学園中に張り巡らせた通路なんだけど、アタシらの何代か前に地図が半分焼失しちまってな。

アタシらが今編集し直してる最中なんだわ。

 

・一応把握はしとかないとねー。後々面倒な事になるからね。

その子の隙間潜りには助かってるよ。

 

・……一応ですけど、その資料をティーパーティーに共有出来ますか?

 

・全部は無理だぞ。アタシら保全部にも秘匿権限はある。

 

・それは勿論です。もしもの備えはあっても困るものではないですから。

ほら、あなた、も……。

 

・……すげぇな。物音一つ立てずに逃げやがった。つか、どっから逃げた?

 

・隊長ー、これこれ。ソファの裏に抜け道あった。

すごいね。これも未発見のやつだよ。

 

・おー、やるなあいつ。このペースならアタシらが卒業するまでに全部見つかるかもな。

なあ、……おい、どうし、た……?

 

・あ、あ、ああ……、あの子は、一体何をしてますの!!!?

 

・待て待て待て! 落ち着け! アタシらも何処に繋がってるか判らん通路だぞ!? つか、お前の翼じゃ入れねえって!

 

・離してくださいまし! 今日という今日はあの子に淑女とはなんたるかを叩き込んでやりますわ!!

 

 

27.根も葉もない噂を信じるのは淑女のする事ではありません。

 

・根も葉もない噂を信じて風聞を広めるのは、淑女のする事ではありません。

第一なんですか。夜間の学園をふしだらな格好で徘徊する生徒が居る?

 

・頷かれても困るのですが……。

しかし、ここは淑女が集うトリニティ総合学園です。

その様な特殊な趣味嗜好の生徒が居る訳が……。

……いえ、今の発言はあなたの教育係に相応しくありませんでしたね。

 

・他人の趣味嗜好に無闇に言及するのは、淑女にあるまじき事です。

そうです。あなたもカブトムシや甲殻類の飼育について、理解の無い言及をされるのは嫌でしょう?

 

・ええ、ですので他人の趣味嗜好には慎重に言及しなくては、御相手に大変失礼な事になります。

しかし、これは公序良俗……。えぇと、トリニティのルールや環境に反しないものに限ります。

 

・つまり、その噂が事実だとしたら間違いなくトリニティの公序良俗に反している事になります。

あなたも、もしその生徒を見かけた場合は一人で捕縛しようとせず、正義実現委員会の方達を呼ぶ様に。

 

・……何故顔を逸らすのですか?

あなたまさか、もう接触したのですか?!

何故それを報告しなかったのです? 

 

・……まあ、その、そうですね……。

あなたの言う事も理解出来ます。確かに、その様な光景は信じ難い事です。

しかし、噂では消灯時間の後の筈。何故、あなたはその時間に外出を?

あ! こらっ、お待ちなさい!!

 

 

28.淑女は常に慎みを持ちなさい。何事にも例外はありますが……。

 

・……今回はナギサ様よりの賜り物ですので、例外に当たります。

ですが、少々食べ過ぎです。

なんですか? このロールケーキの山は。

 

・いえ、ナギサ様よりの賜り物ですね。

まずは何があってこうなったかの報告を。

ナギサ様より呼び出しを受け、ティーパーティーホストの宿舎でロールケーキの試食役を任命された。ですか。

 

・ええ、テラスでの御茶会でお出しされるロールケーキは、ナギサ様の手製のものである事が多いのです。

ナギサ様の趣味の一面もあるのでしょう。

それはよいのですが、どうしたのです? この量は。

 

・食べて感想を言っていたら、ナギサ様が次々に作り始めた? 秘書官の方々も巻き込んで?

ナギサ様、エデン条約でストレスが溜まっておられるのでしょうか……。

これは私達も以前に増して尽力せねばなりません。

 

・食べる手を止めなさい!

美味しい? ナギサ様のロールケーキなのですから当然でしょう。

いえ、ですから食べる手を止めなさい。というより、手掴みでロールのままかぶり付かない!

せめて、食べる分だけ切ってフォークを使ってお食べなさい。

 

・ほら、お皿に置いて! ああ、もう! 口の周りがクリーム塗れではありませんか……。

手も粉砂糖がいっぱい……、制服で拭こうとしない!

手を洗ってきなさい! 

まったくもう、一体何本食べたのですか。

しかし、あなたがそれだけ食べてもこの量……。ナギサ様は余程興が乗られた様ですね。

少しでも気晴らしになったのであればよいのですが……。

 

・……包装に使うリボン? あなた、その尻尾のリボンはどうしたのです?

動いていると鱗と甲殻で擦れて切れてしまうと、前に言っていたでしょう?

試食中に秘書官の方々と、ナギサ様に話をしに来たミカ様に付けられたですか。

 

・……珍獣扱い、の様な気もしますが、良好な関係を築けている様で何よりです。

さ、切り分けてあげますから今日はこれまでに……。

あなた、まさかとは思いますが、この量を全部食べる気だったのですか?!

 

・あなたが健啖家である事はよく知っていますが、昼間も試食をしたのでしょう?

残りは明日にしなさい。大きめに切ってあげますから、これで我慢しなさい。

待ちなさい。何故、ロールケーキを持ってにじり寄って来るのですか?

お待ちなさい! その様な食べ方は淑女のする事では……っ!!

 

 

28.運動は確かに大事です。しかし、程度があります。

 

・……セイア様の体調を案じての事だと、私も理解していますし、セイア様からも同様の事を伺っております。

しかし、何事にも程度があります。

 

・50mプール20往復は、病弱なセイア様には運動ではなく拷問の域です。

四時間以上は泳ぎ続けるあなたにとっては散歩程度でしょうが、セイア様には違います。

 

・最終的にはセイア様を背に乗せて、あなたが泳いでいたではありませんか。

……観光地の催し物の様でしたよ。

 

・私も、ですか?

私は日々節制を心掛けていますので、何も心配要りませ……。前に抱き抱えた時、重くなって、いた……?

……気のせいでしょう。ええ、気のせいです。

お待ちなさい。尻尾で人を巻き取らない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、あなたは……」

 

少女が少しばかり息を切らしながら、透き通った水中を自由自在に動く影を見ながら呟く。

人の影に続く長い影は、力強くしなやかに水を掻き分け、更に深く更に速く水中を進んでいく。

その姿は陸に居る時よりも速く自由だった。

 

「とうっ……!」

 

プールの底を一周すると、彼女は尻尾の力だけで水底から一気にプールサイドに飛び上がってくる。

 

「先輩、大丈夫?」

「ええ、前にも言いましたが泳げない訳ではありません。あと、大丈夫ではなく大丈夫ですか。です」

「うぃ……、大丈夫ですか」

「宜しい。しかし、あなたは本当に水が好きですね」

「うん、じゃなくて、はい。学園の水は綺麗だから見易いから……、です」

 

滴る水を振るい、腰を下ろす。

自身とは違う均整の取れた長くしなやかな体、昔から水という環境に親しんできた証だろう。

 

「水が綺麗? あなたが居た所は違ったのですか?」

「えと、流れが速くて色んな河が合流する場所だったので、ずっと濁ってました」

「あなたはそこで漁をしていたのでしたね」

「はい、大きい鱒が獲れたらその日は贅沢が出来た、です」

「鱒ですか。あなたも好物でしたね」

「鱒は焼いても揚げても美味しいし、いっぱい食べれるから、です」

 

そう言えば、彼女は肉よりも魚を好む。いや、食事は何時も魚ばかり食べていた。

 

「魚が好きなのですね」

「先輩は肉ばっか食べてるよね、です」

「そう言う文化、という事です。そうですね。今度のお休みに、予定が合えば美味しいフィッシュアンドチップスのお店を紹介しましょう」

「やった!」

「はい?」

「あ、……えと、嬉しいです」

「宜しい。では、戻りますよ。まだ仕事は残っているのですから」

「はい」

 

立ち上がり、翼を動かして水を払う。

多忙ではあるが、こうして息抜きの時間が取れるのは、現ティーパーティーホストの采配が上手く回っているからだ。

だが、それももうじき終わる。

 

「エデン条約、上手く成立するとよいのですが……」

 




『あなた』

ティーパーティー内では大分珍獣扱いだったりして、ホスト三人以外からも餌付けされている。
トリニティ入学前はアリウス程ではないが、もうじき来る先生も閉口する程度には劣悪な環境に居た。

先輩

ティーパーティー内ではかなり堅物扱いで、取っつき難い人という認識だったが、『あなた』が来てからは単純にお堅いだけで、話せば解る人だと認知される様になった。
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