あなたがトリニティでやってはいけない事リスト   作:装甲アッサム春雨

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コメント返しでも書きましたが『あなた』が育ったスラムは、簡単に言うとアリウス分校とベアおばの恐怖による支配という秩序が無いアリウスです。





八冊目

「……つまり、その、なんですか? セイア様の予知能力のお噂は事実で、エデン条約の折にトリニティは壊滅的な被害を受けるという事でしょうか?」

「ああ、その通りだ。だが、そうなるかは少し揺らいできている」

 

セイアの言葉に少女は首を傾げる。

セイアの予知能力の噂は知っていたが、それは百合園セイアの聡明さからくる一種の与太話の類いだと思っていた。

しかし、それが真実でその予知通りならセイアはここで命を落とし、それが原因でナギサは疑心暗鬼に陥り、親友のミカだけでも守ろうと無実の生徒を謀略に嵌めて、それが引き金になり最悪の結果に繋がる。

そして、それら全ての引き金となるのがこの白州アズサと、彼女をトリニティに引き入れた聖園ミカである。

少女は若干の頭痛を覚えた。

只でさえ今日はゲヘナとの会談で、風紀委員長の空崎ヒナを初めて見て一瞬で警戒状態に入った彼女を宥めたり、万魔殿議長の羽沼マコトの胡乱な言動に頭を悩ませたり、気付いたら居眠りをしていた赤髪の万魔殿議員に頭が痛くなったりと、約三時間程の会談であったがかなりの疲れを覚え、早くに休もうとしたところで、彼女が見舞いの品について問いに部屋に飛び込んできてからのこの現状だ。

流石の少女でも頭が痛くなるが、まだセイアの話は終わっていない。

 

「話を続けよう。本来ならミカによって差し向けられたアズサが持ち込んだ爆弾で、私は今日死ぬ筈だった」

「……ミカ様がなんで?」

 

セイアの側で椅子に座りクッキーを齧りながら、まだ警戒を解かない彼女が問うた。

それもそうだ。彼女から見れば、ティーパーティーホストである自分達の関係は良好で、その様な事態になる要因など思い当たる節すらないだろう。

 

「ほんの悪戯さ。ミカが私に向けた悪戯とアズサを利用して、今回の黒幕が私を暗殺しようとした」

 

このセイアの言葉に、僅かに前傾姿勢になった彼女の目と尾が無言のアズサに向けられるが、頭に置かれたセイアの手により止まる。

 

「ミカもアズサも、騙された形になる。二人は悪くないんだ」

「しかし、それでは何故白州さんがここに?」

 

セイアの予知通りなら、セイアは既に亡くなって最悪のシナリオが始まっていた筈だ。

だが、今はそうなっていない。これがセイアの言う予知の揺らぎだとすれば、その原因は一体何なのか。

少女は猛禽類の如き視線をアズサに向け、再度問い掛ける。

 

「白州さん、私はトリニティがティーパーティーの一員。トリニティの安寧を願う者です。もし貴女がその安寧を揺るがすつもりならば、私はそれ相応の対応をしなくてはなりません。ですので、お答えください。貴女は何の為にこちらに出向いたのですか?」

「……私は百合園セイアの暗殺を指示された」

「……っ!!」

 

アズサの返答に、一瞬で硬化した尾鰭を彼女の眼前まで突き付ける。もし、少女が手の平を向けて抑えなければ、アズサは軽くはない怪我を負っていただろう。

それだけの勢いがあった。

 

「……先輩?」

「一番初めの頃に言いましたね? 人のお話は最後まで聞きましょうと。白州さんのお話はまだ終わっていません。座して聴く様に」

「はい……」

「では、白州さん。お話の続きを」

 

眼前から退いていく尾に軽く息を吐き出し、アズサは冷や汗を流しながら言葉を続けていく。

 

「私は暗殺を指示されたが、ミカの言葉を思い出して迷ったんだ」

「ミカ様のお言葉ですか?」

「ああ、私はカタコンベの奥にあるアリウス自治区から来た。そこに迷い込んだミカは私にこう言った」

 

貴女達と仲良くなりたい。

アリウスは元々、トリニティの一分派だった。だが、少女が知る限りでは百年以上前に政争に負け、トリニティから姿を消した分派だ。

それがカタコンベの奥でいまだに生き残り、ミカはそのアリウス自治区へ迷い込み、アズサと密かな交流を結んでいたという。

 

「今のアリウスはトリニティに対する憎しみに染まっている。だから、それは無理だと言ったんだが……」

「きっと大丈夫。そう仰られたのですね」

「……ああ」

 

ミカのトリニティ内での評価はパテル分派というトリニティ内でも屈指の反ゲヘナ強硬派にして武闘派に祭り上げられ、分派の傀儡となった〝世間知らずのお姫様〟だ。

だが、ティーパーティー内では違う。

聖園ミカは〝世間知らずのお姫様〟ではなく、〝戦うお姫様〟だ。

ミカは逆らうパテル分派を自らの武力で捩じ伏せ、政治力で屈服させて今のパテル分派首長となった。

そして、今代は先代ティーパーティーとは違うというイメージ戦略の為に、対外的には他二人のホストを振り回す能天気なお姫様で通しているが、その実は反対派に対しては武力行使すら辞さない筋金入りの強硬派でもある。

そのミカが大丈夫と言ったという事は、アズサがアリウス自治区出身という話はパテル分派は知っていて、あとはフィリウスとサンクトゥスの両分派にアリウス自治区の現存を知らせるだけだったのだろう。

 

「ミカはああ見えて、派閥政治の何たるかは心得ている。その彼女が何故、今まで私とナギサにアズサの真実を知らせなかったのか。その理由が今回の暗殺未遂だろう」

「セイア様、ミカ様と仲悪かったの、ですか?」

「いいや、それは違うよ。問題はアリウスが今は忘れられた分派という事だ」

「私が以前説明した、トリニティの各分派のお話は覚えていますか?」

「えと……、今は主となる三分派が融和した状態だけど、以前は分派同士で争っていた?」

「大まかではありますが、宜しい。その通り、以前は争っていた各分派ですが、今は現三首長の元で協力体制が敷かれています」

 

宜しい。と、少女は頷く。

現在のトリニティは病身のセイアの代わりにナギサが主となり、ミカが各派閥との調停役となりトリニティの運営を行っている。

だが、トリニティはこの三派閥の他にもミネが代表を務めるヨハネ分派、サクラコ率いるシスターフッド。他にも中小、零細含む様々な派閥が存在する。

それ故に、以前よりは改善されたが派閥間による駆け引きが絶えない。

そこに過去に消えた筈のアリウスという、恐らくは小さくない派閥が加入するとどうなるか。

 

「情けなくはしたない事ですが、今の状態ではアリウス派閥の未来を確保出来ないのです」

「どういう事なんだ?」

「ミカ様は貴女にセイア様への悪戯をお頼みされ、しかし、白州さんはそれを利用したセイア様の暗殺を上役に指示された。という事で宜しいですか?」

「あ、ああ」

「一番の原因はこれです。アリウス派閥の上役、首長の存在と危険性です」

 

アズサの反応を見る限り、少女の考えは当たっているのだろう。

ミカがどの様に捉えているのかは解らないが、互いの友好の証として転入させた生徒に暗殺を指示する様な人物だ。

恐らくはかなり狡猾であり自身の権力や権威といったものに固執し、世界を自分中心にしか見れず考えられない人物だと少女は予測する。

 

「今の時代に暗殺という手段を迷いなく指示し、しかもそれをこちらが差し出した友好の手を取った者に実行させる。その様な危険人物が首長を務める派閥、果たして受け入れられるでしょうか」

「……っ!」

「君の言う通りだ。確かに我々トリニティは君達アリウスを追放する形になった。友好は私達の代なら確約出来るだろう。だが、私達の代が終わった後を保証出来ない」

 

隣に座る彼女の口元にクッキーを運びながら、セイアは内心で溜め息を吐く。

ミカが自分達への報告を止めているのは、これが一番の原因だろう。

アリウスのトリニティ再度加入自体に大した問題は無い。問題はアリウスの現首長だ。

かなりの危険人物であり、生徒を捨て駒に出来る冷徹さと残忍性。はっきり言って、その首長がアリウスの権限を持っている以上、アリウスの再加入を容認する事は不可能だ。 

 

「……私はミカとの約束を守りたい」

「セイア様の暗殺を自身の意志で止めた貴女の言葉、信ずるに値すると私は思います」

「なら……」

「ですが、暗殺未遂犯とその指示者を擁するアリウスを現段階で受け入れる事は、一事務官に過ぎない私でも難しいと判断します」

 

その言葉に落胆するアズサと苦い顔をするセイア。

現段階ではその言葉に尽きる。だが、セイアは知っている。

その様な危険人物しか居ない場所から来た者を。

望まれ、願われ、友好と再起の証として今もこの場に居る者を。

 

「……君はどう思う?」

「うぇ?」

 

アズサからクッキーに興味を移した彼女を見る。セイアからの問い掛けに呆けた顔をしていた彼女だったが、少女の鋭い視線に気付き居住まいを正す。

 

「えと、多分だけど大丈夫だと思う。ます」

「それは何故だい? 彼女は過ちを犯そうとして、その仲間もそうだ。それで何故、そう言える?」

「オレ……じゃない。私が大丈夫だったからです」

「それは何故かな?」

 

セイアの問いに彼女は首を傾げる。

 

「だって、先輩や皆が居るから」

「ふふ、そうか」

 

真っ先に挙げられた少女の顔が、ほんの一瞬だけ紅潮したのをセイアは見逃さなかった。

そう、彼女は悪意の中に産まれて生きて、一握りの善意によって迎えられ、迎えられたその場所でも悪意に晒され、その悪意に抗い続けた果てに、ようやく一人と自身の意志で報われた。

その彼女が言うのだ。それに自身の予知も変わった。

未来は変えられる。

力無い体に僅かばかりの活力が戻るのを感じるセイアの横で、彼女があっと呟いた。

 

「でも、急いだ方がいいかも。です」

「どういう意味ですか?」

「うぃ、スラムだと敵の頭を狩ってから一気に攻めて、縄張りを乗っとるです。だから、アズサが来たなら多分攻撃隊が待機してるかも、です」

 

爬虫類やお伽噺の竜の様な瞳で、じっとアズサを見る。

そこに敵意や害意は無いが、言外に早く話せ。と言っていた。

 

「……私もそこまでは知らない。だが、アリウスがトリニティを攻撃しようとしている事は確かだ」

「……では、その準備をしましょう」

 

少女は携帯電話を取り出し、操作を始める。

 

「準備とは、何をするんだい?」

「決まっております。古今東西、侵略に対し行う事は一つだけ」

 

総力戦に御座います。




『あなた』
この後、クッキーの食べ過ぎで怒られる。
スラム時代は爆弾抱えての特攻も経験済み。

先輩
アリウスに何があったのかは知らないが、こちらに手出しするなら容赦はしない。
お説教も容赦はしない。

セイア
久しぶりに『あなた』に餌付け出来て満足。
原作より前向きで体調も歩けるくらいには回復、予知とは違う現在に未来は変えられると希望を見る。

アズサ
原作より少し後ろ向き?
アリウスの事が心配。

二人の名前

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