案内人は今日も帰ってくる   作:メめ

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ねぇ知ってるよ

 

 

 

 

 いつからあるのかわからない都市伝説。

 今日もクラスの怪談好きの子達が話をしていた。

 

 心霊スポットで現れる存在の話。

 

 怪談好きの子達曰く、怪異と遭遇したら。或いは、心霊現象が起こると現れる。その存在はとてもフレンドリーで、出口を教えてくれるという。

 

 心霊系の配信者の配信に映り込んでくることも多いし、大人しく出口に行くとそのまま消えていなくなる。ついて行かず、制止を振り切って奥へ進むと怪異と遭遇してしまう。そして、そのまま怪異に襲われて配信サイトの方から配信を強制終了(BAN)されると同時に、サイト運営から通報が対策課に来るようになっている。

 

 そのため、怪異と遭遇したいなら、その存在の制止を無視して奥へ進む。

 

 そんな2択が囁かれるようになった。

 

「望月さんは。対策課に所属してるんでしょ?」

「会ったことないの?」

「うーん。会ったことはあるけど、守秘義務があるから」

「えー」

 

 守秘義務はあるけど、あの子に関しての守秘義務なんて、あってないようなんだけどね。

 

「ごめんね。だから、話せないんだ」

「仕方ないか。対策課って大変なんでしょ?」

「厳しいっていうし、あまり無理しちゃダメだよ?」

 

 そうは言っても、対策課は適性があればほぼ強制だから無理とかないし。……はあ。

 

「うん。無理はしないし、実力の範囲でしか仕事は来ないから大丈夫だよ」

 

 これは嘘。

 実力以上でも、斥候として駆り出されることはある。だから、そうなると危険手当がついて、お給料がかなりもらえる。

 

 お給料たくさん出ても、特別欲しいものもないし。家族はもういない。

 

 一緒に笑う人は、もうどこにもいない。

 

 ピロンッ。ピロンッ! 

 

 あっ、この通知は……。お仕事のお知らせかな。

 

「話の途中だけど、ごめんね。お仕事かも」

 

 スマホの通知画面を見る。……やっぱり、対策課からだ。

 内容は機密だから、人の居る所で見たらダメだし。もし見られれば、守秘のために記憶処理をしなきゃいけなくて、そのための費用をお給料から減らされちゃうこともある。

 

 教員に断りを入れて、学校から出る。

 

 今回の仕事は、新しく発見された心霊現象発生箇所の確認と、偵察。

 一番危険で、生存率の高い私だからこそ回ってきた案件なんだろう。

 

 ……本当に、いやになっちゃうよ。

 

 制服のまま送迎の人を呼んで、任務地へ向かう。

 少し遠いし、……今日。家に帰れるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 任務地で数値を測定して、一度準備のために家に戻る。

 

 本格的に動くのは、明日の朝からになるんだろう。

 山の中にあるせいで山を登らなきゃいけないし、登って降りるだけでも、そこそこ体力を使っちゃう。

 

 もう既に疲れた。

 

 明日は早いし……学校も休まなきゃ……。

 

 憂鬱だ。……会いたいなぁ。

 

 目を閉じて、カチッ、カチッと秒針が刻む音を聞きながら時間を過ごす。

 憂鬱な気分。だけど、いつもの時間の前に帰って来れてよかった。

 

 

 ──ピンポーン。

 

 

 いつもの時間にインターホンが鳴った。

 今日は、早急に山を登り降りしたせいでやけに疲れた。でも、あの子を1人にしておくこともできない。

 

 それに、なんだかんだ会うの少しだけ楽しみなんだ。一緒にいると、少し元気になれる。

 

 ドアスコープを覗いて外を見ると、ドアスコープ越しに目が合った。

 

 覗き返すように、向こう側からこちらを覗く目。

 

 あの子が来た。

 

 鍵を開けて、ドアノブを捻り、玄関の扉を開けた。

 

 扉の先にあの子はいる。

 

 黒いショートヘアの人型の存在。

 頭に安全ピン型のヘアクリップをつけた少年、少女とも取れる見た目をした存在。

 所々に安全ピン型の装飾のある黒いジャンパーに、白いシャツ。大きな赤い特徴的なマフラーに、オレンジ色のソックスに、ヒールサンダルを履いた存在。

 

「あ、開けてくれるんだね。ありがとう」

「いらっしゃい、ましろ」

 

 区分不明、タイプも不明。

 いつから存在しているのかも定かじゃない。非人類存在。

 でも、いつもどこか寂しそうに。何かを探しているように私の元を訪ねてくる子供。

 

 伝承級幽霊 〝案内人(ナビゲーター)〟、ましろ。

 

 純真無垢な怪異が、嬉しそうな笑みを浮かべながら私を見ていた。

 

「おっじゃまっしまーす」

 

 軽快な声でそう言って、私の住んでいるアパートの一室に足を踏み入れる。

 玄関で靴を脱ぎ散らかしたまま、リビングルームに入って我がもの顔で、ましろのお気に入りのソファーに座りテレビをつける。

 

 私は、ましろが脱ぎ散らかしたヒールサンダルを並べ直して、後を追う様にリビングルームへ向かった。

 

 リビングルームでは、ソファーに座りながらテレビのリモコンを使って、チャンネルを切り替え続けるましろの姿がある。

 

「面白そうなの何にもやってないや」

「ドラマとかは見ないの? 結構面白いよ?」

「えー、つまんないよ。だって、先の展開が見えちゃうから」

 

 そう言いながらも、最近新しく始まったドラマがやっているチャンネルに切り替えて、テレビ画面を眺める。

 

「陽奈ー。おやつある?」

「何が食べたいの?」

「うーん。今日は塩味がいい!」

「じゃあ、うすしおのポテトチップス食べる?」

「食べるー!」

 

 私に向かって振り向きながら元気よく返事をする。

 笑顔に曇りはない。本気で嬉しそうに笑う姿がなんとも愛らしい。

 

「?」

 

 でも、首を傾げながら私をじっと見つめている。

 

「疲れてる? それとも、何か困り事?」

「わかっちゃう?」

「うん。どうかしたの?」

 

 ましろに対して嘘は通用しない。

 無垢さを強く感じさせる金色の瞳に見られるだけで、ついつい毒気が抜かれてしまうし。

 隠しても、ましろにはバレる。

 

「今日の昼頃に入った案件がね……。ちょっと、大変なの」

「ふーん、そうなんだ。ねえねえ、どんな場所なの? ボクに教えてよ」

 

 興味津々に話に飛びついて、目をキラキラとさせている。

 

 ましろは、怪異であるにもかかわらず、心霊系の話や怪談を好んで聞いてくる。

 知識欲。というよりは、純粋な好奇心のように見える。

 自分の知っているものでも、知らないものでも、話せば飛びついてくるから、不要だとはわかっていても心配になる。

 

「隣の県の山岳部にある家が、未認定の宗教団体が出入りしてたみたいなんだ。

 だけど、最近になって怪現象が多発してきて。怪異発生の兆候? っていうのも見るようになって来たから、調べてほしいっていう通報があったんだ」

「へえー」

 

 未認定の宗教団体だから、そっちもどうにかしなきゃいけないし。怪異もとなると中々しんどい。

 

 未認定の宗教団体は、正体不明の怪異発生の原因になることが多いから、申請はちゃんとしてほしいんだけどなぁ。

 

「隣の県で、山の中にある小屋ね。今度行ってみようかな」

「あまり、そう言うところは行かないの。もしものことがあったら、私は悲しいよ」

「うーん。なら、行くのやめようかなー」

 

 ましろは、そう言ってポテトチップスを食べる。

 

 ましろは、怪異のはずなのに、この手の話もよく食いつく。心霊現象やオカルト話が好きらしい。

 怪異は対処するのが対策課だけど、ましろは怪異と接している感じが全くない。

 

 あるとすれば、子供を相手にしている気分。

 私よりも長く生きている筈なのに、子供っぽくて。身長だって、私よりも低い。

 

 愛らしさ、可愛さの中にある拭えない異物感と不気味さはあるけど、それでも何故だが可愛がりたくなってしまう。

 

 ポテトチップスを食べているましろの頭に手を伸ばして、優しく撫でる。

 撫で始めは意味が分からない。というように少し困惑しているけど、抵抗はしない。

 ただ大人しく頭を撫でられている。

 

「ましろ。私は少しの間帰って来れなくなっちゃうから。元気でね」

「……うん。待ってるよ」

「よし。じゃあ、お菓子食べさせちゃったけど、何かご飯系食べる?」

「いいの? じゃあ、ボクはオムライス食べたい!」

 

 しんみりしちゃったし、時間は遅いけど、今はましろに気分を癒してもらおう。

 

 ダイニングに立って、冷蔵庫に入っている材料を取り出した。

 

 ましろが、ソファー越しに私を見ていた。

 

「気になる?」

「うん。作ったことはないからさ、少し気になる」

 

 さっきまでソファーに座っていたはずのましろの声が、すぐ隣から聞こえてくる。

 横に視線を向ければ、私の切っている鶏肉を興味深そうに見ているましろがいた。

 

「包丁って、引いて使うんだね」

「そうだね。食材によって切り方は変わるし、包丁も変わるから。引いて切るのが正しいわけじゃないよ」

「そうなんだ。なるほどねー」

 

 そう言って、視線が私の手元。包丁を握る手に移された。

 ……ましろも、やってみたいのかな? 

 

「やってみたい?」

「……ううん。今はいいや、となりで見てる」

「そう。……じゃあ、今度。休みの日に一緒にご飯作ってみる?」

「いいの!」

 

 ぱあっと顔が明るくなって私の顔を見るましろ。

 料理もなんでも、誰かとやるのは楽しいし。私は全然かまわない。むしろ、一緒にやってみたい。

 

「うん。約束だよ」

「うん! 約束!」

 

 嬉しそうなましろを見ていると、私も嬉しくなる。

 一緒にいて楽しいなあ。

 

 チキンライスを作って、卵を焼いて。それをいつの間にか、隣でお皿を持って待機していたましろのお皿に盛り付ける。

 最後に、旗楊枝を天辺に立てればましろが好きなオムライスが出来た。

 

「いただきまーす」

 

 ましろは、手を合わせながらそう言ってスプーンで食べる。

 ましろは怪異だけど、人に紛れて普段は生活しているようで。紛れるために一般的な食器の使い方は知っているらしい。

 少なくとも、私の家に来るようになる時から、既にスプーンは使っていたし。お箸も使える。

 

「うん、おいしい!」

「ふふ、よかった。作った甲斐があるよ」

 

 美味しそうに食べるましろを見ながら、私もオムライスを食べる。

 あ、口元がケチャップで赤くなってるよ。

 

 ナプキンを手に持って、ましろの口元を軽く拭いてあげると、されるがままに口を拭わせてくれた。

 

「いつでも食べたい!」

「じゃあ、材料は買い足しておかないとね」

 

 そろそろ材料がなくなっちゃうからね。特に卵とか鶏肉がね。

 最近、また少し高くなった気がする。お金に困っているわけではないけど、あまり高くなると買うのに躊躇ってしまう。

 

「あっ、今度お買い物も一緒に行きたい!」

「いいよ。でも、ましろはちゃんと変装しなきゃね」

 

 ましろは、色んな意味で有名だから。

 

 ましろと話をしながらオムライスを食べて、食器を洗う。

 

 今日は、私が食器を洗うのも隣で見ていた。

 今日はなんだか距離が近い。

 

「山はね。人と自然の境界なんだ」

「? ましろ?」

 

 ましろが話し始めた。

 山。多分、私の任務関係なのかな。

 

 ましろの言葉に耳を傾ける。

 

「あとね、山は、土地とはちがって、霊そのものだったりする。(異物)が基本的に住んでいないからね。

 だから、山は気が乱れたり。悪いものが出ると、敏感になる。

 だから、今でも山でみんなが迷うんだよ」

 

 これは、警告なのかな。

 それとも注意喚起? 

 

「それに悪くなってる山は、人が大嫌いだから気をつけてね。食べられちゃうかも」

「どうしたの。急に」

「うーん。オムライスのお返しだよ。美味しかったよ、またね。陽奈」

 

 少し離れて、前屈みになりながら私の顔を見て、ニカっと笑う。

 

 瞬きをした時には、ましろはいなくなっていた。

 

 別の場所に行ったのかな。

 それとも、人を助けに行ったのか。

 

 私は、ましろのことを対策課のみんなよりは知っている。

 でも、よくわかっていないことの方が多い。

 

 なんで、私のところに来るのか。

 なんで、私の前だと、報告とは違う動きを取るのか。

 なんで、私に色々教えてくれるのか。

 

 私にはわからないことだらけだ。

 

 でも、あの子は悪い子ではないんだ。

 私は、そう確信している。

 

 ……食器も洗い終わったし、寝支度を済ませてもう寝なきゃ。

 

 明日は、少し早いから。

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