一匹の緑ヨッシーはウキウキしていた。
今日はどんな美味しいフルーツを食べようか、と。
家を出て、いつも通り朝の散歩コースを歩き、いつも通り綺麗な池に到着。
ひんやりした草の上にペタリと座る。
家から歩いて30分ほどで来られるこの場所は様々な美味しいフルーツの木がたくさんあるので、とてもお気に入りの場所だ。
もちろんスイカの木もある。美味しかった。
空想のスイカの味が口に広がる。
その他の生えているりんごやぶどう、みかんの木を見るたび、口にその果物の味が通り抜ける。
これから自分はどれほど満たされてしまうのか。有頂天である。
食べる、その前に一度、気合いを入れるために池の水を飲む。
自分がこの場所を選んだ理由はフルーツがたくさんある以外にもこの池が存在するというのもあった。
なにも特別な味のする池というわけではないが、なんとなくサッパリした味、口の中がリセットされる、つまり自分にとって寿司屋のガリの役割を果たしていた。
口の中の空想の味を消すため、舌を裏側に曲げて、ペロペロと結構な量を飲む。舌の長さで一度にすくえる量が決まるので伸ばせるだけ伸ばしながら飲む。
飲みながら、そろそろ池から遠ざかろうかと思った時、
舌に水以外の重さを感じた。
丸みの感触もある。急に舌の動きは止められないのでそのまますくい上げるしかない。
ザバンと池から出てきたのはプクプクであった。
自分の舌に巻きつけられ、驚きの表情をしている。
あまりに驚いた表情、そして少しの震えがあったので申し訳ないという感情がわき、つい謝罪してしまった。
しかし、どうやらその彼の驚きは自分とは関係のないものらしい。
『いや、違うのだ。先ほど食べた小エビがあまりに美味しくてな...』
どうやら彼によると、いつも通り家を出て、
いつも通りの水泳コースを泳ぎ、美味しい小エビの群れを食べようとした所、
一匹だけいつもと違う、とても美味しい小エビを食べたという。
そのあまりの美味さの衝撃にボーっとなり、つい水面近くまで身体が浮いて自分に引き上げられてしまったそうな。
『いやぁ、あれはもう...なんて言ったら良いのやら......はぁ...』
彼は夢見心地の様だ。
正直に言うと、自分もこれからフルーツを食べる身。
なんとなく気持ちは分かるが、その領域までは辿り着けた事がない。
美味しいものを食べて嬉しそうな表情、笑顔になったりする事はあるが驚いた顔になった事はない。予想を超えた味を食べた事がない。
それはどんな味なのか。
より詳しく知りたい。会話がしたかった。
だがそれには時間がない。
こうして会話している際にも、
彼を巻きつけた舌は、自分の口の中へ戻ろうとしている。
と言うのも、自分の舌は食べ物を口の中へ運ぶ、飲み込む事にしか使った事がない。彼を呑み込まない様、ギリギリと今まで使った事のない舌の筋肉を使っているがそれでも時間稼ぎにしかならなかった。
彼が口に到着する。
『本当にあれは...ふぅ...』
幸せのため息というものを出しながら
彼は呑み込まれていく。
彼とフルーツは予想通りの味だった。