恋愛ものです。
しかしその呪いを祝ふきに昇華させるのもまたヒトの業
この世はうたかた?
ながれるままに?
ふざけるな馬鹿やろう!!
俺たちはいつだって人間だ!!
深夜のハイテンションで書きました。
働きたくない。
「加奈の場合」
「先輩、ずっと見てました。私と付き合ってください」
「ハイダメ、100%振られる500ジンバブエドルかけてもいい」
告白の練習をする、女子高生加奈に、教師の津田沼はダメ出しをした。
「なんで?何がいけなかったんですか?」
放課後、夕暮れ時、授業が終わり、あわただしく帰宅するものや、部活動にいそしむもの様々だ。そんな中、高校二年生の加奈は、青春の問題を一人の男にぶつける。加奈は普通の女子高生だ、年上の先輩にあこがれ、クラスではいつもカーストは中くらい。そんな彼女が頼ったのは、みんなから話が長いと嫌われる歴史教師の津田沼だった。
「加奈さんよ。お前のあこがれの加藤先輩はバスケ部の部長だ。先輩はお前のこと知ってるのかい?」
「知りません。でもこの間、おはようございますって挨拶したらおはよってかえしてくれたんです。にこって」
「それでいけると?」
「ハイ…」
「うーん、まずそこからだな。加藤先輩には彼女がいない。これは俺がなんとなーく、聞いた。今はバスケに集中したいから。そういうのはいい。てな」
「先生、なんでそんなこと聞けるんですか。キモッ」
「ひどい言いようだな。だいたいなんで俺を頼るんだ?ほかにいい先生いるだろ担任の山本先生とかは?」
津田沼はめんどうそうに、聞いた。
「先生、見ちゃったんですよ。私、すっごくきれいな人と。恋人つなぎで歩いてましたよね。あの人もしかして?」
「ああ、俺の妻だ」
「ほら、なんで指輪つけてないんですか?」
「まだ籍も入れてないし、内縁でいろいろあるんだ」
「へぇー、で私思ったんです。津田沼先生の恋愛偏差値。意外と高くない?って」
「ほうほう、俺に授業しろって?」
「まぁ、そんな感じです」
「しょうがない、恋愛はな就活と同じだ」
「就活?」
「そうだ、就活ではまずES。自己紹介カードみたいなもんだ。これを送って。面接をやる。そしてもう一度面接をやって晴れて合格。内定となる」
「だから?」
「加藤先輩は、いうなれば一流企業だ。お前の告白は、出社する社長を待ち構えて、ここではたらかせてください!!って頼むようなもんだな」
「千と千尋みたい」
「ふっそうだな。先輩からしたら何この子?」以外の感想がわかない。恐怖すら覚える」
「じゃぁ、どうすればいいんですか?」
「うーん。餅は餅屋、その道のプロに頼るか」
「え?もしかして」
「駅前に17時、私服で来れるか?」
「はい」
そして帰宅ラッシュのサラリーマンがちらほらとみられる駅前に、加奈は私服姿でスマホのカメラで、前髪をいじいじ。
「加奈、お待たせ」
津田沼が声をかける。
「あれ?先生だけ?」
「いや、あ、おい、こっちだ」
津田沼が長身の一人の女性に手を振った。女性は津田沼に気が付くと、つかつかとヒールを鳴らしながら近づく。そしておもむろにマスクをとった。
「こんばんは、加奈ちゃん?」
「コトバアキ!!コトバアキだ!!すごいほんものだ」
現れたのは、CM契約100社以上、インスタグラムフォロワー300万人のトップファッションモデルで女優のコトバアキだった。
「先生!!すごいですよ」
「わぁ~すごーい。コトバアキだぁ、ファンなんです~握手してください~」
津田沼はわざとらしくコトバアキに近づいた。
「〇ねよお前」
そう言うとアキは津田沼のみぞおちに思いきりパンチ!!ボディがくの字に曲がる!!
「久しぶりにディナーデートしようって!!呼びつけておいて!!この子誰?」
「誤解なんだ。話を聞いてくれ。これには訳が」
「そのわけとやらを聞かせてもらおうか!!」
「改めて紹介するよ。婚約者の麻美です。いまはコトバアキとして芸能活動中」
「よろしく」
麻美は不機嫌そうに加奈と握手する。
「よ、よろしくお願いします。東雲加奈と申します!!先生とはただの生徒と先生の関係です!!」
「ほらな、俺は潔白だ」
「信用できん」
「まぁ、飯でも食いながら話そう。予約したんだよ、焼肉」
「やだ、イタリアン行く」
「えー」
「私も!イタリアンがいいです」
三人は車に乗り、麻美行きつけの吉祥寺のイタリアンレストランへと移動した。運転は津田沼。
「で?こいつに恋愛相談っと」
車で移動する道すがら、3人は事のいきさつを話し始める。
「はい、好きな人が出来まして」
「せっかくだからLine交換しましょう」
「え!いいんですか?」
「もちろん、これからよろしくね」
「いやー、二人が打ち解けて良かったよ」
津田沼は運転しながら軽く言った。
「黙ってろ!!」
麻美がガシガシと上の座席、津田沼の運転席を蹴った。
「勘弁してください、事故っちゃう」
唐突に始まった恋愛塾、一人目の塾生は「東雲加奈16歳」一つ上の先輩に恋する乙女だ。
「夏希の場合」
伊藤夏希は不登校である。きっかけは些細だったかもしれない。クラスの女子グループでの何気ない会話、夏希は誰々は何タイプ、レッテルを貼ってしまう癖があり。ストレートに悪口を言ってしまう。それがまずかった。クラスメイトから反感を買い、lineグループでいじめのターゲットに。
最初は無視からだ、話しかけても無視される。つぎに「なんか臭くない?」と夏希の近くで言われる。それで十分だった。不登校の理由は。友人だった加奈も少し離れていった。
「うーん、嫌だな。って思うわけです。だから先生。お願いします」
「俺はドラえもんじゃないぞ。まぁ、今回の件、相談してくれたのは正解かもな」
いつもの人文社会研究室で二人は話し込んでいる。
「夏希のお母さんから頼まれるんですよ。家の前に行くたびに。仲良かったでしょう。うちの子何とかして~って」
「なんとかねぇ、まあ、いじめのことは先生方にも共有しとくよ。問題はどうやって。学校に行きたいと思わせるか」
「また奥さんに頼むとかぁ」
加奈は上目遣いでのぞきこむ。
「お前、麻美に深夜の鬼lineしただろ...怒ってたぞ。言わずもがなあいつは多忙だ」
「えへへ、ですよね」
「まぁ、心当たりがないわけでもない。夏希ちゃん、趣味は?ソシャゲとかやる?」
「めっちゃします。大納言演武とか」
「大納言演武か、あいつ、この間その案件やってたし。ちょうどいいか」
「放課後、時間ある?」
「私はありますけど、夏希は...」
「これやる」
津田沼はそっと課金カードを渡す。
「女子高生を買収ですか?」
「引きこもりを部屋から出すには、金か暴力。金渡したんだから。夏希ちゃん連れてきてね」
「はーい」
「こんどは駅前のサイゼな~」
「え?はい」
加奈の家のお隣さん。伊藤家のインターホンを鳴らす。
「はい、どちら様?」
少し疲れた声がした。
「加奈です。夏希ちゃんいますか?」
ガチャ玄関が空き、中年女性が出てくる。夏希の母親、秋さんだ。
「加奈ちゃん、よく来てくれたね。夏希は二階の子供部屋にいるわ。でも」
「任せてください」
手にしたプリペイドカードを握りしめ、加奈は堂々と歩みを進める。今回はだれに会えるのか、津田沼は教えていた。何としても会いたい。そんな相手だ。
「夏希!!起きて出てきて」
「加奈か、いまさら何の用?私のこと見捨てたくせに」
扉の奥から、じっとりと憎しみが混じった声がした。
「いうと思った。10秒以内に出てきたらこのリンゴカードあげるよ~いっちまんえん!」
「よこせ!!」
「おっと、着替えて下降りてきなよ。ごはん食べ行くよ。これ、欲しいでしょ?」
リンゴカードをひらひらさせつつ。加奈はリビングでお茶をすする。するとゆっくりとパジャマ姿の夏希が降りてきた。がりがりに痩せ。でも目はらんらんと鋭いのは、何時間もゲームをしている証拠。
「ちゃんと着替えてきなよ」
加奈は呆れていった。
「うるさい、リンゴカード、よこせ」
久しぶりに加奈に会う夏希は少しうれしそうに手を伸ばす。
「サイゼにご飯食べ行こ?」
「行く」
二人の友情はまだ腐ってはいないようだ。
「ようやく来たか、ずいぶん待ったぞ」
津田沼の隣に新しい女性がいた。小柄で低身長、だがマスクに眼鏡をかけているというのに周囲の視線を自然と集めていた。
「え、ライカちゃん...」
そこにいたのは年商一億の大人気コスプレイヤー、グラビアアイドルの「鉄風ライカ」だ。
「しーっ、ここじゃ目立ちますから。移動しましょう」
ライカは口元に指を立て、クワイエットジェスチャー。その姿もどこか色っぽい。
「ね?来てよかったでしょ?」
「まねき猫でいいか」
津田沼は適当に言った。
「で?先生、ライカちゃんとはどんな関係です?何でここにいるんです?」
夏希はカラオケボックスに入ったとたん、堰を切ったように問い詰める。
「質問はひとつずつな。こいつは唯、俺の妹だ」
唯はマスクを外し、整った顔がお披露目される。30代の実年齢とは裏腹に、童顔に見えるその顔は10代の学生にすら見える。
「え?チッ!ん-、はい、コウ君の妹の唯です。今は鉄風ライカとして活動してます」
妹と紹介された瞬間、唯は信じられないように目を丸くした後、刺すように津田沼をにらみながらそう言った。
「すごい!すごいです先生!!」
夏希がこれほど喜んだのは一年ぶりか。
「ねーすごいよね。先生何者なんですか?」
「ふふん、実はかつて敏腕マネージャーとして腕を振るった。今は教師さ」
津田沼は軽口をたたくが、唯は終始不機嫌だ。
「で?何の用です?「お兄さん」この子たちは?」
「おおそうだった、かくかくしかじか」
そして夏希の問題を三人は話した。今のSNSいじめ問題、不登校の現在。
「なるほど、重い話だね。じゃあ私の作戦は、名付けて『保健室登校してる子にめちゃくちゃかわいい子いるんだけどあの子誰?作戦』どう?」
「なげぇよ」
「その作戦は?えっと唯さん」
夏希がおずおずと尋ねる。
「ライカでいいよ~これから夏希ちゃんを、めちゃくちゃかわいくします」
「それでいきなり再登校はハードル高いから、保健室登校から、徐々にならして教室に復帰させる作戦だ」
津田沼は淡々と説明した。いつも人を馬鹿にしていた彼の瞳は今度はまっすぐと夏希を見ていた。
「夏希、おれはな、学校を楽しいところと思ってほしいんだ。そのためにお前の居場所を作ってやりたい」
「先生…… あの、誰先生でしたっけ?」
「Oh……社会科の津田沼だ。よろしくな」
「よろしくお願いします」
「よーし、恋愛研究部の結成!!加奈!歌いまーす」
「これからどんどんきれいになろうね」
かくして、恋愛研究部が結成した。この結成の裏には、顧問津田沼のどす黒い願望が渦巻いていることは、夏希と加奈の知る由もない。知らないまま二人は卒業していった。
社会人になった二人は普通の恋愛を経験し、二人とも結婚した。津田沼、唯、麻美への感謝を忘れることはなかった。青春の思い出をありがとうと、津田沼に伝えたという。
「津田沼公平の場合」
津田沼公平、この男は何者なのか、カリスマ女優と婚約し、トップコスプレイヤーの妹がいる。無論嘘である。彼はカリスマ女優と婚約関係は結んでいないし、トップコスプレイヤーは彼の妹ではない。
津田沼と唯と麻美三人の関係がはじまったのは、小学5年生の夏休み明け、津田沼が父親のマイホーム購入で隣町に引っ越し、小学校を転校したことに端を発する。
津田沼の家の隣に住んでいたのが、麻美、同じ学区、坂を上がったすぐそこに唯の家があった。津田沼と唯は毎朝、公園で集合し集団登校をしていた。麻美はというと登校拒否すれすれで、毎朝父親に車で学校に送り迎えしてもらっていた。
三人が一緒のクラスになったのは6年生から、このころから唯は津田沼のことが気になっていた。毎朝、津田沼が家の前を通るたびに、それに合わせいえをでる。それが彼女の日課。
麻美が津田沼のことを意識し始めたのは、席替えでたまたま隣の席になってから、津田沼は頭の回転が速い子供だったからそこから気になり始めた。初恋とは呼べぬ、幼い男女の小さな心の動き。思春期の入り口。そんな穏やかな日々はいつの間にか終わりを迎えた。
津田沼はいつの間にかいじめのターゲットにされたのだ。消しゴムを落とせばみんなで蹴り飛ばし、唐突に蹴られ、殴られる。彼が何かしたわけではない。いつの間にか、こいつはゴミだから。だからいじめていい。そういう空気が教室中に充満していた。
親や担任は精一杯、津田沼を救おうと動いてくれた。細かく聞き取り、津田沼がランドセルを蹴られていれば担任は謝らせた。逆に津田沼が逆上し、石を投げる。そんな事件があった時は、しっかりとしかり。謝らせた。津田沼が教師を志したのは、この担任教師のようになりたいと思ったからだという。
唯と麻美は何も出来なかった。麻美はいじめの主犯のグループにいて、津田沼の苗字が時の総理と同じだったから、そのことをからかった。唯は津田沼の背中を殴ったり、隣の席になった時は思いっきり机をぶつけ、不機嫌アピール。
小学生の津田沼は他の子供よりも敏かったから、二人の気持ちには何となく気づいていた。だからこそ、そのちぐはぐな態度、行動に戸惑った。「俺のこと嫌いなのか?でも唯は主犯が見ていないときは普通に話しかけてくるし、麻美はわざわざ机をくっつけてくる」と。
時がたち、三人は小学校を卒業した。唯と麻美は、家庭の事情で津田沼が進学する公立中学には進学できない。だから同盟を結んだ。
「いつか誰にも文句が言えないくらい美人の大金持ちになる。二人でコウ君に告白しよう」
二人は津田沼を「コウ君」と呼んだこともなければ、「津田沼」とちゃんと呼んだこともない。あるのは「ねぇ」だけである。二人の恋愛観は歪だ。しかしこの時は12歳秘密の恋愛は歪にゆがんだまま大きく成長していくことになる
月日は流れ、津田沼は会社員になった。教員免許は取得していたが、まずは社会人としての経験を積みたかったのだ。
そして唯と麻美は夢を叶えるために動き出す。津田沼のまったく知らないところで。
唯はいまや年商一億のコスプレイヤー、実家が太い彼女は父親の紹介で芸能界に入り、何の不自由もなく売れている。
対する麻美は大変だった。幼くして父親が他界し、母子家庭で育った。十代の頃からスカウトされていた彼女は、大学進学に専念するという理由で、一度は女優の道を諦めている。しかし大学受験に失敗したことで踏ん切りがついたのか、女優として再挑戦を決意。その挑戦は見事に成功し、今や百社以上とCM契約を結ぶ「CM女王」と呼ばれるほどの売れっ子女優となった。
早くコウ君に褒めてもらいたい。そう思いながら、二人は密かに「プロポーズ大作戦」を練っていたらしい。だが、世間知らずで愚直な二人は、他人の安易な悪意と、自分たちが持つ影響力の大きさをまだ知らずにいた
事件が起きたのは、冬の寒い日のことだった。
津田沼は実家の自室である二階の窓から、部屋の中にある物を手当たり次第、道路に向かって投げつけた。通報により、すぐに警察に保護された彼は、こう狂ったように呟いたという。
「狙われている。俺は通行人Aでいたいんだ」
津田沼はすぐに措置入院となり、隔離病棟へと収容された。
彼の身に、一体何が起きたのだろうか。
それは、酷い伝言ゲームのようなものだった。
唯と麻美の二人のうちどちらか、いや両方が、周囲にあの計画を漏らしてしまったのだ。
「小学生の頃に叶わなかった恋を叶えたい」「あの人は今、どこで何をしているんだろう」
最初はそんな純粋な呟きだった。しかし、それを単なる噂話程度にしか思っていない部外者たちが、話を勝手にぼかし、面白半分で尾ひれをつけて拡散していった。
その歪んだ伝言ゲームの輪には、麻美の母親も加わっていた。娘に金の無心ばかりをして自分は働かなくなった母親は、何の肩書もない一般人の男よりも、イケメン俳優や大企業の社長のほうが娘の結婚相手にふさわしいと考えていた。だからこそ、噂を打ち消すため、あるいは男を排除するために、ある「ヒント」を周囲に与えてしまった。――津田沼の個人情報である。
そこからは早かった。
津田沼のSNSには、いつからか怪しげなアカウントのフォロワーが急増し、彼の何気ない投稿を異常なほどにもてはやし始めた。さらに恐ろしいことに、なぜか職場の同僚たちまでが彼のSNSの投稿内容を完全に把握していた。フォロワーはたった百三十人しかいないアカウントだったというのに。
異変はネットの中だけに留まらなかった。
電車に乗れば、見知らぬ他人にスマホで顔を隠し撮りされた。彼のすぐ隣には、なぜか毎回、派手な身なりの女性が何人も不自然に立ち塞がった。「気のせいだ」と自分に言い聞かせながら振り払い、駅を出ると、すれ違いざまに見ず知らずの男からタバコの煙を顔に吹きかけられた。
悪意の連鎖は、彼の家族にまで及び始める。
母親の勤務先でも、同じような不可解な出来事が頻発した。職場の共同LINEに見覚えのない不気味な投稿が流れたり、職場の人間全員が一斉に同じ服を着て出勤してきたりした。実家の前の道路には、夜な夜な怪しい人影が何人も佇んでいる。
彼の心が壊れるまでに、そう時間はかからなかった。
「見てるんじゃねぇよ!!!」
ある日、電車内でそう狂ったように妄言をぶちまけ、十分ほど怒鳴り散らしたかと思うと、彼はそのまま実家へ逃げ帰った。
異変を察知した父親が、必死に彼を止めようとする。
「公平!!!お前、おかしいぞ!!」
「うるせぇ!!」
翌朝、父親が出勤し、家に誰もいなくなった。
完全に孤立し、追い詰められた彼は、部屋の目につく何もかもを二階の窓から外へと投げ捨てた。
実家の前に集まってきた野次馬たちの雑踏の中から、確かにこんな声が聞こえたという。
「こんなにうまくいくとはな」
そして精神病院から退院すると彼に職場のせきはなかった。最悪のタイミングだった。
キャリアアップのための転職活動がうまくいき、内定を承諾、その直後起こった事件。内定が取り消された。生活費のために地元のスーパーで品出しする日々、俺は何をやっているんだ。本当は新規開発チームに配属予定だった。設計職として大学卒業からコツコツ技術屋としてやってきた。そのキャリアが棒に振られた。
家に帰り、テレビをつける。「コトバアキ主演映画完成披露試写会」イエーイ!!スクリーンを背に笑う麻美。
「この女はよくあんなことをして笑えるな」
ほつりとつぶやいた。嫌になりコンビニに行く。
「MOW!!鉄風ライカです!合宿免許!MOW?最短二週間で卒業できちゃう!」
こみ上げる吐き気、必死にこらえながら、逃げるように部屋に駆け込んだ。スーパーと自室を往復する日々。
「バイト一日8000円。あいつらは、1分のCM、撮影時間は一時間?それで1千万か、なにそれ?」
そんな津田沼、彼を支えたバックボーンは、これが出会ってきた人々だった。小学校のころ自分を救ってくれた吉田先生から始まり、大学で相談に乗ってくれた渡先生。勉強の面倒を見てくれた横一先輩。自分を慕ってくれた後輩たちに、今の体たらくは見せられない。そう自分を奮い立たせ。再就職の道を歩み始めた。
平坦な道ではなかった。コロナ渦、就活で精神病のことは隠した。そしてようやく私立高校の教師として採用され、3年がたったいつの間にか30歳。
父親から、相談を受ける。「あわせたい人がいる」通された会議室には唯と麻美がいた。
「やっぱり、あんたらだったかで?なんのよう?」
津田沼は呆れながら言った。
「やり直したくて」
唯が言う。
「なにを?」
「今までのこと全部」
麻美はバツが悪そうにそう言った。
「しってっか?ゼロに何掛けてもゼロなんだぜ」
酸いも甘いもかみ分けた津田沼はそう笑った。
「ゼロじゃない!!」
麻美はそう叫んだ。
「だって僕たちのこと好きじゃないですか君」
唯がしんどそうに声を震わせた。
「ああ、好きだよ。それ以上に憎んでいる。かわいさ余って憎さ百倍アンパンマン!!いっちょ前に罪悪感!!抱えてんじゃねぇよ!!」
津田沼はあふれる感情を抑えきれず机を蹴った。彼が三十年間抱えてきた正当な怒りだった。
「どうすればいいんだよ、なにもしてないぞ、おれら」
びくびくと小学生に戻ったように麻美は絞り出す。
「ほう、お二人は俺に何してくれんの?」
「なんでも、お金でも体でも」
唯はぽつりと言った。
「欲しいのは説明だ」
「説明したら君は僕たちを許さないだろう!!」
麻美が激高する。なんとまぁ理不尽なことか。加害者が被害者に向けていい感情ではなかった。
「いまさら許されようと?」
「ハイ…」
唯は素直に吐露した。
「よし、じゃあこうしよう。俺の勤めてる高校な、可哀そうな奴がいっぱいいる。お前らみたいに思いが伝えられなくて、うじうじしてるやつ。俺みたいにいじめられて耐えるしかない奴。そいつらを俺たちで救ってやる」
「何を偉そうに」と麻美
「きみは意地悪だな」と唯が言った。
「お前らには最低一人ずつ、救ってもらう。今から三年、何人救えたか勝負しろ」
「何をもって救ったと?」
「そりゃぁ卒業式の日に、俺にありがとうって言いに来たら。だな。あ、学生は俺がアテンドするし、フォローも俺が責任を持つ。お前らはあくまでサポートな」
「わかった、勝った方は?」
「もろちん、俺が言うこと聞いてやるよ」
「じゃあ、僕と契りを結んでください」
唯がそう言い放つ。
「みなとみらいで結婚」
ぼそっと麻美が言った。
「わかりやすくて扱いやすいな。承知した」
「「約束、破ったら殺してやる」」
二人の声がそろう。かくして恋愛代理戦争の幕が上がる。
「後に「横浜市正妻戦争」は冬月市のそれよりひどかった」と揶揄されたが結末は神のみぞ知る。
恋のデンプシーロールこぶしの重さは100オンス
さあ願いましては?