ザ・ダイハード・マスターピース   作:EXTERMINATION

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第88話 コンテナ港の戦い 後編

炎の向こうから、コマンダーが現れた。

 

巨大クレーンの崩落。

 

コンテナ雪崩。

 

燃料タンクの大爆発。

 

普通なら、それだけで戦場は終わっている。

 

だが、コマンダーは倒れていなかった。

 

焦げた戦闘服。

 

割れたサングラス。

 

肩から煙を上げる装備。

 

それでも、男は笑っていた。

 

「最高だなぁ……!」

 

壊れたランチャーを地面へ投げ捨て、

コマンダーは近くのコンテナの残骸から新しい重火器を引きずり出した。

 

大型の機関銃だった。

 

港湾用の固定銃座を無理やり取り外したような代物。

 

普通なら一人で扱う武器ではない。

 

だが、コマンダーはそれを両腕で抱えるように構えた。

 

海斗が呆れたように呟く。

 

「おいおい……まだ出てくるのかよ」

 

綾小路清隆は銃を構えたまま、燃える港を見渡した。

 

巨大クレーンの残骸が港中央を塞ぎ、敵本隊は分断されている。

 

だが、完全に無力化できたわけではない。

 

炎の向こうで敵兵たちが再編を始めている。

 

コンテナの上にはまだ銃座。

 

港湾管理棟には敵の通信設備。

 

岸壁側には武装車両。

 

そして、コマンダー。

 

この男がいる限り、敵の士気は落ちない。

 

七瀬翼がコンテナの陰へ伏せ、スコープを覗く。

 

「コマンダーの周囲、敵兵が再集結しています」

 

海斗がベレッタ二丁を抜く。

 

「親玉が笑ってると部下も逃げねぇってことか」

 

綾小路が言う。

 

「逆に言えば、あいつを止めれば流れは変わる」

 

「分かりやすいな」

 

「簡単ではない」

 

「それも分かってる」

 

その瞬間、コマンダーの機関銃が火を噴いた。

 

弾丸がコンテナの壁を叩き、金属が悲鳴を上げる。

 

綾小路と海斗は左右へ散った。

 

七瀬はコンテナの上から滑り降り、別の遮蔽物へ移動する。

 

弾丸は止まらない。

 

赤いコンテナが穴だらけになり、積み荷の木箱が砕け、火花が夜の港に散った。

 

コマンダーは笑っている。

 

「どうしたぁ!逃げ回るだけか、刑事さん!」

 

海斗が別のコンテナ裏から叫ぶ。

 

「黙って撃てねぇのか、お前は!」

 

「黙ったら俺じゃないだろ!」

 

「それはそうだな!」

 

「認めるのかよ!」

 

海斗は身を乗り出し、二丁のベレッタでコマンダーの足元を撃った。

 

だが、コマンダーは後退しない。

 

むしろ前へ出てくる。

 

銃弾が足元を削っても、巨体は止まらない。

 

綾小路はその動きを見ていた。

 

コマンダーは無謀に突っ込んでいるわけではない。

 

必ず遮蔽物と部下の射線を利用している。

 

豪快に見えて、戦場の組み立て方は冷静だった。

 

綾小路は無線を入れる。

 

「坂柳、敵の再配置は」

 

坂柳有栖の声が返る。

 

『港中央の敵は二手に分かれています。一方はコマンダーの援護。

もう一方は研究施設側の搬送トンネルへ迂回しようとしています』

 

堀北鈴音が続く。

 

『綾小路くん、そちらで港側の侵入を止めないと、研究施設へまた圧力がかかるわ』

 

麗華の声も入る。

 

『エネルギーコア保管区画の防御は維持しているけれど、

港側から重機で押し込まれたら危険よ』

 

海斗が顔をしかめる。

 

「つまり、コマンダーを相手にしながら別働隊も止めろってか」

 

坂柳が涼しく返す。

 

『はい』

 

「簡単に言うな!」

 

綾小路はコンテナの配置を確認した。

 

港中央。

 

崩れたクレーン。

 

炎上するトラック。

 

横転したフォークリフト。

 

燃料ドラム。

 

コンテナの山。

 

まだ動く港湾用フォークリフトが二台。

 

さらに奥に、巨大コンテナを積んだトレーラー。

 

「海斗、別働隊をトレーラー側へ誘導する」

 

「どうやって」

 

「騒ぐ」

 

海斗が笑う。

 

「それなら得意だ」

 

「だろうな」

 

「おい」

 

七瀬が無線で言う。

 

「私は高所を取り直します。別働隊の足を止めます」

 

綾小路が答える。

 

「頼む」

 

七瀬は走った。

 

コンテナの側面梯子を駆け上がり、火の粉が舞う中で高所へ戻る。

 

港全体を見下ろす位置。

 

危険だが、そこからなら敵の動きが見える。

 

七瀬は息を整え、ライフルを構えた。

 

別働隊が搬送トンネル側へ向かっている。

 

七瀬は先頭車両のライトを撃ち抜いた。

 

一発。

 

暗闇。

 

二発目で運転席前の防弾ガラスに亀裂を入れる。

 

三発目で車両横の燃料缶を弾いた。

 

爆発はさせない。

 

だが燃料が漏れ、車両は慌てて停止した。

 

「進行停止を確認」

 

坂柳が応答する。

 

『見事です。ただし、別働隊の後続が徒歩で移動を始めています』

 

七瀬は次弾を装填する。

 

「止めます」

 

一方、海斗はコンテナ通路へ飛び出していた。

 

「おいコマンダー!」

 

コマンダーが機関銃を向ける。

 

「なんだ護衛さん!」

 

「お前、港を要塞にしたつもりか?」

 

「いい出来だろ!」

 

「欠陥住宅だな!」

 

「何だと!」

 

海斗はわざと派手に走る。

 

コマンダーの銃撃が追う。

 

弾丸がコンテナを削り、火花が海斗の背後を走る。

 

海斗は倒れたフォークリフトへ滑り込みながら叫んだ。

 

「綾小路!」

 

「分かっている」

 

綾小路はその間に、港湾トレーラーの運転席へ入っていた。

 

キーはない。

 

だが、敵が使っていた車両だ。

 

配線が簡易化されている。

 

綾小路は数秒でエンジンをかけた。

 

重いエンジン音が響く。

 

海斗が振り返る。

 

「お前、刑事だよな!?」

 

「緊急避難だ」

 

「便利すぎるだろ!」

 

トレーラーが動き出す。

 

荷台には空の大型コンテナ。

 

綾小路は巨大な車体をゆっくり加速させ、

別働隊が向かう通路へ横向きに突っ込ませた。

 

敵兵が叫ぶ。

 

「トレーラーだ!」

 

「避けろ!」

 

綾小路は直前でハンドルを切り、トレーラーを横滑りさせた。

 

巨大な車体がコンテナ通路を塞ぐ。

 

別働隊は完全に進路を失った。

 

海斗がその横から飛び出し、敵の武器を撃ち落とす。

 

七瀬が高所から援護し、敵の足元を正確に撃つ。

 

敵の進軍が止まる。

 

だが、コマンダーは笑った。

 

「いいねぇ!なら、こいつで道を開ける!」

 

コマンダーは機関銃を捨て、近くに停めてあったフォークリフトへ飛び乗った。

 

ただのフォークリフトではない。

 

港湾用の大型フォークリフト。

 

前面に簡易装甲が取り付けられ、両側には敵兵が掴まっている。

 

コマンダーが運転席で笑う。

 

「港らしく行こうぜ!」

 

フォークリフトが唸りを上げて突進してきた。

 

海斗が目を見開く。

 

「フォークリフトで突撃してきやがった!」

 

綾小路はトレーラーから飛び降りる。

 

「下がれ!」

 

大型フォークリフトがトレーラーへ激突した。

 

金属同士がぶつかり、港全体に重い衝撃音が響く。

 

トレーラーが押される。

 

タイヤが煙を上げる。

 

コマンダーはアクセルを踏み込み、笑い続けている。

 

「どけどけぇ!」

 

海斗は横から走り、ベレッタでフォークリフトのライトを砕く。

 

七瀬がタイヤを狙う。

 

だがタイヤは厚い。

 

一発では止まらない。

 

綾小路はフォークリフトの進路を見る。

 

このまま押し込まれれば、トレーラーの向こうにある弾薬コンテナへ衝突する。

 

それはまずい。

 

爆発規模が大きすぎる。

 

「海斗、フォークリフトを右へ逸らす」

 

「どうやって!」

 

「左側の荷重を崩す」

 

海斗はすぐに理解した。

 

「七瀬!」

 

七瀬は既に狙っていた。

 

フォークリフトの左側に積まれていた補助装甲の固定具。

 

一発。

 

二発。

 

固定具が外れる。

 

海斗がショットガンで同じ場所を撃ち抜いた。

 

左側の装甲板が落下する。

 

フォークリフトのバランスが崩れた。

 

綾小路が前輪横の油圧ホースを撃つ。

 

高圧の油が噴き出し、フォークリフトのアームが急降下した。

 

コマンダーが叫ぶ。

 

「おっと!」

 

制御を失ったフォークリフトは右へ曲がり、積まれた空コンテナへ突っ込んだ。

 

コンテナが崩れ、巨大な鉄の箱が雪崩のように落ちてくる。

 

海斗が叫ぶ。

 

「走れ!」

 

綾小路、海斗、七瀬は同時にコンテナの影から飛び出した。

 

背後でコンテナが次々と落下する。

 

赤い箱。

 

青い箱。

 

黄色い箱。

 

鉄の塊が地面を叩き、火花と粉塵が舞い上がる。

 

その一つが燃料ドラムを巻き込み、ドラムが転がる。

 

海斗が振り返る。

 

「まずい!」

 

燃料ドラムが火花の中へ転がり込んだ。

 

同時に爆炎がコンテナ通路を走った。

 

落下したコンテナの隙間から炎が噴き上がり、黒煙が巨大な柱となって立ち上る。

 

爆風で三人は地面へ転がった。

 

海斗は咳き込みながら起き上がる。

 

「……港って爆発する物多すぎだろ」

 

綾小路も立ち上がる。

 

「敵が持ち込んだ物だ」

 

「請求だな」

 

「当然だ」

 

七瀬が少しだけ笑った。

 

「お二人とも、こんな時でも変わりませんね」

 

海斗が肩をすくめる。

 

「変わってたまるかよ」

 

その時、炎の向こうからコマンダーが現れた。

 

フォークリフトは大破している。

 

だが、彼はまた立っていた。

 

額から血が流れ、服はさらに焦げている。

 

それでも笑っている。

 

「はは……やっぱり面白ぇな、お前ら」

 

海斗が呆れる。

 

「本当に人間か?」

 

コマンダーは拳銃を抜いた。

 

「ギリギリ人間だ」

 

「自分でギリギリって言うな」

 

綾小路は周囲を見る。

 

敵本隊の動きは鈍っている。

 

クレーン崩壊。

 

トレーラー封鎖。

 

フォークリフト破壊。

 

コンテナ雪崩。

 

コマンダーの主力はかなり削れていた。

 

しかし、まだ一つ問題がある。

 

港湾管理棟。

 

そこに敵の通信中枢が残っている。

 

あれを破壊しなければ、沖合の大型船やクルーズ船側との連携は切れない。

 

坂柳の声が入る。

 

『綾小路くん、港湾管理棟から大型クルーズ船へ暗号通信が出ています』

 

「内容は」

 

『解析中ですが、おそらくエネルギーコア移送計画の予備ルートです』

 

麗華の声が緊迫する。

 

『クルーズ船……あそこを敵の最終拠点にする気なのね』

 

堀北が続く。

 

『港を完全に制圧できなくても、クルーズ船側へ移れば島外へ出る準備ができる』

 

海斗が拳銃を構えながら言う。

 

「つまり、あの管理棟を止める必要があるってことか」

 

綾小路は頷く。

 

「ああ」

 

七瀬が高所を見る。

 

「管理棟の屋上に銃座があります。正面からは厳しいです」

 

コマンダーが笑った。

 

「相談は終わったか?」

 

海斗が言う。

 

「待っててくれるのか?」

 

「俺は紳士だからな!」

 

「どこがだ!」

 

コマンダーは拳銃を撃った。

 

綾小路と海斗は左右へ散る。

 

コマンダーの拳銃はただの拳銃ではない。

 

大口径のマグナム。

 

一発ごとに重い音が響き、コンテナの角を削る。

 

海斗はベレッタで応戦する。

 

綾小路はガバメントで足元を狙う。

 

七瀬はコマンダーの武器を狙おうとするが、動きが速い。

 

巨体なのに、遮蔽物を使うタイミングが上手い。

 

海斗が叫ぶ。

 

「綾小路、こいつ本当に厄介だぞ!」

 

「分かっている」

 

「どうする!」

 

綾小路は港湾管理棟を見た。

 

そして、近くのレール上に停まっている小型貨物列車を見つけた。

 

港内でコンテナを移動するための短距離貨物車。

 

先頭車両はまだ動く。

 

レールは管理棟の横を通っている。

 

「貨物車を使う」

 

海斗が嫌な予感の顔をする。

 

「今度は何を突っ込ませる気だ」

 

「管理棟の通信設備」

 

「やっぱり突っ込ませるのか」

 

綾小路は走った。

 

コマンダーが追おうとする。

 

海斗がその前へ出る。

 

「行かせねぇよ」

 

コマンダーは笑う。

 

「護衛さんが足止めか?」

 

「そうだ」

 

「いいぜ。遊ぼうぜ!」

 

二人の撃ち合いが始まった。

 

海斗は二丁のベレッタで連射しながら、コンテナの間を走る。

 

コマンダーは大口径拳銃で重い一撃を放つ。

 

弾丸がコンテナを叩き、海斗のすぐ横で火花が散る。

 

海斗は低く潜り込み、コマンダーの膝元を狙う。

 

コマンダーは避け、逆に距離を詰める。

 

「軽いな!」

 

「さっきも別の奴に言われたんだよ!」

 

海斗は蹴りを放つ。

 

コマンダーは腕で受ける。

 

重い。

 

だが、ジャンボーとは違う。

 

こちらは力の塊。

 

海斗は押されながらも、

ベレッタの銃身でコマンダーの拳銃を逸らし、至近距離で発砲する。

 

コマンダーの肩装備が弾ける。

 

「やるじゃねぇか!」

 

「褒められても嬉しくねぇ!」

 

その間に、綾小路は小型貨物車へ乗り込んでいた。

 

操作盤は壊れかけている。

 

だが、動く。

 

坂柳が無線で言う。

 

『綾小路くん、貨物車のレールは管理棟の横を通ります。

ですが、通信設備へ直撃させるにはポイント切替が必要です』

 

「切替は」

 

『手動です』

 

七瀬が言う。

 

「私が行きます」

 

綾小路は即座に返す。

 

「危険だ」

 

「高所からではポイント切替レバーを撃てません。近づく必要があります」

 

海斗がコマンダーと撃ち合いながら叫ぶ。

 

「七瀬、無茶すんなよ!」

 

七瀬はコンテナ上を走りながら答えた。

 

「朝霧さんに言われるとは思いませんでした」

 

「言い返す余裕あるなら大丈夫だな!」

 

七瀬はコンテナから飛び降り、ポイント切替レバーへ走る。

 

敵が気づいて撃つ。

 

七瀬は低く滑り込み、弾丸をかわす。

 

一発、二発。

 

敵の武器を撃ち落とし、レバーへ手を伸ばす。

 

だが、固い。

 

動かない。

 

長く使われていなかったのか、錆びついている。

 

「動いて……!」

 

敵が迫る。

 

その時、尊徳の声が無線に入った。

 

『七瀬さん、レバー基部の安全ピンを外してください。

港湾設備は旧式の場合、二重ロックになっています』

 

七瀬が驚く。

 

「尊徳さん?」

 

第二シェルター側。

 

尊徳は彩を守りながら、施設案内端末を見ていた。

 

彩が隣で港湾設備図を開いている。

 

「七瀬さん、そのレバーの下です!黄色いピンがあるはずです!」

 

七瀬はすぐに確認する。

 

確かにある。

 

「見つけました」

 

尊徳が丁寧に言う。

 

『それを引き抜いてから、レバーを手前へ倒してください。落ち着いてれば大丈夫です』

 

七瀬はピンを抜く。

 

レバーが動いた。

 

ポイントが切り替わる。

 

「切替完了!」

 

綾小路が貨物車を動かした。

 

小型貨物車がレールを走り出す。

 

速度は速くない。

 

だが、重量はある。

 

荷台には空コンテナ。

 

綾小路は途中で飛び降りる準備をする。

 

海斗がコマンダーの相手をしながら叫ぶ。

 

「綾小路、飛び降りるタイミング間違えんなよ!」

 

「分かっている」

 

「お前の分かってるは信用できねぇ!」

 

「今は信用しろ」

 

「するしかねぇだろ!」

 

貨物車はポイントを曲がり、港湾管理棟の横へ向かう。

 

敵が気づく。

 

「止めろ!」

 

銃撃が貨物車へ集中する。

 

だが止まらない。

 

綾小路は最後の瞬間、運転席から飛び降りた。

 

地面を転がる。

 

貨物車は無人のまま突っ込んでいく。

 

管理棟屋上の通信アンテナ基部。

 

そこへ空コンテナを積んだ貨物車が激突した。

 

管理棟の壁が砕け、通信設備が大きく傾く。

 

アンテナが折れ、火花が散る。

 

その火花が予備燃料に引火した。

 

港湾管理棟の上部が爆発した。

 

通信塔が夜空へ折れ、燃えながら港の端へ崩れ落ちる。

 

巨大な火柱が上がり、敵の通信が一斉に乱れた。

 

坂柳の声が明るくなる。

 

『敵港湾通信、沈黙しました』

 

麗華が息を吐く。

 

『研究施設への直接指揮も切れたわ』

 

堀北が言う。

 

『これで港側からの圧力はかなり弱まる』

 

海斗が笑った。

 

「聞いたかコマンダー!」

 

コマンダーは燃える管理棟を見て、しばらく黙っていた。

 

そして。

 

笑った。

 

「やってくれるなぁ……!」

 

彼は拳銃を下ろした。

 

海斗が構える。

 

「降参か?」

 

「まさか」

 

コマンダーは親指で沖合を指した。

 

「港は派手にやられた。だが、ゲームはまだ終わりじゃねぇ」

 

綾小路が立ち上がる。

 

「クルーズ船か」

 

コマンダーの笑みが深くなる。

 

「ご名答だ、刑事さん」

 

七瀬が合流する。

 

「敵の最終拠点……」

 

「ああ」

 

コマンダーは後退しながら言う。

 

「今夜のラストステージは大型クルーズ船だ。海の上の城で待ってるぜ」

 

海斗が一歩前に出る。

 

「逃がすと思うか?」

 

コマンダーは足元に小型爆弾を投げた。

 

「逃げるんじゃねぇ」

 

爆発。

 

白煙と火花が広がる。

 

「移動するんだよ!」

 

煙の向こうで、コマンダーは港の端へ走っていた。

 

そこには小型高速艇が待っている。

 

海斗が追おうとする。

 

綾小路が止めた。

 

「待て」

 

「なんでだ!」

 

「罠だ」

 

その言葉の直後、コマンダーが去った通路のコンテナが爆発した。

 

炎が通路を塞ぐ。

 

追っていれば巻き込まれていた。

 

海斗は舌打ちする。

 

「最後までうるせぇ奴だ」

 

七瀬がスコープを向けるが、煙と炎で視界が悪い。

 

「狙えません」

 

コマンダーの高速艇が港を離れる。

 

沖合。

 

巨大な大型クルーズ船が暗い海に浮かんでいた。

 

豪華な白い船体。

 

だが今は敵の照明と武装で、海上要塞のように見える。

 

コマンダーの声が無線越しに響く。

 

『刑事さん!護衛さん!裏切りスナイパーちゃん!港遊びは最高だったぜ!

次は船上パーティーだ!ドレスコードは銃と根性だ!』

 

海斗が無線を睨む。

 

「本当にうるせぇ……」

 

綾小路は燃えるコンテナ港を見る。

 

港湾通信は潰した。

 

研究施設への直接侵入も止めた。

 

敵の補給も大きく削った。

 

だが、コマンダーはクルーズ船へ移った。

 

そして、おそらく敵の残存戦力もあそこへ集まる。

 

坂柳の声が入る。

 

『港湾エリアの敵反応が減っています。クルーズ船へ撤退しているようです』

 

堀北が言う。

 

『つまり、次が敵の本拠地ね』

 

麗華の声も入る。

 

『エネルギーコアの遠隔ロックは維持できている。

でも、あの船から島外通信を再確立されたら厄介よ』

 

七瀬が言う。

 

「敵は船上で再編します。ここで追わなければ、主導権を取り戻されます」

 

海斗は燃える港を見た。

 

「休憩なしかよ」

 

綾小路はガバメントを収め、落ちていたアサルトライフルを拾う。

 

「休憩は全員で帰った後だ」

 

海斗は少し笑った。

 

「言うようになったな」

 

七瀬も静かに頷く。

 

「行きましょう」

 

その時、第二シェルターから一之瀬の声が入った。

 

『みんな、無事ですか?』

 

綾小路が答える。

 

「無事だ」

 

軽井沢の声が続く。

 

『絶対無事って感じじゃないでしょ!でも、生きてるならよし!』

 

ひよりが穏やかに言う。

 

『朝霧くん、本は無事ですか?』

 

海斗は胸ポケットを確認した。

 

水上バイク戦、ジャングル、港の爆発。

 

それでも、文庫本はぎりぎり無事だった。

 

「まだ読める」

 

ひよりは少し笑った。

 

『よかったです』

 

森下の声も入る。

 

『綾小路清隆、朝霧海斗、七瀬翼、迷子にならず戻ってきてください』

 

ツキが静かに言う。

 

『藍ちゃんは現在、第二シェルター内で迷いかけている』

 

少し間が空く。

 

『まだ迷ってはいません』

 

『予備軍』

 

『可能性の話です』

 

『八割』

 

『高くないですか?』

 

海斗は思わず笑った。

 

「こっちより安全な場所で迷うなよ」

 

尊徳の声が続く。

 

『無事で何よりだ。彩様も避難誘導を続けてる』

 

彩の声が少し緊張しながら入る。

 

『お姉様、皆さん、私も頑張っています』

 

麗華が優しく答える。

 

『ええ、分かっているわ。ありがとう、彩』

 

港の爆炎の中で、その声だけは温かかった。

 

綾小路は沖合のクルーズ船を見る。

 

海斗も同じ方向を見る。

 

七瀬はライフルを構え直す。

 

コンテナ港の戦闘は終わった。

 

巨大クレーンは崩れ、港湾管理棟は燃え、敵の補給線は寸断された。

 

だが、戦いそのものはまだ終わらない。

 

最後の舞台は、大型クルーズ船。

 

海上に浮かぶ巨大な城。

 

そこにコマンダーがいる。

 

そして、敵の残存戦力が集結しようとしている。

 

海斗が低く言った。

 

「常夏の海、忙しすぎるな」

 

綾小路が答える。

 

「そうだな」

 

「次は船か」

 

「ああ」

 

「今度こそ、終わらせるぞ」

 

綾小路は頷いた。

 

「全員で帰るために」

 

炎上する港を背に、三人は岸壁へ向かって走り出した。

 

夜の海の向こうで、巨大クルーズ船が静かに光っている。

 

それは楽園の象徴ではなく、最後の戦場だった。

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【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜(作者:ペンギンって可愛いですよね)(原作:推しの子)

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総合評価:5278/評価:5.82/連載:41話/更新日時:2026年08月31日(月) 21:00 小説情報


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