漫画やアニメやゲームでも大量に見かけた。
だが、まさか自分がそれを体験することになるとは思ってもみなかった。
俺が前世の記憶を思い出したのは五歳の時だった。
風邪を引いて高熱にうなされながら、前世の記憶を夢という形で見た。
平凡なサラリーマンとして働き、特に大きな事件もなく過ごし、ある日突然事故に遭って、あっけなく死んだ。
夢から覚めたとき、俺は自分が異世界転生したことを理解した。
そして同時に、ここがゲームか何かの世界で自分が主人公のかませ役であると理解した。
なぜなら、俺の今世での名前はジョバン・カーマッセだからだ!
俺はジョバン・カーマッセ、カーマッセ公爵家の長男だ。
この名前でかませ役じゃなかったらビックリだ。
おそらくは主人公に突っかかってコテンパンにやられるのが運命なのだろう。
転生先のキャラクターとしては最悪の部類だ。
そんな運命を変えるためには謙虚に生きるしかない。
せっかくの二度目の人生なんだ、楽しく生きていきたい。
かませ役らしく、主人公たちに絡むような真似なんて絶対にしない。
俺は、謙虚に大人しく生きるのだ!
それから俺は真面目に努力した。
かませ役は傲慢な癖に実力は大したことがないのが定番、その逆を行くべきだと考えたからだ。
勉強も剣術も魔法もとにかく頑張った。
その結果、努力は実り、俺はそれなり優秀になった。
特に魔法に関しては才能があったらしく、天才だと言われるまでになった。
「流石はジョバン様、もはや私に教えることはありません」
たった三年で、家庭教師の先生からそう言われてしまった。
「ありがとうございます。これも先生のご指導のおかげです」
褒められて悪い気はしなかったけれど、ここで調子に乗ったら破滅一直線なので、きちんと謙虚に受け止めるように心がける。
それにしても、努力すれば報われるというのはいいものだ。
前世の俺はごく普通のサラリーマンだった。
何をやっても平凡な成績しか残せず、どんな努力もそれなり程度にしか発揮されなかった。
だが、この体は違う。
魔法に関しては才能が有り、努力すればするだけ報われる。
カーマッセ家のお抱え魔術師であった先生にこれ以上教えられないと言われた俺は、家の筆頭魔術師に師事することとなった。
「はじめまして、ジョバン坊ちゃま。私はレザニー・ファロニア、坊ちゃまの新しい魔法の教師となります。よろしくお願いいたします」
「はい!よろしくお願いします!」
筆頭魔術師なんていうからお爺さんみたいな人なのかと思っていたけど、やってきたのは黒髪の凛々しい女性だった。
二十代中頃くらいに見える。
こんな綺麗なお姉さんが俺の先生になってくれるなんて、この世界も捨てたもんじゃない。
「流石はジョバン様、素晴らしい魔法制御能力ですね」
「ありがとうございます。しかし、まだまだ先生には遠く及びません」
レザニー先生の授業が始まって二年、俺は先生からの誉め言葉を受け止めつつ、謙虚に感謝を返す。
先生は公爵家の筆頭魔術師だけあり、若いながらとても優秀だ。
俺は先生との授業を心から楽しんでいた。
毎日、新しいことを学び、自分の可能性が広がっていく感覚が本当に楽しかった。
努力すればするほど報われるというのは、前世ではあまり味わえなかった経験だった。
それに、先生のような優秀な人物から認められるのも嬉しかった。
「ジョバン様、貴方には才能があります。このまま修行を続ければきっと偉大な魔術師になれるでしょう」
「本当ですか!先生のように優れた魔術師になれるよう精進してまいります」
こうして、俺の日々は過ぎていった。
才能を鼻にかけることなく、謙虚で努力を怠らない。
このままいけば、かませ役ではなく立派な一人前の魔術師として成長できるかもしれない。
そんな俺の儚い希望は、ある日父上の一言で打ち砕かれた。
「ジョバン、朗報だ。お前と第二王女のセシリア様との婚約が決まったぞ!」
かませ役の定番、ヒロインの婚約者ポジだああああああ!!
なんということだ!
俺は主人公の恋敵になってしまうのか!?
その日から、俺の頭の中では主人公に叩きのめされるイメージが浮かんで消えない。
怖い!怖すぎる!
誰か助けてくれーー!!