立花響が財団神拳を習得するようです。 作:Achoo!
ところ変わって、ここはリディアン音楽院中央棟奥深く……二課本部のとある一室に、私こと立花響はいます。
「……なんで私、ここにいるんでしょう?」
というより、どういう経緯でここに来たんしたっけ?
いけませんね、テスト対策ならまだしも直前の記憶まで思い出せないのは重症です……ああ、育子お姉ちゃんでした。お姉ちゃんは、どうやら私を鍛えてくれる?らしいです。と言っても、鍛えると聞かされただけで具体的に何をどうするのかは全く聞いておらず、はっきり言ってちんぷんかんぷんな状態なのですが。
「何を言っているんだ響君?君は今、二課のトレーニング室にいるぞ」
そうです、私は今トレーニング室にいます。昔は奏さんたちが使っていたらしいですが、ツヴァイウイングが片翼になってしまってからはもうほとんど使われていなかったらしいです。清掃はされていたので綺麗ですが、ところどころ古傷が見えます。
よくよく考えれば、翼さんってアーティストとシンフォギア装者の二足の草鞋で二年間やってきたんですよね……コンサート中に他の場所にノイズが出たらどうしていたんでしょう?流石に中断ですかね?本当に曲は素晴らしいのですが、そこらへんは謎ですし、私には当たりが強いし……すみません、愚痴ですねこれは。あ、隣にはその翼さんの叔父こと風鳴弦十郎指令が座っています。いつの間に来たんでしょう、というか仕事はいいんですかね。
「いや、というか、私が聞きたいのはそういうことじゃなくて!お姉ちゃんですよ!」
「育子君のことか。彼女は二課の職員だぞ?」
弦十郎さん、ちょっとずれています。鍛えてくれると言われたのは覚えているんですよ。それよりもお姉ちゃんと話し、何故どういう経緯でここまで来たのか、ということを疑問に思っているのです……が、弦十郎さんには敢え無く伝わりませんでした……というより、そこも疑問なんですよね。
私、まだ青二才で新参者の二課の協力者とはいえですよ、もう空気感が馴染むくらいには時間は経ちましたし主要な職員の方々の顔と名前は大抵覚えれましたよ?弦十郎さんに櫻井さんに、友里さんに藤堯さんに緒川さんに翼さん。だのに、今日朝一番、育子お姉ちゃんはてっきりリディアンの用務員さんだと思っていたのに、それは違くて、本当は二課の職員だって言うんですから。
「まず、その事実が驚きなのに、何で私はお姉ちゃんに鍛えてもらうことになったんでしょう!?」
まぁ、極力それはいいんです。口ぶりからして、二課に来たのは随分最近のことみたいですし。そこじゃないんですよ。何で、私はここに弦十郎さんと座って、お姉ちゃんの諸々の準備の完了を待っているんでしょうか?
「俺は単純に彼女の武術に興味があるからここにお邪魔しただけだが……それがどうかしたか?」
「弦十郎さん、何かさっきから話をワザと嚙み合わないようにしてません?」
指令。もういい加減気づきますよ?
「なんせ君はまだ、シンフォギア装者となってから僅か一週間ほどしか経っていないからな。翼に負けるなとは言わないが、精進してくれたまえ。なんなら、俺が指南してもいいんだぞ?」
「もういいです……」
丁寧に話しているように見えますが、さっきから会話が嚙み合っていませんよ。私の話、聞いてませんよね?私が痺れを切らしてシラーっと軽蔑の意を軽く籠めて弦十郎さんの目を睨むと、彼は少し目を閉じてから私に言いました。
「……流石に悪戯が過ぎたな、すまなかった。育子君から事前に話は聞いている。響君は武術経験が無い……それもさらに、現状アームドギアの展開ができない。ノイズには重火器が効かない……故に、徒手空拳での戦いを強いられるわけだ」
でも、謝罪の言葉がこうやって直ぐ出るあたり、本当にこの人はいい人なんだなと思わされます。別に悪戯しなくても良かったとは思いますが……というより、そうでしたね。お姉ちゃんが私を鍛えてくれると言った理由はそれでした。
なんでも、お姉ちゃんが二年間で習得したのはとある徒手武術なんだとか。それで、私はまだシンフォギア装者の武器ことアームドギアを出すことができていません。原因は分かりませんが、現状がそうである以上、今私は徒手格闘でこれまでに片手で数えるほどですが、一応ノイズとやりあっているわけです。
「育子君は武術を嗜んでいるらしいじゃないか」
「そうらしいですね?私、てっきりお姉ちゃんは新規採用された清掃員とばっかり思っていましたから、今日一日だけでビックリの連続ですよ」
「ああ。緒川は翼のプロデューサーの仕事があるから忙しいが、彼女はまだ来たばかりだからな。暫定的に清掃員としてリディアン音楽院に配置することにしたんだ。それに第一、武術のことも報告は受けているが、この目で見てはいないからな。興味深々というやつだ」
ああ、それでお姉ちゃんは校門前にいたんですねぇ。納得です。で、彼女曰く徒手でノイズと渡り合うのは危険極まりないと。まぁ異論の余地は無いでしょう。何せ我流を超えた我流ですから。これほど危険な流派はないです。それで、お姉ちゃん手ずから徒手武術を教えてくれるというのですから、私は断る理由がない、ということでここまで案内されて来たんでしたね。ああ、ようやく完全に思い出せました。
「響君。育子君の準備が終わったようだぞ?」
「あ、ホントですね。じゃ、行ってきます!」
目を前に向けると、お姉ちゃんは先ほどまで慌ただしく行っていた準備を終わらせたようでした。
「ああ。ベンチから見守っているぞ」
「はい!」
力強い声に促され、私は立ち上がってお姉ちゃんが手招きする方向へと向かっていきます。
「しっかし、二課に入ってきてから僅か二日だが……育子君。偉く気合が入っているな」
背後から、呟くようにして聞こえた驚愕の事実。え、お姉ちゃんってまだ二日しかここにいないんですか?
「準備はいいか、響?」
「うん。ところでお姉ちゃん」
「何だ?質問なら幾らでも受け付けるが」
はい。私はお姉ちゃんに手招きされ移動し、トレーニング室に依然として居ます。後ろには弦十郎さんが腕を組みながらベンチから熱視線を向けられているのが分かります……が、ちょっと予想外なことが。
「なんで私は座っているのでしょう?」
お姉ちゃんは学校によくあるタイプの机と椅子をどこからか引っ張りだしてきて、トレーニング室に運んできていたのでした。うっかり促されたまま座ってしまいましたが、育子お姉ちゃん、あなたは武術を私に教えてくれるのではなかったのでしょうか?それとも何かの間違いで、今私は椅子に座っているのですか?武術は座学では身につかないと思うのですが……
「立って授業を受けるのがお好みのようなら、別に構わないぞ?あと、ここでは私のことは先生と呼んでくれ。別の場所ではいいが、一応師弟関係にあるのだからな」
立って授業を受けるのは勘弁してもらいたいところです。足が痺れちゃいます。というか、今授業っていいました?
「分かりました、先生!して、私はこれから何を学ぶのでしょうか!?」
先生、私はあなたに武術を教わりに来たのですが。まさか学校同様に授業を受けるだなんて聞いていませんよ。先生は私の疑問に頷いて、またどこからか先生が引っ張り出してきたのであろうプロジェクターが上部に取り付けられたホワイトボードに、マーカーで4文字を書き出しました。
「まず響。共振現象って知っているか?」
共振、現象?共に振れる……何だか中学校の頃理科でやったようなやっていないような記憶がありますが、覚えていません。ここは正直に言いましょう。
「知りません、先生!」
「正直でよろしい、この動画を見てくれ」
知っていたよ、と言わんばかりに育子先生は手元のパソコンを操作し、プロジェクターを通してホワイトボードに一本の動画を映し出しました。その内容は、人の高い声を当て続けることによって、指一本触れずにガラスコップを割ることができる……というものでした。動画では、実際に割れる瞬間が映っていました。すごいですね。高い声だけでコップを割れるなんて知らなかったです。
「今の動画は分かりやすい一例だな。ガラスコップ以外にも、あらゆる物体は特定の揺れやすくなる振動数を持っている。これを固有振動数と言う。そして、その振動数と同じ衝撃を与えると、とたんに物体は脆くなり壊れることがある。これが共振現象だ」
……急に難しくなりましたね。ええと……と私は頭を回して理解に励もうとしますが、それを見かねたのか先生はホワイトボードに整理して書き出してくれました。ええと、すべての物体は固有振動数っていうのを持っていて……その振動数と同じの振動数をぶつけると壊れる、と。さっきのだと声とコップの振動数が一致したから、割れたということですか。
「なるほど。勉強になりました。でも先生、これと武術の何に関係性があるのでしょう?」
「響。突然だがこの机の固有振動数は幾らだと思う?」
私が今の授業の内容と鍛錬の内容の関係性を先生に問うと、おもむろに先生は使っていないほうの学校の机の表面を軽くノックし、私に聞いてきます。
「え?いや、分かりませんけど」
というより、分かるわけがありません。そんなこと、習ったことがありませんから。しかし、先生にとっては手玉に取るように分かるようで……
「正解は115Hzだ、行くぞ!」
……先生はおもむろに拳を振り上げ、そして。
「共振パンチ!」
技名らしきものを叫び、机に拳を強く叩きつけました。すると、どうなったでしょう?
バゴォ!
「え、えええ~!?」
瞬時に机が壊れました。それも、尋常ではありません。正しくは割れた……というべきなのでしょうか、とにかく机が瞬時にして破片となり飛び散ったのです!爆発したわけではありませんが、爆発四散とでも言うべき現象。数秒の沈黙の後にようやく訪れた、驚愕。
「机が、木っ端みじんになっちゃいましたよ!?ど、どうなっているんですか?!」
ど、どうなっているんです!?学校の机って、結構頑丈なはずですけど確かに、先生の拳が表面に突き刺さった瞬間に粉砕されていました!
「物体の固有振動数と拳の振動数を合致させることで、物体に対して効果的な打撃を行うことができる。先ほどの動画で例えれば、振動の発生源を声を拳に置き換えたというわけだ」
先生は当然のごとくかのように、私に言ってのけます。つまり、こういうことです。固有振動数と同じ振動数の拳を机に叩きつけたから、机は木っ端みじんになった、と。驚きのあまり思わず私は後ろを向いてしまいましたが、弦十郎さんも目を見開いていました。絶対にあれは驚きの表情です。
「な、なるほど?」
文言だけで説明されたら、ありえないと思わざるを得ませんでしたが、今まさにこうやって先生の文字通り手ずから実証されてしまったので反論の余地がありません。論理的ではあるが、現実的ではない……そう私が決して思えないのは、まさに百聞は一見に如かず、実演が為せる技というやつなのでしょう。
「共振現象を引き起こすことで、拳より硬い物体を破壊する。これが共振パンチだ」
「何だか科学的なようなそうでないような……というか、それ、私にもできるんですか?」
つまり、私は先生の突飛としているようで理路整然な理論により納得させられつつあるのです。思わず、私は反論のような何かの疑問を呈してしまいました。先生はできるかもしれないが、それは私にできる保証は無いだろう、と。
「当然。いずれ、目視だけで固有振動数を求められるようになってもらう。私がこれから響に教える武術は、他にも様々な科学的見解から基づき発明され、体系化されたものだ」
ですが、先生は即答で肯定してみせます。それは保証に違いない首肯でしょう。ならば、信じてみましょう。荒唐無稽に感じられますが、それがあろうことか科学的な武術……なるほど。先生の武術は、どうやら私が知っている武術の世界とは全く違う領域にある武術のようです。何せ、武術ってシンプルに身体を如何に上手に動かすかで決まっているものだとてっきり思っていたものですから。
「そ、そうだ先生。その名前をまだ教えてもらってないのですが?」
「言い忘れていたな。財団神拳、という」
先生はうっかりしていたという表情で、私にまた4文字の言葉をホワイトボードに書いて見せます。発明されたという言いぶりからして、さっき見せてくれた共振パンチなるものは、その財団神拳という武術の鱗片に過ぎないものなのでしょう。
「財団、神拳……」
「響。心の準備はいいか?」
私がその4文字を噛みしめるようにして呟き復唱すると、先生は私に覚悟のほどを問うてきます。なるほど、私はこれからこんな武術を会得するのですか。……なんだか、頭がクラクラしてきそうです。でも、それはやらなくていい理由にはなりません。私は自信を持って、彼女に言ってみせます。
「は、はい!私、やってみせます!翼さんやノイズたちに、その武術が役に立つのなら、何だって身に着けて見せます!」
そうです、私は強くならなきゃいけないんです。何時までも翼さんの足手まといになってていいわけではありませんし、毛頭その立ち位置に甘んじるなんてそんなつもりはありませんしあってはなりません。
「いい返事だ。やっぱり響はその元気が一番だ……ん?不安か?」
「ま、まぁ、言ったはいいものの武術なんて習うの初めてで……あはは……」
とはいえ、言葉で語るだけなら誰でもできます。その鱗片だけでも見えたハードルの高さに、私は息を飲むしかありません。思わず後頭部に頭を回し、作り笑いをしてしまいます。
「安心してくれ。私は財団神拳の段位クリアランスは3だ。生半端な相手では負けないし、教え方も知っている」
それを見た先生はやれやれ、と言った感じでため息をついてから、自信に満ち溢れた様子で私に言ってくれます。でも、私の顔は正直者なもので、不安な表情を見た先生は末尾に疑問を付け足します。
「それとも、従姉ではダメか?」
違います、お姉ちゃん。身内だから、とかそういう外来的な不安じゃないんです。
「……お姉ちゃん。うん、分かった……」
これは、たぶんきっと、内発的な不安。そう、これは私の弱さから来た不安なんです。自信が無いから、不安が生まれる。だからお姉ちゃん……いや、先生。
「私、やります!先生、これからご指導ご鞭撻、よろしくお願いします!!」
覚悟を決めました。何時までもウダウダしていてはいけません、今から始めるんです。今から強くなるんです!言葉や心といった上辺だけじゃなく、実態のある拳という武器の取り扱いに自信をつけれる第一歩を踏み出すんです!翼さんに守られているだけじゃただの役立たずですし、いざという時に弱ければそれこそ何も守れません。それは、人々も、私の大切な
「ああ。その言葉を待っていたんだ……響。トレーニングに入る前に、これだけ言わせてくれ」
先生は大きく私の言葉に頷き、一言言ってくれます。
「へいき、へっちゃらだ」
「……はい!」
その言葉は、私も聞き覚えのある言葉でした。その言葉は何故だか先生が言ってくれると、どうしようもなく、安心感に満ち溢れているように感じられます。大船に乗ったつもりでついてこい、という意味なのでしょうか。
「ところで、響は物理選択か?それなら都合がいいのだけれど」
「生物です」
「……数学の成績のほどは?」
「めちゃくちゃ苦手です」
「聞くまでもなかったな……先は長くなりそうだ」
「……頑張ります」
ともかく、かくして私こと立花響は財団神拳を習得すべく育子お姉ちゃん改め育子先生の指導の下、トレーニングを行うこととなったのでした。
しっかし、財団神拳……一体どこの財団なんですかね?