装甲歩兵テイヘンズ TS転生・労働生命体カーニャ 作:水辺ロープ
カーニャ大尉であります。
「テイヘンズ」原作クメソ編のクライマックス──あの凄絶なサンジェルマン宮殿攻撃を過ぎても、泥沼の内戦は未だに続いております。
ただし、ここで雑に扱ってきた味方に「因果応報・ざまあ」とばかりに殺されるはずだった原作カニュー大尉の運命は改変され、私はこうして元気に生きております。
いわゆる政府側の旧来の「クメソ王国」と、蜂起した「神聖クメソ王国」、そしてワーカー・ゲリラによる泥沼の内戦。長引くほどに国力は落ちていくが、止める術はない。
組織のスリム化と称して、十把一絡げの底辺雇兵どもを毎週5%ずつすり潰す「効率化運営(?)」を常態化させてきた我がエッセンシャルNo.10基地も、組織構造と運営の改善(カイゼン)に手を付け始めた。……もっとも、人間に一度染み付いた思想というものは、そう簡単には改まらないものだが(この場合は「効率化運営(?)」思想)。
◆ ◆ ◆
「モッフィーランド……でありますか!?」
基地のクルツ司令、秘書のセシリア、そして軍情報部のサヴィツキィから告げられた言葉に、わたくし心底吃驚。
「イベントに、我が基地も参加することになったのだ。……あの時のようにな」
基地解放デイに、一回限りのファンのためのサービスのつもりで着た、某・有名うさぎ「ミッフィー」のパチモン着ぐるみ──『モッフィー』。
それが巡り巡ってある意味で社会現象級の人気となり、なんとこの度、テーマパーク・遊園地が建設されたというのだ。
エッセンシャル基地としても、これに関わることで各種の改善(カイゼン)資金を回収しようという企みらしい。
モッフィーランドはホテル併設、遊具に売店などを備えた、廃園になっていた古い施設を丸ごとリニューアルしたものらしく、そこまで莫大な予算はかからなかったようだが……疾風怒濤の無駄遣いとはまさにこれではないか?
そもそも「ある意味で知名度が上がった」原因は、完全なる放送事故と炎上だった。
手際の悪さで大行列ができたソフトクリーム屋台の客を捌くため、私がモッフィーの着ぐるみを着たまま製造・加工・盛り付けに担ぎ出されたところ、大人気で持ち場を離れられなくなり……その食品衛生法を真っ向から無視した凄絶な現場が、あろうことか全ナメルキャ星に衛星生中継されて、保健所が大激怒!
ナメルキャ中の民衆にお笑いネタを提供し、「とんでもないことになってしまった、どうしよう!?」というカオスな流れ。
一回限りのイベントだからと高を括り、某「ミシフィー」を露骨に模倣したデザインだったのも権利的に大問題となった。
『ミシフィーとは無関係。千年前からのクメソ神話に基づき、またデザインも明らかに異なる。モッフィーの方が目つきが悪い』という当局の苦しい主張も、かえってネットの爆笑と炎上を加速。
『モッフィーwww クメソの民度、腹痛えwww!』
と大ウケし、ネット上には「目つきの悪いモッフィーがソフトクリームを投げ散らしながら、保健所や警察の追跡から逃走するイラストや動画」が爆発的に拡散。
クメソ国内はもちろん、外国のネット雀どもまでが、
『地方のB級マスコットの鑑、モッフィーwww!』
と、国営パチモン遊園地に野次馬として押し寄せ、連日連夜の大賑わいを見せているのだとか。お前ら、どんだけヒマなんだ!
まあ、純粋なファンであろうと、からかい半分の野次馬であろうと、お金を落としていってくれるならみんな良い客だとタン・シャオピンが略!
だが……私が演じたモッフィーが権利を侵害しているかもしれないという事実は、元祖ミシフィーを心から愛する私としては少々心が痛む。
いま験担ぎで愛用しているミシフィー下着や、ミシフィー弁当箱、ミシフィーのトートバッグも、そのうちお国のために「モッフィーブランド」へ買い替えなければならないのか……?
クルツ司令の命令は、また私がモッフィーをこの世に降臨させよとのことだった。
「また屋台で……着ぐるみですか? 着ぐるみなら、正規のプロのスーツアクターがいるはずではありませんか!?」
「首相の肝いりでな。初代スーツアクターのカーニャ大尉に、爆発的人気を巻き起こした『現場の底力』を再び見せてほしいそうだ。更には王族の方々も大変ご執心でね」
「人気の理由は放送事故の食品衛生無視ですがね……。首相に王族のご指名じゃ、逃げられねえ……」
私のその場の「着ぐるみはどう?」出任せジョークが「モッフィー」を誕生させ、クルツ司令、サヴィツキィ、果ては首相や王族まで動かし、一夜限りのイベントどころか国家プロジェクトにまで成長、どんどん取り返しのつかない大ごとになっている。
しかしブラックコメディの優秀な俳優であり、同時に特等席の観客でもある私は、この舞台(?)の大役も半笑いを浮かべながら謹んでお受けいたしましたよ。前世の氷河期社畜の過労死魂そのままに、この世でも死ぬまで前のめりで転がり続ける所存であります!
◆ ◆ ◆
以降、私は軍務の傍ら、当日までイベント参加の準備に追われた。表現すると「いつも通り」、別の言い方をすると「過酷な」、別の言い方では「滅多にできない体験の上、給料までもらえる!(サビ残で無給時間があるのもネタのうち!)」……ってエッセンシャルの労働環境はカイゼンで少しは楽になったはずだったのに、猛烈な揺り返しが来たな。
しかし、いざイベントが始まってしまえば、我々コメディアンは(?)無情な世界に対して生き生きと牙を剥く。
『モッフィーにはうさぎの通常形態と、装甲歩兵に変身する大魔神モードがある』
……などと、公式・非公式の設定がどんどん増量されていく中で、森の動物たちを模した着ぐるみや、装甲歩兵を模した「変身後の仲間たち」の装甲歩兵着ぐるみとともに、「モッフィー」はパレードの先頭を練り歩く。
兵器に変身するウサギのマスコットとは随分と物騒な代物だが、私が睡眠不足のエンドルフィンとアドレナリンをぶち込んだキレッキレのパントマイムで踊り、手を振り、愛嬌を振りまくと、ソフトクリームを掲げてからかい半分だった観客たちも、次第にその圧倒的な燃え尽きる前の命の火花…ではなくモッフィーが憑依したかのような熱いプロ意識の炎に呑まれ、割れんばかりの歓声と笑顔が広がり始める。
小さな子供たちから親御さん、大きなお友達までの弾ける笑顔と大歓声。
『『『モッフィーっ!!!!!』』』
……ふっ、勝ったな!
私は日常の思考を遮断し、「モッフィーモード」へと深く没入している。裏コード・ビーストモードのようなものだ。
私はウサギ、ウサギは私、私はモッフィー!
皆の笑顔を作り出し、受け取り、さらに何倍にもして返すうさぎ大魔神もふもふモッフィーの永久機関が現出するのだ!
◆ ◆ ◆
パレードが片付いて園内を周り、ふと見れば、ルイスとウッズマンがねじり鉢巻きをして「クエルト星名物・砂シャコの焼き串」屋台を担当していた。ウッズマンはともかく、ルイスは黙々と働きながら冷静に「ざまアポイント」を勘定する地獄の閻魔のような男だが、私の部下でもある。クエルト星との民間外交の架け橋にもなろう。
モッフィー(私)はすかさずキレのあるジェスチャーで砂シャコ串の宣伝に割って入る。くるくると踊るように屋台周りの空間を渡り歩きながら、試食分を老若男女にオーバージェスチャーで配り手渡してゆく。「こんな美味いものを!(正体が化け物じみてグロテスクだからと言って、食べず嫌いは損だぞ)」というくらい、味は悪くないのだ。どんどんと、はけてゆく。
何故か、情報屋のジスカール・デ・スタソの奴が、若い恋人のリタとお揃いの「モッフィーのうさ耳カチューシャ」を頭につけ、砂シャコ串を美味そうに頬張って、仲良く通り過ぎていった。
あの、元ゲリラで元仲間を売り歩いていた裏社会の男がなあ……なんと平和な光景か。
続いて、サヴィツキィとセシリアが、私服姿の渋い中年男性と小さな女の子を案内しながら歩いてくる。
女の子がモッフィー(私)にトコトコと駆け寄り、ぎゅっと抱きついてきたので、抱き上げて大サービス。一緒に記念写真をパチリ。大喜びの笑顔、私が破壊ではなくこれを作っているのだ。おお、なんと素晴らしいことか!
私服の中年男性が私に向かって笑顔で「これが人生さ」とでも言うように肩をすくめ、サヴィツキィがニヤリと口元を緩めて親指を立ててグッジョブサインをしてみせた。
その男性の面影は……かつて敵方の凄腕戦闘機乗りだったガリー・マクレガーによく似ていた。
そういえば、だいぶ前にマクレガーは敵方の航空部隊から身を引き、戦闘機乗りから引退したと聞いている。奴が命を懸けて戦っていた最大の理由は、重病を患う娘アリスちゃんの高額な治療費を稼ぐためだった。
さようなら、マクレガーによく似た私服の中年男性と、すっかり元気になったアリスちゃん(仮名)!
◆ ◆ ◆
そして──広場の片隅では、射的屋台の前に凄まじい大行列と怒号が発生していた。
「倒れないぞ!」「全然当たらない!」「これイカサマのぼったくりじゃないのか!?」
デジャヴだ!
基地解放デイでもこんなことがあった。
フランコに酷似した型落ち家電みたいな男が客と喧嘩している。
隣ではジョルジョに似たスピーカーが、クマのぬいぐるみを狙う子供に対し、頼んでもいない「動物狩猟における風向きと弾道のウンチク、失血で死ぬまでの時間と逆襲のリスク」を延々と垂れ流して親子連れにドン引きされていた。……殴って直す、いや、止めさせる。
「どうなっている?」
私は尋ねる。
「お聞きの通りですよ」
「問題は?」
「接客対応以外にはありません。子どもたちが当てられないだけです。(……喜んでもらえるよう、採算度外視で、標的は思い切り倒れやすく配置してあるのですがね)」
サロ・サリアが私の耳元で冷静に囁く。
標的を見れば、確かに少しの振動で転がるような絶妙なバランスで置いてある。言葉通りだ。
仕方ない、元祖モッフィーによる射的の模範演技を見せてやるとしよう!
モッフィー(私)はコルク銃を手に取り、軽く試射。銃の癖と弾道のズレを一瞬で把握する。
狙いを定め、呼吸を完全に整え、そっと引き金を絞り込む──
──パシッ! パシッ! パシッ!
ウサギのモッフィーが繰り出す連続射撃。標的が次々と爽快に倒れ、床へ転がり落ちていく。今の私はモッフィーでまさにゾーン、何かの憑依した神技かな!
「は~い、当たりだよ~っ!」
私は子供番組のお姉さんのようにハイテンションで手を振り、クルリと踊り、全身で喜びを表現しながら、打ち倒した高額の賞品たちを子供たちへ手際よく配っていく。
湧き上がる大歓声! 圧倒的サービス精神で押し切る!
「良いですねぇ! 俺もガキの頃、こうやって当てて景品が欲しかったんですよ!」
……ほんの数秒、目を離した隙だった。
子供たちに混じって持ち場を離れて並んでいたフランコの奴が──コルク銃を構えて……おい、まさか!?
「わーお、やったぜ!!」
特賞の「装甲歩兵・超合金フィギュア」を見事にブチ当てて倒しやがった。
『ずる~い!』『おじさん、店の人じゃん!』『大人のくせにー!』
子供たちの悲痛な叫びと激しい大ブーイング。阿呆か貴様は!
私は即座にフランコの頭を引っ叩いて超合金を取り上げ、棚へ再配置。熱く狙っていた男の子が見事に射止め、大喜びで手に取った。
「ああっ!? 俺のマシンがぁぁぁ!!」
フランコの情けない悲鳴が響く。いや、貴様はあとで自費で売店で買いやがれ!
◆ ◆ ◆
そんな騒ぎの中で、屋台広場に管弦楽団と合唱団が静かに入場してきた。
ピアノの前に腰掛けた、銀髪で長身の筋肉質美女。彼女たちは、ナメルキャが不当に侵略・占領した中立宙域の「独立自治回復」を訴える楽団らしい。
そのピアニストの女性は、かつて捕虜収容所で暗殺……あるいは事故死したとされるスーパー・ソルジャー『ラーダ・ラディノワ』に恐ろしいほど激似していた。もっとも、本物のラーダは金髪だったはずだから、ただの他人の空似に違いない、そうにチガイナイナー(機械的音声)。
合唱団のメンバーを見渡せば、どこか見覚えのある筋肉質な曹長にそっくりな男や、かつての捕虜たちに酷似した男たちがズラリと並んでいる。
何曲か哀愁漂う楽曲が演奏・合唱が披露され、サヴィツキィがステージの進行を手伝って何か囁いたその時──ピアニストの女性がチラリとモッフィー(私)を見つめ、静かに親指を立ててみせた。
曹長に似た男が前へ進み出で、朗々としたバリトンソロで歌い始める。
──おお、歓喜よ!
体格のいい合唱団の歌声が重なっていく。
──歓喜よ! 美しい神の光よ、楽園の乙女たちよ!
あなたの魔力は、時代が残酷に引き裂いた我らを再び一つに結び合わせる。あなたの柔らかな翼の下で、人々は皆、兄弟姉妹となるのだ……!!
……それは。
かつて出撃直前の日々に、私がラーダと曹長に教えて口ずさんで見せた、前世のルドヴィヒ某とフリードリヒ某の詩による「第九」の、即興パチモン(うろ覚え版)だった。
力強く、そしてどこまでも優しく包み込むような歌声が広場を満たし、響いてゆき、周囲の喧騒が嘘のように静まり返ってゆく。
合唱団が互いに手を取り合い、肩を組む。
やがてクライマックスのサビを迎える頃には、歌を聴いていた観客たちも、隣の知らない誰かと自然に肩を組み、一緒に歌を口ずさみ始めていた。
──抱き合おう、数百万の人々よ!
この口づけを全世界へ! 全世界へ!
──兄弟姉妹よ! あの星空の彼方、愛する父が必ずや住まい給う……!
歓喜よ、歓喜よ! 美しい神の火花よ!!
某ハインラインの某機動歩兵物語を締めるロジャー・ヤングへ捧げる言葉ではないが……全ナメルキャから押し寄せた野次馬たちの前で、そして全ナメルキャへ向けて中継される衛星放送で響くこの「歓喜の歌」は、決して悪くないはずだ。
合唱が終わり、広場全体が深い深い感動の余韻で静まり返っている。
ピアニストの女性が、セシリアが、サヴィツキィが、じっと私を見つめていた。
私、モッフィーは静かに歩み寄り、ステージの前へ立つ。
熱い視線が集中する中、私は着ぐるみの中から、万感の想いを込めて叫んだ。
「ブラーヴォッ!!!!!」
◆ ◆ ◆
後日談。
衛星生放送は大成功を収めたらしい。
そして余談として、本家ミシフィーの版元から、なぜか『モッフィーとのコラボ』のオファーが届いて私は頭を抱えた。私の出まかせ社畜ジョークはどこまで転がってゆくんだ?_
更にはネット上に新たな公式(?)設定が爆発的に広まることとなった。
『モッフィーは、ソフトクリームと、クエルトの砂シャコ焼き串が大好物! 凄腕の肉食ウサギで、砂シャコは銃でヘッドショットして倒し、生意気な兵隊はワンパンチでKOする。カラオケの十八番は【歓喜の歌】らしい』
……お前ら、どれだけヒマなんだ!!
(完)
【テイヘンズ補足小事典】
● モッフィーランド
偽ディズニーランドのような、国営の……なテーマパーク。
前世のミッ◯ィーに酷似した、ナメルキャ星の「ミシフィー」……に酷似させたパチモンマスコット「モッフィー」が主役。
例えるなら『ウルト◯マンと偽ウルト◯マン』のような関係であり、公式主張によれば「ミシフィーより目つきが(圧倒的に)悪いのがモッフィー」とのこと。
● 滅多にできない体験の上、給料までもらえる!
限界まで削り倒された極少数のベテラン職員が、記録上だけホワイト労働(※実態は月間400時間超えのサビ残)に偽装しつつ、現場に初めて入った言葉も通じない外人派遣にその場でやり方を教えて作り上げた「部外者による初めての仕事」の突貫工事なクオリティに対し、朝礼で「お客様にとっては君たちはプロなんだぞ! こんな出来で恥ずかしくないのか! 誇りを持ってしっかりやらんか!」と吠えるように怒鳴り散らす「責任者のようなもの」や「経営者のようなもの」を目の当たりにできる社会派コメディ。
なお、給料が最低賃金ギリギリだった場合、繁忙期実質月400時間オーバー(例えば440時間労働等)で無給残業を重ねているため、時給計算すると実質最低賃金を大幅に割り込んでいる可能性も……?
「滅多にできない体験」と書きましたが、スリム化(笑)を推し進めた現代組織では、日本でも外国でもごくありふれた平常運転なのかもしれません。
● 中立宙域の「独立自治回復」を訴える楽団
サヴィツキィの手回しにより、事故死を偽装して身元を完全にクレンジング(ロンダリング)したラーダ、曹長、そして元・捕虜たちの有志。ある種の「第二の人生(転生)」である。
かつて大正時代の日本で、徳島県の板東俘虜収容所にいたドイツ人捕虜たちが「第九」を日本初演奏して全国へ広めていった史実のように──かつて捕虜であった彼ら・彼女らが、このクメソの世界で「即興パチモン第九(歓喜の歌)」を広めていくこととなる。