勇者より儲かる商売がある ~ステータス測定器で世界市場を制した商人の話~   作:スコップ売りの少女

9 / 9
最終話 勇者より儲かる商売がある

「ロイド」

「何だ」

「そろそろ出陣の時間です」

「出陣って言い方やめろ、商会の会長室で言う単語じゃねえだろ」

 

 王都中央広場は、もはや戦場というより“出荷拠点”の様相を呈していた。

 

 鎧を着た勇者たちが整列し、魔導士たちが最終確認を行い、神官たちが祝福を与え、その全員の手には例外なくステータス宝珠か冒険者カードが握られているという、もはや世界の終末とは思えないほど整然とした商業的光景が広がっている。

 

「行ってくる!」

「魔王を倒す!」

「世界を救う!」

 

 勇者たちの声が重なり、地鳴りのように広場を揺らす中で、ロイドはその光景を少し離れた場所から眺めていた。

 

「なあガイアス」

「はい」

「一応聞くが」

「はい」

「応援くらいはしてるんだよな?」

 

 ガイアスは一瞬だけ間を置き、それからいつもの調子で淡々と答えた。

 

「していますよ」

「どこがだ」

「彼らのおかげで今の私がありますから」

 

 ロイドはその言葉に一瞬だけ言葉を失い、視線を勇者たちへ戻した。

 

 そこには、かつて自分が憧れた“英雄”の姿があったはずなのに、今見えているのは、ステータスを更新しながら出荷されていく巨大な市場の構成要素だった。

 

「……そうか」

 

 珍しく、それ以上は何も言わなかった。

 

 鐘が鳴る。

 歓声が上がる。

 勇者たちが一斉に進軍を開始する。

 その列の長さは、もはや軍隊というより物流だった。

 

「ロイド」

「何だ」

「勇者が増えれば測定器も売れますし」

「やっぱりそれか」

 

 即座に現実へ引き戻される。

 ロイドは額を押さえた。

 

「お前さ、一回くらい純粋に応援できねえのか?」

「応援しています」

「その目で言うな」

 

 ガイアスは続ける。

 

「彼らが戦えば戦うほど、ステータスは更新され、未知のスキルが発見され、隠しパラメータが解放され、そして新しい測定器が必要になります」

「最低だな」

「最高です」

 

 ロイドはため息をついた。

 

「なあ」

「はい」

「もし魔王が勝ったらどうする」

 

 ガイアスは一切の迷いなく答えた。

 

「魔王軍向け市場を開拓します」

「帰れ」

「すでに魔界支店はあります」

「帰れって言ってるだろ!」

 

 広場の向こうで、勇者たちの姿が小さくなっていく。

 あれは世界を救うための行軍であり、同時に次の需要の発生でもある。

 

 その事実に気づいているのは、おそらくこの男だけだった。

 

「なあガイアス」

「はい」

「お前さ」

「はい」

「結局これ、何の話だったんだと思う?」

 

 ガイアスは少し考えたあと、いつものように答えた。

 

「勇者より儲かる商売の話です」

 

 ロイドは空を見上げた。

 

「……だよな」

 

 そして小さく笑った。

 呆れなのか諦めなのか、自分でも分からないまま。

 

 鐘の音は遠ざかり、勇者たちは魔王へ向かって消えていく。

 世界は救われるかもしれないし、救われないかもしれない。

 

 だがどちらにせよ――

 

「ロイド」

「何だ」

「次の新商品、もう決まっています」

「言うな」

 

「“魔王討伐記念モデル”です」

「言うなって言ってるだろ!」

 

 王都にロイドの叫びが響く。

 その横でガイアスは静かに微笑みながら、次の市場の計算を始めていた。

 

 勇者は世界を救う。

 魔王は世界を脅かす。

 

 そしてガイアスは、そのどちらからも利益を出す。

 

 ――勇者より儲かる商売がある。

 

 その答えは、最初からずっと変わっていなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【完結】能力が〈生体改造〉だから能力作って売ることにした(作者:弐哉)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

転生者のアドルムが持って生まれたのは〈生体改造〉という、生物の身体を自由に作り変えることができる能力だった。▼〈生体改造〉で出来ることは多い。▼身体能力の調整。▼治療では治せないような傷の再生。▼ギフトの付与。▼魔具擬きの作製。▼アドルムは仕事を兼ねた趣味として〈生体改造〉を使った店をやろうと考える。▼手伝ってくれる仲間は、幼馴染の探索者セルネ。▼店の名前は…


総合評価:1416/評価:7.53/完結:41話/更新日時:2026年06月28日(日) 17:20 小説情報

流行らせたいので縛りプレイをしようと思います。(作者:正体不明の筆者A)(原作:痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。)

桜井早苗は考えていた。縛りプレイの人口を増やしたいと。桜井早苗は考えていた。新作ゲームで縛りプレイをして目立てば、きっとやってくれる人が増えるんじゃ無いかと。▼だが桜井早苗は気がついていなかった。自分が如何にイカれた存在かという事を。そんな彼女がNWOでうっかり無双してしまう話。運営の明日と胃痛はどうなってしまうのか。え、もう終わり?それはそう(諦め)


総合評価:440/評価:8.82/未完:28話/更新日時:2026年05月27日(水) 13:00 小説情報

「私で童貞捨てたくせに」と学園美少女四天王から言われてるんですが、まったく記憶にございません。(作者:会澤迅一)(オリジナル現代/恋愛)

高2男子の俺は、目を覚ますと一週間分の記憶が消えていることに気付いた。▼部屋には幼なじみがいる。▼中学に入ってからずっと不仲だったのに、なぜ?▼「私で童貞捨てたくせに、記憶がないなんて言わせないから!」▼教室に着くと、隣の席のギャルが笑いかけてくる。今まで一度も会話したこと無いのに、なぜ?▼「私で童貞捨てたくせに、陰キャのまんまじゃん」▼放課後、後輩の文学少…


総合評価:1334/評価:7.97/完結:142話/更新日時:2026年06月25日(木) 17:04 小説情報

感覚のないTSクローンはデスゲームの才能があったみたいです。(作者:ねこスマ)(オリジナル現代/冒険・バトル)

「痛感とか感じない人がデスゲームにいたら強いと思いませんか」▼六道希望は借金に追われ、クローン体となり金持ちの娯楽となるデスゲームに参加する。▼賞金の使い道が予想以上に多く、楽しいデスゲーム生活を満喫することに!▼ ▼ 


総合評価:479/評価:7.76/連載:13話/更新日時:2026年06月06日(土) 05:45 小説情報

同人ゲーに転生したけど、肝心の主人公が死んだ(作者:自分探しの旅袋)(オリジナル現代/恋愛)

ハーレム♡スクールライフ▼ ▼有名な商業作品ではなく、個人の同人サークルから販売されていたエロゲ-▼特に、そこの同人サークルに詳しいわけでもないし、購入したのも社会人になる前だった。▼イラストが綺麗、評価が良い、エロい 多分当時の自分が買った時の理由は、そんなありふれた理由だった。▼ ▼何の因果か、そんな世界に転生した。▼※カクヨムでも掲載開始


総合評価:357/評価:6.57/連載:34話/更新日時:2026年06月27日(土) 19:19 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>