勇者より儲かる商売がある ~ステータス測定器で世界市場を制した商人の話~   作:スコップ売りの少女

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最終話 勇者より儲かる商売がある

「ロイド」

「何だ」

「そろそろ出陣の時間です」

「出陣って言い方やめろ、商会の会長室で言う単語じゃねえだろ」

 

 王都中央広場は、もはや戦場というより“出荷拠点”の様相を呈していた。

 

 鎧を着た勇者たちが整列し、魔導士たちが最終確認を行い、神官たちが祝福を与え、その全員の手には例外なくステータス宝珠か冒険者カードが握られているという、もはや世界の終末とは思えないほど整然とした商業的光景が広がっている。

 

「行ってくる!」

「魔王を倒す!」

「世界を救う!」

 

 勇者たちの声が重なり、地鳴りのように広場を揺らす中で、ロイドはその光景を少し離れた場所から眺めていた。

 

「なあガイアス」

「はい」

「一応聞くが」

「はい」

「応援くらいはしてるんだよな?」

 

 ガイアスは一瞬だけ間を置き、それからいつもの調子で淡々と答えた。

 

「していますよ」

「どこがだ」

「彼らのおかげで今の私がありますから」

 

 ロイドはその言葉に一瞬だけ言葉を失い、視線を勇者たちへ戻した。

 

 そこには、かつて自分が憧れた“英雄”の姿があったはずなのに、今見えているのは、ステータスを更新しながら出荷されていく巨大な市場の構成要素だった。

 

「……そうか」

 

 珍しく、それ以上は何も言わなかった。

 

 鐘が鳴る。

 歓声が上がる。

 勇者たちが一斉に進軍を開始する。

 その列の長さは、もはや軍隊というより物流だった。

 

「ロイド」

「何だ」

「勇者が増えれば測定器も売れますし」

「やっぱりそれか」

 

 即座に現実へ引き戻される。

 ロイドは額を押さえた。

 

「お前さ、一回くらい純粋に応援できねえのか?」

「応援しています」

「その目で言うな」

 

 ガイアスは続ける。

 

「彼らが戦えば戦うほど、ステータスは更新され、未知のスキルが発見され、隠しパラメータが解放され、そして新しい測定器が必要になります」

「最低だな」

「最高です」

 

 ロイドはため息をついた。

 

「なあ」

「はい」

「もし魔王が勝ったらどうする」

 

 ガイアスは一切の迷いなく答えた。

 

「魔王軍向け市場を開拓します」

「帰れ」

「すでに魔界支店はあります」

「帰れって言ってるだろ!」

 

 広場の向こうで、勇者たちの姿が小さくなっていく。

 あれは世界を救うための行軍であり、同時に次の需要の発生でもある。

 

 その事実に気づいているのは、おそらくこの男だけだった。

 

「なあガイアス」

「はい」

「お前さ」

「はい」

「結局これ、何の話だったんだと思う?」

 

 ガイアスは少し考えたあと、いつものように答えた。

 

「勇者より儲かる商売の話です」

 

 ロイドは空を見上げた。

 

「……だよな」

 

 そして小さく笑った。

 呆れなのか諦めなのか、自分でも分からないまま。

 

 鐘の音は遠ざかり、勇者たちは魔王へ向かって消えていく。

 世界は救われるかもしれないし、救われないかもしれない。

 

 だがどちらにせよ――

 

「ロイド」

「何だ」

「次の新商品、もう決まっています」

「言うな」

 

「“魔王討伐記念モデル”です」

「言うなって言ってるだろ!」

 

 王都にロイドの叫びが響く。

 その横でガイアスは静かに微笑みながら、次の市場の計算を始めていた。

 

 勇者は世界を救う。

 魔王は世界を脅かす。

 

 そしてガイアスは、そのどちらからも利益を出す。

 

 ――勇者より儲かる商売がある。

 

 その答えは、最初からずっと変わっていなかった。

 

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