それから私たちはピノコニーのほとんどの場所を回った。
だと言うのに、夢ならではの壮大な景色も、なんでもない日常も、私には何も与えてくれない。
私には何も感じられない。
とはいえ、この世界を責めることなんて誰にもできない。
ここでは私を除いて、誰もが夢を楽しんでいた。誰もが夢を語り、夢を追い、夢に溺れていた。
夢を見れていないのは私だけ。
私一人だけがここに居なかった。それはとても悲しい...こともなく、それすらも私には何も感じない。
もし悲しいと思う人がいるとすれば、それはここでの私の体験を夢の泡で見た人だろう。記憶の泡なんて残してはいないけど。
「なーに考えてんの、ソラ?」
気が付けばベルが私の方に振り返って私の顔を覗き込んでいた。
「ベルが色々と見せてくれたのに、私は何も感じられなかったから...」
「そんなに気負う必要はないわよ。だって最初からダメ元みたいなものだったし。」
「......そうなの?」
あまりにもサラッと言ったせいで、最初は何を言っているのかを理解するのに少し時間が必要だったが、何とか言葉を返した。
「こんなので簡単に自滅者が感情を取り戻せるのなら、混沌医師なんて生まれないわよ。」
混沌医師。虚無に飲まれた自滅者を救う信念を持つ集団だったか...
「確かに...」
「だから気負わなくていいのよ。ソラは私に着いてきて色々と体験すればいいの。」
「うん、分かった。」
「...とはいえ、ここでやりたいことももう無いし、潮時かしらね。次の星に行きましょ。まだまだ当てはあるんだから。」
私たちは黄金の刻に戻ってくると、遠くに見える夢境内のホテルレバリーに向かって歩き出した。
...そういえば、夢境から外に出るのってどうすればいいんだろうか。ベルは迷いなく歩いているから分かっているっぽいけど...
ホテルの中を歩いて、エレベーターで登り続けて、やがてホテルレバリー内にある私たちの部屋へとたどり着いた。
鍵がかかっていないらしい扉を開けて中に入っていったベルは、部屋の中に浮き上がる家具を邪魔そうにどかしながらそのまま部屋の奥を陣取るドリームプールへと歩いていくと、プールの中に寝転んだ。
「ほら、ソラも早く来なさい。また私を待たせないでよ?」
そう促されて私も急いでプールの中に入る。
またここで寝れば出られるのか。
プールに寝転んだ瞬間、この世界に入ってきた時と同じように急激に眠気が襲ってきた。
その眠気に抗うことなく私は夢の世界へと旅立って行った。
...いや、夢の世界から旅立つ、が正解か?
目を覚ますとさっき最後に見た景色とは少し違った、すこし小さくなった部屋と浮き上がっていない家具が私を出迎えてくれた。隣を見るとベルがまだ眠っていた。
「...ちゃんと戻ってこれた。」
思わずそうこぼした。これまでの経験からもしかしたらまたあの黒い世界に連れていかれるかも、だなんて思っていたから。
そんなことを考えながらプールから立ち上がって自分の体を見る。
さっきまでずっとプールに張られた薄く光る水のような液体に浸かっていたから濡れているかも、と思ったのだが、どうやらそんなことはないらしい。
服の隙間に液体が入り込んでいる様子すらないのはどういう原理なのだろうか?
「ふぁ...ずっと寝てたはずなのに寝た感じはしないわね。まあ頭働かせてはいたから当たり前なんだろうけど。」
いつの間にか起き上がっていたベルが欠伸を噛み殺しながら言った。
ホテルでチェックアウトをした私たちはホテルの外へと出て、ベルの宇宙船を置いていた場所へと歩いていた。
「宴の星...夢の世界という名前の通りだったわね。
...良くも悪くも。」
「ベルはあんまり楽しめなかった?」
「私は充分楽しんだわよ。なかなかいい経験だったわ。夢の世界ならではのね。
...問題はソラの方よ。結局ソラは楽しめてなかったでしょ?」
「私は別に...ベルが楽しめたのならそれでいいと思う。」
「私の...私たちの目的は、ソラの感情を復活させることよ。それが叶わないのなら結局意味ないわよ。」
そんなことを話しながら歩いていると、突然ベルが振り向いたと思うと私を突き飛ばした。
その瞬間、私の元に突っ込んできた影が、ベルの脚とぶつかり衝撃波を生み出した。
「ちっ...!邪魔しやがって!てめぇも愚者かぁ?」
「見ての通りよ。"愚者にすらなれなかった塵芥"さん?」
ベルと相対した襲撃者をよく見てみると、先日見た夢の泡の中で蹲っていた男によく似ているような気がした。
ベルの発言的にもその人なんだろうか?
ベルは構えを取ると襲撃者に向かって突っ込んで行った。
どうやらベルはかなり強いらしい。
確か前にも壊滅の行人と戦ったことがあると言っていたか。それも納得だ。
結果から言うと勝負は一瞬で着いた。襲撃者に飛び込んで行ったベルは、相手のガードをお構い無しにその上から拳を叩きつけたかと思うと襲撃者はホテルレバリーの方に吹き飛んでいき、轟音と共に壁に叩きつけられたのだった。
今は音を聞いてホテルから出てきたハウンド家(警備担当の人たちらしい)の責任者だと言う人が色々とベルに話を聞いていた。
どうやらいつの間にか逃げ出していたあの襲撃者が私たちに襲いかかったらしい。襲撃者は現在縛られたまま気絶しているため目的はまだ不明との事だった。
「ベル、大丈夫?」
「えぇもちろん。ソラこそ大丈夫?突き飛ばしちゃってごめんなさいね。」
「ううん、特にケガもないから。...ベルって強いんだね。」
「別に私はただの行人だし普通よ。それにあんな塵芥に負けたんじゃ、愚者は名乗れないわ。」
そうは言うが私は戦えない。仮面を持ってはいても、私にはまだ仮面の愚者を名乗る資格は無いのだろうか...
なんてことを考えながらふと周りを見てみると、さっきまで縛られていたはずの襲撃者が居なくなっていた。
(あれ、どこかに連れていかれたのかな?)
と呑気なことを考えた瞬間、私はグイッと引っ張られる感覚を覚えたと思うと唐突に全身を衝撃が襲ってきた。
突然の衝撃に、思わず苦悶の声を漏らしながら見上げると、さっきまで縛られていたはずの男が、今度は仮面を被って私の首を掴んみ、いつの間にやら持っていた刃物を私に突きつけたままベルを睨みつけていた。
「動くな!動いたらコイツを殺す!動くと俺が判断しても殺すぞ!」
「...チッ!!」
乱暴に舌打ちを零したベルが構えを解きながら周りにいる警備員を手で制していた。
「...なるほどね、剥ぎ取られた狂気は仮面に紐づいていたものだったの。本人の狂気を除いたところで意味はなかったってわけね。」
「星神に届く狂気が調和の力なんかで消えると思うか?てめぇも愚者なら分かんだろ。」
「どうかしらね?愉悦が調和の力と拮抗するのかは試してみないと分からないし、そもそもあなたの
「黙れ!俺の狂気は必ず其に届く!其は俺を認めてくれることだろう!」
そうやって話している間もずっと私は首を掴まれ、刃物を向けられていた。それのせいかベルも動こうにも動けない様子だった。
「それで?あなたの狙いはソラみたいだけど、その子になんの用があるのかしら?」
「コイツから燻っている愉悦の力を感じたのさ。それを渡してもらおうか。」
あぁ、つまりこの人は私が持っているあの無表情の仮面が欲しいのか?
私は懐から仮面を取り出すとそれを渡す。
「おぉ、これが愉悦の種...見事芽吹かせれば使令に匹敵する力を得られるという...!」
そう言いながらも視線はベルに固定されたままで相変わらず私の首には刃物が突きつけられている。
襲撃者は私の首を掴んでいた腕を離すと私から無表情の仮面を奪いとった。
ゾワッ
その瞬間、正体不明の悪寒とともにさっきまで仮面を持っていた右手から真っ黒な霧のようなものが漏れだした。
「わっ!」
突然の出来事に思わず、私は右手に纏わりついた霧を払おうと手を振り回す。それでも右手の霧は消えることなく、周囲の空間に広がるばかりだ。
そうして広がった霧は、指向性を持ったように集まり...
「...あ?」
私の背後にいる襲撃者を飲み込んだ。そのまま霧は瞬く間に周囲に広がっていく。
瞬く間に私は全身を霧に包まれてしまい、周囲の様子が一切分からなくなった。
「────!!」「──!───...──!」
何やら遠くから叫び声の様なものが聞こえてくるが、私を包む霧がザワザワと雑音を撒き散らしているため何を言っているのかは全く分からなかった。
そんな中でも...
「ソラ!!」
ベルの声が、聞こえてきた。
私はわけの分からない状況で混乱した中でも、ベルなら何とかしてくれるんじゃないか。そんな期待を抱きながら声の聞こえた方向に手を伸ばす。
「ベ...ル......」
伸ばした手は、どれだけ伸ばしても、どれだけ進んでも届くことはなく、私はそのまま意識を落としてしまうのだった。
静寂の中、目を開けると真っ暗な世界。
またかと思いながら立ち上がって辺りを見渡すと何度か見た光景と何ら変わっていなかった。
はっ、と思い立って右手を見るとそこには見慣れた自分の手がある。あの霧は吹き出していないし、振ってみても特に違和感はなかった。
そのことにほっと息をついた。
あの意味不明な状態が直ったのは一安心ではあるのだが、相も変わらずこの世界は謎だ。
どうやって来たのか、どうやったら出られるのか。
そもそもこの世界はなんなのか。
あるものといえば見上げるほど大きな真っ黒な球体だけだった。
察するに虚無に関係のあるものなのだろうけど...
なにか手がかりがないかと足を踏み出してみると何かを蹴った感覚を覚えた。
蹴るようなものがこの世界にあるのかと疑問を持ちながら足元を見てみると、そこにはアッハから貰った無表情の仮面が落ちていた。
「なんでここに...」
拾い上げて見てみるが、ただの仮面のままだった。
そういえばあの男はこれを求めて襲撃してきたんだったか?
アッハから贈られたものなだけあって、どうやらこの仮面には何かしらの力があるようだ。...私には何も感じられないが。
試しにと被ってみるが、やはりと言うべきか特に何か起こることはなかった。
"〜〜〜♪♪"
そのまま仮面に何かがないかと色々と触っていると、何かの音楽が遠くから聞こえてくる。
その音楽に耳を傾けていると、手に持った仮面の表情が変わっていることに気がついた。
「笑ってる...?」
それを疑問に思い、仮面を被ってみようとした瞬間に突如として襲ってきた強烈な眠気に抗えず、私は意識を沈めてしまうのだった。
皆さん最新ストーリーやりました?
私は気がついた時には涙を流しながら完凸姫子がそこにいました。むっちゃ強くて大満足です。
姫子旅立ちの最適パって何になるんでしょうね?2凸してると列車組以外も相当強く使えるし。
とりあえず今は姫子キュレネ長夜ヒアンシーの記憶パと姫子ケリュドラ花火(うちサンデー居ない)丹恒・騰荒の2つで運用してるけど、他にもいいパーティあるんだろうか?