「誰が座敷わらしか、俺はただの人間だよ!」全員「んなわけあるかッ!!」 作:ティファールは邪道
それは、唐突に訪れた世界の終わりだった…
二〇一三年。三門市の平穏な空が、まるでガラスが割れるように裂けた
出現した幾つもの「黒い穴」――そこから這い出してきたのは、狂気的な機能美を持つ巨大な怪物の群れ、後に『トリオン兵』と呼ばれる異界の尖兵だった
鉄筋コンクリートのビルが紙細工のように押し潰され、アスファルトには赤黒い血が飛び散る…
鼓膜を刺す悲鳴と爆音の中、怪物の群れを冷ややかに見下ろす一人の少年がいた…
「……まさか、
少年は小さく息を吐いた…
その身体からは、常人には視認できない濃密な生命エネルギー――『オーラ』が、陽炎のように立ち上っている
「家事とか、模様替えには便利だったんだけど……」
ぼやきながら、少年は傍らに転がっていた大破した乗用車、そして根元からへし折れた郵便ポストにそっと掌を触れさせた
その瞬間、少年のオーラが物質へと流れ込む…
自重を無視するようにふわりと浮き上がった鉄の塊が、空気を切り裂く爆音とともに、突進してきたカマキリ型の怪物(後のバムスター)へと射出された
――轟音
直撃した鉄塊が怪物の巨体を容赦なく圧殺し、肉とも機械ともつかない不気味な破片を周囲に撒き散らす
「……ふむ。さっき本気で投げたやつを受けても平然としてるのがいたから、機械の類か、あるいはこっちの常識が通用しない化け物かと思ったけど……後者みたいだな」
破壊された怪物の断面を覗き込む
機械的な回路は見当たらず、未知の物質が詰まっているだけだ
その背後から、もう一匹の怪物が鋭利な鎌を振り上げ、少年の首を刈り取ろうと音もなく肉薄する
だが、少年は振り返りさえしない。ただ、背後へ向けてそっと右手をかざす
――凝(ギョウ)
少年の視界には、怪物の全身を巡る、トリオンと呼ばれる未知のエネルギーの流れが見えていた。その供給源である「顔」にあたる部分へ、目に見えないオーラの弾丸を撃ち込む
ーボグンッ!!
鈍い音と共に、怪物の頭部にある目のような部分に拳大の風穴が開き、その巨体は糸が切れた人形のように崩れ落ちた…
「んで、オーラ単体による破壊は可能。……でも、生身のオーラだけをぶつけると、結構燃費が悪いな。一定以上の速さや重さ……っていうより、物理的な運動エネルギーを付与してぶつけた方が、効率よく壊せるか?……いや」
次々と押し寄せる怪物の爪を、紙一重の体捌きで避ける。避けきれない広範囲の薙ぎ払いは、周囲の瓦礫を盾にして受け止めるが、激しい衝撃に瓦礫が粉々に砕け散ってしまう…
「実戦は初めてだ。へたをしたら返り討ちに遭う可能性がある。ここは逃げるのを優先した方が賢明か」
そう結論を出した少年は、追撃の手を緩めない怪物たちを前に、両掌を胸の前で力強く打ち合わせた
――パァンッ!!
乾いた破裂音が響いた瞬間、少年の姿は、そこにあった空気ごと完全に掻き消えた
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~???視点~
「姉さぁぁああん!!!」
喉がちぎれるほどに叫んでいた
視界の全てが真っ赤な炎に包まれ、あちこちから肉を裂かれる音と絶望の悲鳴が聞こえる
姉の手を握りしめ、がむしゃらに走り回った
この地獄と化した街から抜け出そうとした矢先、目の前に現れたのは、巨大で白い、悪魔のような怪物だった…
立ち向かった大人たちが、一瞬で鋭利な爪に切り裂かれ、その強靭な顎で頭骨を噛み砕かれるのを目の当たりにした
硝煙の臭いに、濃厚な生血の臭いが混ざり合う
気付けば、生き残っているのは自分と姉の二人だけだった
勝てるわけが無い
なんで、なんでこんな事になったんだ
頭が過熱したように狂いそうで、思考が全くまとまらない
走り続けて限界を迎えた足は、とうに感覚を失っていた
ただ、生き延びるために…
姉と一緒に逃げて、走って、転んで、物陰に隠れて――誰かが、警察でも自衛隊でもいい、誰かが助けてくれるのを待っていたのに!
「秀次、逃げて!!」
目の前まで迫っていた怪物の爪から自分を守るため、姉が細い腕で俺の身体を強く突き飛ばした
なんで! なんで!! なんで!!!
今朝までは、いつも通りの日常だったはずだ…
今日も、父さんと母さんと、姉さんと一緒に食卓を囲んで、笑って、くだらない話をして、夜になれば眠る…
そんな、当たり前だった『いつも』が、理不尽に壊されていく
もっと俺が速く走っていれば
もっと俺が周囲に注意していれば、怪物に追いつかれずに済んだのに
何一つできない自分自身の無力さに、胃の底からドロりとした反吐が出る
「ああああああああぁぁぁ!!!!!」
『死』
その一文字が脳裏を完全に支配した
俺の、俺の家族が、世界で一番大切な人が、次の瞬間にはあの無慈悲な爪で引き裂かれる
どうしようもない絶望の中、俺はただ声を枯らして叫ぶことしかできなかった
その、絶望の最中だった
パァァァァァァァァンッッッッ!!!!!!!!!!!!
鼓膜が震えるほどの、鋭い破裂音が響く
「……は?」
怪物の、凶悪な眼球に、何かが突き刺さっていた…
いや、突き刺さったというよりは、内部から激しく『爆ぜた』という表現の方が正しかった
弾丸のような超高速で飛来した「何か」は、まるで大型車が衝突したかのような凄まじい衝撃音を立てて怪物の顔面を粉砕し、その巨体を仰向けにひっくり返したのだ
何が起こったのか、全く分からない…
姉も同様に、命の危機が去った恐怖と安堵で、その場に崩れ落ちて呆然としている…
俺は、その物体が飛んできたであろう背後を、恐る恐る、ゆっくりと振り返った
そこには――
「ふむ、鉄甲作用(てっこうさよう)が効いたってことは、一定以上のエネルギーを込めれば破壊は可能ってことか……」
まるで、怪物を壊せて当たり前とでも言うような、あるいは酷く冷めたゲームでもしているかのような口調…
そこには、片手にホームセンターで売っているような長い釘の束を持った、自分と年のそう、変わらない、下手すれば下回っているように見える少年が立っていた…
「やば、ラチェット今ので最後じゃん…もう少し拝借すべきだったかな?……あ、大丈夫ですか?」
少年は俺たちの視線に気づくと、ハッとしたように表情を和らげ、怪物のいない方向を指差した
「ええと、あっち側に臨時の避難場所があるから、そっちに向かってください。道中の怪物はだいたい片付けたから、しばらくは大丈夫だと思うので!」
少年が何を言っているのか、脳が追いつかない
彼は手元にある釘に視線を落とし、「次は釘の投擲でやるか。ええと、他に怪物は……」と呟きながら、すでに次の戦場を探して歩き出そうとしていた…
「……あ、待って!!」
絞り出すように声をかけたが、その時にはもう、少年の姿は煙のように掻き消えていた…
~???改め、三輪秀次 視点終わり~
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後に『第一次大規模侵攻』と呼ばれることになる事件…
東三門が壊滅し、異世界からの侵略者『近界民(ネイバー)』の存在が公になったことで、界境防衛機関『ボーダー』が表舞台へと立つきっかけとなった未曾有の災厄…
その激闘の裏で、生還した市民たちの間で、まことしやかに囁かれている奇妙な都市伝説(があった…
――気が付けば、目の前の怪物が跡形もなく叩き潰されていた
――周囲のがらくたが生き物のように動き出し、怪物を拘束していた
――手を叩くような音が響いた瞬間、目の前にいた少年が、忽然と姿を消した
――武器も持たず、素手や瓦礫で怪物を圧倒する子供がいた
これらの目撃談を残した人々は、一様に擦り傷などがあれど大怪我もなく無事に保護されていたことから、絶望に瀕した三門市の人々は、畏怖と感謝を込めてその存在をこう呼んだ
――三門市の『座敷わらし』、と…