「誰が座敷わらしか、俺はただの人間だよ!」全員「んなわけあるかッ!!」 作:ティファールは邪道
第一次侵攻から3年……
様々な企業からの援助により、大きくなったボーダー……
その本部の資料室で、一人の隊員が調べものをしていた……
「……やはり、土曜日を中心に奴の出現数が多く確認されてる……」
広げた資料から確認した彼は、一つの結論に至っていた……
「三門市の座敷わらしは、土曜日の午前中に来る可能性が高い……!!」
次こそ、尻尾をつかんで見せる……!!
そう意気込む彼の名前は、三輪秀次……
三年前のあの日、トリオン兵から姉を救ってくれた人物を探している人物だった……
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三門市の座敷わらし……
三年前の第一次侵攻の時から出始めたその噂は今でも消えずに残っていた…
寧ろ、現在進行形である
「ではこれより、定例会を執り行いたいと思います」
上層部が月に一度集まり互いの進捗や方針を取り決める定例会…
そこで、ある事柄について話し合いが行われていた
「では、進捗についての報告が終わったので本題には入りましょうか…」
会議の進行を勤めていた本部長、忍田が予め配っていた資料を広げそれに倣い皆も広げる…
その資料には、"三門市の座敷わらしについて"とあった……
「今のところ、やはり防衛任務に当たっていた隊員から"既に壊されているトリオン兵"が何体か発見されており、それら全てにトリオン兵のもの以外のトリオン反応無し、更に警戒区域外に侵入していた個体も被害が出る前に破壊されているものもあるとのことです」
そう言いながらスクリーンに破壊されたトリオン兵の画像を見せる…
「その個体の何体かからは近日に行方不明として捜索されていた者もおり、住民からは座敷わらしが助けてくれた……っと推測されているそうです」
その報告に頭を痛そうにするのは、メディア対策室長、根付だ……
「……やれやれ、この『座敷わらし』とやらのせいで、広報部は頭を抱えてるんですよ……?
ネットの掲示板やSNSで『ボーダーに所属してない超能力者がいる』などと根も葉もない噂が流れて、火消しに追われています……
ボーダーの沽券に関わる問題だ」
「広報の都合なぞどうでもいいわ! 問題はその『中身』じゃ! 我々のレーダーにも、現場のトリガーにも、一切のトリオン兵から以外のトリオン反応が残っとらんのだぞ! なのになぜモールモッドの装甲が素手や瓦礫で粉砕される!? トリオンで出来たものはトリオンで出来たもので対抗出来ない、っという我々の常識を無視しとる!」
そう冊子でテーブルを叩きながらがなり声をたてるのは、ボーダー本部開発室長の鬼怒田だ……
何度調べてもトリオン反応がない、っという事実が彼を更に苛立たせていた……
そのとき、外務·営業部長である唐沢が提案を行う……
「しかし鬼怒田さん、結果としてその『座敷わらし』は、出現するたびに一般市民を助けている。現に、第一次侵攻の際にも彼に救われた市民や子供が複数確認されていますし、誘拐未遂にあった住民も助かったといっています……もしこれが『人間』の仕業なら、交渉してボーダーに引き入れる価値はあると思いますが?」
忍田もそれに続く形で言う
「唐沢の言う通り、現時点では明確な敵対意志は見られない。……だが、正体不明の戦力が警戒区域内を我が物顔で歩き回っているのは、防衛部隊の指揮官としては見過ごせない……三輪隊の三輪からも、個人的にこの件を調査したいと書類が上がってきている」
そこまで聞いた最高責任者でもあるボーダー本部指令、城戸が口を開き、話を振る……
「……目的が何であれ、ボーダーの管理下にない『規格外の力』は、三門市の防衛において不確定要素(リスク)でしかない。……迅、お前の『目』には、この座敷わらしの正体はどう映っている?」
話を振られた、迅と呼ばれた青年は、 ぼんち揚を齧りながら、少し真面目な顔になって答える……
「んー……城戸さん、そう睨まないでよ。俺のサイドエフェクトでもね、その『座敷わらし』の未来だけは、妙にモザイクがかかったみたいに見えにくいんだ。ただ……」
少し真面目だった顔が、影を落とす……
「ただ、何だ?」
「近いうちに、ボーダーの誰かがそいつと『接触する未来』は、結構高い確率で出てるよ。……それが良い結果になるか、悪い結果になるかは、そいつと最初に出会う奴次第、ってところかな……?」
迅の言葉に、会議室の空気が一段と重くなる……
城戸は目を僅かに細め、卓上で組んだ指に力を込めた
「未知の能力、そして迅の予知すら狂わせる不確定要素か……これ以上、泳がせておくわけにはいかん
忍田、現場の防衛部隊にこの『座敷わらし』の発見、および身柄の確保を命じろ……抵抗する場合は、ネイバーと同等の脅威とみなし、強制排除も辞さない」
「待ってください、城戸司令」
それまで静かに資料をめくっていた外務部長の唐沢が、手元のペンを弄びながら口を開いた
「強制排除は悪手です。もしそれが人間であり、ボーダーに敵意がないのであれば、穏便に交渉の席につかせるべきだ。トリオン能力を持たない一般層や、スポンサー企業へのアピールとしても、彼を味方に引き入れるメリットは大きい」
「唐沢の言う通りだな。市民を救っている実績がある以上、頭ごなしに敵と決めつけるのは性急に過ぎる」
忍田本部長が頷き、城戸を見据える
「まずは『接触』と『対話』だ。城戸司令、この件の調査、防衛部隊の一つの隊に一任させてはもらえないだろうか?……実は、すでに独自に奴の行動パターンを解析し、捜索願を出している適任者がいる」
「……誰だ」
「A級7位、三輪隊の三輪秀次だ」
それを聞いた上層部全員、城戸の後ろで控えていた高校生程の青年を見つめる……
「彼は3年前の第一次侵攻の際、その『座敷わらし』に直接命を救われた経験がある。誰よりも執念深く、かつ奴の情報を集めている」
忍田の推薦に、城戸はしばし沈黙した。三輪のネイバーに対する激しい憎悪は周知の事実だが、今回の対象でもある座敷わらしは「姉の恩人」でもある……
そんな存在の手がかりを見つけるために資料室を度々訪れているのは周知の事実だった
「……よかろう。三輪隊に『座敷わらし』の捜索、および接触の任務を与える……ただし、対話が不可能と判断した場合は即座に本部に報告するように」
「!……はい」
背後の三輪に伝える城戸と、それを聞いて顔を引き締める三輪……
会議はそのまま締めくくられ、重苦しい足音とともに幹部たちが退室していった
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会議室を出て、静まり返った廊下を歩く迅悠一の口元には、いつもの飄々とした笑みが消えていた
彼は懐からぼんち揚の袋を取り出すと、一枚口に放り込み、ガリリと音を立てて噛み砕く
「……三輪、か」
迅の脳裏に、数日先の未来の断片(ビジョン)が明滅する
三輪が街を、警戒区域を血眼で探し回る姿……
そして――その先に待つ、真っ黒に塗り潰されたような「見えない未来」
「(城戸さんたちには『モザイクがかかってる』って言ったけどさ。これ、モザイクなんて生易しいもんじゃないんだよね。あいつの周りだけ……正確には座敷わらしに関わる未来の分岐だけが無限に枝分かれして、俺のサイドエフェクトが追いつかない……あんな感覚、黒トリガー相手でもあり得ないぜ?)」
トリオンとは根本的に異なる、生命そのものの奔流
それが三門市の日常に紛れ込んでいる
「三輪の執念は凄まじいからな。本気で見つけ出しちまうかもしれない。だけど、今のピリピリしたあいつが『それ』に触れたら、最悪、取り返しのつかない決裂になる未来も見える……」
迅は歩みを止め、窓の外に広がる三門市の街並みを見下ろした
空は青く澄んでいるが、その境界線の向こう側には、常に不穏な空気が満ちている
「悪いね、三輪。姉さんを助けてくれた奴に会いたい気持ちは分かるけど……今回は、俺が先にこっそり味見させてもらうよ」
迅は悪戯っぽく笑うと、ぼんち揚の袋をポケットに押し込み、軽やかな足取りで玉狛支部へと向かう連絡通路へ歩き出した……
ターゲットの出現予測は、余地で見えたカレンダーと時計を鑑みて次の土曜日の午前中……
ボーダーA級隊員・三輪秀次と、S級隊員・迅悠一による、姿なき「座敷わらし」の争奪戦が、静かに幕を開けようとしていた……