「誰が座敷わらしか、俺はただの人間だよ!」全員「んなわけあるかッ!!」   作:ティファールは邪道

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2話:戦闘と遭遇

ボーダーの上層部が「座敷わらし」を巡って緊迫した議論を交わしている、まさにその裏で……

 

三門市から遠く離れた、海と緑に囲まれたのどかな観光都市――四塚市(よつつかし)

 

その閑静な住宅街の一角にある一軒家で、一人の少年がベッドの上でスヤスヤと穏やかな寝息を立てていた……

 

彼の名は、神原 勝(このはら まさる)

 

一見どこにでもいる平凡な少年だが、その精神は今、肉体を離れ、現実よりも遥かに濃密な「夢の世界」の荒野にいた

 

「ハァッ!」

 

夢の荒野に、勝の鋭い声が響く……

 

彼の目の前に立ちはだかるのは、3年前に三門市で見たあのカマキリ型の怪物(バムスター)を、より凶悪に硬質化させた精神体の仮想敵だ

 

勝は手元にあった手頃な瓦礫の破片に、自身のオーラを纏わせ、存在感が増したその破片を、しなやかなスナップを利かせて鋭く振り抜いた!

 

――ビキィィィンッ!

 

空気を切り裂く高音とともに放たれた瓦礫は、狙い違わず怪物の目のような部位を直撃……

 

凄まじい衝撃波を放ちながら、怪物の巨体をグラリと傾かせそのままたおしてしまった……

 

「ふむ。相変わらず見事な投擲(とうてき)じゃな、勝よ」

 

硝煙のような霧の向こうから、長い白髭を蓄えた老人――勝が『夢仙人』と呼ぶ精神の導き手が、感心したように頷きながら歩み寄ってきた

 

「……夢仙人……どうせならコイツらを相手にするんじゃなくて、仙人と直接組手(くみて)がした方がいいんじゃないの?その方が格闘の練習になるし……」

 

勝は、そろそろ他の戦い方を身につけた方がよいのでは?っという思いで彼を見つめながらぼやいた……

 

だが、夢仙人は白髭をワシワシとしごきながら、からからと笑う

 

「何を言うか。お主は『投げる』ことに関しては一級品……ワシを越えてると言ってもいい……ほら、アニメの技……何と言ったか、あの『鉄甲作用』とかいう投擲術を完全再現してしまうほどの才がある……じゃがな、純粋な殴り合いや蹴り合いといった格闘技のセンスに関しては……まあ、人並みじゃて、背負い投げや上手投げとかならともかく」

 

「うぐっ……手厳しいな」

 

「身の丈に合った強みを伸ばすのが定石というものよ。それに、お主が戦っとる相手は往々にしてあの巨大な怪物たち……。人間相手の格闘術を磨く機会など早々あるまい?

ならば、遠距離から確実に仕留める投擲術を磨く方が、よほど理に適っておるわ」

 

ー護身に関しては投げ飛ばす術を応用すればよいしの

 

そう言うと、夢仙人は空を見上げた……

よく見ると白く揺らぎ始めている……

 

「……おっと、そろそろ時間じゃな。現世(うつしよ)の身体を起こす時間だ。これ以上の修行は魂に障る。あとは向こうでゆっくり休むが良い」

 

「うん、ありがとう仙人。またね」

 

夢仙人の姿が、朝霧のように淡く溶けていく

それと同時に、勝の意識は急速に現実の肉体へと引き戻されていった

_____________

 

パチリ、と心地よい鳥のさえずりとともに勝は目を覚ました

 

窓から差し込む眩しい朝の光が、自室のフローリングを白く照らしている……

夢の中での激しい戦闘が嘘のように、身体は軽かった

ベッドから起き上がり、学校の制服へと着替えるためにシャツのボタンを留めていく。鏡に映る自分の身体には、3年前にはなかった引き締まった筋肉がつき始めていた

 

ー夢仙人はあぁ言ってたけど、あの怪物は生き物に見えないんだよなぁ……

 

つまり、あれを操る者がいるということ……

それは下手したら人と変わらないかもしれないのだ……

 

ーやっぱり個人的に覚えるべきか……?

 

そんなことを考えていると、バタバタと階段を上がってくる足音に続いて、下の階から母親の元気な声が響いた

 

「勝ー、起きてる~? ご飯できたから冷めないうちに食べちゃいなさい!」

 

母親の声に、勝はどこかホッとしたような笑みを浮かべ、部屋のドアを開けながら大声で返事をした

 

「おはよー! 今いく!!」

 

階段を駆け下りる勝の背中には、もう「座敷わらし」としての冷徹な戦闘者の気配はない。どこにでもいる、ごく普通の少年の日常が、そこにはあった……

 

しかし、運命の歯車はすでに回り始めていた……

 

次の土曜日、彼が何気なく向かうであろうその場所で、執念のA級隊員と、未来を視るS級隊員が待ち受けていることを、勝はまだ何も知らなかった……

 

________________

 

そして、待ちに待った土曜日……

 

「母さん、ちょっと遠くまで遊びに行ってくる!」

 

「はいはい、気をつけてね。あ、お昼」

 

「向こうでおにぎり買うから平気!!」

 

ー行ってきまーす!!

 

リビングに快活な声を残し、勝は玄関を飛び出した……

 

四塚市の爽やかな潮風が頬を撫でる……

 

だが、住宅街の路地裏、人目を完全に遮る木陰に入った瞬間、勝の纏う空気が一変した

 

「……周りには誰もいないな、よし……」

 

ー隠

 

身体から立ち上る生命の波動(オーラ)を極限まで薄め、気配を完全に消し去る……

さらに勝は、自身の足裏に爆発的なオーラを集中させ

 

―ドッ!!

 

アスファルトを蹴った衝撃の残響だけを残し、勝の身体は弾丸と化して地を駆けた

 

通常なら車を走らせて高速道路を使っても2時間はかかる三門市への道のり……

しかし、勝は道なき山林を直線で突き進む……

 

巨木の幹を足場に、鳥さながらの跳躍で木々を渡り、背後へオーラを放出する反動を利用して空中を滑空する……

 

風を切り裂く摩擦熱と、足裏にかかる強烈なGを心地よく感じながら、勝はわずか1時間で、重々しい防壁がそびえ立つ三門市の「警戒区域」へと足を踏み入れていた……

 

立ち入り禁止の看板を軽々と飛び越え、かつて激戦の舞台となった廃墟の街を進む

 

「……よし、このあたりで仕入れていくか」

 

勝はしゃがみ込み、崩れたビルのコンクリート片や、手頃な大きさと硬度を持った川原の礫(くず石)を選別し始めた

 

手当たり次第に拾い集めた石に、自らのオーラを馴染ませていき、即席の弾丸にしていく……

 

拾い集めること数時間。

太陽が南の空へ昇り、そろそろ昼時を告げる頃……

 

勝は古い雑居ビルの屋上に腰掛け、コンビニで買っておいたおにぎりとお茶でお昼を済ませていた……

 

まさにその時だった

 

――ピシッ

 

勝を中心に半径数100メートルに定期的に飛ばしていたオーラの波――『紋(もん)』が、明確な異物の侵入を捉えた……

 

そこをより詳しく見るためにオーラの領地……円(エン)を行うと、ちょうどそこの空間が歪み、世界に不快な亀裂が入る……

 

亀裂が広がり、そこから這い出てきたのは、禍々しい巨体を持つ3体の怪物……

 

四足歩行型で、象や猪を思わせる大きさだった……

 

「みっけ……三体か……」

 

勝はおにぎりを一気に口に放り込み、立ち上がった

 

咀嚼しながら、ポケットから先ほど選別した石を数個取り出す……

掌から放たれたオーラが石を包み込み、勝の意志に従って、彼の周囲の空間へふわふわと浮遊を始めた

 

「……それじゃあ、始めるか!!」

 

ゴクリと喉を鳴らして戦闘態勢に入ると同時に、勝は躊躇なく、高さ十数メートルはある廃ビルの屋上から、重力に従って真っ逆さまに飛び降りた

_______________

 

同じ頃……

警戒区域の目と鼻の先にあるボーダーの監視エリア……

 

「――突発性ゲート視認! バムスター3体、東地区305ポイントに出現!」

 

オペレーターである月見の鋭い声が響くのと同時に、すでに現地へ向かっていた一人の少年が、刀を抜き放っていた……

 

A級7位、三輪隊隊長、三輪秀次……

 

彼の切れ上がった瞳には、過去のデータから弾き出した「土曜日の午前中」という確信の光が宿っていた……

 

ーデータ通りなら、恐らくここに奴がいる……!

 

ーお~い、秀次!落ち着けって!!

 

無線越しに隊員の米屋の声が飛ぶが、三輪はそれを聞いて指示を出す

 

「まずは『奴』が現れるかどうかを見極める、その為にも急ぐぞ!!」

 

ーちょっ!?それ指示になってな……

 

米屋の声を半分聞かずにそのまま急いで向かう……

その一方、別の影がすでに動いていた……

 

「おっと、三輪の真面目な作戦を邪魔するようで悪いけど……ここからは時間との勝負だからね」

 

物陰でS級隊員・迅悠一は不敵に笑う。彼の『予知』の視界には、数秒後に起きる「あり得ない光景」がすでに映し出されていた……

 

「さあて……見せてくれよ、三門市の座敷わらしくん」

_______________

 

――ヒュオオオオッ!!

 

猛烈な落下風が勝の髪を激しく掻き乱す……

 

眼下では、3体のバムスターが侵入者を求めて不気味に首を振っていた。そのうちの1体が、頭上から猛スピードで落下してくる勝の質量を察知し、ぎょろりとその単眼を上空へ向けた

 

だが、彼にとってはそれは絶好の的だった

 

「一気にいくよ―!!」

 

空中、足場のない虚空で、勝は身体を極限まで捻り、バネのようにしならせた

 

彼の周囲を浮遊していたオーラ塗れの礫の一つを勝は手に取る…

 

瞬間、空中で放たれた渾身の投擲……

 

それは、夢の中で幾千、幾万と繰り返した、重力と遠心力、そして放出系オーラの推進力を極限まで掛け合わせた「必殺の弾丸」とも言えるものだった……

 

――パァァァァァァァァンッッッッ!!!

 

映画の爆音のような破裂音

 

直撃の瞬間、大気が爆ぜた

 

音速の壁を突破した石ころは、先頭のバムスターの顔面に命中した瞬間、車同士が正面衝突したかのような凄まじい衝撃波を撒き散らし、その頑強な頭部を文字通り「爆散」させた……

 

破片が飛び散るなか、勝は残る2体ののど真ん中へと、音もなく着地した……

 

アスファルトに刻まれる、鋭い踏み込みの足音

 

土煙の向こうから現れた「トリガーを持たない少年」の姿を、丁度到着した物陰から監視していた三輪秀次の目が、驚愕に見開かれた

 

「――あいつは……!」

 

3年前のあの絶望の日に、姉の命を救い、そして忽然と姿を消したあの少年が、今、成長した姿でそこに立っていた……

 

____________

 

左右に分かれた2体のバムスターが、勝を挟み撃ちにする形で同時に襲い掛かる。猛烈な質量が突進してくる風圧が、勝の服を激しく揺らした

 

だが、勝は焦らない……

襲い来る二体を直視することすらなく、右側のバムスターに向けて右の掌をかざした

 

――ドゥッ!!

 

右掌から大砲のように瞬間放出したオーラの反動を利用し、勝の身体は左側――突進してきたバムスター二体の内一体の懐へと潜り込むように超高速でスライドする……

 

完全に敵の死角を取りながら、勝は逆の手で、手にしていた石を敵の足元の地面に向けて至近距離で叩きつける

 

――ドパンッ!!

 

凄まじい衝撃波を放った石は、アスファルトを丸ごと消し飛ばし、バムスターの巨大な前足がすっぽり嵌るほどの陥没穴を作り出した……

 

当然、猛スピードで走っていた巨体は、前足を足元に取られて激しくバランスを崩す……

 

それを確認した勝の行動は、電光石火だった

 

「いっ、せぇ……のぉ……っせいっ!!!!」

 

勝は、よろめいたバムスターの太い右足に両腕でがっしりとしがみついた。身体中に爆発的なオーラを巡らせ、全身のバネを使い、象のようにも見えるその巨体を――あろうことか、もう一体のバムスターに向けて力任せに投げ飛ばしたのだ……

 

何トンもある質量が空を舞う…… 

 

「「ハァッ!!!??」」

 

物陰で観察していた三輪と米屋の口から、同時に頓狂な叫びが漏れた 

 

それだけではない

三輪の視界共有(ビジュアルリンク)をモニター越しに見ていた作戦室のオペレーター·月見蓮、そして数百メートル先からスコープを覗いていた狙撃手·奈良坂透すらも、その光景に完全に思考を停止させていた……

 

トリオン兵が、トリオン兵をぶつけられて、空を飛んでいる……

 

一足遅れて現場を見下ろした迅悠一すらも、今回ばかりは両目を見開いていた

 

――ドスゥゥゥゥンッッ!!!

 

2体の巨体が激しく衝突し、重なり合うようにひっくり返る。下敷きになったバムスターが、自重と衝突の衝撃で苦悶の声を上げた様に見える……

 

ーー今だ!!

 

勝は間髪入れずに次の手を打つ

手元に残った最後の石を、重なり合うバムスターの目の前の空間に向けて思い切り放り投げた……

 

それと同時に、すぐ側のアスファルトに突き刺さっていた太い道路標識の鉄柱を、根元からバキリと力任せに引き抜いて肩に担ぐ

 

勝が空中にある石に向けて意識を集中した、その瞬間――

 

ーーパァンッ

 

と小気味いい破裂音が響き、勝の身体が空間ごと掻き消えた

 

次の瞬間には、先ほど投げた「石の軌道の真上」――つまり、もがくバムスターの至近距離へと、一瞬で転移していた……

 

「せぇっ、のっ!!」

 

自由落下をエネルギーに変え、勝はオーラを限界まで纏わせた標識の鉄柱を、脳天目掛けて渾身の力で振り下ろした

 

――ドダァァァンッッッ!!!

 

凄まじい破壊音が響き渡る……

 

強固なオーラを帯びた鉄柱は、1体目のバムスターの胴体を容易く貫通し、その勢いのまま、下敷きになっていた2体目のバムスターの心臓部

(トリオン供給機関)をも一撃で串刺しにした

 

2体の巨体は、白煙を上げながら、急速に光の粒子となって崩壊していく

 

「……ふぅ……」

 

敵の完全な沈黙を確認し、勝は短く息を吐いた……

 

標識を手放し、一息ついたところで、勝は『円』の残響で、自分を注視している強烈な「視線」の存在に気づく

 

チラリと視線を向ければ、そこにはそれぞれ刀と槍を構えたまま硬直している三輪たち2人の姿があった

 

ーー……見つかった。やっぱり、ボーダーの人たちか。長居は無用だな……

 

勝はそれ以上彼らと目を合わせることなく、即座に踵を返すと、驚異的な跳躍力で崩落したビルの壁を蹴り、その場から蜘蛛の子を散らすように飛び退いた

 

「ま、待てっ!!」

 

三輪が我に返り、悲痛なまでの声を上げて物陰から飛び出す

 

「待てと言っている!! お前は、3年前の――!」

 

崩壊するバムスターの光の残滓を突っ切り、三輪は刀を握りしめたまま、少年が消えたビルの影へと全速力で地を駆けた……

 

だが、少年の足はあまりにも速い。気配を消す『隠』の技も相まって、曲がり角を一つ抜けた先には、すでに吹き抜ける風の音しか残されていなかった……

 

「クソッ……! 見失った……!」

 

壁に拳を叩きつけ、歯噛みする三輪。

その時、悔しさに震える三輪の背後から、不意に軽い足音が近づいてきた

 

「あーあ、行っちゃったね。相変わらずお目にかかれない俊足だ」

 

「……迅……」

 

振り返った三輪の前に立っていたのは、ぼんち揚の袋を指に引っ掛けた、S級隊員の迅悠一だった。その顔にはいつもの余裕ある笑みが浮かんでいるが、その瞳の奥は、これまでにないほど鋭くギラついていた

 

「あれが、ボーダーが追っている『座敷わらし』の正体です。奴はトリガーも使わずに、バムスターを……」

 

「うん、バッチリ見てたよ。バムスターを投げ飛ばしたり、標識を引っこ抜いて串刺しとか、野生児にも程があるよね~……」

 

ーいやぁ、読みのがしたよ、流石に

 

迅はそう言って笑いながらも、少年が消えていった遥か遠くの空を見つめた

 

迅のサイドエフェクト――『目の前の人間の少し先の未来が見える』力……

 

その網膜には、今、かすかに少年の「後ろ姿」の残像が映っていた

 

そして、その残像から伸びる未来の線は、まるでプリズムのように無数に枝分かれし、激しく明滅していたが、家に帰ろうとしているのか全て一つのところに行き着いていた……

しかし、それ以降は一切見えない……

 

「(……やっぱりね、ちゃんと視認すれば家の場所とかならある程度俺の予知で見ることができる……でもそれ以上は見ることが出来なくてここまで狂わせる存在なんて、ネイバーの黒トリガー使いでもそうはいない。三輪、お前が執着するのも無理はないな……)」

 

迅はニッと口角を上げた

 

「ま、後は解析班に任せようか?……ま、幸いなのは今の戦い方に去り際からして……あの子、三門市の人間じゃないよ。おそらく、遠方から『わざわざここに遠征に来ている』」

 

「遠征……? 近界(ネイバーフッド)から、ということですか!?」

 

「さあね? でも、もし人間の街から来ているんだとしたら……。三輪、お前より俺の方が、あの子の『次の出現場所』を見つけるのは早いかもしれないよ?」

 

「なっ……!」

 

驚愕する三輪を置き去りにし、迅はひらひらと手を振って歩き出す

 

「広報部の根付さんたちが騒ぎ出す前に、俺もちょっと、あの子の『足跡』を辿ってみるわ。じゃあね、三輪」

 

ボーダー本部を巻き込んだ「座敷わらし」の調査は、今や一介の都市伝説を超え、迅悠一という最高戦力をも巻き込んだ、奇妙な追跡劇へと発展しようとしていた……

 

一方、その頃……

 

当の神原勝は、すでに三門市の防壁を飛び越え、「ふぅ、おにぎりもう一個買えばよかったな」などと考えながら、のどかな四塚市への帰路を、再び時速百キロを超えるスピードで駆け抜けている最中であった……

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