「誰が座敷わらしか、俺はただの人間だよ!」全員「んなわけあるかッ!!」 作:ティファールは邪道
数日後の放課後……
四塚市のどこにでもいる男子中学生として、勝はカバンを肩にかけ、夕暮れ時の通学路を歩いていた
「帰ったら何しようかな……きょうは鍛練休みにしてるし、ゲームでも……?」
茜色の光が伸びる長閑な坂道を呟く彼……
だが、前方から歩いてくる一人の青年の姿を視界に捉えた瞬間、勝の身体にピリッとした緊張が走った……
一見、ラフな私服を着た普通の青年だ……
しかし、勝の念能力者としての直感が、その男から感じたそれに警戒を抱いてしまっていた……
オーラだが、まるで数手先の未来まで見透かしているかのような、奇妙で奇妙で仕方がない佇まい……
青年は勝の目の前で足を止めると、困ったように頭を掻きながら声をかけてきた
「あ、ごめん。ちょっと道に迷っちゃってさ。この住所に行きたいんだけど、分かるかな?」
差し出された一枚の白いメモ用紙
それを覗き込んだ勝の心臓が、ドクンと大きく跳ね上がった
そこに書かれていたのは、他でもない――**勝自身の「実家の住所」**だった
- 敵……!?
勝の脳内で、警報が鳴り響く
ボーダーの人間か、それとも夢仙人が言っていた「怪物(トリオン兵)を操っているだろう人間」……つまり、異界民(ネイバー)の側か
勝の体内で、生命エネルギーが爆発的に練り上げられる
このままオーラを込めた一蹴りでこの男の肉体を粉砕するか
あるいは、手持ちのカバンに『周』を纏わせて顔面に叩きつけ、戦闘不能にするか
それとも、時速百キロを超える『脚』で一度逃走、母親を救出してすぐに父のもとへ駆け込むか――
「(やるなら、二番目……!!)」
現在、見たところ相手は武器を持ってない……
一度気絶させて、情報を聞き出してから救出を……
そう思った勝がカバンにオーラを込めようとした瞬間だった
「待って待って待って待って待って待って!!!? 蹴るのもカバン投げるのも逃げるのもナシでお願い!特に前者二つはやめて!?僕死ぬから!?」
青年は慌てて両手を青くなった顔の前で振り、数歩後ろに飛び退きながら頼む……
まるで、勝の攻撃の意図を完全に予知していたかのような完璧なタイミングだった
それを聞いた優は一度動きを止める
それを見た青年は、死ぬ可能性がないことを感じたのかホッとした顔になりながら話しかける
「あ、危なかった……!!生身でその一撃はベッド処かあの世行きだったよ……ただ、君と話がしたかったんだよ、『三門市の座敷わらし』くん?」
青年の口から出たその単語に、勝は目を見開いた
「……ボーダーの人?」
「正解。俺の名前は迅悠一。ボーダーのS級隊員。君に悪意はないよ。ただ、この間の土曜日の戦いっぷりを見て、どうしても個人的に話がしたくてさ。なんとか写っていた映像とか色々使って調べてここに辿り着いちゃった、ってわけ」
迅はそう言って、いつもの飄々とした笑みを浮かべた
勝はしばらく迅を値踏みするように睨みつけていたが、男から一切の殺気や敵意が感じられないこと、そして何より、先ほどの自分の攻撃姿勢を完璧に見抜いた実力への警戒から、ゆっくりと足の力を抜いた
「……ストーカーみたいで気持ち悪いんだけど……そういうことなら良いよ、ついてきて……。立ち話で済むような内容じゃないんでしょ?」
「お、交渉成立? ありがと。いやー、四塚市って本当に良いところだね。海は綺麗だし、ご飯は美味しいし」
-こっちには強化合宿用のコテージとかあるんだよね
一応の警戒を保ったまま歩き出す勝の隣を、迅は全く物怖じすることなく、楽しげに並んで歩きながら話し始めた
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「ねえ、神原勝くん。君がやってるその『見えない力』ってさ、トリオンじゃないよね? 本部の開発室長が『トリオン反応がない!』って頭抱えてたよ?」
「……何のことだかさっぱり。ただの護身術だよ」
「あはは、トリオン兵……あ、ネイバーって呼んだ方がわかりやすいかな?……アレを投げることが出来る護身術なんてまずないよ?
あ、これ食べる? ぼんち揚。美味いよ」
迅が差し出してきた揚げ煎餅の袋を、勝は怪訝そうに見つめながらも、一枚摘んで口に放り込んだ
カリッ、と香ばしい醤油の味が広がる
「……歌舞伎揚だよね、これ……まぁ美味しいけど」
「だよねぇ。でもさ、君が3年前に三門市の人達を大勢助けた時から、ボーダーは君のことをずっと探してたんだ。特に三輪って奴は、執念深くてね。この間の土曜日も、君が消えた後で壁を殴って悔しがってたよ」
「三輪……?」
勝の脳裏に、あの黒い刀を構えていた、鋭い目つきの少年の姿が浮かぶ
「……その人、なんでそこまでして僕を探してるの? 」
「うん?あいつはただ、君にお礼が言いたいだけだよ。……まあ、今のあいつはネイバーへの憎しみの方が強くて、ちょっと余裕がないから、俺が先に来ちゃったんだけどね。君が普通のいい子で安心したよ」
「……普通の子は初対面の人を警戒心で殺す気で蹴飛ばそうとしないと思うよ?」
「あはは!それもそうだ!……って待って?蹴殺す気でいたの?」
夕暮れの街を歩きながら、勝は目を見開いた迅の横顔を盗み見た
ボーダーという組織が自分を追っているのは間違いなかった……
だが、この迅という男は、組織の命令ではなく、独自の目的で動いているように見えた……
「着いたよ。ここが僕の家」
二人が到着したのは、四塚市の住宅街にある、ごく一般的な一軒家だった。ちょうど玄関の前に、パートの制服を着た勝の母親が、買い物袋を抱えて自転車を止めているところだった
「あら、勝。おかえり……。そちらは、学校のお友達……じゃないわよね?」
母親が不思議そうに迅を見つめる。中学生にしては大人びており、私服の雰囲気も違う……
ってか、どうみても成人してる
すると、迅はそれまでの軽い態度をすっと潜め、大人としての端正な一礼をしてみせた
「はじめまして、お母さん。突然お邪魔してすみません。私、界境防衛機関『ボーダー』の迅悠一と申します。……今日は、勝くんの『今後』について、少し大切なお話がありまして、お伺いしました」
その丁寧だが、どこか重みのある言葉に、母親は目を見開いた
そして、勝もまた、迅の瞳の奥にある「真剣な光」を感じ取り、ゴクリと息を呑んだ
日常の象徴である実家の玄関前で、異界の防衛機関(ボーダー)との本格的な対話が、始まろうとしていた……