「誰が座敷わらしか、俺はただの人間だよ!」全員「んなわけあるかッ!!」 作:ティファールは邪道
「えっと……俺の一存で決めるのは、すこし無理があると思います。……学校や自身のネイバーと戦うための本来の資質があるかもわかりませんし、何より父がいない時に決めるなんて出来ません」
「……そうね。こういう大事な話は、本人の意思が一番大切だけど、家族全員が集まってから改めて話し合いましょう……えっと、迅さん?主人が帰ってきたら、もう一度、ちゃんとお話をしてくださいませんか?」
母親の震えながらも毅然とした言葉に、迅は
「ええ、もちろんです。突然お邪魔して、不安にさせてしまってすみません」と、大人の顔で静かに頭を下げた
「母さん、僕、ちょっと頭冷やしてくる。すぐ近くだから」
勝がカバンを置いて立ち上がると、迅も「じゃあ、俺もお供させてもらおうかな」と、軽い調子で腰を上げた……
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外に出ると、四塚市の空はすっかり濃い紫色のグラデーションに染まっていた……
勝は何も言わず、ただ黙々と歩く。迅もその後ろを、ぼんち揚をポリポリと齧りながら、急かすことなくついていった
自然と足が向いたのは、勝が幼い頃から「投げの練習場」として使っていた、近所の河原……
大きなコンクリートの橋の下。ここは人通りがほとんどなく、どれだけ激しい音を立てても近所迷惑にならない、勝にとっての絶好のトレーニングエリアだった……
河原に降り立つと、勝は足元から拳大の平たい石を拾い上げた
――『周』
軽く握ると同時に、石の表面に滑らかなオーラの膜が定着する……
勝は川の対岸、百メートルは離れた場所にある、半分朽ちかけた大木の幹に狙いを定めた
大きく振りかぶり、しなやかなスナップとともに石を放つ
――ビュッッッ!!!
空気を鋭く切り裂く高音が橋の下に反響し、直後、対岸の大木から「ドガァン!」と強烈な破裂音が響いた。幹の半分が消し飛び、木屑が激しく舞い散る……
さらに、コンクリートで出来た橋の一部に石がめり込んでしまった……
「へえ……」
後ろで見守っていた迅が、感心したように口笛を吹いた
それを無視して、勝は続けて数個投げる
それらの石は、まるで意思をもつかのような動きで水面を跳ね、曲がり、他の石と当たって弾くように動き、全ての石が同じ場所に同時にあたる……
―パァァァンッ!!!!
弾けるような音が響き渡り、迅は思わず拍手してしまう
「相変わらずもの凄い威力とコントロールだねぇ……そりゃあ、ネイバーも倒しちゃうや……それをただの石ころでやってのけるんだから、本部のエンジニアが見たら泣いちゃうよ」
勝は次はすなを掬い、両手で弄びながら、背後の迅に問いかけた
「……さっきの話の続きだけど。なんで僕を『玉狛支部』ってところに誘うの? ボーダーの本部に行ったら、僕はどうなるわけ?」
迅は橋のコンクリート壁に背中を預け、夕日に染まる川面を見つめながら、静かに語り出した
「本部のトップ……城戸司令って人はね、三門市を守るためなら、冷徹になれる人なんだ。もし君が本部に拘束されたら、その『トリオンじゃない謎の力』の正体を突き止めるために、毎日のように実験や取り調べを受けることになる……。命に関わったりするようなことは絶対にしないけど、最悪危険分子としてその力を封印されるか、一生監視つきの生活になる可能性がある、っと思う」
勝の手の中の石に、じわりと強いオーラがこもる……
「……僕は、誰の命令も受けるつもりはないよ。この力は、僕自身のものだ……」
「分かってる。だから『玉狛』なんだ」
迅は笑って、勝の目を真っ直ぐに見据えた
「玉狛支部のボスはね、本部の"ネイバー許すまじ"って考えはなくて『こっちの世界の人間と変わらない、話せば分かる奴らもいる』ってスタンスを取ってるんだ……
もし君が玉狛に来てくれるなら、君の力を無理に奪おうなんて誰も言わない。むしろ、君のその独自の力を尊重して、対等な『仲間』として迎えるよ」
勝はふっと視線を落とし、持っていた砂を握り潰して固めたものを川面に向けて投げ放った。それは水面を猛烈な速度で跳ね、対岸まで一直線に「水切り」の軌跡を描き、岸で跳ね上がるとめり込んでいた石の元にぶつかると同時に粉々になり隙間を埋めてしまった……
そこにさらに川の水を掬い、投げつけて濡らして固めてしまう勝……
「……僕は、ただ自分の力を試したかっただけなんだ。怪物を倒したのも、目の前で人が死にそうだったから。三門市を守るヒーローになりたいわけじゃない」
「それでいいんだよ」
迅の優しい声が、勝の頑なな心を少しだけ解きほぐす
「誰も君に、正義の味方になれなんて強制しない。ただね、勝くん。君が夢仙人から言われた通り、あの怪物たち(トリオン兵)の裏には、それを操る『人間の形をした近界民(ネイバー)』がいる。そして、彼らは近いうちに、またこの世界に大規模な侵攻を仕掛けてくる」
迅の目が、数秒先の、あるいは数ヶ月先の「激戦の未来」を視るように細められた
「その時、君の大切な家族がいるこの四塚市まで、化け物たちが来ないとは言い切れない。……自分の力をさらに極めるため、そして、いざって時に大切なものを自分の力で守り切るために――ボーダーの戦い方を知っておくのは、君にとっても悪い話じゃないと思うんだよね。どうかな?」
勝はめり込んでしまった跡が遠目からではわからないことを確認して、自分の両手を見つめた
夢の中で繰り返してきた修行。操り人形の怪物。そして、現実の世界で動き出している大きな戦いの足音
「……とりあえず、お父さんが帰ってくるのを待とう。僕の口から、ちゃんと全部話すから」
勝がそう言って前を歩き出すと、迅は「うん、それがいいね。俺も大人の交渉人として、お父さんを全力で説得させてもらうよ」と、いつもの飄々とした笑顔に戻って隣に並んだ
少年の中に宿る異質の灯火(念能力)が、ボーダーという巨大な組織の歯車と、本格的に噛み合おうとしていた……
「あ、さっきのヒビ入れちゃったこと、内緒にしてね?……一応オーラと砂と水で固めたからコンクリートと一切変わらないけど」
「待って?そんなことも出来るの?……一応犯罪だからね?今回は見逃すけど、もうやらないでよね?」
※この小説は、公共のものを壊す、破損させることを推奨しておりません。
ご理解の程を宜しくお願いいたします。