昔pixivに投稿したものを改稿したものです。
百合要素があるので、注意してください。
本編では接点がほとんどありませんが、
あった場合はどうなるのかを書いたつもりです。
過去捏造があります。
千佳視点です

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千佳と木虎がもし関係を持ったらという二次創作です。
過去捏造ありなので、注意してください


きとらとちか

 

 それは数年前、雨が降っていた土曜日の出来事。

 

 いつものように気配がしたので、近界民(ネイバー)が来ないよう、神社に避難した。

 そうして、わたしが神社の拝殿に座っていると、綺麗なお姉さんが隣に座る。

 

 見た感じ、中学生くらいかな……?

 それくらい、その人は大人びているように見えた。

 

「あら? こんなかわいい子が先客だなんて……失礼するわね」

「いえ……」

 

 どうやらこのお姉さんは、ただ雨宿りに立ち寄っただけみたい。

 それにしても、笑顔が素敵で、憧れちゃうなぁ……。

 

「あの、お姉さんは?」

「……木虎よ。木虎藍」

「そ、そうですか……」

 

 何しに来たのかを聞いたつもりだったんだけどな……。

 そう思いつつ、わたしも自己紹介をしに口を開く。

 

「わたしは……」

 

 そう言いかけたところで、神社の傍から怪物が現れた。

 いまだったら、近界民(ネイバー)だってわかるけど、この頃はまだ世間に知られていなかったから、お姉さんが慌てて話しかけてきた。

 

「なんなの!? あの化け物は!? ほら、私の手に掴まって!」

「は、はい!」

 

 お姉さんの差し出した手を握って、雨が降ってる中を走り回るわたしたち。

 そして、疲れてヘトヘトになった頃には、雨も止んで虹が架かっていた。

 

「虹……!」

「ふふっ、そうね。あっ! 折り畳み傘、神社に置いてきちゃった……」

「あの……わたし、取りに行ってきます……!」

「いいわよ、またいつか会えると信じてるから。拾ったら、預かっててくれない?」

「は、はい!」

 

   ◇◇◇

 

 それから数年経って、現在(いま)に至る。

 

 B級ランク戦も終わって、修くんに嵐山隊の作戦室の場所を教えてもらった。

 それにしても、木虎さんがあのときのお姉さんだったとは……

 

「緊張するなぁ……」

 

 そう心配していると、ドアが「ゴウーン」と音を立てて開いた。

 

「雨取さんね。三雲くんから来ることは聞いてるわ。なんの用かしら?」

「あっ、えっと、その……木虎さんと、二人きりになりたいんですが……」

「……わかった。いいわよ」

 

 ニコッと笑顔で対応してくれた。

 ああ、やっぱりやさしい人だなぁ……と、実感する。

 

「ありがとうございます。相変わらず素敵な笑顔ですね」

「相変わらず……?」

「あのときのお礼を言いたくって……これ、傘です」

「あぁ、あのときのかわいらしい子ね。たしかに面影はあるわね」

「あ、ありがとうございます……」

 

 かわいらしいと言われ、わたしはつい照れてしまう。

 

「それで、雨取さん」

「その、千佳って呼んでほしいです……! その、ダメならいいですけど……」

「か、かわいい……」

 

 ボソッとそう呟く木虎さん。

 わたしは聞こえてなかったフリをして、その言葉を反芻する。

 

「えっと……」

「あっ! な、なんでもないわ。それで、用事ってそれだけ? 千佳ちゃん」

「は、はい。それだけです……。その、迷惑でしたか?」

「いいえ、むしろ嬉しかったわ。だから、よかったら今度、二人で遊びに行かない?」

「は、はい! ぜひ!」

「ふふっ、じゃあ決まりね」

「はい!」

 

 あれ? 

 これって、いわゆるデートってやつなのかな?

 でも、木虎さんがそんなことを気にするわけない……よね。

 

「あの、連絡先を交換しても……」

「あぁ、ごめんなさい。はい、QRコード」

「あ、ありがとうございます」

 

 こうして、木虎さんの連絡先を入手する。

 それにしても、こんなトントン拍子に進んでいいのだろうか。

 そんなことを気にしつつ、わたしは内心喜んでいた。

 

   ◇◇◇

 

 それから数日後、約束の日がやってくる。

 

 けど、わたしは三十分も寝坊してしまったので、急いで待ち合わせの場所へと向かう。

 すると、スマホを眺めている木虎さんがいた。

 そんな木虎さんに、わたしは恐る恐る話しかける。

 

「ごごご、ごめんなさい。すっごく待ちましたよね……」

「ええ、いま帰ろうかなって思っていたとこよ」

「えっ!?」

 

 何気ない一言に、肝を冷やしてしまうわたし。

 

「ウソよ、ウソウソ。私もおめかしに時間をかけて、さっき来たところ」

「そ、そうですか。そういえば、いつも綺麗ですよね」

「えっ……?」

「あっ……いや、えっと、その……ごめんなさい」

「……いやいや、なんで褒めた側が謝るのよ。千佳ちゃんだって、いつもかわいいじゃない」

「そうですかね? ありがとうございます」

 

 思わずお礼を言ってしまうわたし。

 どうして木虎さんからの言葉だと、こんなにうれしくなってしまうのだろう。

 

「それで、これからどうしましょうか」

「実は、修くんたちがボーダーの人と観に行った映画があって……」

「三雲くんたちが……? へぇー、そうなの」

「ネタバレになるのであまり語りませんが、ボーダー隊員ならハマる映画らしいです!」

「面白そうね。チケットはあるのかしら?」

「は、はい。この間、木虎さんと遊びに行くって言ったら、わざわざ買ってきてくれたみたいで……」

「そう。それじゃあ、早速向かいましょう」

「はい!」

「それにしても、三雲くんたちがね……」

「えっ?」

 

 木虎さんがなんとなく不機嫌な気がする……。

 

 もしかして、嫉妬とか……?

 いやいやいや、そんなことあるわけない! 

 そう思い、ブンブンと頭を振る。

 

「ど、どうかした?」

「い、いえ……」

 

 頭を振り回してるのを見られた……

 引かれちゃったかな……?

 

 まあいいや。

 とにかく、木虎さんが楽しめるように頑張ろう!

 

「『ワールド・ボーダー』です。前売り券は、これで……」

「ありがとう。お姉さんと一緒だなんて、とっても仲がいいのね」

「ど、どうも……」

 

 わたしが少しがっかりしていると、木虎さんがすぐさま訂正した。

 

「違います。友達です」

 

 堂々と否定する木虎さん。

 かっこいい……!

 

「し、失礼しました。どうぞ、ごゆっくり」

「はい」

「どうも……」

 

 木虎さんは、ものすごく受付のお姉さんを睨んでいた。

 お姉さんが少し可哀想になるくらい。

 

 そして、上映前のCMが映る。

 

「千佳ちゃん、これって本当に面白いのよね? タイトルが地雷っぽいんだけど……」

「は、はい。観ればハマるらしいです……一応」

「ふーん」

 

 わたしはキャラメルポップコーンのLを頼んだ。

 もちろん一人で食べるわけじゃなくて、木虎さんも一緒に食べるかなって思ったから。

 

 上映が開始すると、みんな熱中して釘付けになっていた。

 もちろん、わたしと木虎さんも。

 

 内容を簡単に言うと、いわゆるFPSゲームをVRでやる作品だ。

 そして、高校生くらいの男の子と大人の女の人が二人でAランクを目指す物語のようだった。

 

 ボーダー隊員が夢中になりそうな要素は、武器がボーダーの扱うトリガーと似ていたところだ。

 だから、簡単に物語に没入できた。

 

 終盤、Aランクになる主人公たち。

 でもAランクに上がるだけで終わった。

 

「これで終わり……?」

 

 そう思ったら、新たなランクのSランクを仄めかして終了。

 どうやら続編が決まっていたからこその演出だったようだ。

 

 映画を見終えたわたしたちは外に出て、早速感想を言い合う。

 

「すっごく面白かったわね」

「はい。アイビスみたいな武器で最後に攻撃したときは、ハラハラしました!」 

「というか、あれは製作者側にボーダーのファンか、ボーダーの知り合いがいるわね。クオリティが高すぎるもの」

「あ、それ修くんたちも言ってました……!」

「そう……」

 

 また不機嫌になっちゃった……?

 もしかして、嫉妬してるのかな?

 

「あの、わたしは木虎さんのことは……尊敬してる、素敵な先輩だと思ってます」

「どうかしたの? でも、ありがとう。……それで、尊敬しているところといえば?」

 

 あっ、内容を聞くんだ……。

 意外と気にしてるのかな?

 

「……えっと、したたかだけど可憐さがあるというか、やさしいけど厳しいところとかが、しっかりしてるなぁって」

「そう。ありがとう。千佳ちゃんは変わらないわね」

「そ、そうですか?」

「ええ。かわいいままよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 思わず照れてしまう。

 そんなふうにしていると、木虎さんが口を開く。

 

「それよりも、お腹も空いたし、なにか食べましょう?」

「そうですね。木虎さんが行くと目立ちそうですし、わたしが買ってきます!」

「ええ、ありがとう」

 

 それから十分後……

 

「すみません、遅れました……!」

「いえ、大丈夫よ」

 

 やっぱり木虎さんはやさしいなぁ。

 

「どうせなら、わたしのお気に入りの場所で食べませんか?」

「いいわね。それじゃあ、案内してくれる?」

「はい!」

 

 こうして、あの神社へと向かうわたしたち。

 

「へぇー、ここも変わらないものね」

「前までは、ここをよく隠れ家にしていました。ボーダーに入隊してからは、来る頻度が減りましたけど」

「そうなの。ハンバーガーはあまり食べないから、ちょっと楽しみね」

「あの、木虎さんは……その、苦手な食べ物はありますか?」

「あるにはあるけど、ハンバーガーには入りそうにないから、安心して」

「そうですか。てりやきバーガーとえびフィレオ、どちらが好みですか?」

「じゃあえびフィレオをいただこうかしら」

「そうですか。では、いただきます」

「いただきます」

 

 パクッと一口頬張り、むっしゃむっしゃと咀嚼する。

 

 けど、なんだか木虎さんの方から視線を感じるような……

 そう思い、木虎さんの方を見るわたし。

 

「なん、ですか? そんなに見つめて……」

「いや、かわいらしいなと思ってね」

「その、からかわないでください……」

「ふふっ……それにしても、ハンバーガーなんて久しぶりに食べたわね」

「あっ、もしよければ……」

 

 そう言って、わたしはなんとなく木虎さんに食べかけのてりやきバーガーを差し出す。

 その直後、わたしはすぐに我に返った。

 

「あっ……ごご、ごめんなさい! きたないですよね……すみません!」

 

 そううろたえていると、木虎さんがパクリと一口。

 

「うん、甘じょっぱくて美味しいわ」

「平気ですか……? 無理してませんか?」

「ん? なにが?」

「いえ……」

 

 何事もなかったかのように咀嚼するわたしたち。

 でも、木虎さんに嫌われないか、罪悪感に苛まれる。

 

 そうだ! いっそのこと、わたしも木虎さんのを一口もらおう。

 

 ……冷静になって考えると、悪い人みたいな発想だ。

 でも、このときは自分を正当化するのに夢中で、そのことには気がつかなかった。

 

「木虎さん」

「ん? どうかした? 千佳ちゃん」

「わ、わたしにも一口分けてもらえませんか?」

「ええ、いいわよ。はい……」

 

 スッとえびフィレオを差し出される。

 だけど、冷静になってみると、どこから食べるべきなのか悩んでしまう。

 

 木虎さんの食べたところをがっつり食べると引かれそうだし……

 だからといって、いまさら「やっぱいいです」とか言ったら申し訳ないし……。

 

 そうだ、木虎さんの食べた部分と食べてない部分の中間をいただこう。

 

「ごめんなさい……」

 

 パクリと一口もらって咀嚼する。

 

 よし。

 

 …………って、なにが「よし」なのかはわからないけれど、これで罪悪感はなくなった。

 

 けれど、間接キスをしたという事実が、いまになって恥ずかしくなってきた。

 木虎さんの方を見ると、普通に食べていた。

 

「木虎さんはすごいですね」

「えっ? なにが?」

 

 あっ、声に出てた……。

 

 ここは素直に言ってみようかな。

 ウソをついたらもっと嫌われそうだし。

 

「その、間接キスを気にしないところが、かっこいいなって思って……わたしばかり意識しちゃって、なんだか恥ずかしいです」

「あ、当たり前よ。その程度で動揺していたら、A級が務まらないもの」

 

 そう言って食べ進める木虎さん。

 そっぽを向きながら食べているからわからないけど、若干ほっぺを赤くしているように見えるのは、わたしの思い違いかもしれない。

 

 そして、わたしは照れつつもハンバーガーを完食する。

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした。千佳ちゃんは、これから予定とかあるかしら?」

「とくにありませんけど、なにかあるんですか?」

「実は今日、嵐山隊として、色んな局のメディアからテレビのインタビューを受けることになってたの。千佳ちゃんも出てみる?」

「えっ……? いや、その……」

「無理にとは言わないわ。後輩としてちょっとだけ出るとかでもいいから。なんせ、B級2位の部隊(チーム)ですもの。ものすごく目立つでしょうし、よければどうかしら?」

「はぁ……き、木虎さんが言うなら……」

 

 こうして、木虎さんについて行くわたし。

 その中で仕事をテキパキとこなす木虎さんが、いつもより少しかっこよく見えた。

 

 そして一時間後、わたしが出るところを収録するようだ。

 

「じゃあ、十数分程度のコーナーなので、リラックスして話してください。録画よーい……」

「五……四……三……」

「…………はい。今回は嵐山隊の木虎藍隊員にインタビューしちゃいます。木虎隊員は、休日はいかがお過ごしでしょうか?」

「そうですね。いつもは本部で資料をまとめる作業をしたり、色んな隊員と訓練をして、競い合っています」

「そうですか! 実に木虎隊員らしい、真面目な休日ですね」

「はい。そして、今日は後輩の隊員と過ごしました」

「そうなんですね」

「………………」

 

 木虎さんは、急にしゃべるのをやめた。

 一体どうしたんだろう?

 アナウンサーさんも、だんまりを決め込んだ木虎さんに恐る恐る話しかける。

 

「……あの、どうかしましたか?」

「ここからは私の後輩の隊員を紹介するので、カットしてもらっても構いません」

「あっ、そういうことでしたか。では、続けますね」

「了解です。五……四……三……」

「…………それでは、今回はその後輩の隊員を連れてきているようです。どうぞ!」

 

 スゥーっと、画面の端から現れるわたし。

 

「ど、どうも。雨取千佳といいます」

「……千佳ちゃん。別に生放送じゃないから、緊張しなくて大丈夫よ」

「あっ、はい!」

 

 そっか。

 緊張してて、完全に忘れてた。

 

「雨取隊員ですね。それでは、名前を言い終わったところからで。ここまでカットでいきまーす」

「はい。……それと千佳ちゃん。緊張してもいいから、ちょっとだけ頑張ってみようか。私の尊敬してるところとか言うだけだから、頑張って」

「は、はい」

 

 わたしは大きく深呼吸する。

 うん、少し落ち着いたかな。

 

 そして、テレビの収録が始まる。

 

「雨取隊員の趣味はなんですか?」

「は、はい。趣味は、本部や所属している支部での訓練をすることです。わたしは狙撃手(スナイパー)なので、よく友達や先輩たちと一緒に、訓練をしています」

 

 よし、きちんと言えた。

 

狙撃手(スナイパー)のトリガーの隊員は他のトリガーの隊員と違い、狙撃手(スナイパー)志望の隊員全員と同じ訓練をして競い合うんです」

「そうなんですね。ちなみに、雨取隊員はどれくらいのランクなんでしょう?」

「えっと、B級二位です」

「なんと! B級二位はA級に近い存在だということは、ボーダー通の方ならご存知でしょう」

「そうです。この地位は、数多くの隊員の中から選ばれた存在であり、B級ランク戦を勝ち抜いた猛者が辿り着ける地位です。千佳ちゃんもその猛者の一人だということを覚えてもらいたいですね」

 

 なんか、過大評価されてるような……

 

「な、なるほど……。木虎隊員の熱い語り口からして、本気で雨取隊員を評価していることがうかがえますね」

「当然です。A級に近い存在なのに評価されないのは正直解せませんし、なによりB級隊員も、我々ボーダーにとっては誇りなので」

「では最後に、雨取隊員の、木虎隊員の尊敬してるところなどがあればどうぞ」

「はい!」

 

 よし、木虎さんのすごいところを挙げよう。

 

「木虎さんは、日常でもしっかりと真面目で、前なんか初めて見る近界民(ネイバー)と戦闘する場面を間近で見て、さすがA級と言わざるを得ないほどの戦いっぷりでした」

「それじゃあ千佳ちゃん。そろそろまとめてくれる?」

「はい。わたしは木虎さんを尊敬しています。なので、これからもいい先輩でいてほしいです!」

「ということで、後輩からも信頼されている木虎隊員でした。それでは、木虎隊員、雨取隊員、ありがとうございました」

「はい。ありがとうございました」

「……ございました」

「…………はい、オッケーでーす」

 

 ふぅ、テレビには慣れてないから、緊張したなぁ……。

 

「どうだった? 千佳ちゃん。テレビに出るかもしれない感想は」

「無意識でペラペラと話したので、変なことを言っていないか心配です」

「大丈夫。私こそ、素が出ちゃったから、少しイメージが悪くなりそうで、ちょっと心配だわ」

「大丈夫だと思います。根拠はないけど、素をさらけ出すのが悪いなら、わたしなんてダメダメでした。木虎さんが真面目なトーンで話すのは、メディアからしたら珍しいかもしれませんし、わたしからしたら、かっこいい先輩にしか見えませんでした」

「……そう、ありがとう」

 

 そんな話をしていると、メディアの人から声をかけられる。

 

「雨取隊員、今日はありがとうございました」

「は、はい」

「それで、お金の話だけど……」

「ちょっと失礼します。千佳ちゃんは私の後輩として出演したんです。なので、そのお金はボーダーの関係者の方に渡してください。失礼します」

 

 そう言って去っていく木虎さん。

 やっぱりかっこいいな……

 そう思いつつ、わたしは木虎さんについていく。

 

「あ、待ってください。それより木虎さん、なんで不機嫌なんですか?」

「……だって、千佳ちゃんをプロデュースしようとするんですもの。大切な後輩を巻き込むのはイヤだから……」

「あ、そうだったんだ……。ありがとうございます」

 

 思わず頭を下げるわたし。

 

「いいわよ、別に。メディアはかわいい子を狙ってくる。おとなしい子は特にね。だから、肝に銘じておくこと」

 

 わたしが、かわいい……。

 何度言われても、実感が湧かないなぁ。

 

「どうかした?」

「いえ、なんでもないです。えへへ」

「……まあいいわ。注意するように」

「はい!」

 

 やっぱり、木虎さんはいい人だなぁ。

 

「じゃあ、今日一日付き合ってくれてありがとう。お礼をするわ」

「え?」

「じっとしてて」

「は、はい……」

 

 木虎さんがそう言うのでじっとしていると……

 ちゅっ……と、おでこにキスされた。

 

「じゃあね、千佳ちゃん。今日のデート、楽しかったわ。仕事が残ってたの思い出したから、また今度ね」

「あわわわわわわわわわ……」

「ふふっ、じゃあね」

 

 わたしが両手でおでこを押さえているうちに、木虎さんはわたしに手を振ったあと、本部へと向かって行った。

 

 わたしは心を落ち着かせるために、玉狛支部へと向かった。

 すると、栞さんがいた。

 

「あっ、千佳ちゃん。今日は木虎ちゃんとおでかけだったんでしょ?」

「あ、あの……ちょっと狙撃の訓練をします」

「そっか。頑張ってね」

 

 わたしは一人の空間で、思いっきり深呼吸をして落ち着かせる。

 

「よし」

 

 そう思っても、あの記憶がフラッシュバックする。

 

『今日のデート、楽しかったわ』

 

 そして、おでこにキスをされたことも。

 

「あわわわわわわわわわ……」

 

 そんなふうに動揺することしかできなかったので、わたしは帰宅した。

 でも、結局その日はおでこにキスされたことを忘れられずに、ただただ落ち着かなかった。

 

 さすがに次の日になったら、治ったけれど。

 そして、『昨日はどうもありがとうございました』と、メッセージを送っておいた。

 

 おでこにするキスの意味を調べてみると、「かわいい」とか「大切にしたい」と出てきて、少し照れてしまった。

 

 でも、この満たされたような気分はなんなのだろう。

 ぽかぽかというか、自分でも理解のできない、不思議な感覚だ。

 

 いつかこの気持ちの名前がわかるように、木虎さんとはたまに会いたいと思った。

 この感情を、恋という言葉だけで片付けたくなかったから。

 

 後日、わたしと木虎さんがテレビに出ているのを観て、おでこにキスされたことを思い出し、みんなの前で照れてしまうことになるが、それはまた別のお話。


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