なんとなく書いた小説です。生暖かい目で見守ってやってください。
いつか、いつの日か
目を覚まして最初に見た光景は、見慣れた星空だった。ビルの隙間から差し込む月の光。背中で感じる硬い感触。隣から聞こえる、静かな寝息。その光景に何も感じない程、いつも通りだった。
だから、いつもの様に手を伸ばす。そうすれば、いつか手の中に星を掴めそうだから。いつか、願いが叶うかもしれないから。
そう手を伸ばし続けて、何かが変わった事は無い。このクソッタレな今が、ただ死んでいないだけの今が、ほんの少しでも変わった事など無い。
それでも、やらないよりはマシだと思うから、願いは無いよりもあった方が良いと思うから。
月を見上げて、星空に手を伸ばす。毎日そうする様に、いつもしている様に。
馬鹿な奴だと笑われる。叶う事など無いと侮蔑の視線を向けられる。
願うだけなら誰にも出来る、行動するのは君しかできない。私達を見る事など無い誰かからは、そう決めつけられる。
夢のない奴だと笑い返す。お前が叶えられなかっただけだと、言い返す。
こちらを見ない奴の言葉など、聞くに値しない。あいつらだって、こっちの言葉は聞かないだろう。
いつかそいつらを見返す為に、願いは叶うのだと突きつける為に、そして何より、見上げて、願い続けた過去の為に。
私は、手を伸ばし続ける。
心の中で大爆笑した。
これでは、常に理想を掲げる友人の事を馬鹿にできないじゃないか。だから、心の底にしまっておく。誰にも言わない。
眠くなってきた。手を下ろし、隣を見る。
隣で眠る友人と、私の手は血塗れで──
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目を覚まして最初に見た光景は、知っていて知らない星空だった。
空に瞬く星は、いつも見上げていた星よりも強く光り輝いている。遠いからこそ憧れていた月も、手を伸ばしたら届きそうな程、近くにある。
細長いコンクリートで出来たビル群から垣間見えるだけの小さな空は視界一面に広がっていて、その周りを木々が囲んでいた。
その光景に違和感を感じる。だって寝る前に手を伸ばした星空はこんなに綺麗ではなかった。
けれど背中で感じる感触が、アスファルトのざらざらとした硬い感触じゃなくて、ちくちくとした、若かく固い葉っぱが肌を刺してくる痒みだということに気付いて、此処があの都市でないことを悟った。
は?
なぜ?
なんで?
どうして?
思わず、衝動的に起きあがろうとしたが、身体が動かない。ひとまずそれを受け入れて、そのお陰で、思考が落ち着きを取り戻す。長いこと筋肉を動かさないと、身体が動かなくなるというのは、本当の様だ。こんな無駄知識まで披露する余裕もある。冷静になった頭を動かし、取り敢えず考える。暇だし、出来ることないし。
最初に考えた可能性は、人攫いであった。でもよく考え直す。私みたいな貧乏な餓鬼攫って売っぱらった所で、得られる利益は二束三文にしかならないだろう。人攫いが狙うのは富裕層のちびっこ共だ。身代金が貰えればそれで良いし、貰えなければそれこそ売っ払えば良い。健康だから高く売れる。そもそも攫っておいてこんな所に捨てるか? 普通。よって人攫いの線は無し。
次に考えたのは、"掃除"。でも掃除人が確殺せずに死体を捨て置くことなどあり得ない。それに、周りに死体は一体もないし、臭いもしない。大体私が着ている服には血がついていない。だから掃除も有り得ない。
頭の中で、数多の可能性を思い浮かばせ、その全てを切り捨てる。それは、今の状況に納得のいく説明ができる可能性が無いという結論に行き着くまで、続けられた。
そうなるとオカルトな可能性が頭をよぎるが、一旦それは無視する。しかし、現実的な可能性で説明をしようとすると、展開の飛躍、天文学的確率、もしくはその両方をクリアしないといけないのだ。そっちの方がよっぽどオカルトってもんである。
こうなってしまってはオカルトの方が信じられる。私のオカルト知識を総動員して考えた結果は、
多分私は死んだのだろう。それで此処は死後の世界だ。
これであった。
死んだのかと実感した途端、喜びと諦めと、ほんの少しの哀しさが混じった感情が心の底から湧き上がって来た。あそこに残してきたものは何もないと言うのに、戻らなければと言う焦燥感が頭の中を埋め尽くす。何故?
それとも私が忘れているだけなのか? あの場所にあったものを。
そんな疑問も頬をつつく細い指によって霧散する。と言うよりも、そちらに気が取られてそれどころじゃなくなる。あんなクソみたいな場所のことを考えるより、今起きている事の方が先決だ。
頬をつつき続ける指は冷たく、その指の持ち主が到底生きているようには思えない。お迎えなのだろうか、死んでからお迎えと言うのも可笑しな話だが。
私が視線を横にずらすと、そこには蒼い少女がいた。髪色、眼の色、服の色、頭についたリボン、そのどれもが青く、胸元についた細く赤いリボンが一つのアクセントになっている。
そして一際目を引くのが、背中に浮かぶ氷の塊ような三対の何か。少なくとも作り物には見えない。例えるのならば、まるで妖精の羽のような──
「ねー、だいちゃん。これなにかな」
「どうしたの、チルノちゃん。きゅうにしゃがみこんで」
「いやだからこれ」
「ってひとぉ! なんでこんなとこに⁉︎」
「あたいがしってるわけないじゃん」
「チルノちゃんにはきいてない!」
その後ろから走ってきたのは、緑髪にサイドテールの緑の眼をした少女。蒼い少女と似たような服装をしており、胸元のリボンが黄色になっている。
そして背中には、蒼い少女と同じように羽のようなものが浮かんでいる。こちらは、精緻なガラス細工の様に綺麗な一対の羽だ。二人とも美少女ですね、成長するのが楽しみだ。
そんな美少女二人はこちらを指差し、何かを喋っている様だが、うまく聞き取れない。ただ、聞いている感じ、別の言語ではなさそうだ。
「えっと、とりあえずべつのばしょに」
「ねえだいちゃん。だったら凍らせれば、運ぶの楽になるよ!」
「はっ! そうだね! そうやって滑らせればすぐに動かせるね! チルノちゃん天才!」
「ふっふっふ…。あたいったら天才ね!」
ちょっと待て。聞き捨てならない発言が蒼い少女から飛び出した。聞き取れる様になって初めて聞こえた言葉が、少女からの殺害発言とか。人は凍らされたら死ぬ、一般常識だ。この少女達はそんなことも知らないのか?
これがただの冗談なら問題ないが、最悪なのは実際に蒼い少女──緑の少女の言葉を借りるならチルノちゃん──が私を凍らせられる場合、為す術無く私は死ぬことになる。この少女達の一般常識など説いている暇なんてないのである。もしかしてチルノちゃん、私にトドメを刺しにきた天災なんじゃないか?
そんな馬鹿な。ふざけるな、何だって死んでからもう一回死ななければならないのだ。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。
そう心の中で叫んだ所で何かが変わるわけでもなく、そんな事に労力を割くくらいなら、身体を動かそうとすることに全力を注ぐべきであり、つまりは私のやっている事は全くの無駄である。
だが幸運の女神という者は相当に慈悲深いらしく、その慈悲深さのおこぼれにあずかる事ができた私は、まるで墓場から蘇る
死んでいたはずのものが起きあがろうとする、その一部始終を目撃した少女達は、先程までの威勢は何処へやら、こちらをまるで化け物を見るかの様な怯えた目つきで見据え、互いに抱き合っている。その目には涙が浮かんでおり、体を震わせながら後ずさる。それこそ、生まれたての子鹿の如く。フィルム時代の映画であれば、さぞかし良い絵が撮れたであろう。
少女達の方へと上半身を向け、腕を伸ばす。それが襲ってくる合図にでも見えたのか、少女達は一目散に森の中をかけて逃げて行った。見事な逃げっぷりだ。熊にだって捕えるのは難しいに違いない。
しかし、森の中だ。まだ、公園の中という可能性が残っていたのだが、こうも視界いっぱいに木々が生い茂っているのを見ると、やはり私は死んだのだろうとしか思えない。お迎えはまた別のやつが来るだろう。
私が寝転んでいた場所は、創作で見る様な森の中のくせに木が生えていない、ちょっとした原っぱの様な場所。よく謎の美少女が陽射しを浴びながら倒れているか、黄昏れてるあんな場所である。
私がいた都市もよくコンクリートジャングルなどと揶揄されていたが、それを形作っていたのは灰色の無機質な木々だけで、目の前に広がる緑と茶色の有機物など、緑化活動のアピールの為に道の端に数本が植えられているか、公園の中に生えているだけのはずである。決して、その奥が見えない程に鬱蒼と生い茂ってはいなかった。何なら都市の近くにすらこんな森はなかった。
遠くの空を見ても、地上から飛び出すレーザーライトの光が見えるわけでも無く、空にドローンや
見える範囲に都市は無く、少なくとも気軽に帰ることのできる距離にない様だ。
何故、都市の姿を探しているんだ? そんなにも、私は生きたかったのか? あんなゴミ溜めの様な場所で。いいや、違う。私はあんな場所、嫌いでしかなかったはずだ。只、生きていく為だけに暮らしていた場所だ。あんな場所に戻りたいだなんて思うはずが無い。そうだ、私は、あの場所が、嫌いだ。
都市に対する憎悪を無理矢理膨らませる。そうでもしないと、頭の中で囁く、戻らなければ、という声に負けてしまいそうになる。私は死んだんだ、戻る事など元からできやしないというのに。
「ッ!」
森の中から向けられた殺気を感じて、思考を中断する。ねっとりと絡みつく様な殺意。こちらを品定めしているかの様な、気味の悪い視線がこちらを見ている。お迎えか? だとしたらお断り願いたいものである。こんな薄気味悪いお迎えなんて、最悪だ。
周りの森からも、同じ様な殺意が飛んできた。それは、木々が落とす影の中から向けられている様にも思える。一体、どれほどの数がいるのだろうか、八人までだと助かる。
ゆっくりと立ち上がり、最初に殺気を向けた奴がいるであろう場所へと、私は視線を向ける。
「こんばんわ、月が綺麗ですね」
先の見えない暗闇に向かい私は言葉を掛ける。へんじがない、ただのしかばねのようだ。
「あれを見てそう思えるなら、相当狂ってるね」
どうやら生きた人間の様だ。闇の中から少女の声が聞こえる。先程逃げて行った少女達の声では無い、新しい少女だ。さっきみたいな美少女なら大歓迎だけど、殺気を向けられるのはご容赦願いたい。私にヤンデレの趣味はないのだ。
「月は、綺麗でしょう?」
更に声をかける。只の時間稼ぎだ、もう少しすれば身体が自由動かせそうになるから。けれどあの月は、今まで見たどんな月よりも綺麗だ。あれを綺麗と思う感性が狂っていると思われるのなら、この少女と分かり合える時は来ないだろう。
「何も見えない暗闇の方が綺麗だよ」
どうやら趣味が合わなかった様だ。きっと告白だと思われたに違いない。くそう、何処かの誰かのせいで、素直に月が綺麗だと言えなくなってしまったではないか。巫山戯るなよ、何処かの誰か。
「でも、食べないであげる」
おや? 少女からの殺気が消えた、説得できるか? てか、そもそも私の事、食べようとしていたのか。怖っ。
少女だと思っていた相手が、少女の声で獲物を誘き寄せる化け物だと気付いた時、人は悲しむらしい。ソースは私。
「あなたの目は綺麗だから。食べたらもったいない。じゃあね」
そういうだけ言って、少女、もとい化け物の気配は離れて行った。それと同時に周りから浴びせられていた殺気も消え、胸を撫で下ろす。
正直言って、戦っても勝てるかどうか怪しかった。化け物の謎の価値観のお陰で戦う事は無かったが、もし戦うことになったら、周りから殺気を向けていた取り巻きの内、幾人かを道連れにできるかどうかって所だったな。危なかった。
ひとまず私はその場に座り込む。そして、目が覚めてからの出来事を振り返る。
さっきは化け物に襲われかけるし…
その出来事を噛み砕き、咀嚼して、整理して…
結論!
私は死んでない! つまり異世界転生!
若しくは、此処地獄!
ははは、馬鹿げてる。
今日の日記
美少女二人と出会った。眼福。しかし殺されかけた。それはいただけない。