あと語彙力もねぇ…
リメイク中だぜぇ…
朝起きたら自分の姿が化け物に変わっていたわけでもなく、今は見知った天井を見上げ、目を覚ます。今日は、魔法を学ぶ日だったはずだ。一日寝過ごしていなければ。
ベッドから降り、枕元においてある仮面を手に取り、部屋から出る。まだちょっとフラフラする、壁に頭をぶつけた。
その所為で、頭からすっ転ぶ。三十キロの鉄塊を分厚い金属板に落としたような音がした。妙に具体的だって? 聞いたことあるからさ! その時は人が一緒に潰れてたけど。
その、到底人が起こしたとは思えない音を聞いて、アリスさんが顔を覗かせた。
「…何してるの」
「あ、お気になさらず」
「あ、そう。だったらさっさと起きてご飯食べなさい」
そう言って顔を引っ込めた。手ぐらい貸してくれても良いんじゃないんだろうか。
痛む頭を押さえながら立ち上がり、良い匂いのする方へ向かう。フラフラするのは貧血のせいか、単に低血圧なだけか。
寝ぼけ眼で椅子に座り、テーブルの上に置かれたフレンチトーストを口に運ぶ。美味しい。やっぱりアリスさんは料理が上手い。
「食べ終わったら、食器水に浸けて家の外に来なさい」
「
「食べながら喋らない」
無言で頷く。それにしても本当に美味い。昨日のクッキーもだが、高級店の商品だと言われても信じそうだ。高級店の商品なんて食べた事ないけど。そんな金は無かった。
残りのフレンチトーストを五分ほどで食べ終わり、流し場にお皿を運ぶ。
水に浸けて玄関の扉を潜ると、家の周りの木が悉く燃えていた。放火魔だ! 放火魔が現れた!
それを引き起こした下手人と思われる人物、アリスさんは燃え盛る木の前で、ぶつぶつと独り言を唱えている。
「…つ、また失敗したのか。こんな所まで破片が飛んでくるとか、何しているのかしら? 後で問い詰めるか…」
なんかいつもより雰囲気が荒んでいる。目つきも鋭いし、苛々しているのが見て取れる。
声をかけようかどうか迷っている私に気付くと、荒んだ雰囲気が霧散した。というか、心の内にしまい込んだようだ。
「ああ、ごめんなさい。気づかなかったわ」
そう言って、こちらに向かって歩いて来る。
「いえ、全然。えっと、アリスさんが?」
「違うわよ、他の魔法使いの所為。いつも失敗ばっかりしてるの」
「へー」
魔法は難しいんだろう。失敗は成功の母というし、その魔法使いには頑張って欲しいものだ。
「まあ、ちょうど良かったわ。貴方の魔法の練習になる」
「ああ、消火すれば良いんですね」
「そうよ」
失敗した魔法使い様々だな。何となくだけど感謝しておこう。今後の活躍に期待だ。
そこで、アリスさんは物々しい雰囲気で話し始めた。名も知らぬ魔法使いへの感謝の念を振り払い、アリスさんへと向き直る。
「これから魔法を使ってもらう」
「はい」
「先ずは、魔法を使う上で私が一番大切だと思っていることを教えるわ」
そこで私は息を呑む。一字一句聞き逃すまいと、集中する。
「魔法で一番大事なのは、結果よ」
「なんでですか?」
「魔法を使うのであれば、そこには必ず目的がある。今回の場合は、火の延焼を止めること。そして、その目的を達成するには魔法を使ってどの様な"結果"を出すかが重要になる」
「なるほど」
そこで相槌を打つ。結果を出すこと、それだけ聞くと成果主義の様に聞こえる。
「火を止めるには、水をかけても良いし、周りの空気を無くしても良い。炎自体を変化させるっていう手もあるわ。その中から、自分の目的に合わせた結果を出すの。無数に起こせる"結果"の中から、目的を達成しうる最良のものを選ぶ。それこそが魔法の真髄よ。最適な結果を出すためには、いかなる手段をも許容すべきね」
つまりは、テストで百点満点を取る為には、カンニングなども辞さない。みたいな感じか。ちょっと過激すぎるが、だいたい同じだろう。
「まぁ、これはあくまで私の持論に過ぎないわ。自分が大事だと思った事を重視しなさい」
「わかりました」
「それじゃあ実際にやってみましょう」
そう言って燃え盛る木を指差す。そう簡単には消えそうにない程、激しく燃え上がっている。まるで炎自体が、木に生い茂る葉っぱの様だ。
「あれを消すにはどうすれば良い?」
「水をかける?」
「そうね」
そう言うと、煌々と光る木に向かい、手をかざす。
「水よ出でよそして放ちたまへ」
よく聞き取れない言葉を言い放つと、その手に水の塊が現れ、燃え盛る木へと放たれる。
水の塊は、半ば炭化した木に当たる。そして、まるでスライムの様に木を包み込み、激しく燃える炎を消火し終わると、消滅した。
「別に詠唱はしなくても良いけど、最初のうちはした方が良いわ」
した方がかっこいいしね。厨二病? そうか。
「別に難しい事じゃないから、学ぶ段階は飛ばすわ。水について知らないわけじゃないでしょう?」
「はい」
「後は簡単。起こしたい結果を思い浮かべて、願うだけ。出来るだけ具体的に、その方が成功率も上がるわ。学ぶのはその為よ」
「詠唱ってどうやれば」
「詠唱は勝手に口から溢れるから、心配しなくて良いわ」
それは誰かに操られているんじゃないか? 変わってしまった何かは頭の中では無かろうか。知らん言葉を自分の声で自分の口から喋られるとか、最早、ただのホラーだ。
私は幽霊なんて信じていないし、ましてや人体憑依なんてもっての外である。何だったら、都市伝説の方を信じているタイプだ。
そう思い込む事で、不安を吹き飛ばす。本当は、幽霊の事はガッツリ信じてる。愛してる。大好き。
まあ、自分の身体なんて興味ないし、魔法使えるなら別に良いや。
早速目を瞑り、頭の中で水の塊をイメージする。それを放って、面倒臭っ。何で態々一つずつ消していかないといけないんだ。結果を願うだけで魔法が使えるのなら、もっと楽な方法があるだろう。
例えば雨を降らすとか。
空を覆い尽くす雲を思い浮かべる。曇天の空から降り注ぐのは大量の雨粒。風は無く、ただ雨粒が真っ直ぐに、槍の様に降り注ぎ、地面を穿つ。手を伸ばした先すら見えない程の密度のそれは、燃え盛る木々を全て只の炭に変える。それは、森を全て飲み込まんとしていた炎を消し飛ばした後、まるで役目が終わったかの様に、その主導権を太陽に譲る。それがあったとは到底思えない程に晴れ渡った空に虹が掛かる。
それを、その結果を"願う"。
途端、脳味噌に直接針を差し込まれる様な痛みが走り、何かを流し込まれる様な感覚に陥る。聞いた事も見たこともない様な文字が頭の中に浮かぶ。
知らぬ間にその言葉を口走り、一気に周りの気温が下がる。
「雨雨降降何もかもを流しつくせ」
全ての感覚が失われる。視覚、聴覚、嗅覚、触覚。先程まであんなに痛かった脳味噌の痛みすら、感じない。目を開けたと言うのに、広がる光景──光景と言って良いのかは定かではないが──は暗闇だ。暗闇と言うことすら当て嵌まらない。ただ何も映さない、それだけだ。
その状態でどれだけの時間が過ぎただろうか。一分? 一時間? 一日? それとも数日だろうか。しかし、それ程までに長く感じた時間は、精々が数十秒に過ぎず、私の体内時計が対して当てにならない事に気付かされた。
一気に情報が押し込まれ、全くもって動いていなかった脳味噌を再稼働させたが、着ていた服が肌に張り付く感触と、雨上がり特有の独特な匂いが脳の機能を麻痺させる。
あんなにも燃え盛っていた木々は、その名残を黒く焦げた表面以外に残さず、まるで遥か昔に鎮火していたかの様に思える。
脳が情報を噛み砕いていた時、肩に手を置かれる。
「雨を降らすなら、そう言って欲しかったんだけど」
そちらの方向を見ると、水が滴る良い女がいた。何を隠そうアリスさんだ。女性の方が良いか?
濡れた服が身体に張り付いて、まあ、詳しくは言わないが、めっちゃ
アリスさんは私ほど濡れている様には見えず、小雨に降られた程度の様だ。魔法か何かで防いでいたのか? どうせなら私の事も防いで欲しかった。
「まあ、初めて魔法を使ってこれなら、完璧に近いわ」
やったね褒められた。自分でも出来るとは思ってはいなかったし、案外才能あるかも? へくしっ
さぶい。いつもなら雨に降られた程度で、風邪は引かないんだけど。何と言うか、身体の芯から熱を持っていかれた気がする。魔法を使ったせいかな、だったら生贄なり、体の部位なりなんなりを持っていかれそうだ。変な代償だな。
寒い、寒い。
「はやくおふろにはいりなさい。かぜひくわよ」
意味がわからない言葉をアリスさんが喋る。魔法でも使ったのか?
見た景色が処理できない。聞いた言葉が理解出来ない。アリスさんは何言ってるんだ? 私は今どこにいる?
寒い、寒い、寒い。
「…なにつったっているの?」
足を踏み出す。ん? 手か? いやきっと顔だ。うんそうだ、腹だよ、指。てか、あんた誰? 良いね美人さん。付き合って。
寒い、寒い、寒い、寒い。
「だいじょうぶ?」
なんで友人がここに? お前死んだんじゃ、いや違う生きてる。生きてる。生きてる。だって最期、一緒に喋ったじゃないか。今も元気にやってるよ。元気に盗人やってるよ。
寒い、寒い、寒い、寒い、寒い。
「っ! まさか!」
ぐずぐずとけてく。なにがって? あたまのなかみかな、だってさっきなにかいれられたじゃない。だいじなものとられちゃった、いれられたかわりに。おきたことすらうけいれられないのに、そんなものいらないよね。
さむい、さむい、さむい、さむい、さむい、さむい。
「しっかりして! かんがえつづけて!」
だいじだっておもうならちゃんとうけいれればいいんだようけいれてわすれるのならまだましだけどうけいれもせずにわすれさるのはよくないよべつにきみのせいじゃないでしょそうだあをうけいれてもいいんだよそうするんだったらそれはわすれたままにさせてあげるうけいれる?
さむい、さむい、さむい、さむい、さむい、さむい、さむい。
「みみをかさないで!」
だいじょうぶだよいたくないよさむくないよこわくないよ
「眠眠唯深く!」
あったかい
────────────────────────
「それで、今はどうなの」
「なんとか眠っているわ。少なくとも今は届いていないはずよ」
「どうしてそうなったのかしら」
「感受性が高過ぎた。あの子は、魔法を使うには完璧すぎた」
「弟子ができたからって浮かれていたからこうなったのよ」
「わかってる」
──無数の本に囲まれながら、二人の魔法使いが話し合っていた。
二人を照らすのは、蝋燭の光のみ。その光は、片方の魔法使いの心のうちを表しているが如く、弱々しかった。
その魔法使いは沈痛な表情を、その人形のような端正な顔に浮かばせている。
起きた出来事を受け入れ、噛み締め、後悔している。その心情が痛いほど伝わってきたから、もう片方の魔法使いはこれ以上追求するのをやめた。
「名前を変えるか、貴方自身が名付けるしかないわ。それ以外は変えようが無い」
名前と言うものはとても大事なものだ。特に自分でつけた名前は、その意味が強固になり、他人から名付けられた名前よりも"強く"なる。
「そうするには起こす必要がある。でもそれをすれば…」
「それは私がなんとかする」
その言葉を聞き、顔を上げるアリス。そこには、そんな事出来るはずが無い、と顔に描かれていた。座っていた椅子から立ち上がり、こちらを見据える魔法使いに向かって、声を荒らげる。
「なんとか出来るわけないじゃ無い! それは本来時間を掛けて慣らすものよ! そうしても呑み込まれる可能性があるの! それを一度に、そんなの出来るわけ無い!」
そこにいつもの冷静さは無く、ただ感情のまま喚き散らしている。こうなったのは自分が原因だと言う罪悪感の所為だろう。
「落ち着きなさい」
くだらないことで泣き喚く子供を叱りつけるように、落ち着いた、しかし有無を言わさぬ物言いで、アリスを落ち着かせる。
バツが悪そうに、椅子に深く座り込み、一言漏らす。
「…わかってるわよ」
「だったら魔法使いらしくありなさい。みっともないわ」
「じゃあ、どうやってなんとかするのよ」
「はぁ… 魔法使いらしくありなさいって言ったでしょう?」
そう言って、周りに積まれた本の山の間から、紙を引っ張り出す。そして、鉛筆を手に取り、絵を描く。教師が生徒にするように、アリスがアルミスにしたように。
「先ずはそれについて学ぶ。基本でしょう?」
紙に書かれた絵は、まるで声だけの化け物のようだった。それ以外に"それ"を表す言葉など存在しないだろう。
「その声は何?」
「…願いを引き換えに"何か'を持ち去る魔界の存在」
それはまるで契約を持ちかける悪魔の様な、
「なぜその声が聞こえる?」
「魔に近づいたから」
それはまるで本能が鳴らす危険信号の様な、
「何をしたら魔に近づく?」
「魔法を学び、使う事。才能があればある程、近づく速度は速くなる」
それはまるで行き過ぎた者を処罰する門番の様な、
「どうしたらその声を防げる?」
「防ぐ事は出来ない。出来る事は慣れる事だけ」
それはまるで耳元で常に囁く欲望の様な、
「では慣れるには?」
「その声を聞き続ける事。欲望に負けず、精神を強く保つ事」
でも、その対策はまるで陳腐で、
「もしその声に、自らの欲望に負けたなら?」
「"何か"を奪われ、
そして、負ければ全てを失う。
「完璧ね、やればできるじゃ無い」
出来の良い生徒を褒める様に、アリスに対し称賛の声をかける魔法使い。
「…でも、それがどうしたって言うのよ」
対するアリスの反応は、つっけんどんで、かなり苛々しているようだ。
「要は、慣れさせれば良いのよ」
「どうやってよ。届いてもいないのに」
「届いていないのは、脳が処理できていないからよ。それは脳に声をかけていないわ、だから時間さえ掛ければ、絶対に慣れる」
「どれだけかかると思ってるの? まさか数年とか言わないわよね?」
アリスはそう魔法使いに圧をかける。馬鹿な事に割く時間はないんだ、あのままだったらそのうち負けてしまう。そうなる前にどうにかしなければならない。
「まさか、そんなわけないじゃない」
「じゃあどうするって言うの?」
「忘れたの?
日記無し
名前について
意味は、なくても良いが、あった方が良い。その名前の意味と重なる魔法は、強化される。