月を見上げる、星空に手を伸ばす   作:そこけせ

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次前倒しで紅魔館です。編では無いです。


そして願って、

 私では無い誰か(自分)が動かす私の身体は、顔を拭いて首を傾げながらテーブルへと戻っていった。

 

 今すぐにでも殺してしまいたいところだが、残念ながら私は身体を動かす事ができないし、よしんば動かせたとしても肉体的に此奴を殺せば、私も死ぬかもしれない。

 私が生きているからこそ此奴を殺す意味があるのであって、私が死んでしまえば此奴が死んだところで意味は無い。

 

 とはいえテーブルに座っている此奴を精神的に殺す手段など今のところありはせず、希望があるとするのなら魔法に精神に影響を及ぼす方法があれば良いのだが…

 

「本当に大丈夫なのね?」

「はい」

「それじゃあ続きをしましょう。魔法とはなんだったかしら」

「えっと、魔法とは…」

 

 身体は滔々と魔法について話す、昨日アリスさんが言っていたことだ。

 

 曰く、

 

 それは、願いを叶える方法の一部である。

 

 それは、一部だけを扱う事で、人の身で扱える様にしたものである。

 

 それは、魔法使いと共に有るものである。

 

 とか。

 

「その通りね、それが言えるのなら言う事ないわ。それじゃあ、魔法について学びましょう」

「起こしたい現象について学ぶんでしたよね」

「そう、今回は水を一直線に出し続ける魔法を学ぶわ」

 

 そう言って椅子から立ち上がって、少しテーブルから離れると、掌に炎を生み出すアリスさん。

 

「魔法は現象を願うことでそれを起こす。それには具体的なイメージが必要だから、起こしたい現象について学ぶ必要があるの」

「どうすれば火が起こすことができるかとかですか?」

「そう。でも魔法は、実際にどの様にして火が起きているかは関係無い。魔法を使う本人が、こうする事で火が起きると認識している理屈で火を起こせる。態々火が起こるのに必要なものを集めていたら、それは魔法を使わなくても良いものね」

「というと?」

「例えば今のは、私の掌の上で火は起きる。っていう理屈で認識して願ったからこうなったの。実際はそんなことないけれど」

 

 アリスさんがそう言った途端、手のひらの上で燃えていた火がたちまち消え失せる。

 

「とはいえ、そう信じていないと火は消えてしまう。魔法を使うときはそう思い込むことがコツよ」

 

 そう言ってアリスさんは、台所からボウルを取り出す。それに、魔法を使って水を注いでテーブルの上に置く。

 

「それじゃあ、このボウルに入った水をどうすれば一直線に放てるかしら」

「え。え、水鉄砲?」

「それはどう言う感じで水を飛ばすの?」

「それはこう、水が入った筒に細い穴を開けて水を押し出す?」

「頭の中で具体的に想像できる?」

「できます」

「なら良いわ、じゃあ次は魔法を使う時に注意すべきことについて」

「なんでしょう」

「デメリットみたいなものと、私が魔法を使う時大切にしていることね」

「あるんですね、デメリット」

「そんな大きいものでは無いけれどね」

「連続で使えないとかですか?」

「違うわ、声が聞こえてくるの」

「声?」

「魔法は願いを叶える方法の一部を使っていると言ったでしょう?」

「そうする事で人が扱える様にしたものだと」

「そう、でもその所為で願いを叶えようとする声が聞こえてくるの」

「まるで願いを叶える方法みたいですね」

「みたいじゃなくてその声に応える事が願いを叶える方法よ。でもその声は願いを叶える代わりに、命を持って行くの」

「悪魔の契約ですね」

「そんな感じね。まあ、命というよりは願いを叶える権利を奪って行くのだけど、人間や妖怪がそれを取られたら死ぬと同義だから大して変わらないわ」

 

 ようかい? なんだそれ。動物みたいなものか? アリスさんの言い分からして魔法を使えるっぽいけど。

 

「願いを叶える権利というと?」

 

 それじゃ無いだろ、いやそれも気になるけども。くそっ、こういう時に限って思考が同調しない。

 

「意識や思考とほぼ同じ様なものよ。それが無ければ、身体的には生きていても精神(中身)が無いから、生きている価値がなくなるの」

 

 意識や思考とほぼ同じ?

 

「精神が大事なんですね」

 

 身体的には生きている。

 

「そうね、特に魔法使いは精神が強く無いといけないわ。魔法で精神に影響を及ぼせることはできないけれど」

 

 今の状況にぴったり過ぎていないか?

 

「それじゃあ、私が魔法を使う時に大切にしている事について教えるわ」

 

 生贄の様に代わりを使えるのだろうか。

 

「それは、どの様な結果を出すか、よ」

 

 いや、この身体を動かしている奴も、元は"私"だ。

 

「魔法を使えば必ず結果が伴う。これは魔法が失敗しない以上、変わることのない事実。魔法を使った目的によっては"失敗"と言えることもあるけれど、それは目的とは違う現象が起きただけの事、使った本人の問題ね」

 

 そして、今の私は身体の主導権を握っていない。

 

「目的に合わせた結果を出す事。これは、魔法使いとしての最低限のラインよ。例え手段が少なかろうと、どんな手を使ってでも目的の結果を出す事に執着する、これが私が魔法を使う上で大切に思っていること」

 

 持っていかれるのなら此奴じゃあないか?

 

「まあ、貴方が魔法を使い続けて、別の事の方が大切だと思うのなら、それを信じなさい。自分の信念を持つ事も魔法使いとして大切よ」

 

 一先ず、今の私が魔法を使えるかどうかだ。魔法が使えないとその声は聞こえないらしいし。

 

「分かったかしら?」

「肝に銘じました!」

「宜しい、じゃあ外に出ましょう」

 

 そう言ってボウルを持ちながらアリスさんは外に出て行く。身体はそれについて行く。

 外に出ると、未だ木々は燃え盛っていた。焦げ臭い匂いと空高くまで伸びる炎が放つ熱気が、辺りに立ち込めている。既にこの家の周りの木は、全て黒く焦げた炭になっていた。

 

「それじゃあ、実際に魔法を使って行くわ」

「いぇーい」

 

 身体は喜んでいる。良いご身分だな。

 ていうか、学ぶってあんなので良いんだ。もっと魔導書的な何かを読み込んで、呪文覚えてみたいな感じだと思っていた。

 

「魔法を使うには、先ず現象を起こす、次にそれを変化させる、この二つを願うだけよ」

「願ったら駄目じゃないんですか?」

「声に応えて願うのが駄目なの、こっちから一方的に願いを押し付けるだけなら問題ないわ」

「懐広いんですね」

「…まあ、そうね」

 

 なぜか歯切れの悪い返事をして、目を逸らすアリスさん。何やらごもごも呟いている様だ。内容は聞こえない。

 一言二言呟くと、頭を振ってこちらに向き直る。

 

「取り敢えず、水を出して、それを燃えている木に向かって放ってみて」

「わかりました」

 

 そう言われた通りに、水を放とうと燃え盛る木に向かって手をかざす身体。

 

 魔法はイメージして願うだけで良いらしい、それなら今の私にもできそうだ。

 丁度良く身体が手をかざしているので、その手の先に水が沸き出るイメージをして、"願う"。

 

 その時、突き出された手から水の塊が出てきた。

 

 それはただ真っ直ぐに"進む"。蛇口から出る水や、ホースから放たれる水とは違い、塊のまま伸びて行く。例えるのならゼリーが近いだろうか。

 

 その水とも言い難いゼリー状の物体は、燃え盛る木に進んで行き、炎を鎮めることなくべちゃっと音を立て地面に落ちた。

 

「…過程を端折ったでしょう」

 

 アリスさんが呆れた様子で問いかける。

 

「そうですけど」

 

 悪びれずにそう言う身体。やはり此奴は私ではない、私はもっと聞き分けが良いはずだ。

 

「どう願ったの?」

「…進む水として」

「どうしてそう願ったの?」

「…願うだけなら、そう願えばそういうものとして出現するのではないかと」

「そういうものとして出現させたらそれは水じゃないわよ。だから、先ず水という現象を起こして、それを変化させるの」

「わかりました」

「まあ、発想は悪くないわ。魔法ではたとえ存在しないものでも一応生み出せる、って事を知っていれば役に立つこともあるでしょう」

「あると良いですね」

「何様のつもりよ。まあ、生み出したところでそれは存在しないものだから、モノとして存在することはないのだけれど」

 

 実際そのようだ、身体曰く"進む水"は地面に落ちた後まるで存在そのものがなかったように、空間に希釈されていった。

 

「それよりも、最初は教わった事をそのままやりなさい。応用するのはその後よ」

「はい」

「それじゃあ、もう一度」

 

 魔法を使ってからしばらくたったが残念ながら声は聞こえてこなかった。意識だけでは魔法は使えないのか?

 取り敢えず、身体はもう一度魔法を使うらしいので、それに合わせてさっきの様に"願う"。

 

 すると、燃え盛る木に向かって突き出されていた手から、先程とは違いホースから噴き出る様に、水が放たれた。

 放たれた水は、木が纏っている炎を掻き消して、それをただの炭に変えた。

 

 そして、頭の中に声が響く。

 

【願いを叶えるか?】

 

 誰だ!!

 

【願いを叶えるか?】

 

 ああ、これがアリスさんの言っていた声かな?

 

【願いを叶えるか?】

 

 はい。

 

 三度目の問いかけを肯定で返した私の視界は暗闇に包まれて、身体の感覚も消え去った。

 

 ────────────────────────

 

「お前の願いは何だ」

 

 目を覚ました時、全力でビルの上を一時間飛び回った後の様な気怠さと、その所為で疲れ果ててビルの上から足を踏み外して落下した時の様な痛みを感じて、思わず呻いて、それがきちんと口から放たれたことに違和感を抱き、勢い良く()()()()()()()辺りを見渡す。

 

「お前の願いは何だ」

 

 視界が映し出したのは、暗闇。そこに私と()()以外の存在は無く、その二人だけが異物のように''浮いている''。地面に触れている感覚は無いのに、私はへたり込んでいる。

 しかし、そんな矛盾など吹き飛んでしまう程、私の身体が自由に動かせる事など些細な事であると思ってしまう程、そこにあるだけで全てを滅ぼしてしまうのでは無いかという印象を受ける程、彼女は神々しかった。

 

「聞いているのか」

 

 暗闇の中、凛とした佇まいでこちらを見下ろす彼女は、暗闇を背景にするには不釣り合いな程、白い。真っ白な髪に青い服、右手に神々しいデザインでありながらも禍々しい杖、そして背中には三対の純白の翼。

 青白い顔にある、此方を見透かすその瞳は、紅玉の様に紅く、蒼玉の様に蒼く、黄金の様に輝き、白銀の様に眩く、万華鏡の様に数多の色を映し、そしてそれら全てが入り混じった暗い色をしていた。

 

「もしや、別の奴か」

「…あ、違います。私が願いました」

 

 問いかけに返事が返ってこず、あるはずの無い手違いを疑う"天使"。その顔には人が読み取れる程の変化はなかったが、アルミスの返事を受けて安堵したかのように思える。

 

 一方で、そんな"天使"の姿を呆けた様に見つめていたアルミスは、彼女からの問いかけを半ば反射的に答える。その目は"天使"の目を食い入るように見続けており、自分が言った言葉を理解できているのかすら怪しい程に、其の言葉には意思がこもっていなかった。

 

「そうか、ならばお前の願いは何だ」

「無いです」

「…は?」

 

 アルミスがまたも機械的に"天使"の問いかけにこたえ、その答えを聞いた彼女は()()()()()返答に困惑的な声を漏らす。それでもその青白い顔にそんな様子を一切浮かばせることはなかったが、心の内では数多の疑問符が飛び交い、正常な思考の邪魔をしているだろう。

 アルミスには与り知らぬことだが、この暗い空間にはどのような問いにも正直に、心の底から思っている通りの答えが口から発せられるように魔法が掛かっている。厳密には魔法ではないが、大して変わらないしそれは今重要な事では無い。

 

 重要なのは、この空間では噓を吐く事は出来ないという事だ。

 

 つまりは、アルミスには本当に願いが無いという事。願いも無いのに"天使"の問いかけを肯定で返すなど、生き物では無いか、余程の狂人であるとしか言いようがない。

 そもそも"天使"の問いかけが聞こえるという事は魔法使いという事であり、そうであるならば問いかけに答える事がどのような結果を招くのかを必ず知っているはずである。生きている物である以上、"願いを叶える権利"を奪われる事にとても強烈な、それこそ死んだほうがマシと思えるほどの忌避感を覚えるはずだ。

 その忌避感を無視できるほどの狂人の、正に狂っているとしか言いようがない願いを聞くためにこのようなことをしているのに、目の前の此奴は願いが無いと言う。

 ここに呼ぶことも楽ではないと言うのにこれでは無駄足ではないか。そもそも此奴は――

 

 そんな、まるで筋違いで一片の正当性のある愚痴を頭の中に並べ立て、正常な思考を取り戻そうと頭を回らせる"天使"。

 そして聞き間違いという、普段ならば到底思いつくことのないとても素晴らしい考えを思いつき、呆けているアルミスに再度問いかける。

 

「もう一度聞こう、お前の願いは何だ」

「無いです」

「…ならば何故問いに答えた」

「願いを叶える権利を取って欲しいからです」

「ふむ」

 

 此奴もその()()か。嫌いな奴の権利を取って欲しいと願う人間は前にもいたが、こんな存在が一体何を恨んでいるんだ?

 

 疑問はさておき、とても興味深くそして面白い返答を返したアルミスに対し、

 

「誰のだ?」

 

 その対象となる人物の事を問いかける。

 

「私」

「ほう?」

「私の身体を使っている、"私"」

「……はは、ははは、そうか、そうか。そう来たか! よりにもよって()()が!」

 

 その返答を聞き、呵々大笑する"天使"。

 

 そんな様子の可笑しい奴を前に、自分の答えが何故そこまでツボに入ったのかが心底わからないといったポカンとした表情でそれを見つめるアルミス。といっても元からそんな表情だったが。

 

 しばらく美しいソプラノの音色の笑い声を響かせ、ひとしきり笑いつくした後、

 

「ならば、そう願えば良いんじゃ無いか?」

「そしたら、私の権利取られるじゃ無いですか」

「気付いたか」

 

 アルミスが返した答えは屁理屈も良いところだが、特段それを咎めるわけでも無く、"天使"はさらに言葉を続ける。

 

「一つ断っておくが、別に私は権利が欲しくてこんなことをやっているわけでは無い。お前がそれを願うというのなら、私はきっかりお前の権利を頂戴する。だが、何故そいつから権利を奪って欲しいんだ? その理由を教えろ。その理由が面白ければお前から権利は奪わないでおいてやる。さあ、答えるんだ!」

 

 まるで少年の様に目を輝かせ、言葉を並べ立てる"天使"。

 

 そんな奴に対するアルミスの答えは勿論、

 

「勝手に私の体を使っているから」

 

 至極当然である。寧ろそれ以外の理由があるのかと思うほどつまらない理由だったが、どうやら"天使"にとっては違った様だ。

 

 その答えを聞いた彼女は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、その美しい瞳を見開く。

 そして再度腹を抱えると、先ほどの数倍の大声で笑い出す。さっきのが呵呵大笑ならば今度は怪獣の鳴き声に近しいモノだった。

 

「マジで! ()()()()()()()! 嘘でしょう! アハハハハハハ! 真逆此処までの逸材がいるだなんて! 気に入った、気に入ったよ!」

 

 思わせぶりな発言しかしない奴って苛つかない? 苛つきませんか、そうですか。

 まるで誰かにそう定められているかの様に、決定的な言葉を言わない"天使"だったが、アルミスがそれに気付いていないと知ったのだから、金輪際自分の口からそれを言わないだろう。こう言うのは、自分で気づいた時の反応を楽しむのがマナーである。

 

「合格だ、合格だよ! なんなら何回でも願いを叶えてやろう! と言いたいところだが、流石にそれはアレだしソレだからな。何処かの魔人よろしく三回だ、三回だけ願いを叶えてやる。但し、願いを増やす願い事は無しだ、それ以外ならばどの様な願い事も叶えよう。わかったか? わかったな、ならばさっさと戻って、さっさと魔法を極めて、さっさと気づけ。魔法に関することなら手を貸してやれなくもない、困った時は私を呼ぶと良い。嗚呼、そうだ名前だ。名前を言っていなかったな」

 

 そして一呼吸おき、そして高らかに名乗りをあげる。

 

「我が名はsariel! 人は私を大天使と呼ぶ。お前もそう呼ぶと良い」

 

 そしてアルミスに杖を振り、

 

「また会おう、哀れな魔法使いよ」

 

 その言葉を最後に、アルミスの意識は途切れた。

 




書いてたらハイテンションになったsarielさん。神綺ママで威厳出すのは難しい事に気づいたのだった。
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