※チート匂わせあり
「キミィ、ダンジョンに出現したオークキングの討伐はどうなっとるのかね?」
「ですから先日も申し上げましたとおり、A級ハンターの手配には時間が」
「それを調整するのがキミの仕事だろう。子どもじゃないんだから出来ない理由ではなく出来る理由を報告したまえ」
「はぁ……申し訳ありません」
「失礼。今度のイベントに参加してくれるアイドル系ハンターの出演依頼についての報告がまだなのですが」
「それは私の担当では」
「ハンター関係の手続きは貴方が専門ですよね?」
「ですから、私の担当範囲は主にダンジョン管理の」
「資格を持っているのですから貴方も出来ますよね? 忙しいんですから言い訳ばかりしていないで速やかに書類を揃えてください」
「……わかり、ました」
「おい! なんで探索許可出ねぇんだよ!」
「このダンジョンはB級以上のハンターにしか探索許可は出せません」
「はぁ?! アンタ、この俺がB級ダンジョンで通用しないって言いたいのか!?」
「それは迷宮庁が認定して発行するライセンスに」
「うるせぇ! テメェじゃ話にならねぇ、上の人間呼んでこい!」
「ですから、これは国の定めた規則でして」
「……ふぅ。今日も1日が終わった」
「…………」
(……疲れたな。うん)
(ハンターをしていた頃よりは安全だし、収入も安定しているけれど……モンスターを狩っているときより、疲れが酷い気がする)
(…………)
(……今日も、あの店に、食べに行こう)
(グルメ戦国時代の日本、どの店も様々な手段でお客さんにアピールしている)
(各種メディアからSNS、MYTubeの動画や配信でも)
(そして、立地条件の良い場所に店を構えるために大金を注ぎ込んだりもするワケだが……)
(あの店は、逆走というか、逆張りというか)
(広告、宣伝、一切無し)
(しかも目立たない裏通りでポツンと1店舗、しかも夜間の営業のみ)
(夜、9時……俺みたいな残業でヘトヘトの人間にとっては快適な“独り焼肉店”がそこにある)
(今日も、お世話になります)
(焼肉屋【升屋】さん。ちょっと特殊で、とても美味しいお肉。しっかりと楽しませていただきます)
「いらっしゃいませ」
「あの、これ」
「はい。どうぞ、空いているお席へ」
「ありがとうございます」
(食べ放題、3千円。しかし10枚つづりの食券を買えば2万5千円。実にお得だ)
(それで、今日の仕込みは……牛系のモンスターか)
(この店に細かいメニューは無い。黒髪を短く切り揃えた若い大将……二十代前半ぐらいか? まぁ、ハンターの年齢なんてアテにならないけど)
(そんな大将が自分でダンジョンに狩りに行った獲物を提供するから、その日の成果でメニューが決まる)
「それで、本日はどうしますか?」
「取り敢えず、ひと山。赤身の部分を多めで」
「かしこまりました」
チラリ
『ひと山、概ね五百グラム』
『少ない枚数でのご注文も承ります』
(ふふっ。焼肉屋のメニューとは思えない大雑把な壁の短冊だ)
(さて……肉が整う前に、俺のほうも準備を終わらせておこう)
(ご飯、食べ放題。千切りキャベツ、取り放題。冷たいウーロン茶に温かい麦茶、飲み放題。ニンニクは、ギュッと握って潰すヤツが備え付けでご自由に)
(コレで肉までおかわりできるっていうんだから、そりゃ大将本人がハンターじゃなきゃ採算なんて取れたもんじゃないだろうな)
(ご飯は……山盛りにしちまうか。俺の腹もそう言っている)
「よっ、と」バタンッ
(L字のカウンター席、3人並びと2人並び。ほかにお客さんもいるが、タイミング的に俺のだよな)
(冷蔵庫から取り出された肉の塊を切る、大将の動きが良い)
(営業許可証と、迷宮探索許可証と、一緒に並べれたハンターライセンス)
(ウチの役場で発行された、ランクCのそれだが……剣スキル、いや短剣スキルかな? かなり高そうだ)
(いわゆる、包丁を前後に動かして“切る”のではなく、包丁を入れることで音も無くスッ……と“切り離す”って感じ)
(まぁ、美味い肉ってことは、それだけレベルの高い個体を狩れるってことだからな。案外、焼肉屋がメインだから昇格試験を受けていないだけってコトもある)
「……よし」モミモミ
(肉、in、ガラスボール。壺から、かき氷とかでよく見るあの銀色の……アレ、なんて名前なんだろうな? それでタレを加えてまぜ、まぜ……うん)
(この下味があるのと無いので違うんだよな〜。タレ無しの塩で食べるのも美味いけど、やっぱ、ご飯で焼肉ならタレだよ、タレ)
「おまたせしました。ごゆっくり、どうぞ」
「ありがとうございます」
(テーブルで、炭火焼き)
(個人的に埋め込み式ってのがポイント高い。七輪みたいなヤツを置かれるのは少し……焼肉は、上から肉が焼ける姿を眺めたいんだよな)
(取り敢えず、何枚か適当に焼いて────)
(そろそろ、いいかな?)
(どれ……下味そのままで、まず1枚)パクッ
(…………)モニュモニュ
(…………)ゴクンッ
「ん。美味い」
(シンプル美味い。グルメな知識を必要としない、ただ、食べて、美味い牛肉。正確にはタウロス系のモンスターだけど、ちゃんと牛肉)
(適度に柔らかく、だけど柔らか過ぎない、肉は顎で食べたい人のための焼肉だ)
(ワイルドな旨味はあるのに臭みはないのがまた、大将の腕が良いんだよな〜。解体の仕方と熟成の仕方にコツとか、あるんだろうな)
(どれ、次はタレをつけながら……ニンニクは……まだ、いいか。味変は後半戦で楽しもう)
(肉を米の上でバウンドさせるのを、行儀が悪いって言うのも、わかる。わからなくはない)
(だけど、対面に誰もいない独り焼肉だ。ここは俺がルールなんだから、誰に遠慮なんてする必要あるか)
(こうして、食えば……)パクッ
(…………)モグモグ
(はい、最強)
(肉と米。最強の矛と最強の盾が矛盾することなく両立している。呑兵衛たちを否定するつもりはないが、やっぱり焼肉にはメシだよなぁ)
(そう考えると、最初に肉と米を一緒に食べた人って偉いよ。すごく)
(迷宮の、モンスターの肉って昔は捨てられてたんだよな。穢れも取り込んで大変なことになる、って)
(確か……織田信長のお抱えの料理人が最初に食べる切っ掛けなんだっけ? この前テレビでやってたな)
(なんでも竹中半兵衛の手記に、友人が用意してくれる日ノ本らしからぬ不思議な料理のおかげで病気も良くなり最後まで秀吉に仕えられた、とかなんとか)
(織田信長も、焼肉、食ったんだろうな。フフッ、タレ派と塩派で喧嘩する家臣を前にして是非も無しッ! とか言ってたりして)
ガラガラッ
「こんばんは。店長さん」
「はい、どうも。空いてるお席にどうぞ」
「えぇ。……あら、ごきげんよう。お隣、失礼しますね?」
「えぇ、どうも」
(名前も知らない顔見知り。高校生ぐらいだろうか? 女の子がこんな時間に独り焼肉ってのもスゴイよな)
(あれだけ沢山食べてるのに、モデルのようにスマートな体型。服の上からでもわかるぐらいってことは、この子もハンターかな)
(カロリー、使うから。ハンターは)
「注文、よろしいかしら?」
「はい」
「では……ホルモンを、ふた山、お願いします」
「かしこまりました」
(いきなりホルモンとは渋いな。しかもふた山)
(ホルモンなぁ。俺も好きだし、美味しいんだけど……ご飯のおかずとしては微妙かな)
(ここの味噌ダレは美味いんだけど、それは豚肉系でいいかな。ホルモンは、ウーロン茶でも飲みながら静かに楽しみたい)
(今日の腹具合はとにかくメシをかき込みたいんだ。すまん、ホルモン。また今度ね)
「店長さん、ひとつ、確認したいことがあるのだけれど」
「はい、なんでしょう?」
「このトッピングのために用意されたニンニクだけれど、そのまま焼いて食べても構わないかしら?」
「それなら、皮付きのモノを丸ごとご用意させていただきますよ」
「あら、そう? ではお言葉に甘えさせて貰うわ。ありがとう、店長さん」
「いえいえ。では……はい、こちらから、お好きなものを」
「店長さんが選んでくれるのではないの?」
「こういうのは、お客様の胃袋がときめいたモノを選ぶのが1番ですよ」
「そう。なら」
(素人でもわかる。アレは、良いニンニクだ)
(大き過ぎず、でもズッシリとした面構え。金物ではない、木で編まれたザルに無造作に積まれた武骨さも相まって……確かに、焼いて食べたら美味そうではあるな)
「では、これを」
(しかし焼きニンニクとは。ホルモンに続いて王道から外れているが……我が道を行くスタイルなんだろう)
(そりゃあ、若くたって、可愛くたって、女の子だって、明日のためにニンニクをたっぷり食べて活力を補充したくなる日も)
「それからコレとコレと、コレも」
(…………)
(多いな?)
(キミの握り拳並みの大きさのニンニクを4つも丸ごと焼いて食べるのか……さすがに、多くないか?)
(ブレスケアとか、そういうレベルじゃなくて、髪の毛とか衣服にまで臭いが染み付いてしまいそうな気がするんだが)
(いや……それで、いい)
(王道から外れても、それが彼女の覇道。栄光の焼肉ロードなんだ。俺が心配するのは不作法ってなもんだ)
(ひとりぐらい、食べ放題の焼肉屋でニンニクを焼いたっていい。明日の臭いを気にすることなくがっつく女の子がいてもいい。自由とは、そういうことだ)
(しかし……それはそれとして、横でそんな威風堂々とした注文をされると、俺が足踏みしているのは情けないような気がしてきたな)
チラリ
『白身 ステーキカットもできます』
「すみません」
「はい」
「赤身と白身、半々でひと山お願いします」
「かしこまりました」
(タッパで下味をじっくり漬け込んだホルモンも美味そうだけど、ここは脂身を恐れず霜降り肉に近いところ、突撃してやろうじゃないか)
「……うん、綺麗な色合いだ」
(赤と白。ほどよい桜色。この脂身を美味しく食べるためには炭火が必要だから、やっぱり店で食べなきゃいけないんだよ)
(さて……何年も前からステーキや焼肉にはワサビを合わせるのが主流だが、ここはショウガを使わせてもらうとしよう)
(まずは、片面を)ジュッ
(……これ。この、網に乗せた瞬間の音。脂身の美味い肉でなければこの音は出ない。なんて、そんなモノ聞き比べたことなんてないが)
(程よく焼いたら裏返して……ここに、充分に醤油を染み渡らせたショウガをひとつまみ)
(あとは、じっくり待つだけ)
(テレビで、雑誌で、動画で、グルメと呼ばれる人たちが本当に美味い食べ方なんてものを紹介してるが……自分が美味いと思う食い方が1番に決まってる)
(さて、そろそろだな……)
(霜降り焼肉、ショウガ醤油仕立て。いざ)
(…………)モニュモニュ
(…………)ハグハグ
(ショウガって、メシに合うよな。やっぱり。豚肉はショウガ焼き、牛肉はショウガ醤油、適材適所の使い分けが大事なワケだ)
パリ……
ペリペリ……
「あふっ、はふっ」ングング
(……隣の芝生は青い、か)
(試しにひと欠片、焼いてみるか?)
(あんまり焦げちゃうと勿体ないし、火から遠ざけて遠赤外線で焼いてみるか)
(どれ、いまのうちにご飯のおかわりを────)
(……そろそろ、か?)
(ちょっと、かじってみるか)
「あつっ、あひっ、んん……?」
(甘い……?)
(フルーツ的な、しっとりとした甘みやズッシリとした甘みじゃない。サツマイモやカボチャみたいな、いわゆる“ホクホク”とした甘みだ)
(ニンニクって、焼いて食べるとこうなるのか? それとも大将が拘ってダンジョンの何処かで採集してきたのか)
(ま、どっちでもいいか。明日は俺も、ニンニク頼んでみよう)
「おはようございます」
「おはようございます。そういえば、いつだったかのハンター。上の階級のダンジョン許可証をよこせ〜って騒いでいた人。聞きました?」
「いえ、まだなにも」
「無断で、攻略しようとして。それで、救助要請って。今朝方、迷宮庁のほうから連絡がありましたよ。と、言っても許可無しでの攻略は全てが自己責任になるので我々には関係の無い話ではあるんですが」
「一応、確認のために……ですかね。はぁ、しかし。救助要請。少なくともランクB以上の方々が派遣されたとなれば」
「全額負担ですからね〜。しかも信用も落ちるでしょうし、これから大変でしょうね〜。ま、そういう人たちのための依頼もあるので仕事を失うってことは無いでしょうけれど」
「いいかしら? ようやくよ、ようやく。ランクAのアイドル系ハンター。配信者としても有名で、私がこうして約束を取り付けたのよ? いい? 貴方は余計なことを言わずに、聞かれたことにだけ答えなさい。わかったわね?」
「えぇ、まぁ……わかりました」
「失礼します。この度は、私どもの開催するイベントに────」
「あら、あなたは」
「おや」
「奇遇ですね、おじさま。お店以外でお会いするのは」
「お知り合いですか?」
「えぇ。マネージャーにも話したことはあると思うのだけど。ほら、隠れ家的なお店の」
「あぁ、あの。どうも、初めまして。この子のマネジメントを担当しています」
「これはこれはご丁寧に、どうも」
「あのお店、美味しいですよね。もったいないのでSNSはもちろん、知り合いにもヒミツにしていますが」
「店主の方が宣伝を好まないようですし、自然と……お客さんの側も、そういう人が集まるのかもしれません」
「類は友を呼ぶ、ですか。繁盛されても困るけれど、潰れるのはもっと困る……なんて、ワガママですよね」
「えぇ、まぁ。その気持ちは、私にもわかります」
「うん、いいわ。そちらのおじさまが担当してくれるのなら、今回のイベントには喜んで協力させてもらいましょう」
「な、なにを」
「だって、貴女、信用できないんですもの」
「信用って! そもそも私が企画の立案を」
「それ以前の問題です。貴女、私のことを見下しているでしょう? どうしてこんな小娘に頭を下げなければならないんだって、
「てき、い、だなんて……そんな、ことは」
「ランクAハンターがその程度の気配も区別できないと? それとも、アイドル業務や配信の様子からお飾りの肩書きとでも?」
「あ……うぅ……ッ!?」
「まぁ。少し睨んだだけで……フフッ、ごめんなさい。一般人相手にはしたない真似をしてしまって。さて、部外者には出ていって貰おうかしら?」
「俺の意見を出すより先に仕事が決まってしまった……まぁ、赤の他人よりは少しでも人となりを知っているだけマシかもしれん。そう思うことにしよう」
「あ! こんなところに! オークキングの件なんですけど」
「申し訳ありません。ハンターの手配は」
「もう片付いたので大丈夫だって、連絡がありました!」
「……はい?」
「討伐、されたみたいです。魔石と、いくつかの素材部分だけが残されてて、戦闘の規模からして少人数の少数精鋭による狩りだったそうですよ」
「そうですか。まぁ、メンツの問題はありますが、低ランク帯のハンターが犠牲になる前でよかったです」
「ホントですよね〜! あ、でも。ひとり無事じゃない人もいるんですよ。なんか、あまりにも申請の手際が悪いっていうのでギルド職員の方が来ましてね? それでなんと! 横領ですよ横領! まったく、私たちよりずっと給料を貰ってるくせに……自業自得ですよ!」
「…………」
(なんか、変に疲れたな……)
(仕事が消えて、増えて、やっぱり消えて。結局、後始末はしなけりゃならないから大変なのは同じ……か)
(こんな日には……お世話になるしかない)
「さて、今日はどんな仕入れを……おや」
「あ! おっちゃん、おひさ〜♪ おっちゃんもあの店に?」
「えぇ、まぁ。貴女も……焼肉屋に行くにしては、また」
「屋敷から逃げ出すのに、イチイチ着替えてるヒマが無かったんだよ」
「似合ってますよ、着物。簪の色合いも」
「そ、そうか? えへ、へへッ! そうか〜♪ なぁおっちゃん、どうせおんなじ店に行くんだからエスコートしてくれよ。ナンパとかされたらメンドクセェし。これから美味いモン食いに行くのにさ」
「はぁ、まぁ……こんな中年男性でよければ」
(名前も知らない顔見知り、増えたよな)
(なんとなく、想像は出来るけど。たぶん呪術系の家系で……いや、プライベートの詮索はよそう。美味いメシを楽しむには、デリカシーの配慮も必要だ)
「さて、到着しましたよ。腕はもういいでしょう。そして……本日は豚系の日、みたいですね」
「豚肉か〜。ここの店長が仕入れる豚肉って、脂身まで美味いよな! 香りもとにかく、こう、焦げた感じがもう食欲全開! って感じ!」
「えぇ。正直、スーパーの特売を狙うぐらいであれば我慢したほうが────おや」
『本日 串カツできます』
『アルコールの持ち込みは自己責任で』
「うぉ!? マジで!? やっべぇ、どうしよう……焼き肉が先か、それとも串カツが先か、コイツは難問だぞ……!」
「食べるのは両方なんですね」
「え? そりゃそうだろ。おっちゃん串カツ苦手なのか?」
「いいえ。大好物ですよ。ご飯と合わせるのは少し手間ですが」
「あー、うん。せっかくの串カツなのに、串から外したら勿体ないもんな」
(……この子、出来るな)
(外して食べたほうが楽、なんて無粋なことは言わず。串カツは串カツのまま食べたいって気持ちを、その若さで理解できるとは)
「では、私はまず串カツとウーロン茶を楽しんで、それから豚の焼き肉を楽しむことにします」
「そ、その手があったか……! よし、アタシもおっちゃんと同じスタイルでいくぜ! そう言えばさぁ、ここホルモンもあるじゃん? なんか、豚は胃袋も美味いらしいって調べたら出てきてさぁ」
「あぁ、ガツのことですね。あれは良いモノですよ。高タンパク低脂質で女性にもオススメで────」