時計じかけのジュリエット   作:メルクルD

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お久しぶりでございます。

こないだのあとがきについてずっと考えてたんですが、カイテンジャーなる集団が巨大ロボ使ってるのを見てなんか全部吹っ飛んじゃったので開き直ることにしました。


ジュリエット・オリジン

 梶江ユリがそれに出会ったのは、ブラックマーケットをうろついていたある日だった。

 

 キヴォトス随一の科学力を備えるミレニアムサイエンススクールへの入学を控えていた彼女は、同校の部活・エンジニア部の部員となるにあたっての手土産を探していた。より正確に言うならば、実体化に値する何かの設計図──そうでなくとも刺激を得られるデータを探しに。

 

「……そう簡単に見つかる訳もないか」

 

 マスクの顎の部分を空け溜め息を外へ逃しながら、ユリはぼやいた。

 

 それらしい露店をいくつも巡ったが、興味をそそられるものを目の当たりにすることはできなかった。連邦生徒会の管理が及ばないここであれば、玉石混交の玉の部分──掘り出し物のひとつやふたつ見つかるだろうと思ったのだが。

 

「残念だけど、そろそろ帰らないと」

 

 二度目の溜め息をついて空を見上げると、太陽が傾いてきているのが目に入った。このまま夜になれば、治安は最悪といえるレベルに達するだろう。住人であることを装おうと着古した衣服を選んだのが功を奏したのか、まだちょっかいをかけられてはいないものの、この先は流石に厳しいはずだ。愛用の銃に加え、逃走用のスモークグレネード程度は携帯しているが、実際に踏み入れるのが初めてなこの場所でそう簡単に振り切れるとは思えなかった。

 

「ここになかったら切り上げよう」

 

 トタン板で張り合わせられたような外装のジャンク屋の入り口に立つと、自分を奮い立たせるように大きく頷いたのち入店した。

 

「……」

 

 店に入ってまず目についた店主は、葉巻を咥え新聞を読み耽る犬型の市民だった。彼はこちらの風貌を伺ったのち、興味なさげに視線を新聞へ戻した。

 

 結局一言も交わさないままユリは手近な棚へ向け歩く。並んでいるものはパッと見る限りガラクタばかりで、中には先ほどぶりに会うような品すらもあった。時間の都合もあって流し見をするような格好になったものの、やがて彼女の目に留まったのは奇妙な冊子だった。

 

「……これは?」

 

 見た目に何の変哲もなければ、札に殴り書かれた名も「ロボ画像」とひどく質素なもの。だがその内容をまだ確認していない以上、価値の断定もしがたかった。

 

「──ビデオ屋の創造物だ、多分な」

 

 唐突に声が聞こえた方へ振り向くと、例の店主のものだった。ぼやきを聞きつけたのか、しばらく冊子を観察していたのを見たからかはわからないが、彼はユリが興味を抱いたことを察し声をかけてきたようだった。

 

「少しばかり中を拝見しても?」

 

 ダメ元でそう訊いてみれば、勝手にしろ、と店主は言うのみだった。ためらいがちに表紙を開くも、おっかなびっくり見ていたのは最初だけで、すぐさまその内容に取り憑かれていった。

 

「な、なに、これ──?」

 

 中に書いてあったのは、人型のロボットのものらしき設計図で、推力はおろか内部機構や、製造企業の詳細・分担が部品クラスで記載されていた。こういったロボットを扱うフィクションにおいて、機体のスペックや機構が明確に設定されていることはそう珍しい話ではない。だが、それを考えてもこの設計図は異常だ。まるで、そのフィクションの中からまんま飛び出してきたような──。

 

(それに、ビーム兵器や、脱出用のカプセルの標準搭載、無換装での宇宙から重力下適応……これが、20m大の人型ロボットで採用された技術だって……!?)

 

 記載されていたのがスペックのみに留まる訳もなく、一見シンプルな外装に内包された機能群に目を瞠るユリだが、何より興味を惹かれたのは、それらとは別の──この機体の核となる設計思想であった。

 

(量産型主力機……これを何十、何百も作ろうっていうこと……?)

 

 図中に踊るその文字にユリが内心で唖然としている中、こんな店主の呟きが聞こえてきた。

 

「ミレニアムの廃墟からかっぱらってきた、と持ち込んできた奴は言ってたんだが……」

 

 愚痴にも聞こえるその呟きいわく、件の人物にこの設計図を未知のオーパーツと称して売り込まれたものの、荒唐無稽な物言いから「フィクションの産物」以上の価値をつけられなかったらしい。しかし、このロボットが登場する肝心の作品はキヴォトス上に見つけられないまま刻が過ぎ、買い手がつかないまま今に至るのだそうだ。

 

「出所がわからないんじゃ売り込みようもなくてな。手の込んだイタズラ書きとして置いとくしかねえのさ」

 

「……そうですか」

 

 動揺を押し殺しながら返すと、冊子を閉じて店主のもとへ向かう。

 

「欲しいのか?」

 

「……ええ。知り合いにこの手の図面に目がないマニアがいましてね」

 

 財布を取り出すと、冊子の購入を求める。

 努めて感情的にならないようやり取りをしているのは、値を釣り上げられては堪らないからだった。

 

(こんなものを見たら、作るしかないじゃないか)

 

 こうしてユリは、運命のアイテムを手にすることになった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「各部への通電を確認、システムオールグリーン──」

 

 球状の内壁に取り囲まれた空間の中、機体の安定起動を示すメッセージを読み上げながら、コンソールを次々と弄るユリ。間もなく仕上げとばかりにボタンを叩けば、内壁に外界──エンジニア部の部室が投影された。

 

 いま行われているのは、ユリが手がけるロボット・ジェガンの頭部の完成に伴う動作実験だ。

 

『調子はどうだ?』

 

「バッチリです。全天周囲モニターも異常なしですね」

 

 無線機を介したエンジニア部の部長・白石ウタハの声に返答しながら、ユリは今一度内壁──全天周囲モニターの映像を見回す。機体各部に搭載されたカメラによって、前面のみならず、背部、下部を含む全域の視界を確保できるコクピット・モニター方式である。

 

「ですが、側面は腕接続部近くのサブカメラを使った結果ですから……やっぱり肩だけでも生やさないと、実戦的な結果とはいえないですね」

 

 そう言ってユリはモニター右側に目をやる。

 実戦的でない、とユリが言及したのは、本来なら側面は胸部コクピットから見れば腕越しになる位置を映さねばならないのにも関わらず、それを担当する肩部カメラが腕部の未製作という理由で存在していないためだった。他にも頭部、胸部のみの作成に留まっている現状では機体下部の視界も封じられており、名の通りの範囲を確保するには至っていないのが実情だった。

 

『そうか……まだまだ道は遠いようだ』

 

「よく言いますよ、戦艦作ろうなんて部費食い潰すこと言い出したのはどこの誰ですかって」

 

 ジェガン製作の鈍化の遠因ともいえた、以前行われた部を挙げてのプロジェクトに言及しながら、ユリは前方に視線を戻す。

 主砲となるレールガン一挺を作ったきり中断されている戦艦製作は、始めこそユリもジェガンを実戦運用する足がかりと、ビーム兵器のノウハウの獲得のため賛同していたのだが、主砲ひとつで下半期の部の予算を七割も食い潰すと結論が出た頃には手遅れだった。

 

「ま、とりあえず頭を動かしますね」

 

 先ほどの返答でやや渋い顔を作ったままのウタハを横目に、球状の操縦桿・アームレイカーに手をかけたユリは、ジェガンに旋回を命じる。間もなくモニターの映像が時計回りに流れていくのが見えた。

 

『動作は問題ないようだね』

 

 外部から見守るウタハの報告を聞き、首の機構にも異常がないことが検証されると、反対側にも旋回動作を行ったのち、実験は終了となった。

 

 モニターなどの機能をシャットダウンすると、程なくしてコクピット前面が開放される。それに伴い、外部のハッチも開いていった。流入する外気がユリの肌を撫でる。

 

「ご苦労様、といったところかな」

 

「どうも。といっても球撫でてただけですけど」

 

 コクピットを出るや否や声をかけてきたウタハに応えながら、ユリは背にしたジェガンへ向け振り返った。

 胸像が大袈裟な電力ケーブルの群れに後ろから絡め取られているようにも見えるそれは、まだ出来のいいオブジェ以上の価値を持つことはできない代物だ。

 

「口にしていた通りなら、次は肩かい?」

 

「ええ。ですが、バーニアを積む部位になりますから、どうしたものか……」

 

 単なる関節部というだけでなく、側部から推進剤の噴射を行うことで姿勢制御を行う役割も持つその部位は、機動試験などできそうにない現状では扱いを慎重にせざるを得ない。現状では全天周囲モニターの機能を検証するのみのダミーにするほかないか、と皮算用を描きながら、ユリはため息をついた。「技術者の足を引っ張るのはいつの世も予算」と喋り好きの後輩がよく口にする通り、実現に向けた精密なプランがあろうと金銭なしではどうにもならないのだ。

 

「話を聞く限り、ただ胴と繋げればよいものではなさそうだからね……それに、この間の予算交渉はうまくいかなかったのだろう?」

 

「はい。治安維持のための学園固有の戦力として採用を提案したのですが……会計殿に突っぱねられまして」

 

 そう肩を竦めるユリが言及していたのは、以前個人的に行ったミレニアムサイエンススクールの生徒会にあたる組織である「セミナー」とのやり取りについてだ。

 そもそも、まだ全容が見えている訳ではないが、ジェガンという機体は少なくとも高度な汎用性のほか、数十年にもわたる耐用年数を有する兵器だ。そこで後者の点に着目したユリは、長大な運用期間による予算の償却を図ることができると考え、予算配分を複数年度に分散する要領で開発費を下ろせないかと先述の名目のもと掛け合ったのだが、「明らかに過剰戦力」と会計・早瀬ユウカの不興を買い不認可に終わったという訳だった。

 

「初っ端からビーム兵器のドライブが可能だって言い出したのがまずかったのですかね……」

 

 ひとつ機体特性を語るごとに曇っていくユウカの表情を思い起こしながら、ユリはプレゼンを振り返る。尤も、牽制にすら60mm口径の弾丸を要するスケールと知ればどのみちひっくり返ったろうが。

 

「はは……さっきああ嘆いていた人間の台詞ではないね」

 

「ちゃんと勝算はあったんですよ? 巨大ロボを運用する犯罪集団も出てきたと聞いていますし、その対抗手段として……というシナリオだったんですが」

 

 先ほどの戦艦制作の話題に触れてだろうウタハの皮肉に、ユリはそう肩を竦めた。

 

(……いっそ連邦生徒会にでも掛け合ってみましょうか)

 

 治安維持の手段を欲しているのは何もミレニアムだけではないはずだ。それに、どのみちジェガンのコンセプトの前提である『量産』を大規模に果たすには、キヴォトス全体を統括しているともいえるかの組織に取り入る他にないのかもしれない。何より連(・)邦(・)という響きもよいとユリは考えていた。

 

(いや、何も一度ハネられただけで諦めることはない。いったん機動兵器としての運用は先送りにして、歩くだけ……威圧用の用途に絞ってみるか? 上半身はハリボテにして、腰に対人用機銃でも括りつけてみるとか……)

 

 されど、連邦生徒会への相談はセミナーへの再プレゼンをしてからでも遅くはない。無論、通すことのみを考えるなら到達点を下方修正することも検討しなければならないだろう。それと自身の描く「ロマン」とどう折り合いをつけるのか──。技術者とは初めからその戦いの連続だ、と痛感させられるのは今日だけではない。

 

「まぁ、形あるものを作るだけがロボ作りではありません。予算が下りるまでに、できる準備はさせてもらいますよ」

 

 そう言って今一度ジェガンを力強く見つめるのだった。




専門用語めっちゃ言いまくったけど伝わってるのかな……。なるべく地の文で解説するように心がけたつもりではあるのですが。

次の悩みは派生機体をどう扱うか。もし出したとして、どの辺の範囲まで許されるのだろう。具体的にはジェダとかリゼルとかアンクシャとか。

次回はシミュレーターでなんかやってもらうつもりです。ガンダム側からオマージュキャラも出すかも。
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