アンゴルモア、令和ギャルになる。 〜地球滅ぼしに来た終末存在だけど、人間おもろすぎて守ることにした〜 作:池ポチャ
前回、アトランティス最深部で地球各地の外宇宙防衛機構が判明しました。
次の目的地は、日本近海に存在する時間隔離型防衛機構――竜宮城。
……のはずだったのですが、入口はなぜか街中のパチンコ店『竜宮城』でした。
海底宮殿。
時間隔離。
浦島太郎伝説。
そして、バブリーな乙姫。
いろいろ神話っぽい要素はありますが、まだ序盤。
今回から竜宮城の話はだいぶギラギラしていきます。
竜宮城への入口は、日本近海の海底にある。
そう聞いて、姫咲リオナは潜水艇や超対課の海洋施設を想像していた。
安藤萌亜は、乙姫とプリクラを撮ることを想像していた。
ゼルヴァードは、時間隔離型防衛機構の構造解析を想像していた。
黒瀬カナメは、敵性存在との戦闘を想定していた。
そして御門征十郎は、また胃が痛くなることを想像していた。
だが、実際に彼らが案内された場所は、都内某所の雑居ビル街だった。
駅前。
飲食店。
カラオケ。
コンビニ。
そして、派手なネオン看板。
そこには、金色と青色の文字でこう書かれていた。
『パチンコ竜宮城』
リオナは、看板を見上げたまま固まった。
「……ここ?」
カナメが端末を確認する。
「座標は一致している」
「竜宮城って、これ?」
「入口反応はこの建物から出ている」
「いやいやいや」
リオナは頭を抱えた。
「竜宮城の入口がパチンコ店って何?」
萌亜は目を輝かせていた。
「チョベリグじゃん」
「どこが!?」
「看板めっちゃ光ってる」
「そういう問題じゃない」
ゼルヴァードは顔をしかめる。
「人類は、時間隔離型防衛機構を遊技施設に偽装しているのか」
「いや、たぶん普通の人類も知らないと思う」
リオナが答える。
御門はコートの襟を直しながら、低い声で言った。
「この店舗は、二十年以上前から存在している。経営者は複数回変わっているが、登記上の所在地、名称、内装の一部は一度も変わっていない」
「怪しさしかないですね」
「さらに、定期的に行方不明者の噂がある」
「怖い」
「ただし、行方不明者は数日後に戻っている。本人の体感では数時間しか経っていないことが多い」
リオナは固まった。
「浦島太郎じゃん」
「そうだ」
御門は真顔で頷いた。
「当課は、ここを竜宮城への接続点と判断した」
萌亜は看板を見上げる。
「つまり、パチンコ屋から海底宮殿にワープするってこと?」
「おそらく」
「すご。現代版浦島太郎じゃん」
「浦島太郎、そんなギラギラしてなかったと思う」
入口の自動ドアが開く。
中から、音が漏れた。
光。
電子音。
妙に明るい店内。
だが、その奥に、リオナは一瞬だけ別のものを見た。
青い海。
金色の柱。
泡。
そして、踊る魚の影。
彼女は息を呑む。
「……今、見えた?」
萌亜が頷く。
「うん」
ゼルヴァードも険しい顔になる。
「空間が重なっている。地上の建物と、海底の位相空間が接続されている」
「つまり?」
「ここは入口だ」
カナメが短く言う。
「行くぞ」
リオナは深呼吸した。
パチンコ店に入るだけのはずなのに、緊張感が妙におかしい。
竜宮城。
日本近海の時間隔離型防衛機構。
選定機関から切除対象にされた拠点。
そして、その入口がパチンコ店。
「世界観、どうなってるの……」
「チョベリグ?」
「チョベリバ寄り」
萌亜は笑った。
「でも行こ。乙姫ちゃんに会えるかも」
「その乙姫さんがまともだといいけどね」
*
店内に入った瞬間、空気が変わった。
音が遠ざかる。
床が揺れる。
ネオンの光が水面のように歪む。
パチンコ台の液晶画面に、魚が泳いだ。
玉の音が、いつの間にか泡の音に変わっていく。
「え」
リオナが声を出す間もなく、足元に青い光が広がった。
円形の紋様。
龍の模様。
亀甲紋。
そして、巨大な鳥居のような影。
次の瞬間。
世界が反転した。
身体が浮く。
落ちる。
沈む。
でも、息はできる。
目の前を、金色の魚が横切った。
リオナは思わず叫んだ。
「何これええええ!?」
「転移だ!」
カナメの声が響く。
だが、その声も水中のように揺れている。
萌亜は楽しそうに笑っていた。
「すご! パチンコ屋、海になった!」
「楽しんでる場合!?」
ゼルヴァードは不機嫌そうに腕を組んでいる。
「時間と空間を重ねた転送機構か。粗いが、面白い」
「ゼルくん、ちょっと楽しんでない?」
「楽しんでいない!」
青い光に包まれながら、彼らは落ちていく。
いや、沈んでいく。
やがて、足元に白い床が現れた。
着地。
リオナはよろめき、萌亜が支える。
「大丈夫?」
「うん……たぶん」
リオナは顔を上げた。
そして、言葉を失った。
そこは、海底宮殿だった。
ただし、想像していた厳かな宮殿ではなかった。
金色の柱。
青いガラスの天井。
巨大な水槽のような壁。
天井の向こうを泳ぐ魚の群れ。
珊瑚でできたシャンデリア。
貝殻の装飾。
龍のレリーフ。
そして、広大なホールの中央には、無数のスロット台のような装置と、カードテーブルのような円形の台が並んでいた。
派手なネオンが輝いている。
看板には、こう書かれていた。
『海底カジノ竜宮城』
リオナは静かに言った。
「……カジノじゃん」
萌亜は目を輝かせた。
「すご! 乙姫ちゃん、めっちゃバブリー!」
カナメは警戒しながら周囲を見回す。
「ここが竜宮城……なのか?」
ゼルヴァードが顔をしかめる。
「時間隔離防衛機構に娯楽施設を併設している。意味が分からん」
その時、ホールの奥から拍手が聞こえた。
ぱちん。
ぱちん。
ぱちん。
「よう来たのう、地上の客人たち」
声は艶やかだった。
ホールの奥、巨大な階段の上。
そこに、ひとりの女性が立っていた。
美人だった。
圧倒的に。
長い黒髪に、青と金の髪飾り。
真珠の首飾り。
扇子。
きらびやかな着物。
だが、その着物は古風でありながら、どこかバブル時代の高級クラブのママのような派手さがあった。
肩には羽織。
足元は高いヒール。
口元には余裕の笑み。
瞳は海の底のような深い青。
彼女は扇子を開き、楽しそうに笑った。
「妾が竜宮城総支配人、乙姫じゃ」
リオナは小声で言った。
「総支配人?」
萌亜は嬉しそうに手を振る。
「乙姫ちゃん!」
「ちゃん付けとは豪胆じゃのう」
乙姫は階段をゆっくり下りてくる。
「だが、嫌いではない。恐怖の王、安藤萌亜」
萌亜の目が細くなる。
「萌亜のこと知ってるんだ」
「知っておるとも。アトランティスの星図殿が動いた時点で、こちらにも連絡は来ておる」
乙姫は扇子で口元を隠す。
「それに、選定機関の迷惑客どもが、また店先で騒ぎ始めておるからの」
リオナは瞬きした。
「迷惑客?」
「そうじゃ」
乙姫は実に嫌そうな顔をした。
「選定機関とかいう、空の外から来る面倒な連中じゃ。勝手に人の店を査定し、勝手に切除対象だの何だの言いおる。出禁にしても暖簾をくぐってくる。まこと迷惑客よ」
ゼルヴァードは眉をひそめた。
「選定機関を迷惑客扱いするとは」
「他に何と言えと?」
乙姫は扇子を閉じた。
「金も払わず、遊びもせず、空気も読まず、店を潰そうとする。迷惑客以外の何者でもなかろう」
リオナは思わず頷いた。
「言い方は変だけど、間違ってないかも」
カナメが低く言う。
「あなたが竜宮城の管理者か」
「いかにも」
乙姫はにっこり笑う。
「この竜宮城は、時間隔離型防衛機構にして、海底最大の遊興施設。地上の時間から外れ、海の時で客をもてなす場所じゃ」
「防衛機構なのにカジノなんですか?」
リオナが聞く。
「遊びこそ時間を忘れる最良の術じゃろう?」
乙姫は胸を張った。
「竜宮城は、外宇宙観測から時間を切り離すために作られた。ならば、その核となる概念は何か。時間を忘れることじゃ」
「だからカジノ?」
「そうじゃ。賭け、宴、酒、歌、舞。人は夢中になると時を忘れる。その性質を防衛機構に組み込んだのが、竜宮城よ」
ゼルヴァードが呆然とする。
「理論は乱暴だが、成立している……」
萌亜は感心したように頷いた。
「人間、やっぱおもろ」
「妾は人間ではないがの」
乙姫は笑う。
「龍神系管理人格、と言う方が近いかもしれぬ」
「乙姫ちゃん、AIみたいなもの?」
「それよりは色気がある」
「自分で言った」
リオナが小声で突っ込む。
乙姫はリオナを見る。
「そなたが人の娘か」
「姫咲リオナです」
「ふむ。なるほどのう」
乙姫はリオナの周囲をぐるりと歩く。
「確かに、王を地上に繋ぎ止めるには良い手をしておる」
「手?」
「人を引き戻す手じゃ。派手な見た目の割に、芯がある」
「褒められてます?」
「褒めておる」
「ありがとうございます」
萌亜が少し得意げに言う。
「リオナっち、すごいでしょ」
「なぜお主が得意げなのじゃ」
「萌亜のマブダチだから」
「マブダチ。古いのう」
「乙姫ちゃんに言われた!?」
リオナが吹き出した。
乙姫は楽しげに笑った。
その笑い声は、鈴のようであり、波のようでもあった。
だが、次の瞬間。
ホール全体の照明が赤く点滅した。
電子音。
警報。
海底カジノの台が、一斉に停止する。
乙姫の笑みが消えた。
「来おったか」
カナメが武器を構える。
「敵か」
乙姫は扇子を開き、ゆっくりと階段上の巨大モニターを見る。
そこには、竜宮城の外側を映す映像が表示されていた。
海の闇。
その中に、白い線が走っている。
アトランティスで見た、選定機関の干渉線。
それが、竜宮城の防壁をなぞるように近づいていた。
乙姫は舌打ちした。
「迷惑客め。営業時間外に来るでないわ」
「営業時間あるんだ」
リオナが思わず言う。
「あるに決まっておろう。妾にも準備がある」
ゼルヴァードが険しい顔で言った。
「切除干渉だ。まだ外側だが、防壁を解析している」
「止められる?」
リオナが聞く。
乙姫は扇子を閉じる。
「竜宮城単体なら、しばらくは耐えられる。しかし、あちらは妾の時間隔離を潰す気で来ておる」
「じゃあ、同期は?」
「急ぐ必要があるのう」
乙姫は萌亜を見る。
「恐怖の王。そなたを地上に定着させるため、竜宮城は協力しよう」
萌亜は目を丸くする。
「いいの?」
「無論じゃ」
乙姫は胸を張った。
「迷惑客を追い払うためなら、妾は何でもする」
「理由が店側すぎる」
リオナが呟く。
乙姫は扇子でホール中央の巨大な台を指した。
そこには、龍の紋様が刻まれた円形の装置がある。
カジノテーブルのようであり、祭壇のようでもあった。
「竜宮城の同期装置じゃ。正式名称は、時忘れの卓」
「名前がちょっと怖い」
「安心せい。ちゃんと使えば、時を忘れるだけで済む」
「済んでない」
乙姫は笑った。
「そなたらはこの卓で、竜宮城の時間核と地上定着核を繋ぐ。その間、妾たちは迷惑客を相手する」
カナメが言う。
「防衛戦か」
「そうじゃ」
ゼルヴァードはモニターを見る。
「選定機関は防壁の穴を探している。内部に侵入されるまで、そう時間はない」
萌亜はリオナを見る。
「リオナっち」
「うん」
「また、手つないでくれる?」
リオナは少しだけ笑った。
「当たり前でしょ」
萌亜も笑う。
「チョベリグ」
乙姫は二人を見て、楽しそうに目を細めた。
「よいのう。若いのう。眩しいのう」
「乙姫ちゃん、急におばちゃんみたい」
「妾は長く生きておるからの」
乙姫は扇子を広げ、ホール中に声を響かせた。
「竜宮城、営業形態を変更する!」
その声に応じて、ホールの台が変形していく。
スロットのような装置が防壁発生器へ。
カードテーブルが術式台へ。
ネオンが青い結界光へ。
カジノだった空間が、一瞬で防衛拠点へ姿を変えていく。
「迷惑客対応モードじゃ!」
リオナは思わず言った。
「名前!」
乙姫は高らかに笑う。
「分かりやすかろう?」
「分かりやすいけど!」
海底カジノ竜宮城。
時間隔離型防衛機構。
バブリーな乙姫が支配する、時を忘れる宮殿。
そこで、次の戦いが始まろうとしていた。
選定機関は、竜宮城を切除しようとしている。
ルルイエの影も、どこかで海を揺らしている。
だが、今は目の前の迷惑客対応が先だった。
萌亜はリオナの手を取る。
リオナは、その手を握り返す。
乙姫がにやりと笑った。
「では始めようかの」
竜宮城の照明が、青から金へ変わる。
水槽の向こうで、巨大な龍の影が泳いだ。
「今宵の賭けは、地球の明日じゃ」
リオナは引きつった笑みを浮かべる。
「賭けの額が重すぎる」
萌亜は笑った。
「でも、勝てばチョベリグ」
乙姫が扇子を掲げる。
「竜宮城へようこそ、招かれざる客人たち」
その声と共に、時がゆっくりと歪み始めた。
「妾の店で暴れる迷惑客は、きっちり海へ沈めてくれるわ」
第9話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、竜宮城編の本格導入でした。
入口はまさかの街中にあるパチンコ店『竜宮城』。
そこから転移した先は、海底宮殿ではなく海底カジノ『竜宮城』でした。
この作品の竜宮城は、時間隔離型防衛機構です。
人が夢中になると時間を忘れる。
宴や遊びは、時間感覚を狂わせる。
その概念を防衛機構に組み込んだのが、竜宮城という設定です。
そして、今回登場した乙姫。
美人でバブリーで、言葉遣いは「妾」。
選定機関のことを「迷惑客」と言い切る、かなり癖の強い管理者です。
アトランティスのネレイアが静かな記録人格なら、乙姫は現場叩き上げの店長兼総支配人みたいな存在です。
次回は、竜宮城の防衛戦と、地上定着核との同期を進める話になります。
選定機関の切除干渉。
時忘れの卓。
乙姫の本気。
そして、萌亜とリオナの接続。
海底カジノで地球の明日を賭ける、だいぶ変な話になる予定です。
それではまた次回。
竜宮城でもチョベリグ。