アンゴルモア、令和ギャルになる。 〜地球滅ぼしに来た終末存在だけど、人間おもろすぎて守ることにした〜   作:池ポチャ

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第10.5話です。

今回は、竜宮城での防衛戦後の幕間回です。

選定機関の迷惑客対応も一段落し、竜宮城は地上定着核の第一同期拠点として登録されました。

つまり、ひとまず勝利です。

というわけで、萌亜たちは竜宮城で遊びます。

乙姫プリクラ、玉手箱チャレンジ、泡沫ルーレット、竜宮クレープ。

海底カジノらしいような、竜宮城らしいような、だいぶクセの強い遊び場が登場します。

今回は戦闘少なめ、日常多め。

けれど、萌亜にとってはこういう「楽しい時間」こそ、地球に残る理由になっていきます。

竜宮城でも、遊びはだいたい防衛です。
心も体も癒してこそ防衛と言えると思います。


竜宮城アフター、遊ぶことも大切

竜宮城での防衛戦が終わったあと。

 

 選定機関の干渉は一時的に退き、竜宮城は第一同期拠点として登録された。

 

 地上定着核は、竜宮城の時間核と接続され、萌亜を地球側の存在として固定するための第一歩を踏み出した。

 

 つまり、大きな勝利である。

 

 だからこそ、安藤萌亜は言った。

 

「じゃあ遊ぼ」

 

 姫咲リオナは、疲れた顔で萌亜を見た。

 

「今?」

「今」

「さっきまで地球の明日を賭けた防衛戦してたんだけど」

「だからじゃん。勝ったら遊ぶ。これ、ギャルの鉄則」

「そんな鉄則ない」

「あるよ。たぶん」

「たぶんで鉄則を作るな」

 

 海底カジノ『竜宮城』。

 

 先ほどまで選定機関の白い仮面たちと戦っていたホールは、すっかり通常営業のような空気に戻っていた。

 

 金色の柱は修復され、珊瑚のシャンデリアは淡い光を放ち、水槽の向こうでは魚群が優雅に泳いでいる。

 

 天井のミラーボールも、今はゆっくり回っているだけだ。

 

 派手だが、どこか落ち着いている。

 

 いや。

 

 普通に考えれば、まったく落ち着いてはいないのだが。

 

「妾としても、勝利のあとの遊興は歓迎じゃ」

 

 乙姫が扇子を開いた。

 

 バブリーな着物ドレスに、真珠の首飾り。

 相変わらず、海底カジノの総支配人としての圧がすごい。

 

「ただし、地上の法とやらに配慮して、そなたらには現金を賭けさせぬ」

「そこ配慮するんですね」

 

 リオナが言う。

 

「当然じゃ。妾の店は品格が売りゆえ」

「入口パチンコ屋でしたけど」

「入口と品格は別じゃ」

「便利な理屈」

 

 乙姫は扇子でホール中央の台を指した。

 

「そなたらには、景品交換不可の竜宮メダルを渡す。遊戯専用、記念品専用、換金不可。安心安全健全仕様じゃ」

 

 黒瀬カナメが頷いた。

 

「それなら問題ない」

「カナメさん、そこちゃんと確認するんですね」

「未成年を同行させている以上、当然だ」

 

 萌亜がメダルを受け取る。

 

 それは、青い真珠のように輝く小さなコインだった。

 

 表には龍。

 裏には乙姫の横顔。

 

「乙姫ちゃんの顔ついてる」

「妾の店じゃからな」

「自己主張つよ」

「バブリーとは、己を恐れぬことじゃ」

 

 リオナは小さく笑った。

 

「その名言、ちょっと使えそう」

「使ってよいぞ。引用元は竜宮城総支配人・乙姫じゃ」

「SNSに載せたら大変なことになります」

「む。では内緒じゃ」

 

 萌亜は竜宮メダルを握りしめ、目を輝かせていた。

 

「リオナっち、何からやる?」

「そもそも何があるの?」

「何でもあるぞ」

 

 乙姫は扇子をぱちんと鳴らした。

 

 ホールの一角が光る。

 

 そこには、派手な看板が現れた。

 

『竜宮スロット』

 

『泡沫ルーレット』

 

『玉手箱チャレンジ』

 

『龍神ブラックジャック』

 

『乙姫プリクラ』

 

 リオナは最後の文字を見た瞬間、嫌な予感がした。

 

「乙姫プリクラ?」

 

 萌亜が反応する。

 

「プリ!? あるの!?」

「あるぞ」

 

 乙姫は得意げだった。

 

「地上文化の研究成果じゃ」

「すご! チョベリグ! バッチグー! ナウい!」

「死語の3点盛りやめて」

 

 リオナが止める。

 

 ゼルヴァード・ル=オルグレイは腕を組み、呆れたように看板を見ていた。

 

「防衛機構の内部に、なぜ写真装置がある」

 

 乙姫が扇子で彼を指す。

 

「記録は防衛じゃ」

「それは分かる」

「思い出は時間を繋ぐ」

「それも理解できる」

「ならばプリクラも防衛機構じゃ」

「急に論理が飛んだ」

 

 乙姫は堂々と言った。

 

「飛んでなどおらぬ。盛っておるのじゃ」

「盛るな」

 

 リオナが突っ込む。

 

 萌亜はすでにリオナの腕を掴んでいた。

 

「リオナっち、プリ行こ」

「はいはい」

「ゼルくんも」

「我は行かぬ」

「行く流れだよ」

「行かぬと言っている」

「カナメっちも」

「私は警戒任務中だ」

「任務の一環で記録写真」

「屁理屈を言うな」

 

 乙姫が楽しそうに笑った。

 

「よいではないか。勝利記念じゃ。妾も入るぞ」

「乙姫さんも!?」

「当然じゃ。妾の店のプリ機じゃからな」

 

 こうして、なぜか全員で乙姫プリクラを撮ることになった。

 

     *

 

 乙姫プリクラは、普通のプリクラではなかった。

 

 貝殻型の巨大な筐体。

 周囲には珊瑚の装飾。

 内部は青と金の光で満たされ、天井には小さなミラーボールがついている。

 

 画面には、やたら派手な文字が表示されていた。

 

『竜宮盛りで時を忘れよ♡』

 

 リオナは画面を見て言った。

 

「キャッチコピーが強い」

 

 萌亜は大興奮だった。

 

「すご! 海底プリじゃん! アゲアゲじゃん!」

「アゲアゲも古い」

「マンモスうれP」

「それはもっと古い」

 

 ゼルヴァードは不満げに端に立っていた。

 

「なぜ我まで」

 

 萌亜が言う。

 

「ゼルくん、記念だよ記念」

「我は記念を必要としない」

「でもクレープ食べた時も記念写真見てたじゃん」

「確認していただけだ」

「保存してたよね」

「記録だ」

「待ち受けにしてたよね」

「一時的な表示だ!」

 

 リオナがにやにやする。

 

「ゼルくん、だいぶ地球満喫してるね」

「していない!」

 

 カナメは腕を組み、真顔で立っている。

 

「私は写らなくてもいい」

「だめ。カナメさんも入ってください」

 

 リオナが言う。

 

「なぜ」

「こういう時に端にいる人ほど、あとで一番いい味出るんです」

「意味が分からない」

「大丈夫。私、プロなので」

「何のプロだ」

「盛るプロ」

 

 乙姫が扇子を広げる。

 

「よい。妾が中央じゃ」

「総支配人、センター取りに来た」

「当然じゃ。妾の店じゃ」

 

 最終的に、中央に乙姫。

 その横に萌亜とリオナ。

 後ろにゼルヴァードとカナメ。

 

 という構図になった。

 

 撮影カウントが始まる。

 

『三、二、一、竜宮〜♡』

「掛け声なに!?」

 

 リオナが突っ込んだ瞬間、光が弾けた。

 

 撮影。

 

 次の瞬間、画面に全員の姿が映る。

 

 萌亜は満面の笑み。

 リオナはツッコミ顔。

 乙姫は完璧な角度で扇子を構えている。

 ゼルヴァードは不服そうだが顔が良い。

 カナメは真顔だが、なぜか一番迫力がある。

 

「めっちゃ良い!」

 

 萌亜が叫ぶ。

 

「ゼルくん、顔面つよ!」

「当然だ」

「褒められると否定しないんだ」

 

 リオナが言う。

 

 乙姫は画面を見て満足げに頷いた。

 

「妾、やはり映えるのう」

「自分で言った」

「事実じゃ」

 

 落書き画面に移る。

 

 萌亜はペンを握った。

 

「リオナっち、何書く?」

「普通に日付と『竜宮城記念』でいいんじゃない?」

「普通すぎ。もっとナウくしよ」

「ナウいって言ってる時点でナウくない」

 

 萌亜は迷わず画面に書いた。

 

『竜宮城でフィーバー♡』

 

 リオナは頭を抱えた。

 

「古い」

 

 乙姫が目を輝かせる。

 

「よいではないか。フィーバー。実にバブリーじゃ」

「乙姫さんに刺さった」

 

 ゼルヴァードが不満そうにペンを取る。

 

「我も何か書けばよいのか」

「うん。ゼルくんも」

 

 ゼルヴァードは少し考えてから、きれいな文字で書いた。

 

『地球文化観測記録』

 

 萌亜が笑う。

 

「固い!」

 

 リオナも笑う。

 

「ゼルくん、プリの落書きまで真面目」

「何を書けば正解なのだ」

「もっとこう、ノリで」

「ノリとは何だ」

「魂の勢い」

「説明になっていない」

 

 カナメは無言でペンを取った。

 

 そして、小さく書いた。

 

『任務記録』

 

 リオナは吹き出した。

 

「カナメさんも真面目!」

「事実だ」

「二人ともプリ向いてなさすぎ」

 

 乙姫は優雅にペンを取り、画面いっぱいに書いた。

 

『妾の店、最高♡』

「自己PR!」

「宣伝は大事じゃ」

 

 最終的に、画面はとても混沌とした。

 

『竜宮城でフィーバー♡』

『地球文化観測記録』

『任務記録』

『妾の店、最高♡』

『チョベリグ』

『バッチグー』

『また来るかも?』

 

 リオナは完成したプリを見て、妙な感動を覚えた。

 

「……なんか、すごい記念になった」

 

 萌亜はプリを見つめ、嬉しそうに笑う。

 

「うん」

 

 その笑顔を見て、リオナは少し胸が温かくなった。

 

 選定機関。

 ルルイエ。

 地上定着核。

 防衛拠点。

 

 全部、とんでもなく重い話だ。

 

 でも、こういう一枚があるだけで、少しだけ普通の日常に戻れる気がした。

 

「リオナっち」

「何?」

「これ、宝物にする」

 

 萌亜は、少し照れたように言った。

 

 リオナは一瞬黙った。

 

 それから、笑う。

 

「じゃあ、なくさないでね」

「うん。宇宙終わっても持ってる」

「重い」

「めんご」

「軽い」

 

     *

 

 プリクラの次に、萌亜が向かったのは『玉手箱チャレンジ』だった。

 

 名前からして嫌な予感しかしない。

 リオナは看板の前で立ち止まる。

 

「これ、本当に大丈夫?」

 

 乙姫が答える。

 

「安心せい。遊戯用じゃ。開けても老けぬ」

「本物は?」

「あるぞ」

「あるんだ」

「当然じゃ。竜宮城ゆえ」

「それは絶対開けない」

 

 玉手箱チャレンジは、三つの箱から当たりを選ぶゲームだった。

 

 金の箱。

 銀の箱。

 黒い箱。

 

 それぞれに龍、亀、乙姫の紋様が描かれている。

 

「どれが当たり?」

 

 萌亜が聞く。

 

「開けてからのお楽しみじゃ」

 

 乙姫はにやりと笑う。

 

「ただし、黒い箱はおすすめせぬ」

「なんで?」

「演出が重い」

「選択肢に入れないで」

 

 リオナが即座に言う。

 

 萌亜は真剣に悩んでいた。

 

「うーん。龍もいいけど、亀もナウいよね」

「亀をナウいって評価する人、初めて見た」

 

 ゼルヴァードは腕を組む。

 

「確率を読むなら、装飾の重心と魔力の流れから銀だ」

 

 カナメが言う。

 

「私は金だと思う。警備装置の視線が金を避けている」

「二人ともガチ分析しないでください」

 

 リオナが突っ込む。

 萌亜はぱっと笑った。

 

「じゃあ黒」

「なんで!?」

「おすすめされないと気になるじゃん」

「そういうとこ!」

 

 乙姫が楽しそうに笑う。

 

「恐怖の王、なかなか度胸があるのう」

「やめよ、萌亜」

「だいじょぶだいじょぶ」

 

 萌亜が黒い箱を開ける。

 

 中から、白い煙がもくもくと上がった。

 

 リオナは身構える。

 

 だが、煙の中から現れたのは、小さな亀だった。

 

 ただし、サングラスをかけていた。

 

『ハズレじゃないよ、人生経験だよ』

 

 亀が低い声で言った。

 

 沈黙。

 

 リオナは真顔で言った。

 

「何これ」

 

 乙姫が答える。

 

「哲学亀じゃ」

「何でそんなものが景品に?」

「竜宮城だからじゃ」

「説明になってない」

 

 萌亜は大笑いしていた。

 

「この亀、チョベリグ!」

 

 ゼルヴァードは少しだけ感心している。

 

「小型の記録人格か。無駄に完成度が高い」

 

 カナメはじっと亀を見る。

 

「危険性は?」

『人生とは危険の連続だよ』

「質問に答えろ」

 

 哲学亀は黙った。

 

 リオナは笑いをこらえきれなかった。

 

 竜宮城。

 本当にクセが強い。

 

     *

 

 続いて、乙姫が案内したのは『泡沫ルーレット』だった。

 

 巨大な貝殻の上に浮かぶ、水の輪。

 その中を、泡がくるくる回っている。

 

「これは何ですか?」

 

 リオナが聞く。

 

「運試しじゃ」

 

 乙姫が答える。

 

「泡が止まった場所に応じて、過去・現在・未来のいずれかの小さな幻を見ることができる」

「ちょっと怖い」

「遊戯用じゃから、大したものは見えぬ」

「本当に?」

「たぶん」

「たぶんって言った!」

 

 萌亜はもう竜宮メダルを入れていた。

 

「やろ」

「早い!」

 

 泡が回る。

 

 青い光。

 白い泡。

 金の波紋。

 

 やがて、泡は『現在』で止まった。

 

 水の輪に、映像が映る。

 

 そこに映ったのは、宮内庁地下の御門征十郎だった。

 

 彼は会議室で資料に囲まれ、胃薬を飲んでいた。

 

 そして、深くため息をついている。

 

『……今頃、あいつらは無事だろうか』

 

 リオナは申し訳なくなった。

 

「御門さん……」

 

 萌亜は手を振る。

 

「御門のおじさーん」

「これは一方通行じゃ。向こうには見えておらぬ」

 

 乙姫が説明する。

 

 直後、映像の中の御門が急に顔を上げた。

 

『……なぜか、安藤萌亜に呼ばれた気がする』

 

 リオナは震えた。

 

「勘が鋭すぎる」

 

 カナメが真顔で頷く。

 

「課長だからな」

「課長ってすごい」

 

 ゼルヴァードが言う。

 

「人類の管理職は、異常感知能力を鍛えられるのか」

「たぶん違う」

 

 映像はそこで消えた。

 

 萌亜は笑っている。

 

「御門のおじさん、あとでお土産買お」

「竜宮城のお土産って何?」

 

 リオナが聞く。

 

 乙姫は即答した。

 

「胃に優しい海藻茶じゃ」

「ぴったりすぎる」

 

     *

 

 遊び回ったあと、一同はホール奥のラウンジに案内された。

 

 そこは、海底を眺められる展望席だった。

 

 丸い窓の外には、深い青の世界。

 

 魚の群れ。

 揺れる光。

 

 遠くに見える、竜のような影。

 

 テーブルには、海鮮料理と、なぜか地上風のスイーツが並べられている。

 

「妾なりに、地上の菓子を再現してみた」

 

 乙姫が得意げに言う。

 皿の上には、クレープらしきものがあった。

 

 ただし、生地が少し青い。

 中には、クリームと果物。

 そして、謎の海藻ゼリー。

 

 リオナはそっと言った。

 

「これは……クレープ?」

「竜宮クレープじゃ」

「青い」

「海底感を出した」

「海底感って味に必要ですか?」

 

 萌亜は迷わず食べた。

 

「ん」

「どう?」

「……意外とおいしい」

「ほんと?」

 

 リオナも一口食べる。

 

 甘い。

 少し塩気がある。

 

 海藻ゼリーがぷるぷるしている。

 

 不思議だが、悪くない。

 

「本当においしい」

 

 乙姫は満足そうに笑った。

 

「妾、料理もバッチグーじゃろう?」

「乙姫さんまで死語使い始めた」

 

 ゼルヴァードも竜宮クレープを食べた。

 

 そして、しばらく沈黙した。

 

「……悪くない」

「ゼルくんの悪くないは、だいぶ好きって意味だよね」

「違う」

「二口目いってる」

「検証だ」

 

 カナメも静かに食べていた。

 

「塩気がいい」

「カナメさん、気に入ってる」

「任務後の栄養補給として有用だ」

「素直においしいでいいんですよ」

 

 カナメは少し目を逸らした。

 

「……おいしい」

 

 萌亜がにこにこする。

 

「カナメっち、チョベリグ」

「黒瀬だ」

「でもおいしいって言った」

「それは言った」

 

 ラウンジに、少しだけ穏やかな空気が流れた。

 

 戦いの後。

 次の脅威の前。

 ほんの短い休息。

 

 リオナは、竜宮プリを手元に置いた。

 

 そこには、みんなが写っている。

 

 萌亜。

 リオナ。

 乙姫。

 ゼルヴァード。

 カナメ。

 

 変な文字。

 変な落書き。

 

 でも、確かに笑える一枚だった。

 

「リオナっち」

 

 萌亜が隣に座る。

 

「何?」

「楽しいね」

「うん」

「地球って、やっぱおもろい」

「竜宮城まで含めて?」

「うん。クセ強いけど」

「クセ強すぎるけどね」

 

 萌亜は窓の外を見る。

 

 深海の青が、彼女の金髪に映る。

 

「昔の萌亜なら、こういうの全部見落としてたと思う」

「遊ぶこと?」

「うん。守るために戦ったあと、遊んで、写真撮って、ご飯食べて、変な亀に会って、みんなで笑うこと」

 

 萌亜はプリを見つめる。

 

「こういうの、たぶん大事なんだね」

 

 リオナは少しだけ微笑んだ。

 

「大事だよ」

「そっか」

「大事だから、また撮ろ」

「うん」

「今度は御門さんも入れて」

「胃薬持ったまま?」

「それはそれで味がある」

 

 萌亜は笑った。

 

 その笑い声は、ラウンジの静かな水音に混ざった。

 

 乙姫は少し離れた席で、その二人を見ていた。

 扇子で口元を隠し、どこか満足そうに。

 

「王が時を楽しんでおる」

 

 ゼルヴァードが聞き返す。

 

「何?」

「時を忘れることは、防衛じゃと言ったろう」

「ああ」

「じゃが、時を楽しむこともまた、防衛なのじゃ」

 

 乙姫は窓の外を見る。

 

「守る理由とは、案外そういうものよ。戦略でも使命でもなく、もう一度食べたい菓子、もう一枚撮りたい写真、もう少し一緒にいたい相手」

 

 ゼルヴァードは黙った。

 

 乙姫は続ける。

 

「それを軽いと笑う者ほど、時間の重さを知らぬ」

 

 ゼルヴァードは萌亜とリオナを見る。

 

 プリクラを眺めて笑う二人。

 恐怖の王と、人の娘。

 

 地球を守る理由としては、あまりに小さい。

 

 だが、なぜか否定できなかった。

 

「……理解しがたい」

「そうか」

 

 乙姫は笑う。

 

「ならば、もっと遊べ。遊べば少しは分かる」

「我が?」

「そうじゃ。そなた、顔が固い」

「余計なお世話だ」

「次は泡沫ルーレットで未来を見るがよい」

「見る必要はない」

「怖いのか?」

「挑発が雑だ」

 

 乙姫は楽しそうに笑った。

 

 その横で、カナメは静かに竜宮クレープをもう一口食べていた。

 

 リオナはそれに気づき、少しだけ笑う。

 カナメが目を逸らした。

 

「何だ」

「いえ。おいしそうに食べるなって」

「任務後だからだ」

「はいはい」

 

 萌亜が親指を立てる。

 

「みんなチョベリグ」

 

 リオナは笑って言った。

 

「今日くらいは、それでいいかも」

 

 海底カジノ竜宮城。

 

 ついさっきまで戦場だった場所で、彼女たちは遊んだ。

 

 プリを撮った。

 変なゲームをした。

 青いクレープを食べた。

 

 たぶん、世界を救うためには直接関係ない。

 

 でも、萌亜を地球につなぎ止めるものとしては、きっと大きな意味があった。

 

 楽しいから、守りたい。

 また来たいから、失いたくない。

 

 そういう単純な理由が、恐怖の王を地上に留めている。

 

 リオナは、竜宮プリをそっとスマホケースに挟んだ。

 

「なくさないようにしよ」

 

 萌亜が笑う。

 

「リオナっちも宝物?」

「まあね」

「マンモスうれP」

「最後で台無し」

「めんご」

「許してちょんまげは禁止」

「先に言われた」

 

 リオナが笑い、萌亜も笑う。

 

 竜宮城の外で、海が静かに揺れていた。

 

 選定機関も、ルルイエも、九頭龍瑠々も、まだ終わっていない。

 

 でも今だけは。

 ほんの少しだけ。

 

 世界は、遊んでいても許される気がした。




第10.5話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、竜宮城で遊ぶ幕間回でした。

前回までがかなり派手な防衛戦だったので、今回は少し息抜きです。

とはいえ、ただ遊んでいるだけではなく、萌亜が「地球っておもろい」と改めて感じる回でもあります。

リオナと撮ったプリクラ。

ゼルヴァードやカナメも巻き込んだ記念写真。

よく分からない哲学亀。

御門課長の胃痛が見える泡沫ルーレット。

そして、意外とおいしい竜宮クレープ。

そういう小さな思い出が、萌亜を少しずつ「地球側の存在」にしていきます。

地上定着核や防衛拠点の同期だけではなく、楽しい記憶そのものも萌亜をこの世界につなぎ止めている、という回でした。

乙姫の言う通り、時を忘れることも防衛ですが、時を楽しむこともまた防衛です。

次回からは、九頭龍瑠々とルルイエ側の動きがさらに強くなっていく予定です。

海の家。

ルルイエ。

竜宮城。

そして、地上に広がる怪しい信仰と情報汚染。

楽しい時間のあとには、また面倒な海の気配が近づいてきます。

それではまた次回。

竜宮プリでもチョベリグ(撮りたい)
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