アンゴルモア、令和ギャルになる。 〜地球滅ぼしに来た終末存在だけど、人間おもろすぎて守ることにした〜   作:池ポチャ

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第14話です。

前回、萌亜たちは九頭龍瑠々が用意した専用通路「潮夢廻廊」を通って、精神領域防衛拠点シャンバラへ向かいました。

瑠々は怪しい。

信用できない。

でも、選定機関の妨害は本当にしてくれる。

敵とも味方とも言い切れない、かなり面倒な同行者……ではなく案内人でした。

そして今回、萌亜たちはついにシャンバラの門をくぐります。

そこで待っていたのは、シャンバラの中枢防衛人格――カーラチャクラ。

時輪金剛。

……のはずなのですが、なぜか現れたのは性格がまったく違う美人四姉妹。

厳格な長女。

武闘派の次女。

毒舌理論派の三女。

ぽやぽや末妹。

全員まとめてカーラチャクラ。

シャンバラ、思ったよりだいぶクセが強いです。



美人四姉妹? カーラチャクラはだいたい性格が違う

金色の門をくぐった瞬間、姫咲リオナは息を呑んだ。

 

 そこは、夢の中の山だった。

 いや、山というより、山の形をした祈りだった。

 

 足元には白い石畳。

 左右には無数の祈祷旗のような光。

 

 空には、昼でも夜でもない黄金色の薄明かりが広がっている。

 

 遠くには雪をかぶった峰。

 その峰の上には、巨大な輪が浮かんでいた。

 

 輪はゆっくり回っている。

 歯車のようでもあり、曼荼羅のようでもあり、時計の文字盤のようでもあった。

 

 時そのものが、そこに形を持っている。

 

「……すご」

 

 リオナは思わず呟いた。

 隣で安藤萌亜も目を丸くしている。

 

「チョベリグ」

「今は普通に分かる」

「でしょ」

 

 黒瀬カナメは周囲を警戒しながら、静かに言った。

 

「精神領域とは思えない安定感だ」

 

 ゼルヴァード・ル=オルグレイも、珍しく感心したように目を細めていた。

 

「構造密度が高い。これは単なる夢ではない。人類の祈り、記憶、時間感覚が層になっている」

「つまり?」

 

 リオナが聞く。

 

「途方もなく古い防衛拠点だ」

「でしょうね」

 

 振り返ると、門の外にはまだ黒い海が見えた。

 

 九頭龍瑠々の潮夢廻廊。

 黒く、静かで、どこか湿った夢の海。

 

 その向こうに、瑠々の姿が小さく揺れている。

 彼女は門の外から手を振った。

 

『どうぞ、よい夢を』

 

 リオナはすぐに言い返した。

 

「絶対よくない前振りですよね、それ!」

『ふふ。正解ですわ』

 

 瑠々の声は波音に混じって消えた。

 黒い海の通路は、門の外でゆっくり揺れ続けている。

 

 完全に閉じたわけではない。

 だが、ここから先はシャンバラの領域だ。

 

 瑠々の海は、門の内側へ深く入ってこない。

 少なくとも、今のところは。

 

「今のところ、が多すぎる」

 

 リオナは自分で考えて、少し嫌になった。

 

 その時、空に浮かぶ巨大な輪が、かちりと音を立てた。

 

 世界が震える。

 

 白い石畳に金色の線が走り、萌亜たちの前に円形の広場が現れた。

 

 広場の中央には、巨大な金色の時計盤。

 いや、時計盤ではない。

 

 時間を表す曼荼羅。

 その中心に、四つの光が落ちてくる。

 

 白。

 赤。

 青。

 黒。

 

 それぞれの光は人の形を取り、やがて四人の女性になった。

 

 全員、美人だった。

 

 それぞれまったく雰囲気は違う。

 しかし、どこか似ている。

 

 姉妹のように見えた。

 

 一人目は、白と金の衣をまとった長身の女性。

 長い銀髪を結い上げ、冷たいほど整った顔立ちをしている。

 

 表情は厳格。

 背筋はまっすぐ。

 

 いかにも「正しいことしか言いません」という雰囲気だった。

 

 二人目は、赤い装束の女性。

 褐色の肌に、燃えるような赤い髪。

 

 腕には金の腕輪。

 目つきは鋭く、笑い方は豪快。

 

 どう見ても武闘派だった。

 

 三人目は、青い衣の女性

 眼鏡のような光をかけ、長い黒髪を片側に流している。

 

 手には巻物と計算尺のようなもの。

 

 美人なのに、第一印象は「絶対に口が悪い理系」だった。

 

 四人目は、黒と紫の薄衣をまとった少女のような女性。

 

 ふわふわした長い髪。

 眠そうな目。

 

 手には小さな枕のようなものを抱えている。

 見るからに、ぽやぽやしていた。

 

 リオナは、しばらく言葉を失った。

 萌亜が小声で言う。

 

「美人四姉妹?」

 

 リオナも小声で返す。

 

「たぶん」

 

 その瞬間、白と金の女性がきりっとした声で言った。

 

「我らは姉妹ではありません」

 

 赤い女性が豪快に笑う。

 

「まあ、姉妹みたいなもんだけどな!」

 

 青い女性がため息をつく。

 

「その雑な説明が誤解を生むのです。やめてください」

 

 黒紫の女性が、ふわっとあくびをした。

 

「姉妹でいいんじゃないですかぁ……? 説明、眠いですし……」

 

 白と金の女性が眉を寄せる。

 

「よくありません。正確性を欠きます」

 

 赤い女性が肩をすくめる。

 

「固いなあ、カーラ姉は」

 

 青い女性が即座に言う。

 

「あなたが柔らかすぎるのです、ラチャ」

 

 黒紫の女性が枕を抱え直す。

 

「みんな、声大きいです……夢が起きちゃいます……」

 

 リオナは呟いた。

 

「性格、バラバラすぎない?」

 

 萌亜は目を輝かせた。

 

「チョベリグ四姉妹じゃん」

「勝手に命名しない」

 

 白と金の女性が、一歩前へ出た。

 

「我らはシャンバラ中枢防衛人格、カーラチャクラ。時輪金剛の四相分割顕現です」

 

 リオナは真面目に聞こうとした。

 だが、赤い女性が横から言う。

 

「簡単に言うと、シャンバラを守ってる時間の番人四人組だ!」

 

 青い女性が眼鏡のような光を押し上げる。

 

「簡単にしすぎです。概念人格の分割投影であり、実体ではなく機能です」

 

 黒紫の女性がぼそっと言う。

 

「でも、四人組でいいですぅ……」

 

 白と金の女性が咳払いした。

 

「まず、名乗りましょう」

 

 彼女は胸に手を当てる。

 

「私は、カーラ。過去輪を司ります。記録、因果、積み重ねられた祈りの管理者です」

 

 赤い女性が親指で自分を指す。

 

「あたしは、ラチャ! 現在輪担当! 戦闘、気合い、今この瞬間の踏ん張り担当だ!」

 

 青い女性が淡々と言う。

 

「チャクラです。未来輪を担当します。可能性演算、分岐予測、失敗確率の提示が主業務です」

 

 黒紫の女性が、眠そうに手を上げた。

 

「リンです……無時輪、夢の隙間、忘れられた時間、寝落ち担当です……」

「寝落ち担当とは何ですか」

 

 カーラが即座に注意する。

 

「だって、そういう感じですし……」

 

 チャクラが冷静に補足する。

 

「無時輪は、通常の過去・現在・未来に属さない停止点や夢の余白を管理する機能です。寝落ちは俗称としては不適切ですが、概念的には三割ほど合っています」

「合ってるんだ」

 

 リオナが思わず突っ込んだ。

 ラチャが楽しそうに笑う。

 

「お、いいツッコミするじゃねえか、人の娘!」

「その呼び方、もう定着してるんですか?」

 

 萌亜がリオナの手を握ったまま、四人を見る。

 

「カーラチャクラって、一人じゃないの?」

 

 カーラが答える。

 

「本来は一つです。しかし、人間の認識に合わせて四相に分かれています」

 

 ラチャが言う。

 

「一人で出ると情報量が多すぎて、だいたい相手が寝る!」

 

 リンが頷く。

 

「寝るのは悪いことじゃないです……」

 

 チャクラが冷たく言う。

 

「任務中に寝るのは悪です」

「三女さん、厳しい」

 

 リオナが呟く。

 

「三女ではありません」

 

 チャクラが即答した。

 

「でも、三女っぽい」

 

 萌亜が言う。

 

「ぽいとかで分類しないでください」

 

 ラチャが大笑いした。

 

「いいじゃねえか! あたし次女っぽいだろ?」

「ものすごく」

 

 リオナは即答した。

 ラチャは満足そうに頷く。

 

「よし!」

 

 カーラが眉間を押さえた。

 

「話が進みません」

 

 カナメが一歩前へ出る。

 

「こちらは宮内庁式外局・超常現象対策課、黒瀬カナメ。シャンバラとの同期および選定機関妨害への対応のため、接続確認に来た」

 

 カーラはカナメを見て頷く。

 

「確認しています。黒瀬カナメ。地上側実働員。秩序維持傾向、警戒心高、責任感過多」

「過多は余計だ」

 

 チャクラが言う。

 

「過多です。三十二件の任務記録と十九件の自己犠牲傾向から見て、統計的に否定困難です」

「なぜ知っている」

「シャンバラは夢と記憶に触れます」

 

 カナメの表情が少し険しくなる。

 リオナは慌てて言った。

 

「勝手に心を読むのはやめてください」

 

 カーラは静かに答える。

 

「正確には、表層に浮いた記録を参照しただけです」

「それでも嫌です」

 

 リオナの声ははっきりしていた。

 

 四人の視線が彼女に集まる。

 ラチャがにやりと笑う。

 

「おお、言うねえ」

 

 チャクラが静かに言う。

 

「境界線の主張。人の娘として適性あり」

 

 リンがふわりと笑った。

 

「線を引ける人は、夢で迷いにくいです……たぶん……」

「たぶん?」

 

 リオナが聞く。

 

「夢なので……例外が多いです……」

「不安」

 

 カーラはリオナをじっと見つめた。

 

「姫咲リオナ。接続因子。人の娘。恐怖の王を地上に留める者」

 

 リオナは少しだけ肩に力を入れた。

 萌亜が手を強く握る。

 カーラは続ける。

 

「あなたは、この地で試されます」

「試練ですか?」

「はい」

 

 ラチャが拳を鳴らす。

 

「殴り合いなら任せろ!」

 

 リオナは即座に言う。

 

「任せたくないです」

 

 チャクラが冷静に言う。

 

「殴り合いではありません。少なくとも初期試験は」

「初期試験」

「不穏な言い方やめてください」

 

 リンが枕を抱えたまま、ふわふわと言う。

 

「夢を見るだけですぅ……怖い夢かもしれませんけど……」

「それが怖いんです」

 

 萌亜が少し前に出た。

 

「萌亜に試練?」

 

 カーラは彼女を見る。

 

 その瞬間、広場の空気が少し重くなった。

 

 恐怖の王。

 アンゴルモア。

 文明選定個体。

 

 終末の名を持つ少女。

 

 カーラチャクラ四相は、同時に萌亜へ視線を向ける。

 

 カーラは厳かに言った。

 

「安藤萌亜。あなたは、本来この防衛網の対象ではなく、観測対象でした」

 

 リオナの手に力が入る。

 ラチャは腕を組む。

 

「でも今は違うっぽいな」

 

 チャクラが言う。

 

「竜宮城との第一同期により、地上定着核は一段階安定。人類側存在としての仮登録が成立しています」

「仮登録」

 

 萌亜が眉をひそめる。

 

「まだ仮なの?」

 

「はい」

 

 チャクラは遠慮なく答える。

 

「現時点であなたの分類は、地球側協力存在、外宇宙由来、終末機構保持、情動偏向あり、リオナ依存強、死語使用頻度異常です」

「最後いる?」

 

 リオナが突っ込む。

 

「記録上、無視できない頻度です」

 

 萌亜は胸を張った。

 

「マンモス重要」

「重要ではありません」

 

 チャクラは即答した。

 ラチャは腹を抱えて笑った。

 

「お前おもしれえな、恐怖の王!」

「萌亜、令和ギャルだから」

「令和?」

 

 カーラが首を傾げる。

 チャクラが即座に演算する。

 

「現在日本の元号です。ただし、彼女の語彙は令和ではなく、主に昭和末期から平成初期、平成中期の混合死語です」

「分析が正確すぎる」

 

 リオナが小声で言う。

 リンが眠そうに呟く。

 

「死語は、過去の夢です……」

 

 萌亜がぱっと顔を輝かせる。

 

「リンちゃん、分かってる! チョベリグ!」

「ふふ……チョベリグです……」

「乗った!」

 

 リオナは思わず叫んだ。

 カーラが頭を抱える。

 

「リン、軽率に同調しないでください」

「でも、過去の言葉が今の夢で光るの、素敵です……」

 

 ラチャが笑う。

 

「いいじゃねえか! シャンバラっぽい!」

 

 チャクラがため息をつく。

 

「ぽい、で済ませるのは機能人格として不適切です」

 

 ゼルヴァードが低く言った。

 

「この防衛人格、本当に大丈夫なのか」

 

 四人が一斉に彼を見る。

 

 カーラが言う。

 

「外宇宙貴族ゼルヴァード・ル=オルグレイ。侵略者、敗北経験あり、クレープ嗜好あり」

「待て」

 

 チャクラが続ける。

 

「対地球侵攻失敗後、地球文化への適応傾向。甘味への反応速度が平均より二・七倍高い」

「待てと言っている!」

 

 ラチャが笑う。

 

「クレープ好きなのか! いいじゃねえか!」

 

 リンがぽやっと言う。

 

「甘い夢は大事です……」

 

 ゼルヴァードは顔をしかめた。

 

「情報精度が高すぎる」

 

 リオナは半目で言う。

 

「ゼルくん、もう隠せてないよ」

「隠していない。重要でないから言わないだけだ」

「はいはい」

 

 カーラが再び咳払いする。

 

「話を戻します」

「やっと戻る」

 

 リオナは少し疲れていた。

 

 カーラチャクラ四相。

 神秘的で厳かな存在のはずなのに、性格差と会話の脱線がすごい。

 

 シャンバラまで来ても、結局クセが強い。

 

 カーラは広場の中央に立つ。

 

「シャンバラは現在、二つの干渉を受けています」

 

 空に浮かぶ巨大な輪が回る。

 

 その表面に映像が映った。

 

 ひとつは、白い亀裂。

 

 幾何学的で冷たい光。

 選定機関の切除干渉。

 

 もうひとつは、黒い海。

 

 夢の底から染み込むような、青緑の揺らぎ。

 ルルイエ由来の侵食。

 

 リオナは息を呑む。

 

「両方、進んでる」

 

 チャクラが頷く。

 

「白い切除は、夢の不要部分を削除しようとしています。黒い海は、夢の孤独や渇きを媒介に領域を湿潤化しています」

「湿潤化」

「言い方が嫌」

 

 ラチャが拳を鳴らす。

 

「要するに、白いやつは削る! 黒いやつは沈める! どっちも面倒だ!」

「それが一番分かりやすい」

 

 萌亜が頷いた。

 カーラは萌亜とリオナを見る。

 

「あなたたちの目的は、地上定着核をシャンバラと同期し、安藤萌亜の精神座標を地球側へ固定すること」

「はい」

 

 リオナが答える。

 

「しかし、そのためには、シャンバラがあなたを受け入れる必要があります」

「萌亜を?」

「正確には、萌亜さんを地球側存在として受け入れるリオナさんの選択を、シャンバラが承認する必要があります」

 

 リオナは眉をひそめる。

 

「私の選択?」

 

 リンがふわっと言う。

 

「夢は、本人よりも周りの祈りに敏感です……」

 

 チャクラが補足する。

 

「安藤萌亜本人が自分を地球側だと主張しても、外宇宙由来終末機構としての本質が強すぎます。よって、地球側からの接続因子、すなわちあなたの認識が鍵になります」

 

 ラチャが言う。

 

「簡単に言うと、お前がこいつの手を離さないって言えるかどうかだ!」

「言えます」

 

 リオナは即答した。

 萌亜が驚いたようにリオナを見る。

 

「リオナっち」

「言えるよ」

「マンモスうれP」

「今のタイミングでそれ言う?」

「照れた」

 

 カーラが静かに言った。

 

「言葉だけでは足りません」

 

 広場の時計盤が光る。

 

「過去輪、現在輪、未来輪、無時輪。四つの輪を通じ、あなたたちの接続を検証します」

 

 リオナは顔を引きつらせた。

 

「つまり四回試練?」

 

 チャクラが冷静に答える。

 

「四回です」

 

 リオナは天を仰いだ。

 

「やっぱり」

 

 ラチャがにやりと笑う。

 

「安心しろ! 死にはしない!」

「それ、一番信用できないやつです」

 

 リンが小さく手を振る。

 

「死なないけど、泣くかもしれません……」

「それも嫌」

 

 カーラは最初の一歩を踏み出した。

 

「まずは過去輪。積み重ねられた記録の試練です」

 

 白と金の光が広がる。

 広場の景色が揺れた。

 

 リオナの足元に、無数の写真のような断片が浮かぶ。

 

 渋谷。

 タピオカ。

 宮内庁地下。

 ノストラダムスの本。

 アトランティス。

 竜宮城。

 海の家。

 

 そして、そのさらに奥に、まだリオナが知らない萌亜の記憶が見えた。

 

 星の外。

 無数の文明。

 選定。

 終末。

 

 泣き叫ぶ声。

 消えていく星。

 

 リオナの息が止まる。

 萌亜が手を強く握った。

 

「見なくていい」

「でも」

「リオナっち」

 

 萌亜の声が震えていた。

 

「それ、萌亜の昔だから」

 

 リオナは、萌亜を見る。

 

 いつものギャル。

 死語ばかり言う、明るくて、変で、優しい少女。

 

 でも、その奥にはアンゴルモアがいる。

 文明を選定し、終末を運ぶ存在。

 

 それを見ないふりはできない。

 でも、勝手に暴くのも違う。

 

 リオナは目を閉じた。

 

 そして言った。

 

「萌亜が見せたくないものは、見ない」

 

 カーラの目がわずかに動く。

 リオナは続ける。

 

「でも、萌亜がいつか話したくなったら聞く」

 

 萌亜の手が震える。

 

「怖くない?」

「怖いよ」

 

 リオナは正直に言った。

 

「でも、怖いからって勝手に覗いたり、切り捨てたりはしない」

 

 白い光が、静かに揺れる。

 

 カーラはリオナを見つめていた。

 

「過去を見ずに、過去ごと受け入れると?」

「全部知ったふりはしません」

 

 リオナは言う。

 

「知らない部分があるって分かった上で、今の萌亜の手を握ります」

 

 ラチャが小さく口笛を吹いた。

 

「いいねえ」

 

 チャクラが淡々と言う。

 

「過去輪適性、想定値を上回っています」

 

 リンが微笑む。

 

「知らないまま大事にするの、優しいです……」

 

 カーラは、しばらく沈黙した。

 そして、静かに頷く。

 

「過去輪、第一承認」

 

 白と金の光が、リオナと萌亜の手を包んだ。

 

 萌亜は俯いたまま、小さく言う。

 

「リオナっち」

「何?」

「ありがと」

「うん」

「めっちゃ、マブ」

「今は許す」

 

 萌亜が少し笑った。

 

 その瞬間、広場の端で白い亀裂が走った。

 選定機関の光。

 

 シャンバラの空に、冷たい文字が浮かぶ。

 

『過去記録、未精査』

『文明選定個体の罪状未開示』

『接続因子の判断、不完全』

 

 リオナの頭に痛みが走る。

 

 白い仮面が、過去の断片の中から現れようとしていた。

 

 カナメが銃を構える。

 ゼルヴァードが術式を展開する。

 萌亜の瞳が紫に光る。

 

 だが、ラチャがその前へ飛び出した。

 

「おっと、ここはあたしの出番だ!」

 

 赤い光が爆発する。

 

 ラチャは笑いながら、白い亀裂へ拳を叩き込んだ。

 

「シャンバラの試練中に横槍入れんな、白い迷惑客!」

 

 拳が亀裂を砕く。

 白い仮面が弾き飛ばされる。

 

 リオナは思わず叫んだ。

 

「武闘派すぎる!」

 

 ラチャは振り返って親指を立てた。

 

「現在輪担当だからな! 今殴るのが仕事だ!」

「分かりやすい!」

 

 カーラがため息をつく。

 

「本来は、もう少し厳粛に処理するものです」

 

 チャクラが冷静に言う。

 

「しかし効率は良好です」

 

 リンがふわふわ拍手した。

 

「ラチャちゃん、ばっちぐーです……」

 

 萌亜が目を輝かせる。

 

「リンちゃん、死語の素質あるよ!」

「えへへ……」

 

 カーラが頭を抱えた。

 

「シャンバラの品位が」

 

 リオナは少しだけ笑った。

 

 怖い場所だ。

 重い試練だ。

 

 でも、ここにも変な人たちがいる。

 いや、人ではないけれど。

 

 性格バラバラの美人四姉妹みたいなカーラチャクラ。

 

 厳格で、暑苦しくて、毒舌で、ぽやぽやしている。

 

 そして、それでもシャンバラを守っている。

 

 リオナは深呼吸した。

 

 過去輪は通った。

 まだ、現在輪、未来輪、無時輪が残っている。

 

 先は長い。

 

 しかも、選定機関はもう入り込んできている。

 黒い海も、門の向こうで揺れている。

 

 それでも、進むしかない。

 

 カーラが告げる。

 

「次は現在輪。今この瞬間、あなたが何を選ぶかを問います」

 

 ラチャが拳を鳴らし、楽しそうに笑った。

 

「さあ、次はあたしの番だ!」

 

 リオナは少し嫌な予感を覚えた。

 

「まさか、殴り合いじゃないですよね?」

 

 ラチャは満面の笑みで言った。

 

「安心しろ! 心の殴り合いだ!」

「全然安心できない!」

 

 萌亜が隣で笑う。

 

「リオナっち、余裕のよっちゃん?」

「全然余裕じゃない」

「でも行く?」

「行く」

 

 リオナは萌亜の手を握り直した。

 

「離さないって言ったから」

 

 萌亜は、泣きそうな顔で笑った。

 

「うん」

 

 空に浮かぶ時輪が、再び回る。

 

 白い過去の光が消え、赤い現在の炎が広場を満たしていく。

 

 シャンバラの試練は、まだ始まったばかりだった。

 




第14話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、シャンバラ中枢防衛人格「カーラチャクラ」の登場回でした。

時輪金剛、カーラチャクラ。

本来は一つの防衛人格ですが、人間が認識しやすいように四相へ分かれて現れています。

その結果、なぜか性格バラバラの美人四姉妹みたいになりました。

過去輪担当のカーラは、厳格な長女タイプ。

現在輪担当のラチャは、武闘派で熱血な次女タイプ。

未来輪担当のチャクラは、理論派で毒舌な三女タイプ。

無時輪担当のリンは、ぽやぽや眠そうな末妹タイプ。

全員まとめてカーラチャクラです。

シャンバラは精神領域防衛拠点なので、もっと厳粛で神秘的な場所……のはずなのですが、この作品らしく、やっぱりクセが強くなりました。

今回の試練では、まず過去輪の承認が行われました。

リオナは、萌亜の過去を無理に覗かず、「知らない部分があると分かった上で、今の萌亜の手を握る」と答えます。

これは、選定機関とは真逆の姿勢です。

選定機関は、測り、分類し、過去の罪状や危険性を根拠に切除しようとします。

でもリオナは、全部を知ったふりはしない。

勝手に暴かない。

けれど、今ここにいる萌亜を選ぶ。

その姿勢が、シャンバラの過去輪に承認されました。

一方で、選定機関の干渉も始まっています。

白い切除は、萌亜の過去を暴き、リオナの判断を「不完全」と断じようとしています。

これに対して、現在輪担当のラチャが物理的に殴りました。

かなり分かりやすい防衛人格です。

次回は、現在輪の試練。

今この瞬間に何を選ぶのか。

リオナと萌亜の接続が、さらに試されることになります。

シャンバラ編、本格開始です。

それではまた次回。

時輪四姉妹でもチョベリグ。
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