アンゴルモア、令和ギャルになる。 〜地球滅ぼしに来た終末存在だけど、人間おもろすぎて守ることにした〜   作:池ポチャ

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第18話です。

前回、萌亜とリオナはシャンバラの四つの試練を越えました。

過去輪。
現在輪。
未来輪。
無時輪。

記録された過去も、今この瞬間も、まだ決まっていない未来も、忘れられていた小さな時間も、二人は手を離さずに越えました。

これで、シャンバラ側の承認は得られました。

しかし、まだ終わりではありません。
地上定着核を正式にシャンバラへ登録するためには、シャンバラ中枢へ到達しなければなりません。

当然、選定機関はそれを阻止しようとします。
そして、門の外では九頭龍瑠々の黒い海も揺れています。

白い切除。
黒い海。
そのどちらにも飲まれず、萌亜を地球側存在として刻めるのか。

シャンバラ編、決着回です。



シャンバラ中枢、だいたい登録作業がラスボス戦

 

 シャンバラの四輪が回っていた。

 

 白金の過去輪。

 赤の現在輪。

 青の未来輪。

 黒紫の無時輪。

 

 四つの光は空に浮かび、巨大な曼荼羅となってシャンバラの空を支えている。

 

 その中心から、金色の道が伸びていた。

 

 道の先には、中枢殿。

 シャンバラの最奥。

 

 人の祈り、夢、記憶、忘れられた時間が集まる場所。

 

 そこへ、安藤萌亜を地球側存在として登録する。

 

 それが、今回の目的だった。

 

「走れ!」

 

 ラチャの声が響いた。

 赤い現在輪担当らしく、言葉が短い。

 

 そして勢いだけはある。

 

 姫咲リオナは、萌亜の手を握ったまま金色の道を走っていた。

 

「言われなくても走ってます!」

 

 隣で萌亜が笑う。

 

「リオナっち、意外と足速い」

「今それ言う?」

「チョベリグ」

「ありがと!」

 

後方では、黒瀬カナメが銃を構えている。

 霊的弾丸が、背後から迫る白い仮面を撃ち抜いた。

 

 ゼルヴァード・ル=オルグレイは空中に術式を展開し、選定機関の観測線を幾何学ごと捻じ曲げる。

 

「数が増えている!」

「分かってる!」

 

 カナメが短く答える。

 

 白い亀裂は、空のあちこちに走っていた。

 

 選定機関。

 白い切除。

 

 分類し、測定し、不要と判断したものを消す機構。

 

 その干渉体が、シャンバラへ次々と侵入してくる。

 

『四輪承認、確認』

『地上定着核、第二同期進行』

『文明選定個体の地球側再定義、阻止』

『接続因子、切断』

『中枢登録、停止』

 

 リオナの頭に、白い声が刺さる。

 だが、今度は一人で受けない。

 

 萌亜の手から紫の光が流れ込み、リオナのスマホを中心に透明な膜が広がった。

 

『もあち☆安全フィルター

 シャンバラ正式登録モード』

 

 空にポップな文字が浮かぶ。

 チャクラが一瞬だけ眉を寄せた。

 

「表示名の改善を提案します」

「今そこ!?」

 

 リオナが叫ぶ。

 萌亜は真顔で言った。

 

「かわいい方が夢に馴染むってリンちゃん言ってた」

 

 リンは枕を抱えたまま、ふわふわ頷いた。

 

「かわいい防御は、夢にやさしいですぅ……」

「なら仕方ないか!」

 

 リオナは半ばやけになって走る。

 背後でラチャが白い仮面を殴り飛ばした。

 

「いいぞ! かわいいは強い!」

 

 カーラが厳格な声で言う。

 

「ラチャ、戦闘中に無駄口を慎みなさい」

「今この瞬間に必要な勢いだ!」

「不正確ですが、士気上昇効果は確認できます」

 

 チャクラが淡々と補足する。

 

「ならいいじゃねえか!」

 

 シャンバラ中枢殿は近づいている。

 

 金色の階段。

 白い柱。

 

 祈りの旗のように揺れる無数の光。

 

 その奥に、巨大な輪が見えた。

 

 時輪の中心。

 シャンバラの登録核。

 

 そこへ辿り着けば、萌亜の地上定着核とシャンバラが同期する。

 

 しかし、当然のように、選定機関は最後の干渉を仕掛けてきた。

 

 空が裂けた。

 

 これまでの白い仮面とは比べものにならないほど巨大な観測輪が現れる。

 

 その中央に、白い人型が降りてくる。

 

 顔はない。

 だが、輪郭ははっきりしている。

 

 両腕は刃のように細く、背中には幾重もの観測輪。

 

 声は、冷たかった。

 

『処分機構、部分起動』

『対象、文明選定個体アンゴルモア』

『接続因子、姫咲リオナ』

『地球側再定義、承認不可』

 

 萌亜の表情が変わった。

 

「処分機構……」

 

 ゼルヴァードが青ざめる。

 

「まずい。通常干渉ではない」

 

 カナメが構える。

 

「撃破可能か」

「困難だ。あれは戦闘体ではなく、定義を切るための機構だ」

 

 リオナは息を呑んだ。

 

「定義を切る?」

 

 チャクラが答える。

 

「安藤萌亜を“地球側存在”として登録する前に、その定義そのものを無効化しようとしています」

 

 白い処分機構が、腕を振り上げた。

 空間に文字が浮かぶ。

 

『安藤萌亜、無効』

『地球側名称、仮称』

『本来分類、文明選定個体』

『情動偏向、異常』

『接続因子、混線』

 

 萌亜の胸元の地上定着核が揺れる。

 

 リオナは即座に叫んだ。

 

「勝手に決めるな!」

 

 白い声が返る。

 

『事実確認』

『本来名、アンゴルモア』

『地球名、後付け』

『友人関係、偶発』

『保護感情、不安定』

 

 リオナは、奥歯を噛んだ。

 たしかに、安藤萌亜という名前は後から得たものだ。

 

 地球で暮らすための名前。

 ギャルとして笑うための名前。

 

 でも。

 

「後から得た名前だからって、偽物じゃない!」

 

 リオナは叫んだ。

 

「友達だって、最初から決まってたわけじゃない! 後から出会って、後から大事になるんでしょ!」

 

 萌亜が目を見開く。

 

「リオナっち」

「萌亜はアンゴルモアでもある。でも、安藤萌亜でもある。どっちかを消して決めるな!」

 

 処分機構の白い腕が振り下ろされる。

 その刃は、二人を直接斬るものではなかった。

 

 萌亜の名前を。

 リオナとの関係を。

 シャンバラが承認した四つの輪を。

 

 定義そのものを切断する刃。

 

 リオナは動けなかった。

 萌亜が前に出ようとする。

 

 だが、その瞬間。

 

 門の外から、黒い海が跳ねた。

 

 九頭龍瑠々の声が響く。

 

『勝手に切るなんて、相変わらず無粋ですわね』

 

 黒い海が、白い刃に絡みついた。

 じゅ、と音を立てて白い光が濁る。

 

 瑠々の潮夢廻廊が、門の外から細く伸び、処分機構の腕を一瞬だけ止めた。

 

「瑠々さん!」

 

 リオナが叫ぶ。

 

 黒い海の向こうで、九頭龍瑠々が微笑んでいる。

 

『勘違いなさらないで。わたくしは、選定機関が嫌いなだけですわ』

「助かったのは事実です!」

『ええ。では、感謝だけいただきます。祈りはまだ結構ですわ』

「勝手に持っていかせません!」

『ふふ。そういうところですわよ、人の娘さま』

 

 瑠々の黒い海が、さらに白い刃を濁らせる。

 

 だが、リオナは気づいた。

 

 黒い海が、少しずつ中枢殿の方へ染み込もうとしている。

 

 助けている。

 けれど、侵食もしている。

 

 瑠々は敵ではない。

 でも、味方でもない。

 

 ここで黒い海に頼りすぎれば、シャンバラの登録核そのものがルルイエに濡れる。

 

 リオナは、息を吸った。

 

「瑠々さん!」

『はい』

「そこまで!」

 

 瑠々の目が細くなる。

 

『まあ。助けて差し上げているのに?』

「助けてもらった分は感謝します。でも、それ以上入らないでください」

『線を引くのですか』

「引きます」

 

 リオナは、はっきり言った。

 

「あなたの海は、今は盾。ここから先は入れません」

 

 黒い海が、一瞬止まった。

 

 瑠々は、楽しそうに笑った。

 

『本当に、あなたは欲張りですわね』

「はい」

『わたくしの力は借りる。でも、わたくしには沈めさせない』

「そうです」

『ひどい方』

「それでも、線はここです」

 

 瑠々は、数秒黙った。

 そして、優雅に一礼した。

 

『よろしいですわ。今回は、盾に徹しましょう』

 

 黒い海の動きが変わった。

 中枢へ染み込もうとしていた流れが止まり、外側へ広がる。

 

 それは堀のように、シャンバラ中枢殿を白い観測線から隠す盾になった。

 

 チャクラが目を見開く。

 

「ルルイエ夢質の侵食率が低下。外周遮蔽へ転用されています」

 

 ラチャが笑う。

 

「やるじゃねえか、磯臭い女!」

 

 遠くから瑠々の声が返る。

 

『褒め言葉として受け取っておきますわ』

 

 リオナは萌亜の手を引いた。

 

「行くよ!」

「うん!」

 

 白い処分機構は、黒い海の盾に観測を乱されている。

 

 だが、止まったわけではない。

 

『外部夢質、障害』

『再計算』

『接続因子、優先切除』

 

 白い腕が、今度はリオナを狙った。

 

 萌亜の瞳が紫に燃える。

 

「させない!」

 

 萌亜が指を鳴らす。

 

 ぱちん。

 

 紫の光が弾け、リオナの前に星のような防御が広がった。

 

 だが、リオナはそれだけに任せない。

 

 スマホを構える。

 画面には、今までの記録が流れていた。

 

 渋谷。

 タピオカ。

 宮内庁地下。

 アトランティス。

 竜宮城。

 海の家。

 シャンバラ。

 

 雨の日の投稿。

 最初のいいね。

 

「萌亜!」

「何!」

「名前、登録するよ!」

「どうやって!」

「知らない!」

「チョベリバ!」

「でもやる!」

 

 中枢殿の入口に辿り着く。

 

 そこには、巨大な金色の台座があった。

 その上に浮かぶ、空白の登録盤。

 

 文字はない。

 ただ、光だけが揺れている。

 

 カーラが告げる。

 

「そこへ名を刻みなさい」

 

 ラチャが叫ぶ。

 

「迷うな!」

 

 チャクラが言う。

 

「登録文言は、対象の自己認識と接続因子の承認が一致する必要があります」

 

 リンがふわっと微笑む。

 

「難しく考えすぎると、夢が絡まりますぅ……」

 

 リオナは登録盤を見た。

 萌亜を見る。

 

「萌亜」

「うん」

「何て書く?」

 

 萌亜は、一瞬だけ黙った。

 

 アンゴルモア。

 恐怖の王。

 文明選定個体。

 終末執行存在。

 

 安藤萌亜。

 ギャル。

 死語連発。

 クレープ好き。

 

 リオナのマブダチ。

 

 その全部が、自分だ。

 萌亜は、震える手でリオナの手を握った。

 

「一緒に書いて」

「うん」

 

 二人は、登録盤へ手を伸ばす。

 

 指先が光に触れる。

 

 リオナは言った。

 

「安藤萌亜」

 

 萌亜が続ける。

 

「アンゴルモア」

 

 リオナが言う。

 

「地球を滅ぼしに来たけど」

 

 萌亜が言う。

 

「今は、地球でクレープ食べたい」

「人間おもろいって思ってて」

「リオナっちとまだ遊びたい」

 

「危ない力を持ってる」

「でも、兵器じゃない」

 

「終末でもある」

「でも、友達でもある」

 

 二人の言葉が、光になる。

 

 登録盤に文字が刻まれていく。

 

『安藤萌亜/アンゴルモア』

『外宇宙由来文明選定個体』

『地球側接続承認済』

『竜宮城第一同期完了』

『シャンバラ第二同期進行』

 

『接続因子:姫咲リオナ』

『分類:地球側隣接守護存在』

 

 チャクラが眉を動かす。

 

「地球側隣接守護存在。新規分類です」

 

 カーラが頷く。

 

「承認可能」

 

 ラチャが拳を突き上げる。

 

「いいじゃねえか!」

 

 リンが微笑む。

 

「隣にいる守り人ですぅ……」

 

 処分機構の白い声が乱れる。

 

『新規分類、未承認』

『既存分類外』

 

『無効』

『無効』

『無効』

 

 リオナは振り返った。

 

「既存分類にないから作るんでしょ!」

 

 萌亜も笑った。

 

「新ジャンル、萌亜!」

「それはちょっと違う!」

「めんご!」

 

 白い処分機構が、最後の刃を振り下ろす。

 

 カナメが銃撃で腕を逸らす。

 ゼルヴァードが術式で輪を縛る。

 ラチャが拳で刃を砕く。

 カーラが過去輪で定義を支える。

 チャクラが未来分岐を閉じる。

 リンが忘れた時間を抱きしめる。

 

 瑠々の黒い海が、外側から観測線を濁らせる。

 

 そして、リオナと萌亜の手が、登録盤の中心へ届いた。

 

 光が爆発した。

 シャンバラの四輪が、同時に回る。

 

 金色の山が歌う。

 人々の夢が、遠くでざわめく。

 

 雨の日のいいねも。

 竜宮城のプリクラも。

 アトランティスの記録も。

 ノストラダムスの予言も。

 リオナの配信も。

 萌亜の死語も。

 

 全部が、ひとつの線になって萌亜を地球へ結びつける。

 

『シャンバラ第二同期、完了』

『安藤萌亜/アンゴルモア』

『地球側隣接守護存在として仮登録を更新』

『精神領域座標、固定』

『情動偏向、保護対象へ再定義』

 

 白い処分機構が、ぎしりと軋んだ。

 

『定義競合』

『切除不能』

 

『再計算』

『再計算』

『再計算』

 

 そして、処分機構の腕が崩れた。

 白い観測輪が砕け、空に散る。

 

 完全撃破ではない。

 だが、今この場での切除は失敗した。

 

 選定機関の白い声が、最後に響く。

 

『第二同期、記録』

『危険度、上方修正』

『次防衛拠点への介入を準備』

『太陽炉系統、監視開始』

 

 リオナは息を切らしながら呟いた。

 

「太陽炉……?」

 

 ゼルヴァードが険しい顔をする。

 

「エルドラドだ」

 

 カーラが静かに頷いた。

 

「地球神話防衛網、物質変換および太陽炉系防衛拠点。黄金郷エルドラド」

 

 萌亜は肩で息をしながら言う。

 

「次は金ぴか?」

「たぶん」

 

 リオナはその場に座り込みそうになった。

 

「もうちょっと休ませて……」

 

 その時、黒い海の向こうから瑠々の声がした。

 

『お疲れさまでした。人の娘さま、恐怖の王さま』

 

 リオナは振り返る。

 潮夢廻廊の向こうで、瑠々が微笑んでいる。

 

『今回は、なかなか良い線でしたわ』

「今回はって何ですか」

『次は分かりませんもの』

 

「やっぱり信用できない」

 

『ええ。信用しすぎないでくださいませ』

 

 瑠々は優雅に一礼する。

 

『ですが、選定機関を退けたことは祝福いたします。あの方の眠りを測る白い目が、少し曇りましたもの』

「瑠々さん」

『はい』

「助けてくれて、ありがとうございました」

 

 瑠々は一瞬だけ目を丸くした。

 それから、少しだけ柔らかく笑った。

 

『感謝だけ、受け取っておきますわ』

「祈りは?」

『今日は我慢いたします』

「えらい」

『子ども扱いなさらないで』

 

 萌亜が言う。

 

「瑠々、チョベリグだったよ」

『まあ。恐怖の王さまに褒められるとは光栄ですわ』

「でも沈めようとしたら止める」

『存じております』

 

 瑠々の黒い海が、ゆっくり引いていく。

 潮夢廻廊が細くなり、門の外で静かに揺れた。

 

 その奥に、青緑の光が一瞬だけ見えた。

 

 眠る誰かの気配。

 リオナは、それを見逃さなかった。

 

 だが、今は追わない。

 今は、萌亜の手を握る。

 

 それが線だった。

 

     *

 

 シャンバラ中枢殿に、静かな光が満ちていた。

 

 カーラチャクラ四相が並ぶ。

 カーラは厳かに頭を下げた。

 

「シャンバラは、安藤萌亜/アンゴルモアを地球側隣接守護存在として第二同期登録しました」

 

 ラチャが笑う。

 

「ようこそ、面倒な地球側へ!」

 

 チャクラが言う。

 

「なお、仮登録から更新されたとはいえ、完全固定ではありません。残る防衛拠点との同期が必要です」

 

 リンがふわっと続ける。

 

「でも、もう少し地球に近くなりましたぁ……」

 

 萌亜は胸元に手を当てた。

 

 そこには、竜宮城の時間核と、シャンバラの四輪が重なったような光がある。

 

 温かい。

 重い。

 

 でも、嫌ではない。

 

「リオナっち」

「何?」

「萌亜、ちょっと重い」

「大丈夫?」

「うん。地球に引っ張られてる感じ」

「嫌?」

「全然」

 

 萌亜は笑った。

 

「チョベリグ」

 

 リオナは、ようやく笑った。

 

「よかった」

 

 カナメが通信機を繋ぐ。

 

『こちら御門。状況は』

 

 カナメが答える。

 

「シャンバラ第二同期完了。選定機関の処分機構は一時撤退。全員生存」

 

 通信の向こうで、御門が深く息を吐いた。

 

『よくやった』

 

 萌亜が通信へ顔を近づける。

 

「御門のおじさん、萌亜、地球側隣接守護存在になったよ」

『……新しい肩書きが増えたな』

「かっこいい?」

『事務処理が大変そうだ』

「チョベリバ」

『こっちの台詞だ』

 

 リオナは笑ってしまった。

 

 その時、スマホが震えた。

 

 夢の中ではない。

 シャンバラ中枢で。

 

 またしても、通知が来る。

 

 リオナは嫌な予感しかしない。

 送信者は、タクヤ叔父さん。

 

『リオナちゃん 登録おめでとう  おじさん感動しちゃったヨ  萌亜ちゃんもチョベリグだネ  今度お祝いティータイムしよ☕  』

 

 リオナは無言でスマホを閉じた。

 萌亜が目を輝かせる。

 

「師匠から?」

「見なくていい」

「お祝い?」

「見なくていい」

 

 ゼルヴァードが額を押さえた。

 

「また届いたのか」

 

 カナメが真顔で言う。

 

「通信経路を調べる必要がある」

 

 リオナは疲れ切った声で言った。

 

「帰ったら叔父さんに説教します」

 

 リンがぽやっと言う。

 

「お祝いの夢は、あったかいですぅ……絵文字は多いですけど……」

 

 リオナは天を仰いだ。

 

「シャンバラにも刺さってる……」

 

 カーラが静かに咳払いした。

 

「帰還路を開きます」

 

 金色の門が再び現れる。

 その先には、現実の東京がある。

 

 乾いた街。

 海の家の建設予定地。

 御門の胃痛。

 瑠々の黒い海。

 選定機関の白い目。

 

 そして、次なる防衛拠点エルドラド。

 

 まだ終わっていない。

 むしろ、ここからさらに大きくなる。

 

 でも、萌亜は一歩進んだ。

 

 地球側へ。

 リオナの隣へ。

 

「帰ろっか」

 

 リオナが言う。

 

「うん」

 

 萌亜が頷く。

 

「帰ったらクレープ?」

「今日は食べよう」

「マンモスうれP」

「登録祝いだから許す」

 

 二人は手を繋いだまま、金色の門へ歩いていく。

 

 その背中を、カーラチャクラ四相が見送る。

 

 過去も。

 現在も。

 未来も。

 忘れられた時間も。

 

 すべてが、今の二人へ繋がっている。

 

 シャンバラ第二同期、完了。

 

 アンゴルモアは、また少しだけ地球のものになった。

 

 そして遠い空の外で。

 白い選定機関が、次の切除準備を始めていた。

 




第18話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、シャンバラ編の決着回でした。

過去輪、現在輪、未来輪、無時輪の四つの承認を得た萌亜とリオナは、シャンバラ中枢へ向かい、地上定着核の第二同期登録を行いました。

選定機関は、最後に処分機構を部分起動させます。

今回は肉体を直接攻撃するというより、萌亜の「定義」を切ろうとする攻撃でした。

安藤萌亜という名前は後付け。
リオナとの関係は偶発。
地球側存在としての分類は未承認。

そうやって、萌亜を再び「文明選定個体アンゴルモア」だけに戻そうとするわけです。

それに対してリオナは、後から得た名前でも本物だと答えました。

友達も、居場所も、好きなものも、最初から決まっているわけではありません。

後から出会って、後から大事になる。

だから「安藤萌亜」は偽物ではない。

そして萌亜自身も、アンゴルモアであることを消さずに、安藤萌亜であることを選びました。

今回登録された分類は、

「地球側隣接守護存在」

です。

完全な地球存在ではありません。

人間でもありません。
でも、地球の隣に立ち、地球を守る存在として、シャンバラに登録されました。

また、今回は瑠々も重要な役割を果たしました。

彼女の黒い海は危険です。
放っておけばシャンバラへ染み込みます。

でも、リオナが線を引いたことで、今回は侵食ではなく盾として機能しました。

瑠々の力を借りる。
でも沈ませない。

感謝はする。
でも祈りは渡さない。

この距離感が、今後のリオナと瑠々の関係で重要になっていきます。

シャンバラ第二同期は完了しましたが、選定機関は次の防衛拠点を監視し始めました。

次は、太陽炉系統。
黄金郷エルドラドです。

物質変換。
太陽炉。
黄金。

そして、また別の神話防衛網。

シャンバラで精神側を固定した萌亜たちは、次に物質・エネルギー側の防衛拠点へ向かうことになります。

その前におじさん待望の茶会を挟みます。

それではまた次回。

第二同期完了でもチョベリグ。
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