アンゴルモア、令和ギャルになる。 〜地球滅ぼしに来た終末存在だけど、人間おもろすぎて守ることにした〜 作:池ポチャ
今回は、少し時間が飛びます。
第3話では、少年時代の楠タクヤが裏山で「宇宙交流茶会」を発足させました。
暫定会頭、楠タクヤ。
守衛、モー子。
疲れた外宇宙人、選定機関から逃げてきた候補個体、未来から来た研究者、星間企業を辞めたい技術者。
そんな人々が集まり始めた、小さな茶会です。
しかし現在、その小さな茶会は巨大な組織へと成長しています。
GTG。
ギャラクシーティーグループ。
外宇宙交流、人材保護、超科学研究、亡命支援、選定機関対策を担う、銀河規模の茶会ネットワークです。
そして、かつておにぎりを抱えて「悪くない」と呟いていた選定個体候補エックスは、今やGTG最上級顧問。
選定機関へのカウンター存在にまで成長した美女になっています。
そんな彼女が、次のタクヤとの茶会スケジュールを確認しながら、ひとつ気に入らないことがあります。
タクヤのそばにいる、あの上位選定個体。
エクスキューショナー。
今回は、古参メンバーたちによる、だいたい嫉妬と警戒とお茶の会議です。
銀河には、表の地図に載らない組織がある。
星間企業の登記簿にもない。
選定機関の公式分類にもない。
外宇宙軍の軍事リストにもない。
未来管理局の時系列台帳にも、完全な記録は残っていない。
だが、疲れた者たちは知っている。
追われた者たちは知っている。
判断保留を許されなかった者たちは知っている。
宇宙のどこかで、必ずその名前を聞く。
GTG。
ギャラクシーティーグループ。
始まりは、日本の田舎の裏山だった。
小さな少年が、お茶を持ってきた。
宇宙人たちが疲れていた。
選定個体候補が泣き方を知らずに、おにぎりを抱えていた。
牛が入口に立っていた。
それだけの場所だった。
だが、今では違う。
GTGは、銀河規模の人材保護ネットワークである。
表向きは、外宇宙交流支援、異文化茶葉流通、星間休息環境整備、非地球人材向けメンタルケア、超科学倫理研究などを扱う巨大グループ。
裏向きには、選定機関から逃げた個体、星間企業を辞めたい技術者、未来から避難した研究者、存在しないはずの文明の生き残り、過去に消されたはずの天才たちを保護する避難網。
そして、その最上階。
GTG中央中枢棟。
通称、茶室塔。
その最上級会議室に、ひとりの美女が立っていた。
長い白髪。
雪のように白い肌。
黒を基調とした洗練されたスーツ。
首元には、小さな白い布が縫い付けられいる。
それは、かつて少年タクヤが差し出したハンカチを元に作られたものだった。
瞳には、かすかなバツ印の名残。
だが、そこにあるのは、かつての無表情ではない。
冷静。
美しい。
そして、強い。
GTG最上級顧問。
エックス。
かつて選定機関の候補個体だった少女。
今や、選定機関に対する最大級のカウンターのひとり。
彼女は、巨大な透明ディスプレイに映るスケジュールを見ていた。
『楠タクヤ氏との次回茶会予定』
『候補日程:地球時間 土曜 午後三時』
『参加予定:楠タクヤ、安藤萌亜、姫咲リオナ、場合によりエクスキューショナー』
エックスは、最後の一行を見て目を細めた。
「場合により、とは」
声は静かだった。
しかし、会議室の空気が少し冷えた。
隣にいた秘書型AIが、慎重に答える。
『現在、楠タクヤ氏の周辺に上位選定個体、仮称エクスキューショナーの滞在反応があります』
「知っています」
『茶会への同席可能性を排除できません』
「排除してください」
『顧問』
「排除してください」
『外交上、困難です』
エックスは、ゆっくりと振り返った。
その瞳の奥で、かつてのバツ印が淡く光る。
「タクヤの茶会に、選定機関の上位個体が当然のように同席する。それをGTGが外交上の配慮として受け入れる。そういう話ですか」
『……現在、検討中です』
「却下」
秘書型AIは沈黙した。
その時、会議室の扉が開いた。
入ってきたのは、GTGの古参メンバーたちだった。
全員、かつて裏山の茶会や、その後の初期避難網に関わった者たち。
現在では、それぞれが最上級職に就いている。
まず、細長い体をした外宇宙人。
ケル。
元外宇宙観測局末端調査員。
現在、GTG外宇宙交流局局長。
昔より姿勢がよくなり、目の下の疲労線もかなり薄くなった。
だが、茶会のことになると今でも胃が痛そうな顔をする。
「エックス。もう聞いたか」
「聞きました」
「では話が早い」
次に入ってきたのは、丸い体型の外宇宙人ポム。
現在、GTG休息環境整備部門最高責任者。
あらゆる種族が安全に茶を飲めるよう、銀河中の休憩空間を設計してきた功労者である。
「エクスキューショナーがタクヤのそばにいる件ですね」
その後ろから、グラウが入る。
かつて疲れ切っていた外宇宙観測員。
現在、GTG労働倫理監査局長。
星間企業のブラック契約を粉砕してきた男である。
「選定機関上位個体が、会頭の私的茶会圏内に入っている。放置はできない」
さらに、金属生命体ギギ。
かつて三百年契約から逃げた技術者。
現在、GTG超科学開発局長。
全身はかつてより洗練され、銀の表面に茶葉模様の紋章が刻まれている。
『防衛設備の更新を提案します』
そして、三つ目の事務官。
現在、GTG契約・亡命・時系列法務統括官。
四本の腕に分厚い書類を抱えている。
『法的にも、選定機関上位個体の接近は極めて繊細な案件です』
最後に、巨大な立体映像が映った。
黒白模様の牛。
老いてなお堂々とした姿。
モー子。
今は肉体としては地球の牧場にいるが、GTG中枢では銀色の鈴を媒介に、常時立体映像として表示される。
その称号は、GTG名誉終身守衛。
全外宇宙倫理防壁特別顧問。
牛倫理協定原初個体。
本人は、ただの牛である。
「もー」
エックスは、モー子の映像にだけ少し表情を和らげた。
「モー子。ごきげんよう」
「もー」
ケルが会議用端末を開く。
「議題はひとつ。タクヤの周辺にいるエクスキューショナーを、GTGとしてどう扱うか」
ポムが困った顔で言う。
「まず確認しますが、エクスキューショナーは敵ですか?」
グラウが答える。
「元を辿れば選定機関上位個体だ。敵性は高い」
ギギが淡々と続ける。
『戦闘能力、極大。切除系統権限、高。現時点で茶会圏内にいる理由、不明』
三つ目の事務官が書類をめくる。
『ただし、現在は楠タクヤ氏と同席し、紅茶を注ぎ、クッキーを摂取し、判断保留を示す事例が観測されています』
「そこです」
エックスが低く言った。
「そこが、気に入りません」
会議室が静かになる。
ケルが恐る恐る言う。
「気に入らない、とは」
「タクヤのそばで紅茶を注いでいることです」
「そこか」
「そこです」
ポムが小声で言う。
「顧問、嫉妬ですか」
エックスは即座に答えた。
「違います」
速すぎる否定だった。
グラウが咳払いする。
「では、警戒と」
「警戒です」
ギギが電子音を鳴らす。
『感情波形に嫉妬反応が混入しています』
「ギギ」
『訂正。警戒反応です』
「よろしい」
三つ目の事務官は記録した。
『議事録上は警戒反応と記載します』
「議事録に残さないでください」
『では非公開附属記録へ』
「それもやめてください」
ケルは深くため息をついた。
「エックス、気持ちは分かる。だが、我々はGTGだ。茶会に来た者を、所属だけで拒むわけにはいかない」
「それは理解しています」
「エクスキューショナーが自発的に休息や判断保留を求めているなら、茶会規定では拒否できない」
「理解しています」
「タクヤなら、なおさら拒まない」
「それも理解しています」
エックスの声が、少しだけ硬くなる。
「だから気に入らないのです」
ポムは、丸い体をさらに丸めた。
「タクヤは昔からそうですからね」
グラウが頷く。
「疲れている者がいれば、相手が選定機関でも茶を出す」
ギギが続ける。
『その結果、我々がここにいます』
三つ目の事務官も言う。
『法務的には非常に厄介ですが、倫理的には原点です』
モー子が鳴いた。
「もー」
全員が黙った。
なぜか、モー子の一声は重い。
エックスは、少しだけ目を伏せた。
「分かっています。私も、その茶を出された側です」
彼女の手が、首元の白い布に触れる。
「麦茶を出されました。おにぎりを渡されました。判断保留を許されました。タクヤがいなければ、私は再調整され、今ここにはいません」
ケルたちは何も言わなかった。
エックスは続ける。
「だからこそ、分かるのです。エクスキューショナーも、同じ場所に立ち始めています」
ポムが言った。
「茶会に来る者として?」
「はい」
「それは、悪いことですか?」
「悪くありません」
エックスは一拍置いた。
「悪くないからこそ、気に入りません」
ギギが小さく電子音を鳴らした。
『複雑な情動です』
「理解しています」
エックスは透明ディスプレイに手をかざした。
そこに、地下××××階の茶室映像が映る。
楠タクヤ。
今は大人になった男。
いつものように目を細め、穏やかに紅茶を飲んでいる。
隣には、白銀の髪の美女。
瞳にバツマークの虹彩を持つ上位選定個体、エクスキューショナー。
彼女は静かにタクヤのカップへ紅茶を注いでいる。
そして、クッキーを食べている。
その表情は、ほとんど変わらない。
だが、完全な無ではない。
ほんのわずかに、判断保留の余白がある。
エックスは、その映像を見つめていた。
「タクヤは、またやっています」
ケルが頷く。
「そうだな」
「選定機関の上位個体を、茶会に引き込みかけています」
グラウが腕を組む。
「本流が知れば大騒ぎだ」
三つ目の事務官が書類をめくる。
『すでに大騒ぎです。選定機関本流では、楠タクヤの接触禁止指定が再々々更新されています』
ポムがため息をつく。
「何回更新してるんですか」
『百七十二回目です』
「多い」
ギギが報告する。
『エクスキューショナーの判断保留反応が増えるたび、選定機関内部処理に遅延が出ています』
「つまり、効果は出ている」
ケルが言う。
「エクスキューショナーが茶会側へ傾けば、選定機関への強力なカウンターになる可能性がある」
「分かっています」
エックスの声は冷静だった。
「彼女は危険です。同時に、彼女が選定機関から外れれば、それは極めて大きな意味を持ちます」
グラウが言う。
「ならば、支援するべきでは?」
エックスは沈黙した。
長い沈黙だった。
「支援はします」
やがて、彼女は言った。
「ただし、監視もします」
ケルが苦笑する。
「古参として?」
「最上級顧問として」
ポムが小声で言う。
「やっぱり古参としてでは」
「最上級顧問としてです」
ギギが電子音を鳴らす。
『嫉妬反応、再検出』
「ギギ」
『警戒反応です』
「よろしい」
*
会議は続いた。
GTG最高位メンバーたちは、エクスキューショナーへの対応を協議する。
議題は多い。
一、次回タクヤ茶会の日程。
二、参加者制限。
三、安藤萌亜と姫咲リオナへの接触影響。
四、選定機関本流の介入可能性。
五、エクスキューショナーへの茶葉選定。
六、クッキーの種類。
七、エックス顧問の情動安定化。
「七番は不要です」
エックスが即座に言った。
三つ目の事務官は真顔で答える。
『必要です』
「なぜですか」
『顧問が感情的にエクスキューショナーを威圧した場合、茶会規定第三条、強制圧力の禁止に抵触する恐れがあります』
「私は威圧しません」
ポムが震えながら言った。
「今、少ししています」
ケルが同意する。
「かなり静かに圧がある」
グラウも頷く。
「選定機関へのカウンターとして成長しすぎた結果、普通に怖い」
ギギが補足する。
『美人で圧が強い』
「議事録に残さないでください」
『非公開附属記録へ』
「やめてください」
モー子が、もー、と鳴いた。
エックスは息を吐いた。
「分かりました。情動安定化項目を認めます」
ポムがほっとする。
「では、茶葉はどうしましょう」
ケルが資料を出す。
「エクスキューショナーは選定機関由来の上位個体。通常の嗜好データはない」
ギギが言う。
『地下××××階でバタークッキーを二枚摂取した記録があります』
グラウが眉を上げる。
「二枚?」
『判断保留と言いながら二枚』
ポムが微笑む。
「それは、ほぼ気に入っていますね」
エックスは無表情だった。
「バタークッキーを準備してください」
ケルが慎重に聞く。
「いいのか?」
「茶会に来る者へ、適切な菓子を用意するのはGTGの礼儀です」
「優しいな」
「礼儀です」
「そうか」
「ただし」
エックスの瞳が少し鋭くなる。
「タクヤの隣席は、簡単には譲りません」
沈黙。
ポムが小さく震える。
「顧問」
「何ですか」
「それは、席順の問題ですか」
「はい」
「席順は重要ですか」
「極めて」
ケルが頭を抱えた。
「古参会員の席順争いが始まるとは……」
グラウは真剣だった。
「いや、これは外交問題だ。タクヤの右隣、左隣、対面席。それぞれ意味が違う」
ギギが表示を出す。
『過去茶会記録では、エックスは少年時代のタクヤの左斜め前席を多く使用』
三つ目の事務官が続ける。
『モー子は入口固定』
モー子が鳴く。
「もー」
『エクスキューショナーは現在、地下××××階にてタクヤの右側に立つ事例が多い』
エックスの空気がさらに冷えた。
「右側」
ケルが慌てる。
「立っているだけだ。座席ではない」
「紅茶を注いでいます」
「そうだが」
「タクヤのカップに」
「そうだが」
「二杯目も」
「記録上は」
エックスは静かに目を閉じた。
「分かりました」
全員が少しだけ安心した。
だが、次の言葉で再び緊張した。
「次回茶会では、GTG正式茶器を使用します。給仕担当はGTG側で手配。エクスキューショナーによる単独給仕は制限します」
三つ目の事務官が素早く記録する。
『給仕権限調整』
ポムが小声で言う。
「これ、やっぱり嫉妬では」
「警戒です」
エックスは一切表情を変えずに言った。
*
その頃。
どこかの地下××××階。
タクヤは紅茶を飲んでいた。
エクスキューショナーが、静かにカップを下げる。
「GTG側で会議が行われています」
「そうなんだ」
「主議題は、私です」
「そっか」
タクヤは、少し困ったように笑った。
「エックス、怒ってるかな」
「高確率で警戒しています」
「怒ってはいない?」
「嫉妬反応の可能性」
「えっ」
「訂正。警戒反応」
「今、嫉妬って言った?」
「判断保留」
タクヤは、目を細めて笑った。
「エックスも、昔から真面目だからねえ」
「あなたにとって、エックスは重要個体ですか」
「もちろん」
「どの程度」
「初めて“判断保留”を一緒に守った子だからね」
エクスキューショナーは沈黙した。
「重要度、極めて高い」
「うん」
「では、私は?」
タクヤは彼女を見た。
エクスキューショナーの表情は変わらない。
しかし、問いだけが少し違っていた。
選定機関の機械的な質問ではない。
ほんの少しだけ、個人的な問いだった。
タクヤは微笑んだ。
「君も大事だよ」
エクスキューショナーの瞳のバツマークが、一瞬だけ明滅した。
「根拠は」
「今、ここでお茶を飲んでるから」
「それだけですか」
「それだけで、かなり大事だよ」
「理解困難」
「ゆっくりでいいよ」
「判断保留」
「うん」
タクヤはクッキーを皿に乗せた。
「今度の茶会、エックスも来ると思う」
「敵対可能性があります」
「大丈夫。たぶん、お茶があれば」
「お茶への信頼値が高すぎます」
「お茶は悪くないから」
エクスキューショナーは、その言葉を記録した。
そして、なぜか少しだけ口元を動かした。
「その語句は、GTG初期記録に頻出します」
「懐かしいね」
「あなたは、また選定機関個体を引き抜くつもりですか」
「引き抜くつもりはないよ」
「過去にも同様の発言があります」
「休みたいなら、休めばいいってだけ」
「それが引き抜きと判定されます」
「困ったねえ」
タクヤは本当に困った顔で笑った。
エクスキューショナーは、その顔を見ていた。
切除するために作られた存在。
分類し、測定し、不要なら消す存在。
そのはずの彼女は、今、紅茶の湯気の向こうで、ひとつの問いを保留している。
自分は、どちら側に立つのか。
選定機関か。
タクヤの茶会か。
それとも、まだ名前のない場所か。
答えは出ていない。
だが、答えを出さなくてもいい時間が、ここにはある。
それが、エクスキューショナーには怖かった。
そして、悪くなかった。
*
GTG茶室塔。
会議は最終段階に入っていた。
エックスは、透明ディスプレイへ正式な茶会案内を表示する。
『次回特別茶会』
『主催:GTG』
『名誉会頭:楠タクヤ』
『最上級顧問:エックス』
『名誉終身守衛:モー子』
『招待予定:安藤萌亜、姫咲リオナ』
『観察対象兼判断保留参加候補:エクスキューショナー』
ケルが言う。
「名誉会頭でいいのか? タクヤは今でも実質会頭だ」
「本人が肩書きを嫌がるので、名誉会頭にしています」
ポムが頷く。
「タクヤらしいですね」
グラウが言う。
「安藤萌亜は文明選定個体アンゴルモア。姫咲リオナは接続因子。二人も茶会に来るとなると、選定機関本流が必ず反応する」
ギギが防衛図を展開する。
『茶会会場には多層防壁を設置。茶器破損防止結界、選定線遮断膜、牛倫理協定強化ゲート、クッキー保温機構を準備』
「最後は必要ですか」
『必要です』
三つ目の事務官が確認する。
『茶会規定第三条、強制連行禁止。第七条、モー子に勝手に触らない。第十二条、判断保留者への回答強要禁止。以上を再確認します』
「追加してください」
エックスが言った。
『何をでしょう』
「第十三条。タクヤの隣席を巡る争いは、茶会開始前に解決すること」
会議室が沈黙した。
ケルが言う。
「本当に追加するのか」
「必要です」
ポムが小声で言う。
「かなり私情では」
「運営上の混乱防止です」
グラウは真剣に頷いた。
「確かに、席順争いは外交問題になり得る」
ギギが表示する。
『座席案を提示します』
中央にタクヤ。
右にリオナ。
左に萌亜。
対面にエックス。
斜めにエクスキューショナー。
入口にモー子。
全員が見た。
エックスは無言だった。
「なぜ、私が対面なのですか」
『視線を正面から確保できます』
「隣ではなく」
『タクヤの両隣は若年組の情動安定を優先』
「若年組」
『リオナおよび萌亜』
エックスは黙った。
長い沈黙。
やがて、彼女は小さく息を吐いた。
「……承認します」
ケルが驚く。
「いいのか」
「リオナと萌亜の安定が優先です。私は古参ですから」
ポムが少し感動したように言う。
「顧問……」
だが、エックスは続けた。
「ただし、エクスキューショナーの席は私の視界内に固定してください」
「やっぱり警戒している」
「警戒です」
三つ目の事務官が記録する。
『エックス顧問、古参としての余裕を示す。ただし視界内監視を要求』
「そのまま書かないでください」
*
会議の最後に、エックスは一人で茶室塔の窓際に立った。
銀河が見える。
無数の星。
そのどこかに、かつて自分が切るはずだった未来がある。
笑っている子どもたちの未来。
あの時、彼女は止まった。
止まった自分を、選定機関は異常と呼んだ。
タクヤは、休もうと言った。
麦茶を出した。
おにぎりを半分くれた。
分かるまで休んでいいと言った。
その一言で、エックスは今ここにいる。
GTG最上級顧問。
選定機関へのカウンター。
かつての自分と同じように、判断保留を許されなかった者たちを守る側になった。
エクスキューショナー。
上位選定個体。
切除するために作られた美女。
危険。
極めて危険。
だが、彼女もまた、タクヤの前で判断保留を始めている。
それは、見覚えのある姿だった。
だから腹が立つ。
だから放っておけない。
だから警戒する。
そして、たぶん。
ほんの少しだけ、助けたい。
エックスは、自分の胸元の白い布に触れた。
「タクヤ」
小さく呟く。
「あなたは、本当に昔から変わりませんね」
ディスプレイに、次回茶会の予定が映る。
『地球時間 土曜 午後三時』
『茶葉:地球産紅茶、麦茶、種族別調整茶』
『菓子:バタークッキー、おにぎり、クレープ候補』
『参加者注意:おじさん構文警戒』
エックスは最後の一行を見て、ほんの少しだけ表情を緩めた。
「そこも、変わりませんね」
その時、端末に通知が届いた。
送信者。
楠タクヤ。
『エックスちゃん、今度の茶会よろしくね☕ みんなでゆっくり話せたら嬉しいな。無理しないでね』
エックスはしばらくその文面を見つめた。
今のタクヤとしては、かなり絵文字が少ない。
リオナ向けではないからだろう。
それでも、懐かしい温度があった。
エックスは短く返信する。
『承知しました。茶会準備はGTGで進めます。タクヤも無理をしないでください』
送信。
少し迷って、もう一文追加した。
『エクスキューショナーの件は、私が確認します』
すぐに既読がついた。
返信。
『仲良くしてあげてね』
エックスは、目を細めた。
「それが一番難しいのです」
だが、彼女の口元は少しだけ笑っていた。
銀河の中心では、巨大な茶会ネットワークが静かに動き始めている。
選定機関へのカウンター。
GTG。
その最上級顧問エックスは、次の茶会へ向けて準備を始めた。
タクヤを守るために。
リオナと萌亜を見極めるために。
そして、エクスキューショナーが本当に茶会へ来る者なのか、それともまだ切除する側なのかを確かめるために。
かつて判断保留を許された少女は、今度は誰かの判断保留を見届ける側に立っていた。
第3.5話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、宇宙旅行記の過去編から一気に現在軸へ飛ぶ幕間回でした。
少年タクヤが裏山で始めた宇宙交流茶会は、現在ではGTG、ギャラクシーティーグループとして巨大化しています。
最初は、お茶とおにぎりと牛しかなかった小さな茶会。
それが今では、外宇宙交流、人材保護、超科学研究、選定機関対策まで担う銀河規模の組織になっています。
そして、かつて選定個体候補だったエックスは、GTG最上級顧問になりました。
彼女はもう、守られるだけの少女ではありません。
選定機関から逃げてきた者、判断保留を許されなかった者、切除されるはずだった未来を守る側の存在です。
つまり、選定機関へのカウンターとして成長した存在です。
今回の中心は、そんなエックスがエクスキューショナーをどう見るかでした。
エクスキューショナーは、選定機関の上位選定個体。
本来なら、エックスにとって最大級に警戒すべき存在です。
しかし、今のエクスキューショナーはタクヤのそばにいます。
紅茶を注ぎ、クッキーを食べ、判断保留を覚え始めている。
それは、かつてのエックス自身と重なる姿でもあります。
だからこそ、エックスは気に入りません。
警戒している。
嫉妬ではありません。
本人はそう言っています。
ですが、古参メンバーたちから見ると、かなり複雑な感情が混ざっています。
ケル、ポム、グラウ、ギギ、三つ目の事務官、そして守衛モー子。
彼らは全員、タクヤの茶会に救われた古参です。
だからこそ、エクスキューショナーを単純に拒めないことも分かっています。
茶会に来た者を、所属だけで切り捨ててはいけない。
それが宇宙交流茶会の原点だからです。
次回以降、本編側でタクヤ、リオナ、萌亜、エクスキューショナー、そしてGTGが交差することで、エルドラド編にも大きく関わっていく流れにできます。
タクヤの周囲にいる者たちは、みんな彼に救われた者たちです。
その救われた者たちが、今度はタクヤと、リオナと、萌亜を守る側になっていく。
この3.5話は、その予告のような回です。
それではまた次回。
古参メンバー会議でも、お茶会の席順は悪くない。