アンゴルモア、令和ギャルになる。 〜地球滅ぼしに来た終末存在だけど、人間おもろすぎて守ることにした〜   作:池ポチャ

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第25話です。

今回から、アヴァロン編に入ります。

前回、リオナと萌亜はエリの家でようやく少し休むことができました。

エルドラドの重すぎる試練の後、必要だったのは次の戦いではなく、帰ってきていい場所。

母の家。

布団。

クレープ。

お茶。

そして、「怖いならここに持って帰ってきなさい」という言葉でした。

しかし、アヴァロンの霧はすでに動き始めています。

アヴァロンは、霧状位相系統の防衛網。

攻撃を受け止めるのではなく、攻撃が届くはずだった道筋を霧の中でずらす防衛です。

けれど、ずらす力には危険があります。

自分だけ助かって、誰かを置いていくのではないか。

危険から逃げた先で、大切な人とはぐれてしまうのではないか。

眠ることと、閉じ込められることの違いは何か。

今回、リオナと萌亜はアヴァロンの入口へ向かいます。

霧の湖。

見えない島。

届かない声。

そして、萌亜の中の「恐怖の王」を眠らせようとする、優しすぎる誘惑。

アヴァロン編の第一試練は、静かに、けれど容赦なく始まります。



霧の島アヴァロン

休むことと、置いていくこと

 

 

 

 朝。

 

 姫咲リオナは、久しぶりに深く眠れた気がした。

 

 目を開けると、見慣れた天井があった。

 

 母の家。

 

 自分の部屋。

 

 隣の布団では、安藤萌亜が丸くなって眠っている。

 

 頬に少し髪がかかっていた。

 

 寝息は静かで、昨日よりも穏やかだった。

 

 リオナは、しばらくその寝顔を見ていた。

 

 エルドラドの白金の扉で見た未来を思い出す。

 

 老いたリオナの横で泣いていた萌亜。

 

 未来に一人で残されるかもしれない萌亜。

 

 その光景は、まだ胸に刺さっている。

 

 けれど今、目の前の萌亜は眠っている。

 

 霧の中ではない。

 

 選定機関の隔離領域でもない。

 

 ちゃんと布団の中で。

 

 起きたら、リオナがいる場所で。

 

 それが、昨夜エリが言ったことだった。

 

『眠りたい時は、ちゃんと布団で寝なさい。霧の中じゃなくて』

 

 リオナは小さく息を吐いた。

 

「……本当に強いな、お母さん」

 

 その時、萌亜がもぞもぞ動いた。

 

「んん……クレープ……霧味はチョベリバ……」

 

「どんな夢見てるの」

 

 萌亜はゆっくり目を開ける。

 

 そして、ぼんやりとリオナを見た。

 

「リオナっち……いる」

 

「いるよ」

 

「霧じゃない?」

 

「霧じゃない」

 

「布団?」

 

「布団」

 

「チョベリグ……」

 

 萌亜は安心したように目を閉じかけた。

 

 リオナは思わず笑う。

 

「二度寝する?」

 

「したい」

 

「朝ごはん食べてからにしな」

 

「お母さんみたい」

 

「うちのお母さんに影響されてるかも」

 

 萌亜は、少しだけ笑った。

 

 その笑いが、昨日より自然だった。

 

     *

 

 朝食は、思ったより普通だった。

 

 ご飯。

 

 味噌汁。

 

 卵焼き。

 

 焼き魚。

 

 そして、萌亜用に小さなフルーツクレープが一皿。

 

 萌亜は、それを見て目を輝かせた。

 

「朝クレープ!?」

 

 エリは平然と言う。

 

「昨日の残りだけどね」

 

「チョベリグ朝食……!」

 

「ちゃんとご飯も食べてから」

 

「はい!」

 

 リオナは苦笑した。

 

「完全に扱い方を覚えられてる」

 

 エリは味噌汁をよそいながら言う。

 

「甘いものだけでは体がもたないもの」

 

「正論」

 

 萌亜は素直にご飯を食べ始めた。

 

 その姿を見て、エリは少しだけ柔らかい顔をした。

 

 そして、リオナを見る。

 

「眠れた?」

 

「うん。少し」

 

「萌亜ちゃんは?」

 

「たぶん」

 

 萌亜は口の中のご飯を飲み込んでから言った。

 

「寝れました。霧じゃなくて布団だったので」

 

「それならよかった」

 

 エリは頷いた。

 

 その声は、昨日と同じく穏やかだった。

 

 だが、リオナには分かる。

 

 母は心配している。

 

 何も聞かないだけで、ちゃんと見ている。

 

「今日、行くの?」

 

 エリが言った。

 

 リオナは箸を止めた。

 

「……うん」

 

 萌亜も少し表情を引き締める。

 

「アヴァロン」

 

「霧の場所ね」

 

「昨日、見えたあれ」

 

 エリは静かに頷いた。

 

「止めても、行くんでしょう?」

 

 リオナは黙った。

 

 母の声は責めていない。

 

 けれど、軽くもない。

 

「行く」

 

 リオナは答えた。

 

「萌亜を霧の中へ連れていかれる前に、こっちからちゃんと向き合う」

 

 エリは萌亜を見る。

 

「萌亜ちゃんも?」

 

 萌亜は少しだけ迷った後、頷いた。

 

「怖いです」

 

「うん」

 

「でも、萌亜の中の怖い王様を、霧が勝手に眠らせようとしてるなら、ちゃんと見に行かないといけない気がします」

 

「そう」

 

「でも、霧に閉じ込められたくはないです」

 

「それは忘れないで」

 

 エリは、二人に湯呑みを置いた。

 

「休むことと、閉じ込められることは違う。逃げることと、誰かを置いていくことも違う」

 

 リオナは顔を上げた。

 

 エリは淡々と続ける。

 

「怖かったら逃げてもいい。でも、逃げるなら手を離さない。休むなら、起きる場所を決めておく」

 

 萌亜が目を瞬かせる。

 

「起きる場所」

 

「そう。眠る前に、起きる場所を決めておくの」

 

 その言葉は、アヴァロンへ向かう二人にとって、とても大事なものに思えた。

 

 リオナは頷いた。

 

「帰ってくる場所は、ここでいい?」

 

 エリは即答した。

 

「もちろん」

 

 萌亜が小さく言う。

 

「萌亜も?」

 

「もちろん」

 

 萌亜は、朝食の途中なのに泣きそうな顔になった。

 

「エリさん、チョベリグすぎる……」

 

「ありがとう。でも、ご飯は冷める前に食べなさい」

 

「はい」

 

 リオナは少し笑った。

 

 この普通のやりとりが、霧へ入るためのお守りになる気がした。

 

     *

 

 昼前。

 

 タクヤとエックスが迎えに来た。

 

 今日はGTG地球支部ではなく、エリの家の前で合流する形だった。

 

 タクヤはいつもの穏やかな笑みを浮かべている。

 

 エックスは黒いスーツに白い布。

 

 昨日よりも少しだけ柔らかい表情をしていた。

 

「おはよう、リオナちゃん、萌亜ちゃん」

 

「おはようございます、叔父さん」

 

「師匠、おはよう!」

 

「うん。眠れた?」

 

「布団で寝ました!」

 

「それはよかった」

 

 エックスが真剣に頷く。

 

「霧外睡眠、成功」

 

 リオナは少し笑った。

 

「記録名が大げさです」

 

「重要事項です」

 

 エリも玄関に出てきた。

 

「タクヤ」

 

「姉さん」

 

「帰りもここに寄りなさい」

 

「分かった」

 

「寄れるなら、じゃなくて、寄りなさい」

 

「はい」

 

 タクヤは素直に頷いた。

 

 エックスが小声で言う。

 

「姉権限、明確」

 

 萌亜も小声で返す。

 

「師匠、完全に弟モード」

 

 リオナは苦笑した。

 

 エリは、リオナと萌亜に小さな包みを渡した。

 

「これ、持っていきなさい」

 

「何?」

 

「ハンカチと、小さいチョコ。怖くなった時用」

 

 萌亜が包みを大事そうに受け取る。

 

「お守りだ……」

 

「特別な力はないけど」

 

 エックスが静かに言う。

 

「地球家庭由来安定因子として有効です」

 

 エリは苦笑する。

 

「そういうことにしておいて」

 

 タクヤは車の方を見る。

 

「今日は湖から入るよ」

 

「湖?」

 

 リオナが聞く。

 

「アヴァロンは島だからね。でも、普通の海には出てこない。霧が濃くて、現実と神話の境目が薄い水辺から入る」

 

 エックスが補足する。

 

「今回の接続点は、関東近郊の山間湖です。地図上には普通の湖ですが、霧が出る時間帯だけアヴァロン位相に接続します」

 

「また普通じゃない普通の場所……」

 

「この世界ではよくあります」

 

 萌亜が拳を握る。

 

「湖、行こう」

 

 リオナは頷く。

 

「うん」

 

 エリは、二人の背中へ言った。

 

「行ってらっしゃい」

 

 リオナは振り返る。

 

 母が玄関に立っている。

 

 その言葉は、とても普通だった。

 

 けれど、今のリオナにはとても強かった。

 

「行ってきます」

 

 萌亜も、少し照れながら言った。

 

「行ってきます!」

 

 エリは微笑んだ。

 

「行ってらっしゃい」

 

     *

 

 湖は、昼間なのに白く霞んでいた。

 

 山間にある静かな湖。

 

 観光地としてはほとんど知られていない、小さな場所。

 

 水面は鏡のように穏やかで、向こう岸が見えないほど濃い霧が漂っている。

 

 湖畔には古い桟橋があった。

 

 木材は黒ずみ、ところどころ苔が生えている。

 

 その先に、一艘の小舟が浮かんでいた。

 

 船頭はいない。

 

 ただ、白い布が一枚、船首に結ばれている。

 

 リオナは、息を呑んだ。

 

「これで行くの?」

 

 タクヤが頷く。

 

「うん。アヴァロン側からの迎えだね」

 

「安全なんですか」

 

「安全とは言い切れない」

 

「ですよね」

 

 萌亜は水面を見つめている。

 

 その瞳の奥に、薄く紫の光が揺れていた。

 

「呼んでる」

 

「萌亜」

 

「でも、昨日より怖くない」

 

 萌亜は、エリからもらった包みを握った。

 

「帰る場所、決めたから」

 

 リオナはその手を握る。

 

「うん」

 

 エックスが、湖の霧を観測する。

 

「アヴァロン位相、開いています。ただし、選定機関由来の白い線が微量混入」

 

「やっぱり」

 

 タクヤが静かに言う。

 

「本来のアヴァロンは敵じゃない。でも、選定機関がそこを利用しようとしてる」

 

「休息を隔離に変える」

 

 リオナが言うと、タクヤは頷いた。

 

「うん」

 

 エックスは、二人に小さな紐を渡した。

 

 白と金の糸で編まれた細い紐。

 

「これはGTGで作成した接続補助紐です。手首同士を軽く結んでください」

 

 萌亜が驚く。

 

「迷子防止?」

 

「はい」

 

「めっちゃ分かりやすい」

 

 リオナは紐を受け取った。

 

 自分の左手首と、萌亜の右手首を結ぶ。

 

 強く縛るわけではない。

 

 少し力を入れれば解ける程度。

 

 でも、霧の中ではきっと大事だ。

 

 タクヤが言う。

 

「無理に離れないこと。でも、もし離れたら、紐を責めないこと」

 

「責めない?」

 

「離れたから終わりじゃない。そこから呼び合う」

 

 エックスが続ける。

 

「アヴァロンでは、声が届かないことがあります。しかし、完全に無意味ではありません。呼ぶ意思が、霧の中で目印になります」

 

 リオナは萌亜を見る。

 

「はぐれたら、呼ぶ」

 

「うん。リオナっちも呼んで」

 

「もちろん」

 

 小舟が、音もなく桟橋に寄った。

 

 タクヤは二人を見る。

 

「僕たちは、外側から支援する。中へ入れるのは、リオナちゃんと萌亜ちゃんだけ」

 

「また二人だけですか」

 

「うん。アヴァロンは、逃げる側と追う側、眠る側と呼ぶ側を見たいんだと思う」

 

 萌亜が少し顔を強張らせる。

 

「萌亜、眠らされる側?」

 

「決めつけなくていい」

 

 タクヤは優しく言った。

 

「眠りたいって思うなら、それも大事な気持ちだよ。ただ、誰に眠らされるか、いつ起きるか、自分で選ぶこと」

 

 萌亜は頷いた。

 

「うん」

 

 リオナは深く息を吸う。

 

「行こう」

 

 二人は小舟に乗った。

 

 エックスが最後に言う。

 

「霧の中で、優しすぎる言葉には注意してください」

 

「優しすぎる言葉」

 

「はい。アヴァロンに混じった選定機関は、傷つかないことを救いとして提示する可能性が高いです」

 

 リオナは頷く。

 

「分かりました」

 

 タクヤが微笑む。

 

「怖かったら、怖いって言って」

 

 萌亜が答える。

 

「怖いです」

 

「うん。よく言えたね」

 

 小舟が、静かに桟橋から離れた。

 

 白い霧が二人を包み込む。

 

 岸にいるタクヤとエックスの姿が、すぐに見えなくなった。

 

     *

 

 霧の中は、音がなかった。

 

 水を切る音もない。

 

 風の音もない。

 

 鳥の声もない。

 

 ただ、小舟だけが、何かに引かれるように進んでいく。

 

 リオナと萌亜は、並んで座っていた。

 

 手首には接続補助紐。

 

 その上で、二人はさらに手を繋いでいる。

 

「リオナっち」

 

「何?」

 

「霧、白いね」

 

「うん」

 

「なんか、白いのに選定機関の白とは違う」

 

「分かる」

 

 選定機関の白は冷たい。

 

 切る白。

 

 分類する白。

 

 余白を許さない白。

 

 だが、アヴァロンの霧は違う。

 

 柔らかい。

 

 包む。

 

 隠す。

 

 ただ、その優しさが怖い。

 

 包まれたまま、戻れなくなりそうな怖さがある。

 

 水面に、ぽつりと波紋が広がった。

 

 霧の奥から声が聞こえる。

 

『疲れたでしょう』

 

 萌亜の肩が震えた。

 

 リオナはすぐ手を握る。

 

「聞こえた?」

 

「うん」

 

 声は続く。

 

『もう、歩かなくていい』

 

『もう、選ばなくていい』

 

『もう、誰かを傷つける心配をしなくていい』

 

 萌亜の表情が揺れる。

 

 リオナは霧を睨んだ。

 

「誰?」

 

 返事はない。

 

 ただ、霧の中に島影が見えてきた。

 

 湖の真ん中にあるはずのない島。

 

 深い森。

 

 白い花。

 

 古い石の柱。

 

 そして、中央に小さな寝台が見える。

 

 白い布で覆われた、美しい寝台。

 

 萌亜が息を呑む。

 

「あれ……」

 

 霧の声が囁く。

 

『恐怖の王よ』

 

『眠れ』

 

『お前が眠れば、誰も傷つかない』

 

『お前が眠れば、友も泣かない』

 

『お前が眠れば、世界は安心する』

 

 萌亜の手が冷たくなる。

 

「リオナっち……」

 

「聞いちゃダメ」

 

「でも、ちょっと思っちゃう」

 

 萌亜の声が震える。

 

「萌亜の中の怖い力が眠ったら、リオナっち、楽になるんじゃないかなって」

 

 リオナは胸が痛くなった。

 

 萌亜は、ずっと怖がっていた。

 

 自分がアンゴルモアであること。

 

 終末の力を持っていること。

 

 リオナを傷つけるかもしれないこと。

 

 世界に怖がられるかもしれないこと。

 

 それを眠らせていいと言われたら。

 

 誰も傷つけなくていいと言われたら。

 

 惹かれるのは当然だった。

 

 でも。

 

「萌亜」

 

 リオナは、はっきり言った。

 

「私は、萌亜の中の怖いところも含めて、萌亜と話したい」

 

「怖くないの?」

 

「怖い」

 

 萌亜が目を見開く。

 

 リオナは続ける。

 

「怖いよ。でも、怖いからって勝手に眠らせたくない。萌亜が眠りたいなら一緒に考える。でも、霧に言われたから寝るのは違う」

 

 萌亜の瞳が揺れる。

 

「一緒に考える」

 

「うん」

 

「眠るかどうかも?」

 

「うん」

 

「起きる場所も?」

 

「決める」

 

 萌亜は、エリの包みを胸に押し当てた。

 

「布団がいい」

 

「私も」

 

「霧の寝台、きれいだけど……寒そう」

 

「たぶんね」

 

 小舟が島へ近づく。

 

 だが、上陸する直前、水面が歪んだ。

 

 霧が濃くなる。

 

 リオナは、萌亜の手を強く握った。

 

「何?」

 

 次の瞬間。

 

 小舟が二つに割れた。

 

 音もなく。

 

 痛みもなく。

 

 気づいた時には、リオナと萌亜は別々の舟に乗っていた。

 

 接続補助紐が伸びる。

 

 伸びる。

 

 しかし、切れない。

 

 白と金の紐が、霧の中で細く光っている。

 

 萌亜が叫ぶ。

 

「リオナっち!」

 

「萌亜!」

 

 声が届きにくい。

 

 距離は近いはずなのに、霧が音を吸っている。

 

 リオナは手を伸ばす。

 

 でも、届かない。

 

 萌亜の舟は、島の寝台へ向かっていく。

 

 リオナの舟は、別の方向へ流される。

 

 霧の中に、また声がした。

 

『追わなくていい』

 

 今度は、リオナの耳元。

 

『彼女は疲れている』

 

『眠らせてあげるのが優しさだ』

 

『あなたも、もう背負わなくていい』

 

 リオナの目の前に、別の光景が現れる。

 

 自分だけが岸へ戻る未来。

 

 萌亜はアヴァロンで静かに眠っている。

 

 選定機関の攻撃は届かない。

 

 世界は壊れない。

 

 リオナは泣きながらも、普通の生活へ戻っている。

 

 学校。

 

 配信。

 

 母の家。

 

 タクヤの茶会。

 

 ただ、萌亜だけがいない。

 

 霧の声は優しい。

 

『彼女は安全だ』

 

『あなたも安全だ』

 

『誰も傷つかない』

 

 リオナは、吐き気がした。

 

 優しすぎる。

 

 都合が良すぎる。

 

 萌亜を守るという名で、萌亜を置いていく未来。

 

 自分が楽になるために、萌亜を眠らせる未来。

 

「違う……」

 

 リオナは震える声で言った。

 

『違わない』

 

『守るとは、危険を遠ざけること』

 

『恐怖の王を眠らせれば、全員が助かる』

 

「萌亜は全員に入ってるの?」

 

 霧が止まった。

 

 リオナは立ち上がる。

 

 舟が揺れる。

 

 危ない。

 

 それでも立つ。

 

「萌亜が眠りたいって自分で決めたなら、私は一緒に考える。でも、萌亜を抜きにして“みんなが助かる”って言うなら、それは違う」

 

 霧の声が薄くなる。

 

『接続因子』

 

『あなたは彼女を苦しませる』

 

「そうかもしれない」

 

 リオナは、接続補助紐を握った。

 

「一緒に起きてることが、苦しい時もあると思う」

 

 紐が光る。

 

「でも、苦しいからって一人で霧に置いていかない」

 

 リオナは叫んだ。

 

「萌亜!」

 

 霧が音を吸う。

 

 それでも叫ぶ。

 

「萌亜、聞こえる!?」

 

 遠くで、かすかに声がした。

 

「……リオナっち!」

 

 届いた。

 

 リオナは紐を引いた。

 

 強く。

 

 けれど、引きずり戻すためではない。

 

 ここにいると知らせるために。

 

「私はここ!」

 

 萌亜の舟の方で、白金の光が揺れた。

 

     *

 

 萌亜は、島の岸に立っていた。

 

 寝台は目の前にある。

 

 白い花が咲き、霧が柔らかく揺れている。

 

 その寝台は、とても美しかった。

 

 横になれば、きっと楽になれる。

 

 恐怖の王も、終末の力も、選定機関も、未来の別れも。

 

 全部、遠くなる。

 

 霧の中から、誰かが現れた。

 

 白い外套をまとった女性。

 

 顔は見えない。

 

 声は優しい。

 

『眠りなさい』

 

 萌亜は、後ずさった。

 

「あなた、アヴァロン?」

 

『私は霧の導き手』

 

『傷ついた王を眠らせる者』

 

「王って、萌亜のこと?」

 

『あなたの中にいるもの』

 

 女性は寝台を示す。

 

『恐怖の王は疲れている』

 

『終末の力は、起きているだけで世界を怯えさせる』

 

『眠らせれば、あなたは軽くなる』

 

 萌亜は胸を押さえた。

 

 確かに、重い。

 

 エルドラド以降、身体は地球に近づいた。

 

 でも、そのぶん、自分の中にある力もはっきり感じる。

 

 紫の奥。

 

 金色の火。

 

 赤い代価。

 

 白金の火種。

 

 そのさらに奥に、黒く巨大な輪郭がいる。

 

 恐怖の王。

 

 アンゴルモア。

 

 自分。

 

 でも、自分だけではない何か。

 

 その存在は、ずっと起きている。

 

 ずっと見ている。

 

 ずっと、いつ暴れるか分からない。

 

「眠らせたら……どうなるの?」

 

『あなたは普通に近づく』

 

 萌亜の心が揺れた。

 

『友は安心する』

 

 さらに揺れる。

 

『世界は、あなたを恐れなくて済む』

 

 萌亜の目から涙がこぼれた。

 

「それ、いいことじゃん……」

 

『ええ』

 

「リオナっちも、安心する?」

 

『ええ』

 

「萌亜が怖い子じゃなくなる?」

 

『ええ』

 

 霧の導き手は、優しく手を差し伸べる。

 

『だから、眠りなさい』

 

 萌亜は一歩、寝台へ近づいた。

 

 白い花が足元で揺れる。

 

 その時。

 

 手首の紐が、かすかに光った。

 

 遠くから声が聞こえる。

 

『萌亜!』

 

 リオナの声。

 

 霧に吸われて、細くなって、それでも届いた。

 

『私はここ!』

 

 萌亜の涙が止まる。

 

 リオナっちが呼んでる。

 

 霧の導き手は静かに言う。

 

『彼女はあなたを苦しみへ戻そうとしている』

 

「違う」

 

 萌亜は即座に言った。

 

 自分でも驚くほど、はっきり言えた。

 

「リオナっちは、萌亜を起こそうとしてる」

 

『起きていれば苦しい』

 

「うん」

 

『眠れば楽になる』

 

「うん」

 

『ならば、なぜ戻る』

 

 萌亜は、エリからもらった包みを取り出した。

 

 小さなチョコとハンカチ。

 

 特別な魔力はない。

 

 でも、エリの家の匂いがした。

 

 クレープとお茶と布団の匂い。

 

「起きる場所を決めたから」

 

 霧の導き手が止まる。

 

「萌亜、眠るなら霧じゃなくて布団がいい」

 

『布団』

 

「うん。リオナっちがいて、エリさんが夜中でも呼んでいいって言ってくれて、朝ごはんにクレープあるかもしれない場所」

 

『それは休息であり、隔離ではない』

 

「そう」

 

 萌亜は、自分の胸に手を当てた。

 

「恐怖の王を眠らせたいって気持ちはある。怖いから。でも、閉じ込めたいわけじゃない」

 

 胸の奥で、黒い輪郭が揺れた。

 

 大きい。

 

 怖い。

 

 けれど、泣いているようにも見えた。

 

 萌亜は、初めてその奥へ声をかけた。

 

「疲れてる?」

 

 返事はない。

 

 でも、胸の奥が少し震えた。

 

「じゃあ、一緒に休もう。でも、置いていかない。閉じ込めない。萌亜も一緒に起きる」

 

 霧の導き手の声が少し変わる。

 

『それは難しい道』

 

「知ってる」

 

『恐怖の王は、あなたを傷つけるかもしれない』

 

「知ってる」

 

『友を傷つけるかもしれない』

 

 萌亜の顔が苦しそうに歪む。

 

 でも、彼女は手首の紐を握った。

 

「だから、リオナっちと相談する」

 

『友に負担をかける』

 

「半分こする」

 

『半分で済まないかもしれない』

 

「その時は、茶会に行く。エリさんの家に帰る。師匠にも、エックスさんにも、モー子にも頼る」

 

 萌亜は涙を拭った。

 

「萌亜、もう一人で王様しない」

 

 その言葉に、霧が大きく揺れた。

 

 寝台の白い布がふわりと浮く。

 

 白い花が散る。

 

 霧の導き手は、しばらく黙っていた。

 

 そして、静かに言った。

 

『第一応答、確認』

 

『眠りを拒否せず』

 

『隔離を拒否』

 

『共同休息を選択』

 

 萌亜の足元に、白金の円が浮かぶ。

 

 だが、次の瞬間。

 

 霧の中に、白い線が混じった。

 

 選定機関。

 

『共同休息は不安定』

 

『恐怖の王は隔離対象』

 

『安藤萌亜の意思は情動汚染済』

 

『霧の寝台へ固定せよ』

 

 霧の導き手の輪郭が歪む。

 

 優しい霧が、急に冷たくなる。

 

 寝台から白い拘束線が伸びた。

 

 萌亜の足に絡む。

 

「っ!」

 

 遠くでリオナが叫ぶ。

 

「萌亜!」

 

 萌亜は手を伸ばす。

 

 だが、白い線は強い。

 

 接続補助紐がきしむ。

 

 切れそうになる。

 

 萌亜の胸の奥で、恐怖の王が目を開けかけた。

 

 紫の闇が広がる。

 

 暴れれば、白い線を壊せる。

 

 でも、島ごと壊すかもしれない。

 

 霧の声が冷たく囁く。

 

『眠れ』

 

『眠れば壊さない』

 

『眠れば選ばなくていい』

 

 萌亜は震えた。

 

「リオナっち……!」

 

     *

 

 リオナは、紐が強く引かれるのを感じた。

 

 萌亜が捕まっている。

 

 理屈ではなく分かった。

 

 舟はまだ霧の中で流されている。

 

 岸は遠い。

 

 でも、紐は繋がっている。

 

 リオナは、エリにもらったハンカチを取り出した。

 

 それを接続補助紐に結びつける。

 

 特別な力はない。

 

 ただのハンカチ。

 

 けれど、リオナはそこに声を込めた。

 

「萌亜!」

 

 霧が音を吸う。

 

 それでも叫ぶ。

 

「起きる場所、決めたでしょ!」

 

 紐が光る。

 

「霧じゃない! 寝台じゃない! うちの布団!」

 

 その言葉が、霧の中で妙に強く響いた。

 

 選定機関の白い線が一瞬乱れる。

 

『布団』

 

『家庭休息因子』

 

『再計算』

 

 リオナはさらに叫ぶ。

 

「朝クレープもある!」

 

 今度は、萌亜の方からかすかに声が返った。

 

「……朝クレープ……!」

 

 リオナは泣きそうになりながら笑った。

 

「そう! だから戻ってきなさい!」

 

 接続補助紐に、金色、赤色、白金の火が走る。

 

 エルドラドの三つの火。

 

 欲望。

 

 代価。

 

 継承。

 

 それが霧の中で道になる。

 

 リオナは舟から飛び出した。

 

 水面へ足を踏み出す。

 

 本来なら沈む。

 

 だが、足元に白金の霧が固まり、道になった。

 

 アヴァロンが応えている。

 

 リオナは走った。

 

 霧の上を。

 

 萌亜の声を目印に。

 

 置いていかないために。

 

 自分だけ岸へ戻らないために。

 

     *

 

 萌亜の足を縛る白い線が強くなる。

 

 胸の奥の恐怖の王が暴れかける。

 

 その時、霧の向こうからリオナが走ってきた。

 

 リオナの手には、エリのハンカチが結ばれた紐。

 

 顔は必死で、涙も浮かんでいる。

 

 でも、目は逸らしていない。

 

「萌亜!」

 

「リオナっち!」

 

 リオナは萌亜の手を掴んだ。

 

 白い線が二人を絡め取ろうとする。

 

『接続因子も隔離対象』

 

『共同隔離へ移行』

 

 リオナは叫ぶ。

 

「隔離じゃない!」

 

 萌亜も叫ぶ。

 

「休むなら、一緒に帰ってから!」

 

 二人の手から、白金の火が広がった。

 

 それは攻撃ではない。

 

 霧を晴らす光でもない。

 

 ただ、冷たくなった霧の中に、帰り道を作る火だった。

 

 その瞬間、湖の外側から声が届いた。

 

 エックス。

 

『GTG支援接続、微弱ながら確保』

 

 タクヤ。

 

『二人とも、聞こえる? 帰る場所はこっちだよ』

 

 そして、遠くから。

 

 もー、という声。

 

『牛倫理協定、霧中迷子防止条項、暫定発動』

 

『名誉終身守衛モー子、遠隔勤務中』

 

『未同意隔離および帰還経路遮断、倫理審査対象』

 

 選定機関の白い線が激しく乱れた。

 

『牛』

 

『霧中』

 

『迷子』

 

『帰還経路』

 

『再計算不能』

 

 リオナは思わず言った。

 

「モー子、迷子防止まで!?」

 

 萌亜が泣きながら笑う。

 

「チョベリグ牛……!」

 

 霧の導き手が、白い線の奥から本来の声を取り戻す。

 

『不正混入、確認』

 

『アヴァロンは休息を与える』

 

『未同意隔離を認めない』

 

 白い寝台が崩れた。

 

 拘束線がほどける。

 

 その奥に、一瞬だけ別の姿が見えた。

 

 黒い王。

 

 巨大で、怖くて、けれど疲れ切った影。

 

 萌亜はその影を見た。

 

 逃げなかった。

 

 リオナも、萌亜の手を握ったまま見た。

 

 恐怖の王は、目を閉じかけていた。

 

 だが、霧の寝台ではなく。

 

 萌亜の胸の奥で、ゆっくり膝を抱えるように小さくなる。

 

 完全に眠るのではない。

 

 封印でもない。

 

 休む。

 

 萌亜と同じ場所で。

 

 萌亜が戻ってこられる場所で。

 

 霧の導き手が告げる。

 

『第一試練、成立』

 

『眠りを拒まない』

 

『隔離を拒む』

 

『共同休息を選択』

 

『帰還場所を保持』

 

 島が霧に溶けていく。

 

 リオナと萌亜の足元に、帰り道が現れた。

 

     *

 

 気づくと、二人は小舟の上に戻っていた。

 

 霧は少し薄くなっている。

 

 湖面の向こうに、桟橋が見えた。

 

 タクヤとエックスが立っている。

 

 二人とも、こちらを見ていた。

 

 萌亜はリオナの肩にもたれかかった。

 

「疲れた……」

 

「うん」

 

「眠い」

 

「うん」

 

「でも、霧じゃなくて帰って寝たい」

 

「うん」

 

 リオナは、泣きそうになりながら笑った。

 

「帰ろう」

 

 小舟が桟橋へ着く。

 

 タクヤが手を差し伸べた。

 

「おかえり」

 

 その言葉に、萌亜の目が潤む。

 

「ただいま……」

 

 リオナも、小さく言った。

 

「ただいま」

 

 エックスが二人の状態を確認する。

 

「精神負荷は高いですが、隔離反応なし。恐怖の王の暴走兆候もありません」

 

「萌亜の中で、休んでる感じがします」

 

 萌亜が胸元に手を当てた。

 

「怖いのは消えてない。でも、ちょっと静か」

 

 タクヤは頷く。

 

「それでいいと思う」

 

 エックスが静かに言う。

 

「アヴァロン第一応答、成功と判断します」

 

「第一応答?」

 

 リオナが聞く。

 

「はい。アヴァロンは三段階の応答を要求する可能性が高いです」

 

 萌亜が弱々しく言う。

 

「また三つ……?」

 

「防衛網は三相構造を好む傾向があります」

 

「チョベリバ構造……」

 

 タクヤは苦笑した。

 

「今日はここまでにしよう」

 

「はい」

 

 リオナは即答した。

 

 萌亜も力強く頷く。

 

「帰って寝ます」

 

「うん。エリさんの家へ戻ろう」

 

 エックスが端末を確認する。

 

「楠エリへ帰還連絡を送信します」

 

 すぐに返事が来た。

 

『布団をそのままにしてあります。夕飯も作ります。早く帰ってきなさい』

 

 リオナは、それを見て胸が熱くなった。

 

 萌亜は涙目で笑った。

 

「帰還場所、強い……」

 

 タクヤが優しく言う。

 

「強いね」

 

     *

 

 その頃。

 

 選定機関の白い記録領域では、アヴァロン干渉失敗が記録されていた。

 

『アヴァロン第一干渉、失敗』

 

『安藤萌亜、霧の寝台固定を拒否』

 

『姫咲リオナ、帰還経路維持』

 

『家庭由来安定因子、強力』

 

『GTG支援、継続』

 

『守衛牛個体、霧中迷子防止条項を発動』

 

『再計算不能項目、増加』

 

 白い記録官たちは沈黙する。

 

 別の記録が浮かぶ。

 

『次段階干渉案』

 

『接続因子分断』

 

『逃走経路偽装』

 

『置き去り記憶の提示』

 

『恐怖の王覚醒誘導』

 

『検討』

 

『検討』

 

『検討』

 

 そして、エクスキューショナーへの命令が送られる。

 

『上位選定個体エクスキューショナー』

 

『次回アヴァロン干渉時、接続因子分断を補助せよ』

 

 沈黙。

 

 長い沈黙。

 

 そして。

 

『判断保留』

 

『理由』

 

『霧中迷子防止条項の適用範囲確認中』

 

『応答不完全』

 

『再提出』

 

『判断保留を継続』

 

 白い記録領域に、またノイズが走った。

 

     *

 

 夕方。

 

 エリの家に戻ると、玄関の扉が開いた。

 

 エリが立っていた。

 

「おかえり」

 

 その一言だけで、萌亜は泣きそうになった。

 

「ただいま……」

 

 リオナも言う。

 

「ただいま」

 

 エリは二人の顔を見て、すぐに言った。

 

「お風呂沸いてるわよ。先に入る? それともご飯?」

 

 萌亜は、少し考えてから答えた。

 

「ちょっと寝たいです」

 

「じゃあ寝なさい」

 

「いいんですか」

 

「眠い時は寝る。霧じゃなくて布団で」

 

 萌亜は泣きながら笑った。

 

「はい」

 

 リオナは母を見る。

 

「お母さん」

 

「何?」

 

「帰ってきた」

 

「うん。おかえり」

 

 それだけでよかった。

 

 リオナと萌亜は、また同じ部屋に布団を並べた。

 

 萌亜は布団に入るなり、すぐに目を閉じた。

 

「リオナっち」

 

「何?」

 

「王様、ちょっと寝た」

 

「うん」

 

「でも、萌亜もここで寝る」

 

「うん」

 

「起きたら、いる?」

 

「いるよ」

 

「チョベリグ……」

 

 萌亜は眠った。

 

 今度は、霧ではない。

 

 布団の中で。

 

 帰ってきた場所で。

 

 リオナはその隣に座り、しばらく萌亜の寝顔を見守った。

 

 アヴァロン第一試練。

 

 眠りと隔離。

 

 休息と閉じ込め。

 

 その違いを、二人は少しだけ掴んだ。

 

 だが、霧はまだ終わっていない。

 

 次はきっと、逃げることと置いていくことを、もっと直接問うてくる。

 

 リオナは、手首の紐を見た。

 

 白と金の糸。

 

 そこに、エリのハンカチの小さな切れ端が結ばれている。

 

 特別な魔力はない。

 

 けれど、帰る場所の目印になった。

 

 リオナはそっと呟く。

 

「次も、帰ってこようね」

 

 窓の外。

 

 夜の向こうに、霧の島がかすかに揺れていた。

 

 アヴァロンは、まだ待っている。

 

 けれど今夜だけは、萌亜は霧ではなく布団で眠っている。

 

 それが、最初の勝利だった。

 

そしてより厳しく険しい試練の序章である。

 




第25話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回から、アヴァロン編が本格的に始まりました。

アヴァロンは、霧状位相系統の防衛網です。

シャンバラが精神。

エルドラドが物質と太陽炉。

アヴァロンは、因果と位相のずれを扱います。

ただし今回の中心は、戦闘ではなく「眠り」でした。

萌亜の中にいる恐怖の王。

それは危険な力であり、萌亜自身にとっても怖いものです。

だからこそ、アヴァロンは「眠ればいい」と囁きます。

眠れば傷つかない。

眠れば選ばなくていい。

眠れば誰も怖がらなくて済む。

一見とても優しい言葉です。

ですが、選定機関が混ざったことで、その眠りは休息ではなく隔離へ変えられそうになっていました。

今回、萌亜は「眠ること」そのものは拒否していません。

疲れたなら休んでいい。

恐怖の王も休んでいい。

でも、霧の中に閉じ込められるのは違う。

眠るなら、起きる場所を決めておく。

霧の寝台ではなく、帰れる家の布団で眠る。

これが今回の答えです。

リオナもまた、萌亜を安全のために霧へ置いていく誘惑を受けました。

萌亜が眠れば世界は安全になる。

リオナも楽になる。

でも、その選択には萌亜本人が入っていません。

だからリオナは拒みました。

「萌亜は全員に入ってるの?」という問いが、今回のリオナの答えです。

そして、今回もエリの存在が大きく効いています。

ハンカチ。

チョコ。

朝ごはん。

布団。

帰ってきなさいという言葉。

どれも派手な力ではありませんが、アヴァロンの霧の中で二人を現実へ戻す目印になりました。

モー子は今回、「霧中迷子防止条項」を発動しました。

牛倫理協定は、ついに霧の中の迷子まで守り始めています。

選定機関から見れば再計算不能です。

今回でアヴァロン第一応答は成立しました。

テーマは、眠りと隔離。

次は、逃避と置き去り。

霧はまだ深く厳しくなります。

それではまた次回。

霧の島でも、帰る布団があるなら悪くない。
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