アンゴルモア、令和ギャルになる。 〜地球滅ぼしに来た終末存在だけど、人間おもろすぎて守ることにした〜 作:池ポチャ
前回、宮内庁地下の超常現象対策課本部を見学した萌亜とリオナ。
そこで、萌亜を殺すために作られた外宇宙の槍が発見され、彼女を生み出した側の存在が再び動き始めている可能性が示されました。
今回は、そんな不穏な流れの中で、外宇宙から美形侵略者が地球にやって来ます。
本来なら人類にとって絶望的な相手のはずですが、相手が悪かった。
終末ギャルこと安藤萌亜。
そして、カリスマギャル・姫咲リオナ。
地球侵略を宣言しに来た美形男子は、果たして無事に威厳を保てるのか。
ゆるくて物騒な、令和ギャル×外宇宙コメディ第4話です。
外宇宙から侵略者が来る時、人類はもっと分かりやすい形を想像する。
巨大な円盤。
空を覆う艦隊。
都市を焼く光線。
理解不能な怪物。
あるいは、銀色のスーツを着た宇宙人。
だが、実際の侵略者は、渋谷のスクランブル交差点のど真ん中に、なぜか美形男子の姿で現れた。
身長は高い。
髪は銀色。
瞳は金色。
黒いロングコートを風もないのになびかせ、首元には謎の宝石。手には細長い杖。背後には、意味ありげな黒い羽のような光。
顔立ちは整っている。
かなり整っている。
普通に歩いていたら、モデルか俳優か、二・五次元舞台の人だと思われただろう。
ただし、彼は現れた瞬間、スクランブル交差点の中心でこう言った。
「聞け、地球の民よ。我が名はゼルヴァード・ル=オルグレイ。外宇宙第七階梯、星間統治領域より遣わされし支配者である」
周囲の人々は、足を止めた。
スマホを向けた。
誰かが呟く。
「撮影?」
「コスプレ?」
「何かのプロモーション?」
「イケメンじゃん」
「舞台俳優?」
ゼルヴァードは満足げに笑った。
人類が自分に注目している。
恐怖し、畏怖し、支配者の降臨を理解し始めている。
彼はそう思った。
「この星は、未熟で愚かでありながら、宇宙汚染の未来を秘めた危険文明である。ゆえに我が統治下に置き、秩序ある発展を――」
「話なっが」
その一言で、演説は止まった。
声の主は、金髪のギャルだった。
安藤萌亜。
かつて地球を滅ぼすはずだった終末存在アンゴルモア。
現在は、令和ギャルとして渋谷を満喫している女子高生である。
隣には、カリスマインフルエンサーの姫咲リオナ。
二人はちょうど、クレープを買いに行く途中だった。
萌亜はゼルヴァードを上から下まで見た。
そして、真顔で言う。
「あと服ダサ」
スクランブル交差点の空気が凍った。
ゼルヴァードの金色の瞳が揺れる。
「……何?」
「だから、服がダサい」
「この装束は、我が星間統治領域における高位支配者の正装だ」
「肩に情報量ありすぎ。黒コートに黒羽に黒オーラは盛りすぎ。中二盛り放題セットじゃん」
「中二……?」
リオナが慌てて萌亜の腕を掴んだ。
「萌亜、いきなりファッションチェックしない」
「だって気になるじゃん」
「相手たぶん侵略者だよ?」
「侵略するなら、まず見た目大事でしょ。第一印象チョベリバだもん」
ゼルヴァードは、今まで一度も受けたことのない種類の攻撃を受けていた。
惑星防衛軍からの攻撃。
祈り。
呪い。
超兵器。
そういうものなら経験がある。
だが、地球の女子高生に服装をダメ出しされたのは初めてだった。
「貴様……何者だ」
ゼルヴァードの声が低くなる。
空気が震えた。
周囲の人々のスマホ画面に、一瞬だけノイズが走る。
リオナは小声で言った。
「萌亜、これヤバいやつ?」
「うーん」
萌亜はクレープ屋の方向を見ながら答えた。
「人類から見たらヤバいかも」
「萌亜から見たら?」
「服がヤバい」
「そこじゃない」
ゼルヴァードは杖を掲げた。
金色の光が、渋谷の空へ伸びる。
「我を侮辱した罪、万死に値する。まずはこの都市の認識構造を我が支配領域に書き換え――」
「待って」
今度はリオナが声を上げた。
ゼルヴァードが眉をひそめる。
「何だ、人間の娘」
「演説、もうちょい短くした方がいいです」
「……何?」
「今の時代、長いと見てもらえないんで。最初の三秒で掴まないと」
萌亜が大きく頷く。
「それな。リオナっち、プロだもん」
「あと、自己紹介も名前が長いです。ゼルヴァード・ル=オルグレイは覚えにくいから、ゼルくんくらいで」
「ゼルくん!?」
ゼルヴァードは、完全にペースを崩されていた。
彼は外宇宙第七階梯の統治者候補である。
複数の小惑星文明を支配し、三つの神格種を従え、一度は恒星知性体との交渉にも勝利した。
その自分が。
地球のギャル二人に。
名前を略されている。
「ふざけるな!」
ゼルヴァードの怒気が膨れ上がる。
渋谷の空が、わずかに暗くなった。
通行人たちは、ようやく異常に気づき始める。
「え、何?」
「空、暗くない?」
「演出すご」
「これガチ?」
リオナのスマホが震えた。
画面には、いつもの名前。
『宮内庁・胃痛担当』
リオナは通話に出る。
「はい」
『姫咲リオナ、今どこだ』
御門征十郎の声は、すでに疲れていた。
「渋谷です」
『渋谷上空に外宇宙由来の支配波形を確認した。安藤萌亜は近くにいるか』
「目の前で服装ダメ出ししてます」
『……そうか』
「慣れました?」
『慣れたくはない』
御門の後ろでは、職員たちの慌ただしい声が聞こえる。
『敵性存在は、外宇宙第七階梯に属する中位支配個体と推定される。通常兵力では対応不能。安藤萌亜に処理を要請する』
「萌亜、御門さんが処理してって」
「えー。クレープ先じゃダメ?」
『駄目だ』
通話越しに御門が即答した。
萌亜は頬を膨らませる。
「チョベリバ〜」
ゼルヴァードは、屈辱に震えていた。
「我を前にして、なぜクレープの話をしている」
「食べたいから」
「我はこの星の支配者となる存在だぞ!」
「まだなってないじゃん」
「これからなるのだ!」
「じゃあ、なってから言えば?」
リオナが小声で呟く。
「萌亜、レスバ強いな……」
ゼルヴァードは限界だった。
「もうよい! まずは貴様から消す!」
彼が杖を振り下ろす。
その瞬間、空間が裂けた。
渋谷の空に、巨大な紋章が浮かぶ。
金色の幾何学模様。
人間の脳では意味を理解できない支配の文字。
見た者の意識を奪い、ゼルヴァードの配下に変える認識支配術式。
本来ならば、都市ひとつを一瞬で掌握できる力だった。
だが。
「うわ」
萌亜は顔をしかめた。
「フォントもダサい」
指先で、空を軽く弾いた。
ぱちん。
金色の紋章が、粉々に砕けた。
ガラス細工のように砕け散り、光の粒となって消える。
ゼルヴァードの表情が固まった。
「……何をした」
「消した」
「我が支配術式を?」
「うん。読みづらかったし」
「読みづらい!?」
萌亜は腕を組む。
「もっとシンプルにした方がいいよ。情報量多いと人類ついてこれないから」
「なぜ敵にデザイン指導を受けているのだ、我は……!」
リオナは少しだけ同情した。
敵なのに、ちょっとかわいそうになってきた。
だが、ゼルヴァードはまだ諦めない。
「ならば、これならどうだ!」
彼の背後に、黒い門が開く。
門の向こうから、無数の影が現れた。
犬のようで、虫のようで、鳥のようでもある異形の群れ。
外宇宙の眷属。
人類が直接見れば発狂しかねない存在たちだ。
渋谷の人々から悲鳴が上がる。
「きゃあああ!」
「何あれ!」
「撮影じゃないの!?」
「逃げろ!」
リオナは息を呑んだ。
今度は本当に危ない。
そう思った瞬間、萌亜が前に出た。
「リオナっち、ちょっと下がってて」
「萌亜?」
「クレープ食べる前に、街壊されたら困るし」
萌亜の声が、少しだけ変わった。
軽いギャルの声の奥に、星々を終わらせる存在の響きが混じる。
彼女は右手を上げた。
その手のひらに、小さな黒い点が生まれる。
点は一瞬だけ膨らみ、極小の宇宙のように回転した。
そして、萌亜はそれを異形の群れへ向けて弾いた。
「はい、プチッ」
音はなかった。
爆発もなかった。
ただ、影たちは消えた。
存在したという情報ごと、きれいに畳まれ、どこかへ捨てられた。
黒い門も閉じる。
渋谷の空は、何事もなかったように青さを取り戻した。
ゼルヴァードは、完全に固まっていた。
「ありえない……我が眷属を、詠唱もなく……」
「詠唱って長いじゃん」
「そこか!?」
「テンポ大事」
萌亜は歩き出した。
ゼルヴァードへ向かって。
一歩。
また一歩。
そのたびに、ゼルヴァードの顔から余裕が消えていく。
「貴様……まさか……」
彼はようやく気づいた。
目の前の金髪ギャル。
古い言葉を使い、クレープを気にし、服装にダメ出ししてくる少女。
その奥にあるもの。
外宇宙の選定者。
文明淘汰権限を持つ終末存在。
「アンゴルモア……?」
その名を聞いた瞬間、渋谷の空気が震えた。
人々には聞こえていない。
だが、ゼルヴァードの声は確かに恐怖を含んでいた。
萌亜はにこっと笑う。
「今は安藤萌亜でーす」
ゼルヴァードは後ずさった。
「なぜだ。なぜ貴様がこの星にいる。貴様は地球を選定し、滅ぼすはずだった」
「昔はね」
「ならば、なぜ人間の姿をしている」
「楽しいから」
「楽しい……?」
「タピオカあるし、プリあるし、クレープあるし、リオナっちいるし」
ゼルヴァードには理解できなかった。
惑星ひとつの命運を握る存在が、なぜそんな些細なものに執着するのか。
文明を観測し、不要と判断すれば消す。
それが選定者の役目。
それが外宇宙の理。
なのに、アンゴルモアは笑っている。
まるで、本当に人間の少女のように。
「堕ちたな、アンゴルモア」
ゼルヴァードが吐き捨てる。
リオナの眉が動いた。
「は?」
今度はリオナが前に出た。
「ちょっと待って。今、何て言った?」
「人間の娘。貴様には関係ない」
「あるけど」
リオナの声が冷たくなる。
「萌亜は別に堕ちてない。自分で選んでここにいるだけ」
「脆弱な人間が、アンゴルモアを語るか」
「語るよ。友達だから」
萌亜が目を丸くする。
「リオナっち……」
「あと、アンタ本当にダサい」
「貴様まで!」
リオナはスマホを構えた。
「黒コート、黒羽、金色の目、長すぎる名前、謎の杖、上から目線の演説。盛りすぎ。今のSNSじゃ刺さる層狭いよ」
「な、何を……」
「素材はいいのに、見せ方が古い」
萌亜が感心したように頷く。
「さすがプロ」
「まずそのコート脱いで、髪型も少し軽くして、名前はゼルでいく。投稿するなら『地球侵略に来たけどギャルに怒られた』でショート動画化。そっちの方が伸びる」
「伸びるとは何だ!」
「バズるってこと」
「支配者にバズなど不要!」
「だからダメなんだよ」
ゼルヴァードは、もはや戦闘よりも精神的に追い詰められていた。
萌亜はそんな彼を見て、少し考える。
「ねえ、ゼルくん」
「その名で呼ぶな!」
「地球侵略、やめない?」
「なぜ我が貴様の言葉に従う」
「だって、向いてないよ」
「何?」
「支配者って感じじゃない。見栄張ってるけど、本当は評価されたいだけでしょ」
ゼルヴァードの表情が変わった。
ほんの一瞬。
怒りではなく、図星を突かれた顔。
リオナもそれに気づいた。
「萌亜?」
「外宇宙第七階梯って、上下関係めんどいとこじゃん。成果出さないと上から詰められる。だから地球みたいな目立つ星を支配して、手柄にしたかったんでしょ」
ゼルヴァードは歯を食いしばる。
「黙れ」
「図星じゃん」
「黙れと言っている!」
彼の身体から、金色の光が噴き上がった。
怒り。
焦り。
屈辱。
それらが混ざり、支配の力が暴走しかける。
渋谷の地面に亀裂のような光が走る。
人々の悲鳴。
車のクラクション。
超常現象対策課の黒い車両が、遠くから近づいてく
第4話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、外宇宙から来た美形侵略者ゼルヴァードの登場回でした。
人類支配を宣言するために渋谷へ降り立ったはずが、萌亜には服装をダメ出しされ、リオナには名前や演説の長さを指摘され、最終的にはクレープを食べることになりました。
たぶん本人にとっては、侵略者人生で一番屈辱的な一日だったと思います。
一方で、ゼルヴァードは単なる一話限りの敵ではなく、外宇宙側の事情を知る存在でもあります。
萌亜を殺すための槍。
彼女を生み出した選定機関。
そして、地球に肩入れし始めたアンゴルモアをどう扱うのか。
そのあたりの不穏な流れにも、今後関わっていく予定です。
とはいえ、今のところは「地球侵略系男子」から「地球観光系男子」になりかけています。
クレープに負ける侵略者。
地球、意外と強いです。
次回は、ノストラダムスの置き土産に関わる話を予定しています。
なぜノストラダムスはアンゴルモアを予言できたのか。
そして、その予言にはまだ続きがあったのか。
少しだけ物語の根幹に触れる回になると思います。
それではまた次回。
チョベリグ。