アンゴルモア、令和ギャルになる。 〜地球滅ぼしに来た終末存在だけど、人間おもろすぎて守ることにした〜 作:池ポチャ
長い眠りから目覚めたナギが最初に尋ねたのは、未来のことではありませんでした。
「カイお兄ちゃんは?」
彼女にとっては、ムーが沈んだ夜からほとんど時間が経っていません。
兄は「あとから行く」と約束した。
自分は東の海岸へ着いた。
なら、次は兄を待つだけ。
けれど萌亜とリオナは、その約束の結末を知っています。
今回は、守るためにつかれた嘘と、その嘘を何千年も信じて眠っていた少女の話。
そして、海底に残った兄へ、ようやく朝焼けを届けます。
船室には、波の音だけが残っていた。
「カイお兄ちゃんは?」
ナギがもう一度尋ねた。
細い身体を萌亜に支えられたまま、青い瞳で二人を見上げている。
そこに疑いはない。
兄は来る。
そう信じている目だった。
安藤萌亜の口が開く。
けれど、声が出なかった。
姫咲リオナも同じだった。
知らない、と答えることはできる。
今は説明できない、と逃げることもできる。
でも。
二人はもう、カイがどこにいるのか知っている。
ムー第三門。
配達されなかった手紙の山の中。
妹を未来へ送り出し、自分は残った手紙を守るために海底へ戻った少年。
記憶体となってもなお、ずっと配達の日を待ち続けていた。
萌亜の胸の奥で、ヨルが小さく震えた。
『言えない』
「……うん」
萌亜が小さく答える。
ナギが首を傾げた。
「誰と話してるの?」
「あ……ごめん。ヨルっていう子」
「そこにいるの?」
「萌亜の中にいる」
ナギは、萌亜の胸元をじっと見た。
そして、黒紫色のウツボぬいぐるみへ視線を移す。
「これ?」
「これはヨルボ」
「違うの?」
「似てるけど違う」
ナギはますます分からない顔をした。
ほんの少しだけ。
船室の空気が緩んだ。
でも、問いは消えない。
「お兄ちゃんは?」
萌亜は唇を噛んだ。
リオナが、ナギの前へしゃがむ。
「ナギちゃん」
「うん」
「カイは、この船には乗ってない」
「知ってるよ」
ナギは当然のように答えた。
「あとから来るって言ってたから」
リオナの胸が痛んだ。
「うん」
「まだ
船室には、波の音だけが残っていた。
「カイお兄ちゃんは?」
ナギがもう一度尋ねた。
細い身体を萌亜に支えられたまま、青い瞳で二人を見上げている。
そこに疑いはない。
兄は来る。
そう信じている目だった。
安藤萌亜の口が開く。
けれど、声が出なかった。
姫咲リオナも同じだった。
知らない、と答えることはできる。
今は説明できない、と逃げることもできる。
でも。
二人はもう、カイがどこにいるのか知っている。
ムー第三門。
配達されなかった手紙の山の中。
妹を未来へ送り出し、自分は残った手紙を守るために海底へ戻った少年。
記憶体となってもなお、ずっと配達の日を待ち続けていた。
萌亜の胸の奥で、ヨルが小さく震えた。
『言えない』
「……うん」
萌亜が小さく答える。
ナギが首を傾げた。
「誰と話してるの?」
「あ……ごめん。ヨルっていう子」
「そこにいるの?」
「萌亜の中にいる」
ナギは、萌亜の胸元をじっと見た。
そして、黒紫色のウツボぬいぐるみへ視線を移す。
「これ?」
「これはヨルボ」
「違うの?」
「似てるけど違う」
ナギはますます分からない顔をした。
ほんの少しだけ。
船室の空気が緩んだ。
でも、問いは消えない。
「お兄ちゃんは?」
萌亜は唇を噛んだ。
リオナが、ナギの前へしゃがむ。
「ナギちゃん」
「うん」
「カイは、この船には乗ってない」
「知ってるよ」
ナギは当然のように答えた。
「あとから来るって言ってたから」
リオナの胸が痛んだ。
「うん」
「まだ着いてないの?」
答えなければならない。
今ここで。
けれど、リオナは自分に問う。
真実を言うことと、全部を一度に突きつけることは同じではない。
ムーで学んだ。
記憶は、相手へ押しつければいいものではない。
受け取る側にも、開くかどうかを選ぶ権利がある。
リオナはゆっくりと言った。
「カイがどうしたか、私たちは少し知ってる」
ナギの目が大きくなる。
「どこにいるの?」
「その話、今聞きたい?」
「聞きたい」
即答だった。
「少し怖い話でも?」
ナギの顔から、わずかに笑みが消えた。
それでも頷く。
「聞く」
萌亜がリオナを見る。
リオナも頷いた。
逃げない。
でも、一気に沈めない。
少しずつ。
ナギが自分で歩ける速度で。
「カイはね」
リオナが言う。
「ナギちゃんをこの船に乗せた後、ムーへ戻った」
「どうして?」
「残ってた手紙を守るため」
ナギは瞬きをした。
「全部持ってくるって言ってた」
「うん」
萌亜が震える声で続ける。
「ほんとに、全部守ろうとしてた」
「じゃあ、今も?」
萌亜の指が、ヨルボを強く握る。
「カイ本人は……」
そこで言葉が止まった。
本人。
肉体。
死。
記憶体。
何から説明すればいい。
ナギは子どもだ。
でも、分からないものとして扱ってはいけない。
萌亜は息を吸った。
「ナギちゃんが寝てから、すっごく長い時間が経ってる」
「どのくらい?」
「……ものすごく」
「百日?」
「もっと」
「二百日?」
「もっと」
ナギの表情が変わっていく。
「一年?」
リオナが静かに答える。
「一年より、ずっと長い」
船内の青い光が、わずかに暗くなった。
ナギは窓の外を見る。
知らない海岸。
知らない建物。
知らない服を着た人たち。
大きな船。
見たことのない機械。
今まで、それらを「東の海の文化」だと思っていたのかもしれない。
でも。
「ムーは?」
少女の声が小さくなる。
萌亜は胸が締めつけられた。
「……沈んだ」
ナギは動かなかった。
「全部?」
「街は、海の底にある」
「お母さんは?」
答えられない。
「お父さんは?」
誰も答えられない。
「先生は?」
ナギの声が少しずつ震える。
「お隣のミアおばさんは?」
リオナの目に涙が滲む。
ナギは二人の顔を見た。
そこで初めて理解した。
質問の答えを。
「……いないの?」
萌亜が手を伸ばす。
でも、触れる前に止める。
「手、握ってもいい?」
ナギはしばらく黙った。
やがて、小さく頷く。
萌亜が手を握る。
冷たかった。
「カイお兄ちゃんも?」
リオナが静かに言う。
「カイの身体は、たぶんもうない」
ナギの手が強く震えた。
「嘘」
萌亜の胸の奥で、ヨルが痛そうに揺れる。
「嘘じゃない」
「お兄ちゃん、あとから来るって言った」
「うん」
「本当って言った!」
「うん」
「じゃあ来るもん!」
ナギは萌亜の手を振り払った。
「船、戻して!」
立ち上がろうとして、足に力が入らない。
床へ崩れそうになる身体を、リオナが受け止める。
「触らないで!」
リオナはすぐに手を離した。
ナギは床に座り込む。
涙が次々と頬を流れる。
「戻してよ!」
小さな拳で床を叩く。
「お兄ちゃん待ってるもん!」
何度も。
何度も。
「手紙、全部持ってくるって言った!」
青い床へ涙が落ちる。
「一緒に朝見るって言った!」
萌亜は何も言えなかった。
違う、と否定できない。
カイは嘘をついた。
妹を生き延びさせるために。
でも、ナギにとっては、ただ破られた約束だ。
*
『船内の生命反応が急上昇した。状況を報告しろ』
御門の声が通信から届く。
リオナが小さく答える。
「真実を伝えた。ナギちゃんが混乱してる」
『了解した』
それ以上、御門は何も言わなかった。
「医療班を入れる?」
『本人が望むなら入れる。今は刺激を増やさない方がいい』
「分かった」
『通信はこちらから切る。必要になったら呼べ』
回線が静かになる。
御門は、聞き続けることもできた。
記録として残すことも。
でも、そうしなかった。
ナギの泣き声まで国家の記録へ変える必要はない。
船内には三人だけが残った。
正確には。
萌亜の中のヨルと、鞄に固定されたヨルボもいる。
しばらく、誰も話さなかった。
ナギが泣く。
声が枯れても。
涙が止まらなくても。
萌亜もリオナも、「泣かないで」とは言わなかった。
泣く理由がある。
怒る理由も。
兄を恨む理由すらある。
「嘘つき」
ナギが呟いた。
「お兄ちゃんの嘘つき」
萌亜の胸の奥で、ヨルが答える。
『嘘』
萌亜は黙って聞く。
『怖かった』
「カイが?」
『妹が泣く』
ヨルの声は途切れ途切れだ。
『自分も怖い』
『だから、言えなかった』
萌亜はナギを見る。
それを伝えるべきか迷った。
兄を擁護するように聞こえるかもしれない。
守るためだった、と言えば、ナギの怒りを間違いだと否定することになるかもしれない。
だから、少し言い方を変えた。
「ナギちゃん」
「……何」
「カイが嘘をついた理由、知りたい?」
ナギは鼻をすすった。
「言い訳?」
「かもしれない」
萌亜は正直に言った。
「聞いても、許さなくていい」
ナギは黙る。
「怒ったままでもいい」
少しして。
「……聞く」
萌亜は、船が残した記憶を話した。
ムーが沈む夜。
カイが妹を時間停止槽へ連れてきたこと。
自分は乗れないと知っていたこと。
船の座標すら定まっていなかったこと。
それでも、ここに残せば妹も沈むこと。
最後まで何も言えなかったこと。
「カイも、怖かったみたい」
「……お兄ちゃんが?」
「うん」
「お兄ちゃん、怖くないよ」
「怖かったと思う」
「だって、お兄ちゃんだよ」
子どもの言葉だった。
兄は強い。
兄は何でも知っている。
兄は約束を守る。
だから、怖くない。
萌亜は静かに答えた。
「お兄ちゃんでも、怖いよ」
ヨルが胸の奥で小さく呟く。
『王も怖い』
萌亜は少し笑った。
「萌亜の中に、すごく強い子がいるけど。その子も怖がる」
「ヨル?」
「うん」
ナギは萌亜の胸を見る。
「強いのに?」
「強くても」
「……お兄ちゃんも?」
「たぶん」
ナギは膝へ顔を埋めた。
「じゃあ、言えばよかったのに」
「うん」
萌亜は否定しなかった。
「言ってほしかったよね」
「一緒に怖いって言えばよかった」
「うん」
「そしたら……」
ナギの声が詰まる。
「そしたら、わたしも残ったのに」
リオナが静かに答えた。
「だから、カイは言えなかったんだと思う」
ナギが顔を上げる。
「ナギちゃんがそう言うって、分かってたから」
「勝手」
「うん」
リオナは頷く。
「勝手だった」
ナギの目が揺れた。
守るためなら、何をしても正しい。
そんなふうに片づけない。
カイは妹を救った。
同時に、妹から選ぶ権利を奪った。
どちらも本当だ。
「カイのこと、怒っていいよ」
リオナが言う。
「助けてもらったからって、全部ありがとうにしなくていい」
ナギはまた泣いた。
今度の涙は、さっきより静かだった。
*
一時間後。
ナギは少し落ち着いた。
医療班から許可された温かい飲み物を、両手で持っている。
現代の薄い蜂蜜湯。
タクヤがムーの記憶にあった飲み物へ味を近づけたものだ。
ナギは恐る恐る一口飲んだ。
「……似てる」
萌亜が目を輝かせる。
「師匠すご」
リオナも一口分けてもらい、驚く。
「ちょっと塩っぽい?」
「海藻由来の風味を安全な材料で再現したらしい」
「タクヤさん、こういう時だけ料理研究家みたいになる」
『聞こえてるよ』
通信越しにタクヤが笑った。
ナギは紙コップを見る。
「この人、誰?」
「リオナっちの叔父さん」
「変な人です」
「萌亜」
リオナが即座に突っ込む。
『否定はしないかな』
「本人も認めた」
ナギの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
それを見てから、萌亜は尋ねる。
「カイに会う?」
ナギの手が止まる。
「会えるの?」
「本人じゃない」
そこは曖昧にしない。
「ムーの中に、カイの記憶からできた子がいる」
「記憶……」
「見た目も声も、たぶんお兄ちゃん。でも、本当のお兄ちゃんが生き返ったわけじゃない」
ナギは長く考えた。
「その子、わたしのこと知ってる?」
「知ってる」
「ずっと待ってた?」
「うん」
「手紙も?」
「守ってる」
ナギの目から、また涙が落ちる。
「会う」
今度は迷わなかった。
「会って、怒る」
萌亜は頷いた。
「それがいいと思う」
「あと、朝の色も…朝焼けも教える」
「うん」
「ちゃんと、約束だから」
*
問題は、ナギを第三門へ連れていけるかだった。
船外。
海岸に設けられた仮設作戦区画で、御門たちが緊急会議を行う。
ナギは船内に残り、リオナと萌亜が外へ戻っている。
「肉体を持つ原ムー人を記憶層へ入れる」
御門は腕を組む。
「前例はない」
萌亜が小さく手を挙げる。
「そもそもムー人が前例ないです」
「分かっている」
エックスが解析結果を表示する。
「技術的には可能です。ナギ自身がムーの記憶構造と高い親和性を持っています」
カナメが尋ねる。
「危険は」
「記憶と現実の混同」
「程度は」
「不明」
「その言葉が一番困るな」
ゼルヴァードが低く言った。
エクスキューショナーの投影体が、別の問題を提示する。
『選定機関本流が、ナギの存在を継続観測している』
「また来る?」
萌亜が問う。
『可能性は高い』
御門はすぐに決めた。
「ならば長時間は使えない。第三門へ入るなら、渡り潮を使って船ごと一時的に観測圏外へ置く」
リオナが訊く。
「ナギちゃんには?」
「危険性を説明する」
「子どもだけど?」
「だから簡単な言葉で説明する。子どもだから決定権を取り上げる理由にはならない」
御門はタブレットを閉じた。
「ただし、救命上こちらが止める必要がある状態なら止める。それ以外は本人に選ばせる」
萌亜は頷いた。
「ムーの船の条件と同じ」
「ああ」
その時。
海上に白い幾何学模様が展開した。
選定機関からの直接通信。
『生存個体ナギ』
『文明保存上の重要性を再評価』
『記憶層接触を禁止』
『原文明個体への二次記憶上書きリスクあり』
御門が白い表示を睨む。
「今さら保護者のような口をきくな」
『原ムー個体の保全は文明史的利益に合致』
「本人は会いたいと言っている」
『本人判断は情報不足』
「だから説明する」
『幼年個体に完全な判断能力なし』
御門の声が低くなる。
「それを理由に、お前たちが代わりに決めるのか」
『文明的価値を理解できない個体の判断は制限されるべき』
萌亜の表情から笑みが消えた。
「ナギちゃんの価値って、誰にとって?」
『文明史』
「ナギちゃん本人は?」
『個人利益より文明保存を優先』
その瞬間。
ヨルの霧の王冠が、萌亜の背後に浮かんだ。
『嫌い』
萌亜が小さく呟く。
「うん。萌亜も」
エックスが一歩前へ出る。
「照会します」
『照会拒否』
「原ムー文明の保存とは、ナギ本人の意思を無視しても成立するのですか」
『成立する』
「では、保存されるものはムー文明ではなく、選定機関が望むムー像です」
白い表示が揺れる。
エクスキューショナーも続ける。
『ナギを原文明個体として固定した場合、現代文化への参加による変化も汚染として排除するのか』
『必要に応じて』
『では、ナギには未来を生きる権利がない』
『不適切な要約』
『否定できないなら同義』
御門が小さく息を吐いた。
「相変わらず容赦がないな」
タクヤは穏やかに笑う。
「いいことだと思うよ」
白い通信は警告へ切り替わった。
『第三門への移動を確認した場合、保全介入を実施』
御門は即答した。
「拒否する」
『地球政府に拒否権なし』
「なら、実力で止めてみろ」
萌亜とリオナが同時に御門を見る。
御門は気づいた。
「何だ」
「御門さん、今ちょっとかっこよかった」
「今は余計な感想を言うな」
*
ナギへの説明は、船内で行われた。
難しい専門用語は使わない。
第三門は、ムーの記憶の中にある場所。
そこへ行けば、カイの記憶と話せる。
ただし、強い悲しみや昔の記憶に引っ張られて、今が分からなくなる可能性がある。
途中で怖くなったら、いつでも戻れる。
行かないことも選べる。
ナギは最後まで聞いた。
「白い人たちは?」
萌亜とリオナが顔を見合わせる。
「選定機関?」
「うん。お兄ちゃんが、白いのに見つかったらダメって言ってた」
ナギは覚えていた。
閉じる前のムー。
子どもにまで共有されていた恐怖。
リオナは答える。
「今もナギちゃんを見ようとしてる」
「わたし、また隠れる?」
その問いに、二人はすぐ答えられなかった。
第一封印なら隠せる。
船の中へ閉じ込めておけば、選定機関から守りやすい。
でも。
それではムーが沈んだ夜と同じだ。
萌亜はナギの隣へ座る。
「隠れたい時は隠れていい」
「ずっと?」
「それはナギちゃんが決める」
「外に出てもいい?」
「いい」
「学校ってところ行ける?」
「行けると思う」
リオナが笑う。
「必要なら勉強しないとだけど」
「勉強あるの?」
「ある」
ナギの表情が曇る。
「未来なのに?」
「未来もあります」
「そこ進歩してないんだ」
萌亜が真顔で言った。
「人類最大の課題」
「勝手に人類代表になるな」
リオナが突っ込む。
ナギが、ほんの少し笑った。
「じゃあ行く」
「第三門?」
「うん」
そして、小さな声で続ける。
「お兄ちゃんに怒って、それから朝を教える」
*
渡り潮が船内に開いた。
今回は海岸からではない。
船そのものが長い間通ってきた航路を、逆向きに辿る。
萌亜。
リオナ。
ナギ。
三人で手を繋ぐ。
ナギの手首には、青い郵便札。
萌亜の鞄にはヨルボ。
リオナのポケットには、エリから渡された小さなハンカチ。
帰る場所の印。
御門の声が通信から届く。
『最大接続時間は二十分』
「短い」
『原ムー人の初回接続だ。長く取れるか』
「了解です」
『安藤』
「はい」
『感傷で時間を忘れるな』
「……なんで分かったんですか」
『今までの実績だ』
リオナが苦笑する。
「気をつけます」
『姫咲、頼んだ』
「私だけ信用されてる」
『比較の問題だ』
「ひど」
ナギが小声で尋ねる。
「あの人、怒ってる?」
「基本あんな感じ」
「心配してる時ほど硬くなるよ」
「聞こえているぞ」
三人は笑った。
そのまま、渡り潮へ足を踏み入れた。
*
第三門。
海底郵便局。
無数の青い紙舟が、以前より穏やかに流れている。
開封を許可した相手へ向かう舟。
保留されて帰ってくる舟。
返事を載せて戻る舟。
水路はもう、閉じたままではない。
かといって、何でも外へ漏らす場所でもない。
青い郵便鞄を下げた少年が、水路の分岐点で一通の手紙を仕分けていた。
「カイ」
萌亜が呼ぶ。
少年が振り返る。
『来たんだ』
「うん」
カイは微笑みかけ――。
その視線が、萌亜とリオナの間にいる少女へ止まった。
手から手紙が落ちた。
『……ナギ』
ナギも動かなかった。
兄の姿。
あの日と同じ。
少し乱れた髪。
大きすぎる郵便鞄。
嘘をついた時のままの顔。
数歩。
ナギが歩く。
次の瞬間。
思い切り、カイの胸を叩いた。
「嘘つき!」
『いたっ』
「嘘つき!」
『ナギ、待って』
「あとから行くって言った!」
『……うん』
「本当って言った!」
『うん』
「ずっと待ってた!」
『ごめん』
「ごめんじゃない!」
小さな拳が何度もカイを叩く。
記憶体なのに、ちゃんと触れている。
第三門が、ナギの記憶とカイの記録を繋いでいるのだ。
「一緒に怖いって言えばよかった!」
カイの顔が歪む。
『……うん』
「わたしだって決めたかった!」
『うん』
「残るか、行くか!」
『うん』
「勝手に船に乗せた!」
『うん』
カイは反論しなかった。
守りたかったから。
時間がなかったから。
それを言えば、事実ではある。
でも、ナギが怒る権利を消す理由にはならない。
カイはただ、全部受け止めた。
『ごめん』
ナギは拳を止めた。
泣いている。
カイも泣いていた。
『怖かった』
初めて、カイが言った。
ナギの顔が上がる。
『ナギをここに残すのが怖かった』
『船がどこへ着くか分からないのも怖かった』
『一人で起きるのも怖いだろうって分かってた』
『でも、一緒に残ったら二人とも沈むと思った』
声が震える。
『僕も行きたかった』
『でも手紙を残したら、みんなの声が消えると思った』
『どっちも嫌だった』
カイは子どもだった。
英雄でもない。
完璧な兄でもない。
選ぶには重すぎるものを、誰かに押しつけられた子ども。
『だから、ナギに選ばせるのが怖かった』
ナギが泣きながら言う。
「わたし、残るって言うから?」
『うん』
「言ったよ」
『知ってる』
「じゃあ、やっぱり勝手」
『うん』
少しだけ沈黙。
ナギが袖で涙を拭った。
「まだ怒ってる」
『うん』
「ずっと怒るかも」
『うん』
「でも……」
ナギは首に下げていた郵便札を外した。
「朝、見た」
カイの表情が止まる。
ナギは郵便札の裏へ、指で文字を書く。
ムーの文字。
久しぶりなのに、手は覚えていた。
『曇っていた』
『海は暗かった』
『でも、途中から橙色になった』
『青じゃなかった』
最後に、一言。
『きれいだった』
カイはそれを読む。
『そっか』
笑った。
泣きながら。
『青じゃなかったか』
「うん」
『外した』
「お兄ちゃん、何でも知ってるんじゃなかったの?」
『知らないこともあるよ』
「もっと早く言ってよ」
『ごめん』
ナギはまた泣いた。
今度は、カイへ抱きついた。
カイも妹を抱きしめる。
記憶と生者。
本当なら交わらない時間。
渡り潮と共憶環が、わずかな間だけ二人の間を繋いでいる。
萌亜は鼻をすすった。
「リオナっち……」
「うん」
「泣いていい?」
「もう泣いてる」
「リオナっちも」
「うるさい」
ヨルが胸の奥で静かに呟く。
『届いた』
「うん」
約束そのものは守れなかった。
カイは東の海岸へ行けなかった。
でも。
朝の色は、朝焼けは兄へ届いた。
*
白い光が、海底郵便局の空を裂いた。
萌亜が顔を上げる。
「来た!」
選定機関の観測線。
『原ムー個体を確認』
『記憶体との接触により情報汚染進行』
『生存個体ナギを回収』
ナギの身体へ、白い輪が伸びる。
カイが妹を庇った。
『触るな!』
『記憶人格に拒否権なし』
「ある!」
萌亜が叫ぶ。
霧の王冠が広がる。
リオナがナギの手を掴む。
「帰るよ!」
「待って!」
ナギはカイを見る。
「まだ話したい!」
『また来ればいい!』
カイが叫んだ。
ナギが目を見開く。
『今度は嘘じゃない!』
「本当に?」
『渡り潮がある』
カイは青い水路を指す。
『手紙も送れる』
『だから、今は帰って』
白い輪が近づく。
アヴァロンの霧が到達経路を迷わせる。
ムー第一封印がナギの正確な位置を隠す。
第二封印・共憶環が、カイとの会話記録を一か所へ固定させない。
第三封印・渡り潮が帰還路を開く。
しかし。
選定機関の光は、今までより強い。
『原文明個体の喪失は許容不能』
『強制保全を実施』
エクスキューショナーの声が外から響く。
『拒否』
白い輪が一瞬止まる。
エックスも割り込む。
『本人は帰還を選択している』
『現代地球側へ帰属させる根拠なし』
御門の低い声。
『帰属はまだ決めていない』
『ならば未所属個体として選定機関が管理する』
『勝手に空席へ座るな』
萌亜が思わず叫ぶ。
「御門さん今日めっちゃ強い!」
『今は走れ!』
「はい!」
三人は渡り潮へ駆ける。
カイが背後から叫ぶ。
『ナギ!』
ナギが振り返る。
『次の手紙、待ってる!』
「送る!」
『朝だけじゃなくていい!』
「何書けばいいの!」
カイが笑う。
『未来のこと!』
ナギも泣きながら笑った。
「いっぱいあるよ!」
青い扉が閉じる。
白い光が、その直後に海底郵便局へ降り注いだ。
けれど、もう遅い。
ナギは帰った。
自分で。
*
三人が船内へ戻った瞬間、渡り潮が閉じた。
ナギは息を切らして床へ座り込む。
萌亜もその隣へ倒れた。
「疲れた……」
リオナが壁へ寄りかかる。
「二十分短すぎ」
通信が復帰する。
『十八分四十一秒だ』
御門だった。
「セーフ」
『今回は認める』
「やった」
ナギが不思議そうに尋ねる。
「あの人、時間に厳しいね」
「めっちゃ厳しい」
『聞こえている』
船内に少しだけ笑いが生まれた。
その後。
ナギは初めて、自分の足で船外へ出た。
桟橋を渡る。
東の海岸。
現代の日本。
昇りきった朝日。
遠くを走る車。
防寒着を着た知らない大人たち。
空を飛ぶ飛行機。
すべてが初めてだった。
ナギは怖そうに、萌亜とリオナの手を握る。
御門が数歩手前で止まった。
近づきすぎない。
「ナギ」
少女が御門を見る。
「俺は御門征十郎だ。地球側の行政担当をしている」
「偉い人?」
「面倒な仕事をする人だ」
萌亜が小声で言う。
「胃痛担当」
「安藤」
「はい」
ナギの口元が少し笑う。
御門は続けた。
「まず、医師に身体を診てもらいたい。嫌なことや怖いことがあれば言え。検査内容も説明させる」
「お兄ちゃんのところ、また行ける?」
「ああ。ただし、身体の状態を確認してからだ」
「手紙も送っていい?」
「いい」
「いっぱい?」
御門は一瞬考える。
「カイが受け取れる範囲でな」
「分かった」
タクヤが少し離れた場所から手を振る。
「おはよう、ナギちゃん」
「変な叔父さん?」
タクヤが止まる。
リオナが吹き出した。
「萌亜!」
「だって説明として早いかなって」
「僕、会う前から評価が決まってるね」
エリの声が通信端末から聞こえる。
『タクヤは後で説教』
「エリ姉さん?」
『それとナギちゃん』
ナギが端末を見る。
『体調が落ち着いたら、ご飯を食べにいらっしゃい。苦手なものはその時教えて』
「……誰?」
「私のお母さん」
リオナが答える。
ナギは少し戸惑う。
「行っていいの?」
『もちろん』
「ムーの人じゃないよ?」
『知ってるわ』
「何もしなくても?」
『ご飯を食べるのに仕事は要らないわよ』
ナギは黙った。
その目に、また涙が溜まる。
「……行く」
『待ってる』
通信が切れる。
御門が医療班へ合図する。
「急がせるな。本人へ説明してから進めろ」
ナギは医療班へ向かう前、もう一度海を振り返った。
船。
渡り潮。
そのずっと先にいる兄。
「今日のこと、手紙にする」
萌亜が隣へ立つ。
「何書く?」
「いっぱい」
「学校のことも?」
「まだ行ってない」
「じゃあ行ったら」
「うん」
「エリさんのご飯も」
「食べてから」
「ヨルボも紹介する?」
ナギは黒紫のウツボを見る。
「これ、何て書けばいい?」
リオナが即答する。
「未来の意味不明な文化」
「ひど」
久しぶりに、ナギが声を出して笑った。
*
同じ頃。
ムー第三門。
カイは、一人で水路の前に座っていた。
でも。
以前とは違う。
待っている手紙には、返事が来る。
配達できなかったものにも、帰る場所がある。
そして、自分にも待つ理由ができた。
水路の上を、一艘の紙舟が流れてくる。
まだナギが書いたものではない。
もっと古い。
ずっと奥。
ムーの最深部から送られてきたもの。
カイが受け取る。
封には、ムー中枢の紋章。
その下に、一行だけ。
『第四門を開く』
カイの表情が変わる。
紙舟の底から、青い光が広がった。
ムーの海底全体が、ゆっくりと震え始める。
これまで眠っていた巨大な構造物。
文明を閉じるためでも。
記憶を残すためでも。
手紙を送るためでもない。
ムーが最後に未来へ渡そうとしていた、防衛機構の中枢。
深海の大地に刻まれた無数の青い線が、一斉に点灯する。
『第四門』
『最終継承領域』
『問い』
『滅びた文明を』
『蘇らせるか』
青い光は、もう一つの選択肢を表示した。
『眠らせるか』
さらに。
最後の一行。
『それとも』
『終わったものとして見送るか』
海底郵便局で、カイはその文字をじっと見つめていた。
ムーが未来へ求めているものは、復興ではない。
記憶することだけでもない。
失われた文明を、未来の人間がどう扱うのか。
その最後の問いが、ようやく開こうとしていた。
が大きくなる。
「どこにいるの?」
「その話、今聞きたい?」
「聞きたい」
即答だった。
「少し怖い話でも?」
ナギの顔から、わずかに笑みが消えた。
それでも頷く。
「聞く」
萌亜がリオナを見る。
リオナも頷いた。
逃げない。
でも、一気に沈めない。
少しずつ。
ナギが自分で歩ける速度で。
「カイはね」
リオナが言う。
「ナギちゃんをこの船に乗せた後、ムーへ戻った」
「どうして?」
「残ってた手紙を守るため」
ナギは瞬きをした。
「全部持ってくるって言ってた」
「うん」
萌亜が震える声で続ける。
「ほんとに、全部守ろうとしてた」
「じゃあ、今も?」
萌亜の指が、ヨルボを強く握る。
「カイ本人は……」
そこで言葉が止まった。
本人。
肉体。
死。
記憶体。
何から説明すればいい。
ナギは子どもだ。
でも、分からないものとして扱ってはいけない。
萌亜は息を吸った。
「ナギちゃんが寝てから、すっごく長い時間が経ってる」
「どのくらい?」
「……ものすごく」
「百日?」
「もっと」
「千日?」
「もっと」
ナギの表情が変わっていく。
「一年?」
リオナが静かに答える。
「一年より、ずっと長い」
船内の青い光が、わずかに暗くなった。
ナギは窓の外を見る。
知らない海岸。
知らない建物。
知らない服を着た人たち。
大きな船。
見たことのない機械。
今まで、それらを「東の海の文化」だと思っていたのかもしれない。
でも。
「ムーは?」
少女の声が小さくなる。
萌亜は胸が締めつけられた。
「……沈んだ」
ナギは動かなかった。
「全部?」
「街は、海の底にある」
「お母さんは?」
答えられない。
「お父さんは?」
誰も答えられない。
「先生は?」
ナギの声が少しずつ震える。
「お隣のミアおばさんは?」
リオナの目に涙が滲む。
ナギは二人の顔を見た。
そこで初めて理解した。
質問の答えを。
「……いないの?」
萌亜が手を伸ばす。
でも、触れる前に止める。
「手、握ってもいい?」
ナギはしばらく黙った。
やがて、小さく頷く。
萌亜が手を握る。
冷たかった。
「カイお兄ちゃんも?」
リオナが静かに言う。
「カイの身体は、たぶんもうない」
ナギの手が強く震えた。
「嘘」
萌亜の胸の奥で、ヨルが痛そうに揺れる。
「嘘じゃない」
「お兄ちゃん、あとから来るって言った」
「うん」
「本当って言った!」
「うん」
「じゃあ来るもん!」
ナギは萌亜の手を振り払った。
「船、戻して!」
立ち上がろうとして、足に力が入らない。
床へ崩れそうになる身体を、リオナが受け止める。
「触らないで!」
リオナはすぐに手を離した。
ナギは床に座り込む。
涙が次々と頬を流れる。
「戻してよ!」
小さな拳で床を叩く。
「お兄ちゃん待ってるもん!」
何度も。
何度も。
「手紙、全部持ってくるって言った!」
青い床へ涙が落ちる。
「一緒に朝見るって言った!」
萌亜は何も言えなかった。
違う、と否定できない。
カイは嘘をついた。
妹を生き延びさせるために。
でも、ナギにとっては、ただ破られた約束だ。
*
『船内の生命反応が急上昇した。状況を報告しろ』
御門の声が通信から届く。
リオナが小さく答える。
「真実を伝えた。ナギちゃんが混乱してる」
『了解した』
それ以上、御門は何も言わなかった。
「医療班を入れる?」
『本人が望むなら入れる。今は刺激を増やさない方がいい』
「分かった」
『通信はこちらから切る。必要になったら呼べ』
回線が静かになる。
御門は、聞き続けることもできた。
記録として残すことも。
でも、そうしなかった。
ナギの泣き声まで国家の記録へ変える必要はない。
船内には三人だけが残った。
正確には。
萌亜の中のヨルと、鞄に固定されたヨルボもいる。
しばらく、誰も話さなかった。
ナギが泣く。
声が枯れても。
涙が止まらなくても。
萌亜もリオナも、「泣かないで」とは言わなかった。
泣く理由がある。
怒る理由も。
兄を恨む理由すらある。
「嘘つき」
ナギが呟いた。
「お兄ちゃんの嘘つき」
萌亜の胸の奥で、ヨルが答える。
『嘘』
萌亜は黙って聞く。
『怖かった』
「カイが?」
『妹が泣く』
ヨルの声は途切れ途切れだ。
『自分も怖い』
『だから、言えなかった』
萌亜はナギを見る。
それを伝えるべきか迷った。
兄を擁護するように聞こえるかもしれない。
守るためだった、と言えば、ナギの怒りを間違いだと否定することになるかもしれない。
だから、少し言い方を変えた。
「ナギちゃん」
「……何」
「カイが嘘をついた理由、知りたい?」
ナギは鼻をすすった。
「言い訳?」
「かもしれない」
萌亜は正直に言った。
「聞いても、許さなくていい」
ナギは黙る。
「怒ったままでもいい」
少しして。
「……聞く」
萌亜は、船が残した記憶を話した。
ムーが沈む夜。
カイが妹を時間停止槽へ連れてきたこと。
自分は乗れないと知っていたこと。
船の座標すら定まっていなかったこと。
それでも、ここに残せば妹も沈むこと。
最後まで何も言えなかったこと。
「カイも、怖かったみたい」
「……お兄ちゃんが?」
「うん」
「お兄ちゃん、怖くないよ」
「怖かったと思う」
「だって、お兄ちゃんだよ」
子どもの言葉だった。
兄は強い。
兄は何でも知っている。
兄は約束を守る。
だから、怖くない。
萌亜は静かに答えた。
「お兄ちゃんでも、怖いよ」
ヨルが胸の奥で小さく呟く。
『王も怖い』
萌亜は少し笑った。
「萌亜の中に、すごく強い子がいるけど。その子も怖がる」
「ヨル?」
「うん」
ナギは萌亜の胸を見る。
「強いのに?」
「強くても」
「……お兄ちゃんも?」
「たぶん」
ナギは膝へ顔を埋めた。
「じゃあ、言えばよかったのに」
「うん」
萌亜は否定しなかった。
「言ってほしかったよね」
「一緒に怖いって言えばよかった」
「うん」
「そしたら……」
ナギの声が詰まる。
「そしたら、わたしも残ったのに」
リオナが静かに答えた。
「だから、カイは言えなかったんだと思う」
ナギが顔を上げる。
「ナギちゃんがそう言うって、分かってたから」
「勝手」
「うん」
リオナは頷く。
「勝手だった」
ナギの目が揺れた。
守るためなら、何をしても正しい。
そんなふうに片づけない。
カイは妹を救った。
同時に、妹から選ぶ権利を奪った。
どちらも本当だ。
「カイのこと、怒っていいよ」
リオナが言う。
「助けてもらったからって、全部ありがとうにしなくていい」
ナギはまた泣いた。
今度の涙は、さっきより静かだった。
*
一時間後。
ナギは少し落ち着いた。
医療班から許可された温かい飲み物を、両手で持っている。
現代の薄い蜂蜜湯。
タクヤがムーの記憶にあった飲み物へ味を近づけたものだ。
ナギは恐る恐る一口飲んだ。
「……似てる」
萌亜が目を輝かせる。
「師匠すご」
リオナも一口分けてもらい、驚く。
「ちょっと塩っぽい?」
「海藻由来の風味を安全な材料で再現したらしい」
「タクヤさん、こういう時だけ料理研究家みたいになる」
『聞こえてるよ』
通信越しにタクヤが笑った。
ナギは紙コップを見る。
「この人、誰?」
「リオナっちの叔父さん」
「変な人です」
「萌亜」
リオナが即座に突っ込む。
『否定はしないかな』
「本人も認めた」
ナギの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
それを見てから、萌亜は尋ねる。
「カイに会う?」
ナギの手が止まる。
「会えるの?」
「本人じゃない」
そこは曖昧にしない。
「ムーの中に、カイの記憶からできた子がいる」
「記憶……」
「見た目も声も、たぶんお兄ちゃん。でも、本当のお兄ちゃんが生き返ったわけじゃない」
ナギは長く考えた。
「その子、わたしのこと知ってる?」
「知ってる」
「ずっと待ってた?」
「うん」
「手紙も?」
「守ってる」
ナギの目から、また涙が落ちる。
「会う」
今度は迷わなかった。
「会って、怒る」
萌亜は頷いた。
「それがいいと思う」
「あと、朝の色も…朝焼けも教える」
「うん」
「ちゃんと、約束だから」
*
問題は、ナギを第三門へ連れていけるかだった。
船外。
海岸に設けられた仮設作戦区画で、御門たちが緊急会議を行う。
ナギは船内に残り、リオナと萌亜が外へ戻っている。
「肉体を持つ原ムー人を記憶層へ入れる」
御門は腕を組む。
「前例はない」
萌亜が小さく手を挙げる。
「そもそもムー人が前例ないです」
「分かっている」
エックスが解析結果を表示する。
「技術的には可能です。ナギ自身がムーの記憶構造と高い親和性を持っています」
カナメが尋ねる。
「危険は」
「記憶と現実の混同」
「程度は」
「不明」
「その言葉が一番困るな」
ゼルヴァードが低く言った。
エクスキューショナーの投影体が、別の問題を提示する。
『選定機関本流が、ナギの存在を継続観測している』
「また来る?」
萌亜が問う。
『可能性は高い』
御門はすぐに決めた。
「ならば長時間は使えない。第三門へ入るなら、渡り潮を使って船ごと一時的に観測圏外へ置く」
リオナが訊く。
「ナギちゃんには?」
「危険性を説明する」
「子どもだけど?」
「だから簡単な言葉で説明する。子どもだから決定権を取り上げる理由にはならない」
御門はタブレットを閉じた。
「ただし、救命上こちらが止める必要がある状態なら止める。それ以外は本人に選ばせる」
萌亜は頷いた。
「ムーの船の条件と同じ」
「ああ」
その時。
海上に白い幾何学模様が展開した。
選定機関からの直接通信。
『生存個体ナギ』
『文明保存上の重要性を再評価』
『記憶層接触を禁止』
『原文明個体への二次記憶上書きリスクあり』
御門が白い表示を睨む。
「今さら保護者のような口をきくな」
『原ムー個体の保全は文明史的利益に合致』
「本人は会いたいと言っている」
『本人判断は情報不足』
「だから説明する」
『幼年個体に完全な判断能力なし』
御門の声が低くなる。
「それを理由に、お前たちが代わりに決めるのか」
『文明的価値を理解できない個体の判断は制限されるべき』
萌亜の表情から笑みが消えた。
「ナギちゃんの価値って、誰にとって?」
『文明史』
「ナギちゃん本人は?」
『個人利益より文明保存を優先』
その瞬間。
ヨルの霧の王冠が、萌亜の背後に浮かんだ。
『嫌い』
萌亜が小さく呟く。
「うん。萌亜も」
エックスが一歩前へ出る。
「照会します」
『照会拒否』
「原ムー文明の保存とは、ナギ本人の意思を無視しても成立するのですか」
『成立する』
「では、保存されるものはムー文明ではなく、選定機関が望むムー像です」
白い表示が揺れる。
エクスキューショナーも続ける。
『ナギを原文明個体として固定した場合、現代文化への参加による変化も汚染として排除するのか』
『必要に応じて』
『では、ナギには未来を生きる権利がない』
『不適切な要約』
『否定できないなら同義』
御門が小さく息を吐いた。
「相変わらず容赦がないな」
タクヤは穏やかに笑う。
「いいことだと思うよ」
白い通信は警告へ切り替わった。
『第三門への移動を確認した場合、保全介入を実施』
御門は即答した。
「拒否する」
『地球政府に拒否権なし』
「なら、実力で止めてみろ」
萌亜とリオナが同時に御門を見る。
御門は気づいた。
「何だ」
「御門さん、今ちょっとかっこよかった」
「今は余計な感想を言うな」
*
ナギへの説明は、船内で行われた。
難しい専門用語は使わない。
第三門は、ムーの記憶の中にある場所。
そこへ行けば、カイの記憶と話せる。
ただし、強い悲しみや昔の記憶に引っ張られて、今が分からなくなる可能性がある。
途中で怖くなったら、いつでも戻れる。
行かないことも選べる。
ナギは最後まで聞いた。
「白い人たちは?」
萌亜とリオナが顔を見合わせる。
「選定機関?」
「うん。お兄ちゃんが、白いのに見つかったらダメって言ってた」
ナギは覚えていた。
閉じる前のムー。
子どもにまで共有されていた恐怖。
リオナは答える。
「今もナギちゃんを見ようとしてる」
「わたし、また隠れる?」
その問いに、二人はすぐ答えられなかった。
第一封印なら隠せる。
船の中へ閉じ込めておけば、選定機関から守りやすい。
でも。
それではムーが沈んだ夜と同じだ。
萌亜はナギの隣へ座る。
「隠れたい時は隠れていい」
「ずっと?」
「それはナギちゃんが決める」
「外に出てもいい?」
「いい」
「学校ってところ行ける?」
「行けると思う」
リオナが笑う。
「必要なら勉強しないとだけど」
「勉強あるの?」
「ある」
ナギの表情が曇る。
「未来なのに?」
「未来もあります」
「そこ進歩してないんだ」
萌亜が真顔で言った。
「人類最大の課題」
「勝手に人類代表になるな」
リオナが突っ込む。
ナギが、ほんの少し笑った。
「じゃあ行く」
「第三門?」
「うん」
そして、小さな声で続ける。
「お兄ちゃんに怒って、それから朝を教える」
*
渡り潮が船内に開いた。
今回は海岸からではない。
船そのものが長い間通ってきた航路を、逆向きに辿る。
萌亜。
リオナ。
ナギ。
三人で手を繋ぐ。
ナギの手首には、青い郵便札。
萌亜の鞄にはヨルボ。
リオナのポケットには、エリから渡された小さなハンカチ。
帰る場所の印。
御門の声が通信から届く。
『最大接続時間は二十分』
「短い」
『原ムー人の初回接続だ。長く取れるか』
「了解です」
『安藤』
「はい」
『感傷で時間を忘れるな』
「……なんで分かったんですか」
『今までの実績だ』
リオナが苦笑する。
「気をつけます」
『姫咲、頼んだ』
「私だけ信用されてる」
『比較の問題だ』
「ひど」
ナギが小声で尋ねる。
「あの人、怒ってる?」
「基本あんな感じ」
「心配してる時ほど硬くなるよ」
「聞こえているぞ」
三人は笑った。
そのまま、渡り潮へ足を踏み入れた。
*
第三門。
海底郵便局。
無数の青い紙舟が、以前より穏やかに流れている。
開封を許可した相手へ向かう舟。
保留されて帰ってくる舟。
返事を載せて戻る舟。
水路はもう、閉じたままではない。
かといって、何でも外へ漏らす場所でもない。
青い郵便鞄を下げた少年が、水路の分岐点で一通の手紙を仕分けていた。
「カイ」
萌亜が呼ぶ。
少年が振り返る。
『来たんだ』
「うん」
カイは微笑みかけ――。
その視線が、萌亜とリオナの間にいる少女へ止まった。
手から手紙が落ちた。
『……ナギ』
ナギも動かなかった。
兄の姿。
あの日と同じ。
少し乱れた髪。
大きすぎる郵便鞄。
嘘をついた時のままの顔。
数歩。
ナギが歩く。
次の瞬間。
思い切り、カイの胸を叩いた。
「嘘つき!」
『いたっ』
「嘘つき!」
『ナギ、待って』
「あとから行くって言った!」
『……うん』
「本当って言った!」
『うん』
「ずっと待ってた!」
『ごめん』
「ごめんじゃない!」
小さな拳が何度もカイを叩く。
記憶体なのに、ちゃんと触れている。
第三門が、ナギの記憶とカイの記録を繋いでいるのだ。
「一緒に怖いって言えばよかった!」
カイの顔が歪む。
『……うん』
「わたしだって決めたかった!」
『うん』
「残るか、行くか!」
『うん』
「勝手に船に乗せた!」
『うん』
カイは反論しなかった。
守りたかったから。
時間がなかったから。
それを言えば、事実ではある。
でも、ナギが怒る権利を消す理由にはならない。
カイはただ、全部受け止めた。
『ごめん』
ナギは拳を止めた。
泣いている。
カイも泣いていた。
『怖かった』
初めて、カイが言った。
ナギの顔が上がる。
『ナギをここに残すのが怖かった』
『船がどこへ着くか分からないのも怖かった』
『一人で起きるのも怖いだろうって分かってた』
『でも、一緒に残ったら二人とも沈むと思った』
声が震える。
『僕も行きたかった』
『でも手紙を残したら、みんなの声が消えると思った』
『どっちも嫌だった』
カイは子どもだった。
英雄でもない。
完璧な兄でもない。
選ぶには重すぎるものを、誰かに押しつけられた子ども。
『だから、ナギに選ばせるのが怖かった』
ナギが泣きながら言う。
「わたし、残るって言うから?」
『うん』
「言ったよ」
『知ってる』
「じゃあ、やっぱり勝手」
『うん』
少しだけ沈黙。
ナギが袖で涙を拭った。
「まだ怒ってる」
『うん』
「ずっと怒るかも」
『うん』
「でも……」
ナギは首に下げていた郵便札を外した。
「朝、見た」
カイの表情が止まる。
ナギは郵便札の裏へ、指で文字を書く。
ムーの文字。
久しぶりなのに、手は覚えていた。
『曇っていた』
『海は暗かった』
『でも、途中から橙色になった』
『青じゃなかった』
最後に、一言。
『きれいだった』
カイはそれを読む。
『そっか』
笑った。
泣きながら。
『青じゃなかったか』
「うん」
『外した』
「お兄ちゃん、何でも知ってるんじゃなかったの?」
『知らないこともあるよ』
「もっと早く言ってよ」
『ごめん』
ナギはまた泣いた。
今度は、カイへ抱きついた。
カイも妹を抱きしめる。
記憶と生者。
本当なら交わらない時間。
渡り潮と共憶環が、わずかな間だけ二人の間を繋いでいる。
萌亜は鼻をすすった。
「リオナっち……」
「うん」
「泣いていい?」
「もう泣いてる」
「リオナっちも」
「うるさい」
ヨルが胸の奥で静かに呟く。
『届いた』
「うん」
約束そのものは守れなかった。
カイは東の海岸へ行けなかった。
でも。
朝の色は、朝焼けは兄へ届いた。
*
白い光が、海底郵便局の空を裂いた。
萌亜が顔を上げる。
「来た!」
選定機関の観測線。
『原ムー個体を確認』
『記憶体との接触により情報汚染進行』
『生存個体ナギを回収』
ナギの身体へ、白い輪が伸びる。
カイが妹を庇った。
『触るな!』
『記憶人格に拒否権なし』
「ある!」
萌亜が叫ぶ。
霧の王冠が広がる。
リオナがナギの手を掴む。
「帰るよ!」
「待って!」
ナギはカイを見る。
「まだ話したい!」
『また来ればいい!』
カイが叫んだ。
ナギが目を見開く。
『今度は嘘じゃない!』
「本当に?」
『渡り潮がある』
カイは青い水路を指す。
『手紙も送れる』
『だから、今は帰って』
白い輪が近づく。
アヴァロンの霧が到達経路を迷わせる。
ムー第一封印がナギの正確な位置を隠す。
第二封印・共憶環が、カイとの会話記録を一か所へ固定させない。
第三封印・渡り潮が帰還路を開く。
しかし。
選定機関の光は、今までより強い。
『原文明個体の喪失は許容不能』
『強制保全を実施』
エクスキューショナーの声が外から響く。
『拒否』
白い輪が一瞬止まる。
エックスも割り込む。
『本人は帰還を選択している』
『現代地球側へ帰属させる根拠なし』
御門の低い声。
『帰属はまだ決めていない』
『ならば未所属個体として選定機関が管理する』
『勝手に空席へ座るな』
萌亜が思わず叫ぶ。
「御門さん今日めっちゃ強い!」
『今は走れ!』
「はい!」
三人は渡り潮へ駆ける。
カイが背後から叫ぶ。
『ナギ!』
ナギが振り返る。
『次の手紙、待ってる!』
「送る!」
『朝だけじゃなくていい!』
「何書けばいいの!」
カイが笑う。
『未来のこと!』
ナギも泣きながら笑った。
「いっぱいあるよ!」
青い扉が閉じる。
白い光が、その直後に海底郵便局へ降り注いだ。
けれど、もう遅い。
ナギは帰った。
自分で。
*
三人が船内へ戻った瞬間、渡り潮が閉じた。
ナギは息を切らして床へ座り込む。
萌亜もその隣へ倒れた。
「疲れた……」
リオナが壁へ寄りかかる。
「二十分短すぎ」
通信が復帰する。
『十八分四十一秒だ』
御門だった。
「セーフ」
『今回は認める』
「やった」
ナギが不思議そうに尋ねる。
「あの人、時間に厳しいね」
「めっちゃ厳しい」
『聞こえている』
船内に少しだけ笑いが生まれた。
その後。
ナギは初めて、自分の足で船外へ出た。
桟橋を渡る。
東の海岸。
現代の日本。
昇りきった朝日。
遠くを走る車。
防寒着を着た知らない大人たち。
空を飛ぶ飛行機。
すべてが初めてだった。
ナギは怖そうに、萌亜とリオナの手を握る。
御門が数歩手前で止まった。
近づきすぎない。
「ナギ」
少女が御門を見る。
「俺は御門征十郎だ。地球側の行政担当をしている」
「偉い人?」
「面倒な仕事をする人だ」
萌亜が小声で言う。
「胃痛担当」
「安藤」
「はい」
ナギの口元が少し笑う。
御門は続けた。
「まず、医師に身体を診てもらいたい。嫌なことや怖いことがあれば言え。検査内容も説明させる」
「お兄ちゃんのところ、また行ける?」
「ああ。ただし、身体の状態を確認してからだ」
「手紙も送っていい?」
「いい」
「いっぱい?」
御門は一瞬考える。
「カイが受け取れる範囲でな」
「分かった」
タクヤが少し離れた場所から手を振る。
「おはよう、ナギちゃん」
「変な叔父さん?」
タクヤが止まる。
リオナが吹き出した。
「萌亜!」
「だって説明として早いかなって」
「僕、会う前から評価が決まってるね」
エリの声が通信端末から聞こえる。
『タクヤは後で説教』
「エリ姉さん?」
『それとナギちゃん』
ナギが端末を見る。
『体調が落ち着いたら、ご飯を食べにいらっしゃい。苦手なものはその時教えて』
「……誰?」
「私のお母さん」
リオナが答える。
ナギは少し戸惑う。
「行っていいの?」
『もちろん』
「ムーの人じゃないよ?」
『知ってるわ』
「何もしなくても?」
『ご飯を食べるのに仕事は要らないわよ』
ナギは黙った。
その目に、また涙が溜まる。
「……行く」
『待ってる』
通信が切れる。
御門が医療班へ合図する。
「急がせるな。本人へ説明してから進めろ」
ナギは医療班へ向かう前、もう一度海を振り返った。
船。
渡り潮。
そのずっと先にいる兄。
「今日のこと、手紙にする」
萌亜が隣へ立つ。
「何書く?」
「いっぱい」
「学校のことも?」
「まだ行ってない」
「じゃあ行ったら」
「うん」
「エリさんのご飯も」
「食べてから」
「ヨルボも紹介する?」
ナギは黒紫のウツボを見る。
「これ、何て書けばいい?」
リオナが即答する。
「未来の意味不明な文化」
「ひど」
久しぶりに、ナギが声を出して笑った。
*
同じ頃。
ムー第三門。
カイは、一人で水路の前に座っていた。
でも。
以前とは違う。
待っている手紙には、返事が来る。
配達できなかったものにも、帰る場所がある。
そして、自分にも待つ理由ができた。
水路の上を、一艘の紙舟が流れてくる。
まだナギが書いたものではない。
もっと古い。
ずっと奥。
ムーの最深部から送られてきたもの。
カイが受け取る。
封には、ムー中枢の紋章。
その下に、一行だけ。
『第四門を開く』
カイの表情が変わる。
紙舟の底から、青い光が広がった。
ムーの海底全体が、ゆっくりと震え始める。
これまで眠っていた巨大な構造物。
文明を閉じるためでも。
記憶を残すためでも。
手紙を送るためでもない。
ムーが最後に未来へ渡そうとしていた、防衛機構の中枢。
深海の大地に刻まれた無数の青い線が、一斉に点灯する。
『第四門』
『最終継承領域』
『問い』
『滅びた文明を』
『蘇らせるか』
青い光は、もう一つの選択肢を表示した。
『眠らせるか』
さらに。
最後の一行。
『それとも』
『終わったものとして見送るか』
海底郵便局で、カイはその文字をじっと見つめていた。
ムーが未来へ求めているものは、復興ではない。
記憶することだけでもない。
失われた文明を、未来の人間がどう扱うのか。
その最後の問いが、ようやく開こうとしていた。
第39話ではナギは、ようやくカイと再会しました。
ただし、それは「兄が生きていた」という救済ではありません。
カイ本人の時間は、ムーが沈んだ夜に終わっています。
第三門にいるのは、彼が残した記憶と役割から生まれた存在です。
だからこそ、今回はそこを曖昧にせず、ナギ自身にも伝える形にしました。
そしてカイの行動も、単純な美談にはしていません。
彼は妹を救いました。
同時に、妹へ相談せず未来へ送り出しました。
ナギが怒ったように、それは確かに「勝手」な選択でもあります。
カイ自身も、そのことを言い訳せず受け止めました。
アヴァロンから続いている「相手を守るためなら、相手の選択を奪っていいのか」というテーマが、ここでも別の形で重なっています。
一方で、二人の約束もすべて失われたわけではありませんでした。
カイは東の海岸へ行けなかった。
けれど、ナギが見た朝焼けは兄へ届いた。
これからは、ナギの側から未来の日常を手紙にして送ることができます。
ムーの最後の生存者である前に、ナギは未来を初めて見る一人の子どもです。
学校へ行くのか。
どこで暮らすのか。
ムーのことをどこまで語るのか。
それらはこれから彼女自身が決めていきます。
そして海底では、第四門が起動しました。
そこに示されたのは、これまでとは少し違う問いです。
滅びた文明を蘇らせるのか。
眠らせるのか。
それとも、終わったものとして見送るのか。
ムーの名前を残すことと、ムーをそのまま復活させることは同じではありません。
次に萌亜たちが向き合うのは、その違いです。
その頃にはきっと、ナギからカイへの最初の手紙も一通くらい増えているでしょう。