アンゴルモア、令和ギャルになる。 〜地球滅ぼしに来た終末存在だけど、人間おもろすぎて守ることにした〜   作:池ポチャ

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第7話です。

前回、ノストラダムスの予言書に導かれ、萌亜たちは深海都市アトランティスへ到着しました。

そこに現れたのは、アトランティス中枢記録人格――ネレイア。

彼女によれば、アトランティスはただ沈んだ都市ではなく、外宇宙選定機関に抵抗した古代文明でした。

今回は、ネレイアの案内で都市内部を探索します。

深海に眠る古代都市。

外宇宙に敗れた文明の記憶。

そして、萌亜を地上へつなぎ止める鍵。

わりとシリアスな話になるはずですが、メンバーがメンバーなのでたぶん平常運転です。

深海でもチョベリグ。



アトランティス、古代遺跡は大体背景が重たい

 深海都市アトランティスに、クレープはなかった。

 

『申し訳ありません。食文化データベースを検索しましたが、タコスに似たものはありましたがクレープに該当する食品は確認できませんでした』

 

「チョベリバ……」

「タコスっぽいのはあったんだ」

 

 安藤萌亜は、深海六千メートルの古代都市で本気で落ち込み、姫咲リオナはタコスに似たものがあることに驚いた。

 

 外宇宙選定機関に狙われている終末存在。

 かつて地球を滅ぼしかけた文明選定個体。

 ノストラダムスが未来視で追い続けた恐怖の大王。

 

 その正体である少女は、今、クレープがないという理由で肩を落としている。

 姫咲リオナはため息をついた。

 

「深海都市にクレープ求める方が悪いでしょ」

「でも、データベース検索って言ったじゃん」

「検索した結果、なかったんでしょ」

「アトランティス、思ったより文明レベル低いかも…タコスっぽいのはあるくせに」

「クレープ基準で古代文明を評価するな」

 

 アトランティス中枢記録人格、ネレイアは静かに首を傾げた。

 

 半透明の少女。

 水色に光る髪。

 白い衣。

 額に青い宝石。

 

 その姿は神秘的で、深海都市の案内人としては完璧だった。

 

 ただし、萌亜たちの会話についていけているかは怪しい。

 

『クレープとは、王にとって重要な儀式食なのですか?』

「儀式食ではないかな」

 

 リオナが答える。

 

「でも萌亜にとっては、かなり大事。供物みたいな感じ」

『理解しました。今後、最重要文化項目として記録します』

「記録しなくていいです」

「してして。後世に残そ」

「残すな」

 

 ゼルヴァード・ル=オルグレイは腕を組み、呆れたように言った。

 

「下らぬ。古代都市の中枢人格を前に、人間の菓子について議論するとは」

「ゼルくん、昨日ブリュレクレープ食べて感動してたじゃん」

「感動などしていない。あれは糖分と焦がし香気の構造を分析していただけだ」

「二個食べてたよね」

「検証には複数サンプルが必要だ」

「言い訳うまくなってきたね」

「黙れ」

 

 黒瀬カナメは、そんなやり取りを横目に周囲を警戒していた。

 

 超対課の戦闘担当。

 鋭い目つきと無駄のない動き。

 手には対怪異用の短銃。

 腰には符術式の刃。

 

 この中では一番まともに任務をしている。

 

「……緊張感がなさすぎる」

「カナメっち、深海なんだからリラックスしよ」

「その呼び方はやめろ」

「じゃあ、深海カナメっち」

「悪化させるな」

 

 リオナは小さく笑った。

 

 深海都市アトランティス。

 

 周囲は異常そのものだった。

 透明なドームの向こうには、黒い海。

 その中を、見たこともない発光生物がゆっくりと泳いでいる。

 

 足元は白い石。

 街路には青く光る水路。

 遠くには半壊した塔と、空へ伸びるような円環建造物。

 

 ここは、人類史の外側にある場所だ。

 なのに、萌亜たちがいるせいで、どこか修学旅行のような空気になっている。

 

 ネレイアは、静かに手を前へ向けた。

 

『こちらへ。中枢記録殿へ案内します』

「中枢記録殿?」

 

 リオナが聞く。

 

『アトランティスの記憶が保管されている場所です。そこに、王を地上へつなぎ止める鍵に関する情報があります』

 

 その言葉で、空気が少し変わった。

 

 萌亜を地上へつなぎ止める鍵。

 ノストラダムスが予言書に残した対抗策。

 

 外宇宙選定機関が萌亜を再調整しようとするなら、今の萌亜を守る何かが必要になる。

 その手がかりが、この都市にある。

 

 リオナは萌亜を見た。

 

「行こ」

「うん」

 

 萌亜は頷いた。

 いつもの軽さはある。

 でも、その奥に少しだけ緊張があるのが分かった。

 

 彼女は強い。

 規格外に強い。

 それでも、前回「怖い」と言った。

 守りたいものができたから。

 

 リオナは、さりげなく萌亜の隣に並んだ。

 手はつながない。

 でも、すぐ届く距離にいる。

 

 萌亜はそれに気づいたのか、少しだけ笑った。

 

     *

 

 ネレイアの案内で、一行はアトランティスの街路を進んだ。

 

 都市は美しかった。

 だが同時に、壊れていた。

 白い石造りの家々は半分以上が崩れ、壁には黒い結晶のようなものがこびりついている。

 

 広場には、止まった噴水。

 神殿の柱には、焼け焦げたような跡。

 水路は青く輝いているが、その光はどこか弱々しい。

 

 リオナは静かに言った。

 

「ここ、本当に人が住んでたんだね」

『はい』

 

 ネレイアが答える。

 

『かつて、アトランティスには三十二万人が暮らしていました。海と星を読み、光を加工し、記憶を結晶化し、外宇宙からの干渉を防ぐ術を持っていました』

「すごい文明じゃん」

『人類史に残ることはありませんでした』

「どうして?」

 

 ネレイアは一瞬、沈黙した。

 

『残すことができなかったからです』

 

 その声は、人工的なもののはずなのに、どこか寂しそうだった。

 

 ゼルヴァードが周囲を見回しながら言う。

 

「外宇宙防壁、記憶結晶、認識遮断構造。確かにこの都市は異常だ。地球文明の水準を大きく逸脱している」

「アトランティス人、すごかったってこと?」

 

 リオナが尋ねる。

 

「違う」

 

 ゼルヴァードは険しい顔をした。

 

「すごすぎた。だから消された」

 

 カナメが低く言う。

 

「外宇宙選定機関にか」

「おそらくな」

 

 ネレイアは頷いた。

 

『アトランティスは、選定機関の観測に気づいた最初の地球文明でした』

「観測に気づいた?」

『はい。空の外側から、地球を評価する視線。文明の未来を測り、必要とあれば切除する存在。私たちはそれを“星を測る目”と呼びました』

 

 萌亜が小さく呟く。

 

「選定機関の観測端末だね」

『はい』

 

 ネレイアは萌亜を見る。

 

『あなたが来るより、はるか昔のことです』

「萌亜が来る前から、地球って見られてたんだ」

『はい。地球は、長い間、観測対象でした』

 

 リオナはぞっとした。

 

 人間は、自分たちの歴史を自分たちだけのものだと思っている。

 

 でも実際には、ずっと外側から見られていた。

 評価されていた。

 滅ぼすかどうか、判断されていた。

 

 それは、あまりにも気味が悪い。

 

「アトランティスは、どうやって対抗したんですか?」

 

 リオナが尋ねる。

 ネレイアは、遠くの円環建造物を見上げた。

 

『彼らは、観測そのものを遮断しようとしました』

「観測を遮断?」

『見られなければ、測られない。測られなければ、選定されない。そう考えたのです』

 

 ゼルヴァードが低く唸る。

 

「理屈は間違っていない。だが、選定機関の観測から逃れるなど、ほぼ不可能だ」

 

『だから、アトランティスは海へ沈みました』

 

 全員が足を止めた。

 

 リオナが目を見開く。

 

「沈んだって、滅ぼされたんじゃなくて?」

『半分は正解です。アトランティスは、選定機関の攻撃を受けました。しかし同時に、自ら都市を深海へ沈め、観測から逃れようとしたのです』

「自分たちで……?」

『はい』

 

 ネレイアの声は静かだった。

 

『地上に残れば、文明ごと切除される。ならば、記憶だけでも未来へ残す。そう決断しました』

 

 リオナは言葉を失った。

 

 自分たちの街を、海へ沈める。

 生き残るためではない。

 未来に何かを残すために。

 

 それは、どんな気持ちだったのだろう。

 

 萌亜も黙っていた。

 いつものように茶化さない。

 

 ネレイアは続ける。

 

『多くの人々は、地上へ逃がされました。記憶を封じ、アトランティスの存在を忘れさせて。しかし、中枢を守る者たちは都市と共に沈みました』

「あなたは?」

 

 リオナが聞いた。

 

『私は、その時に作られました』

「作られた?」

『はい。アトランティスの記憶を保存し、未来に届けるための人格。都市が滅びても、意思だけを残すための器。それが私です』

 

 ネレイアは微笑んだ。

 

『私は、生き残りではありません。残された記録です』

 

 その言葉は、リオナの胸に刺さった。

 生き残りではなく、記録。

 つまり、彼女は最初から誰かの代わりに残された存在なのだ。

 

 萌亜が静かに聞く。

 

「寂しくないの?」

 

 ネレイアは少しだけ首を傾げた。

 

『寂しい、という感情は記録されています』

「記録じゃなくて、あなたは?」

『私自身の感情として定義するなら……はい。寂しいのだと思います』

 

 萌亜は少しだけ目を伏せた。

 

「そっか」

 

 リオナは、その横顔を見る。

 

 萌亜は外宇宙の終末存在だ。

 

 でも、こういう時、彼女は妙に人間っぽい顔をする。

 

 自分でも気づいていないのかもしれない。

 けれど、リオナには分かる。

 萌亜は今、ネレイアのことを「ただの記録」として見ていない。

 

 ひとりの誰かとして見ている。

 

     *

 

 一行は、広い通りへ出た。

 

 そこはかつて市場だったらしい。

 

 両側に並ぶ石造りの店。

 割れた壺。

 青く光る小さな結晶。

 

 壁には、貝殻と星を組み合わせたような模様。

 

 リオナは興味深そうに周囲を見ていた。

 

「ここ、昔は賑やかだったんだろうね」

『はい。食料、装飾品、記憶結晶、光布、海上都市との交易品が扱われていました』

「光布?」

『光を織り込んだ布です。温度調節、色変化、防水、軽量化に優れていました』

 

 リオナの目が輝いた。

 

「え、それめっちゃファッションに使えるじゃん」

 

 萌亜も反応する。

 

「アトランティス服、見たい!」

『残存品があるかもしれません』

「マジで?」

「今それどころじゃないだろう」

 

 カナメが呆れたように言う。

 

「いや、文化調査です」

 

 リオナは真顔で言った。

 

「服は文明を見る上で大事です」

「急に専門家みたいな顔をするな」

「実際大事だよ、カナメさん。服には流行と価値観と技術が出るから」

 

 カナメは少し黙った。

 

「……それは、否定しない」

「ほら」

 

 萌亜が嬉しそうに言う。

 

「リオナっち、アトランティスでもプロじゃん」

「服なら任せて」

 

 ゼルヴァードが鼻で笑う。

 

「服など、戦闘性能に関係なければ意味がない」

「だからゼルくんは最初あんなダサかったんだよ」

「だ、ダサ…ぐっ」

 

 ゼルヴァードに痛恨の一撃が入った。

 

 その時だった。

 

 市場跡の奥から、小さな音が聞こえた。

 

 からん。

 

 石が転がるような音。

 カナメが即座に武器を構える。

 

「止まれ」

 

 全員が足を止める。

 ネレイアの表情がわずかに変わった。

 

『残存防衛機構が起動しています』

「防衛機構?」

 

 リオナが聞くより早く、通りの奥から何かが現れた。

 

 人型。

 だが、人間ではない。

 白い石でできた兵士のようなもの。

 身体の隙間から青い光が漏れ、顔の部分には目がない。

 手には、槍のような武器。

 

 一体。

 二体。

 三体。

 

 次々と、石の守衛たちが現れる。

 

 カナメが前に出た。

 

「敵対反応か?」

『本来は都市防衛用の自律機構です。しかし、外宇宙汚染によって識別が壊れています』

 

「つまり?」

「襲ってくるってことだよね」

 

 リオナが青ざめる。

 

 石の守衛たちが一斉に動いた。

 

 速い。

 

 滅んだ古代都市の遺物とは思えない速度で、槍を構えて突進してくる。

 

 カナメが一体目の槍を弾いた。

 

 金属音ではなく、石と光がぶつかるような奇妙な音が響く。

 

「硬い!」

 

 カナメは符術式の刃で守衛の腕を斬りつける。

 

 青い火花が散る。

 だが、守衛は止まらない。

 

 ゼルヴァードが舌打ちし、手をかざした。

 

「低位防衛機構ごときが」

 

 金色の術式が走る。

 守衛の一体が動きを止め、膝をつく。

 

 しかし次の瞬間、別の守衛がゼルヴァードへ迫る。

 

「ゼルくん!」

 

 リオナが叫ぶ。

 ゼルヴァードは咄嗟に後ろへ下がった。

 その前に、萌亜が立つ。

 

「はい、ストップ」

 

 萌亜が指先で守衛の額を軽く突いた。

 

 ぴたり。

 

 守衛の動きが止まる。

 続いて、他の守衛たちも一斉に停止した。

 青い光が弱まり、石の身体が静かに崩れていく。

 

 リオナは息を吐いた。

 

「助かった……」

 

 カナメは萌亜を見る。

 

「今度は何をした」

「この子たちの命令を書き換えた」

「命令を?」

「うん。“敵を排除しろ”から“寝てていいよ”にした」

「そんな簡単に……」

 

 カナメは言葉を失う。

 ゼルヴァードは悔しそうに眉をひそめる。

 

「相変わらず、構造への干渉が雑に強すぎる」

「雑じゃないよ。やさしくしたよ」

「やさしく命令を書き換えるとは何だ」

 

 萌亜は崩れた守衛を見下ろした。

 

 その表情は、少しだけ寂しそうだった。

 

「この子たち、ずっと街を守ってたんだね」

『はい』

 

 ネレイアが答える。

 

『都市が沈んだ後も、命令だけを守り続けていました』

「もう守る人、いないのに?」

『はい』

 

 萌亜はしゃがみ込み、崩れた石の欠片に触れた。

 

「そっか。おつかれ」

 

 その一言に、リオナは胸が締めつけられた。

 

 石の兵士に言う言葉ではない。

 でも、萌亜は本気だった。

 終末存在なのに、彼女はこういうものに手を合わせるようなことをする。

 

 それが、少し嬉しかった。

 

 カナメも、その姿を見ていた。

 

 警戒心はまだ消えていない。

 だが、その目にほんのわずかな迷いが生まれていた。

 

「……本当に、噂と違うな」

 

 カナメが小さく呟く。

 リオナはそれを聞き逃さなかった。

 

「萌亜、意外と優しいですよ」

「意外と、か」

「かなり?」

「本人の前で言うな」

 

 萌亜が振り返る。

 

「何の話?」

「何でもない」

「リオナっち、萌亜のこと褒めてた?」

「褒めてない」

「嘘だ。顔が褒めてる」

「どんな顔」

 

 ネレイアが静かに言う。

 

『王は、やはり予言の通りです』

「予言?」

『滅びを持ちながら、壊れたものに手を伸ばす』

 

 萌亜は少し困った顔をした。

 

「そんな立派な感じじゃないよ」

『それでも、記録しました』

「記録しなくていいのに」

『重要ですから』

 

 萌亜は頬をかいた。

 照れている。

 

 リオナは少し笑った。

 

     *

 

 中枢記録殿は、アトランティスの中心にあった。

 

 巨大な円環建造物。

 近づくほど、その大きさが分かる。

 白い石と青い結晶で作られた円形の塔。

 周囲には、浮遊する小さな記録結晶が無数に漂っている。

 

 まるで、星空をそのまま建物の中に閉じ込めたようだった。

 

 リオナは見上げる。

 

「綺麗……」

『ここに、アトランティスのすべての記憶が保存されています』

 

 ネレイアが言う。

 

『都市の歴史。人々の生活。選定機関との接触。抵抗の記録。そして、未来へ残した対抗策』

「鍵もここに?」

『はい』

 

 一行は中へ入った。

 

 内部は、想像以上に広かった。

 天井は高く、壁一面に青い文字が流れている。

 中央には、巨大な水晶のような装置。

 

 その中に、無数の光が渦巻いていた。

 

 リオナは思わずスマホを取り出しかける。

 カナメが鋭く言った。

 

「撮影禁止だ」

「ですよね」

「SNS投稿も禁止だ」

「してません」

 

 萌亜が横から言う。

 

「国会図書館なうもダメだったしね」

「今回も絶対ダメ」

「アトランティスなう、バズりそうなのに」

「地球がバズごと消えるかもしれないからダメ」

「チョベリバ」

 

 ゼルヴァードは中央の装置を見つめていた。

 

「これは……記憶結晶炉か」

『はい。アトランティスの中枢です』

「まだ稼働しているのか」

『最低限ですが』

「よく残ったものだ」

 

 ゼルヴァードの声には、珍しく純粋な驚きがあった。

 

 ネレイアは中央装置へ歩み寄る。

 

『これより、記録を再生します』

 

 装置が輝いた。

 

 水晶の中の光が広がり、周囲に映像を作り出す。

 

 そこに現れたのは、かつてのアトランティスだった。

 

 崩れる前の街。

 

 白い塔が並び、青い水路が輝き、人々が笑いながら歩いている。

 

 子供たちが市場を駆け回り、老人が石板に文字を刻み、光布をまとった若者たちが空を見上げている。

 

 美しい都市だった。

 

 リオナは息を止めて見入った。

 

「すごい……」

 

 映像が変わる。

 

 空に、巨大な目が現れる。

 人々が空を見上げる。

 祭りのようだった空気が、一瞬で恐怖に変わる。

 

『それが、星を測る目の最初の出現でした』

 

 ネレイアの声が響く。

 

 映像の中で、アトランティスの学者たちが議論している。

 

 王らしき人物が玉座から立ち上がる。

 神官が祈る。

 技術者たちが巨大な装置を組み立てる。

 

『彼らは理解しました。見られていると。測られていると。そして、いずれ選定されると』

 

 映像はさらに進む。

 

 街を囲むように、巨大な円環防壁が作られていく。

 

 空の目が歪む。

 都市が一瞬、世界から隠れる。

 

『アトランティスは、観測遮断に成功しました』

「成功したの?」

 

 リオナが驚く。

 

『一時的には』

 

 映像の空が割れた。

 

 外側から、黒い槍のような光が降る。

 街の一部が消える。

 爆発ではない。

 燃えるのでもない。

 そこにあった建物も、人も、記憶も、最初から存在しなかったように消えていく。

 

 リオナは口元を押さえた。

 

「ひどい……」

 

 萌亜は黙っていた。

 ゼルヴァードも言葉を失っている。

 ネレイアは静かに言った。

 

『選定機関は、アトランティスを危険文明と判断しました』

 

 映像の中で、人々は逃げている。

 だが、ただ逃げているわけではない。

 

 子供たちを地上へ送り出す者。

 記録結晶を運ぶ者。

 防壁を維持する者。

 海底沈降装置を起動する者。

 

 誰もが泣いている。

 でも、誰も諦めていない。

 

『都市は沈みました。記憶を未来へ残すために』

 

 映像の中で、巨大なアトランティスが海に呑まれていく。

 

 空が遠ざかる。

 光が消える。

 深海へ。

 

 深く、深く。

 

 最後に映ったのは、ひとりの少女だった。

 

 ネレイアに似ている。

 いや、ネレイアの元になった人物なのかもしれない。

 

 少女は泣きながら、中央装置に手を置いていた。

 

『未来へ』

 

 その声が聞こえた。

 

『いつか、恐怖の王が人の隣を歩く日へ』

 

 映像が消えた。

 中枢記録殿に、静寂が戻る。

 

 リオナは何も言えなかった。

 

 重い。

 

 あまりにも重い記録だった。

 

 観光気分で来ていい場所ではなかった。

 

 萌亜が小さく呟く。

 

「……ごめん」

 

 その言葉に、全員が萌亜を見る。

 

 ネレイアが首を傾げる。

 

『なぜ、あなたが謝るのですか?』

「萌亜、昔はそっち側だったから」

 

 萌亜は静かに言った。

 

「選定する側。測る側。消す側」

 

 リオナは息を呑む。

 

 萌亜は続ける。

 

「アトランティスを消したのは萌亜じゃない。でも、昔の萌亜なら、同じことしてたかもしれない」

「萌亜……」

「だから、ごめん」

 

 ネレイアは、しばらく萌亜を見つめていた。

 

 そして、ゆっくりと首を横に振る。

 

『謝罪は不要です』

「でも」

『あなたは、ここへ来ました』

 

 ネレイアの声は穏やかだった。

 

『かつて消す側だった者が、今は守るためにここへ来た。それこそが、彼らの残した未来です』

 

 萌亜は目を伏せた。

 リオナは、そっと萌亜の手を握った。

 萌亜の手は、少し冷たかった。

 

「萌亜は、今の萌亜でしょ」

 

 リオナが言う。

 

「昔何だったかは、消えないかもしれない。でも、今どうするかは選べるじゃん」

 

 萌亜はリオナを見る。

 

「リオナっち」

「地球から離れないって言ったんでしょ」

「うん」

「じゃあ、次は守ればいい」

 

 萌亜は、しばらく黙っていた。

 そして、小さく笑う。

 

「リオナっち、たまにめっちゃ主人公みたいなこと言う」

「アンタが主人公でしょ」

「萌亜、終末ギャルタピオカ党だし」

「主人公属性盛りすぎなんだよ」

 

 そのやり取りに、カナメが少しだけ目を伏せた。

 

 警戒はまだある。

 だが、彼女の中で何かが変わり始めている。

 

 萌亜は、ただの脅威ではない。

 少なくとも、今この場にいる彼女は。

 

 ゼルヴァードは苦々しい顔をした。

 

「……理解できん」

「何が?」

 

 リオナが聞く。

 

「なぜ、選定者がそこまで変わる。なぜ、人間の言葉ひとつで揺らぐ」

 

 萌亜は答えた。

 

「人間、おもろいから」

「そればかりだな」

「でも本当だし」

 

 ゼルヴァードは黙った。

 

 彼にはまだ分からない。

 だが、完全に否定することもできなくなっていた。

 

 クレープを食べたから。

 

 では、たぶんない。

 

 たぶん。

 

     *

 

『鍵を開示します』

 

 ネレイアが言った。

 

 中枢装置の光が変わる。

 青から、白へ。

 そして、中央の水晶がゆっくりと開いた。

 

 中にあったのは、小さな結晶だった。

 

 手のひらに収まるほどの、透明な結晶。

 中には、金色の光が揺れている。

 

「これが鍵?」

 

 リオナが尋ねる。

 

『はい。正式名称は、地上定着核』

「地上定着核……」

『外宇宙存在が対象文明へ情動的偏向を示した場合、その個体の現在人格を固定し、再調整や強制帰還から保護するための補助核です』

 

 ゼルヴァードが目を見開く。

 

「そんなものが地球に存在するはずがない」

『アトランティスは、選定機関への対抗策としてこれを作りました』

「どうやって?」

『星を測る目から盗み取った観測情報、アトランティスの記憶結晶技術、そして未来視者ノストラダムスの精神記録を用いて』

「ノストラダムス、また出た」

 

 リオナが呟く。

 

 萌亜は結晶を見つめている。

 

「これを使えば、萌亜は再調整されない?」

『完全ではありません』

「だよね」

『ですが、選定機関があなたの人格や記憶へ直接干渉することを大きく阻害できます』

「つまり、今の萌亜を守れるってこと?」

 

 リオナが聞く。

 

『はい。ただし、条件があります』

「条件?」

『この核は、外宇宙存在自身では起動できません』

 

 リオナは首を傾げた。

 

「萌亜じゃダメってこと?」

『はい。王自身が己を固定すれば、選定機関はそれを汚染と判定し、核を破壊します』

「じゃあ、誰が?」

 

 ネレイアは、リオナを見た。

 

『人間です』

 

 空気が静かになった。

 

『王を地上へつなぎ止める者。王が守りたいと願い、王を恐れながらも手を離さない者。その人間が、核を起動する必要があります』

 

 リオナは、嫌な予感がした。

 

 いや、もうほぼ答えは分かっていた。

 

 ネレイアは静かに告げる。

 

『姫咲リオナ。あなたです』

 

 リオナは固まった。

 

「私?」

『はい』

「いやいやいや、待って。私、ただのインフルエンサーなんだけど」

『あなたは、王の隣に立つ人の娘です』

「肩書きが急に神話」

「リオナっち、すご」

「すご、じゃない!」

 

 リオナは慌てて手を振った。

 

「私、魔法とか使えないし、外宇宙とか分かんないし、普通にテストもあるし、案件もあるし、動画編集もあるし」

『問題ありません』

「あるでしょ!」

『必要なのは力ではありません。接続です』

「接続?」

『王が、自らの意思であなたを地上とのつながりとして認めること。そして、あなたが王を恐れながらも、彼女の手を取ること』

 

 リオナは黙った。

 それは、ノストラダムスの予言と同じだった。

 

 人の娘は王の手を取る。

 星を救うのは王の力ではなく、王を地上につなぎ止める小さな手。

 

 あの言葉が、ここで意味を持つ。

 

 萌亜は、珍しく焦った顔をした。

 

「待って」

 

 全員が萌亜を見る。

 

「リオナっちに危ないことさせるの?」

『危険はあります』

 

 ネレイアは正直に答えた。

 

『核を起動する際、王の本質情報に触れることになります。人間の精神には負荷が大きい』

「ダメ」

 

 萌亜は即答した。

 

「それはダメ。リオナっち壊れちゃうかもしれない。親友にそんなことさせれない」

「萌亜」

「別の方法探す」

『現存する対抗策はこれのみです』

「じゃあ作る」

『時間がありません。選定機関の処分周期はすでに始まっています』

「それでも」

 

 萌亜の声が強くなる。

 

「リオナっちを危ない目に合わせるくらいなら、萌亜が一人でどうにかする」

 

 リオナは、その言葉を聞いて少しだけ怒った。

 いや、かなり怒った。

 

「萌亜」

「何?」

「またそれ?」

 

 萌亜がびくっとする。

 

「リオナっち?」

「一人でやらないでって言ったよね」

「でも、これは」

「でもじゃない」

 

 リオナは萌亜の正面に立った。

 

「私が壊れるかもしれないからダメって言うのは分かる。心配してくれてるのも分かる。でも、勝手に私を外に置かないで」

「だって」

「だってじゃない」

 

 リオナは萌亜の手を握った。

 

「怖いよ。正直、めちゃくちゃ怖い。萌亜の本質とか、外宇宙とか、選定機関とか、全部怖い」

「うん」

「でも、萌亜がいなくなる方がもっと嫌」

 

 萌亜の瞳が揺れた。

 

「再調整って、今の萌亜が消えるってことでしょ」

「……うん」

「そんなの嫌に決まってるじゃん」

 

 リオナは、手に力を込める。

 

「私は、チョベリグって言って、タピオカ飲んで、クレープで機嫌直して、変な宇宙存在をプチッとして、たまに怖がって、でも笑ってる今の萌亜がいい」

 

 萌亜は何も言わない。

 

「だから、私がやる」

「リオナっち」

「もちろん、死ぬほど危なそうならちゃんと考える。でも、最初からダメって決めないで」

 

 リオナは笑った。

 少し震えていたけれど、それでも笑った。

 

「私、萌亜の公式マブダチ兼プロデューサーなんでしょ」

 

 萌亜は息を呑んだ。

 それから、泣きそうな顔で笑った。

 

「マブダチ、古いよ」

「アンタが言ったんでしょ」

「うん」

「だから、手くらい取らせなさい」

 

 萌亜は、しばらく黙っていた。

 

 そして、ゆっくり頷く。

 

「分かった」

 

 その声は、小さかった。

 

「でも、無理だったらすぐやめる」

「うん」

「痛かったら言って」

「うん」

「怖かったら」

「それは最初から怖い」

「そっか」

 

 萌亜は、リオナの手をぎゅっと握り返した。

 

「じゃあ、一緒にやる」

 

 ネレイアは静かに頷いた。

 

『条件を確認しました』

 

 中央の地上定着核が、ふわりと浮かぶ。

 

 金色の光が、萌亜とリオナの間に漂った。

 

 カナメは険しい顔で言う。

 

「本当にやるのか」

 

 リオナは頷いた。

 

「やります」

「危険だぞ」

「知ってます」

「私は、君を守るために同行している。無謀なら止める」

「じゃあ、止める必要があったら止めてください」

 

 カナメは一瞬、言葉を詰まらせた。

 

 それから、小さく頷く。

 

「分かった。全力で守る」

「ありがとうございます」

 

 ゼルヴァードは腕を組み、視線を逸らした。

 

「人間は愚かだ」

「ゼルくん」

「だが」

 

 彼は不機嫌そうに続ける。

 

「その愚かさが、時に選定機関の計算を狂わせるのかもしれん」

「それ、褒めてる?」

「違う」

「褒めてる顔」

「違うと言っている!」

 

 萌亜が少し笑った。

 緊張が、ほんの少しだけ和らぐ。

 

 ネレイアが手を上げる。

 

『では、地上定着核の試験接続を開始します』

「試験?」

 

 リオナが聞く。

 

『いきなり本接続を行えば危険です。まずは、短時間だけ王の本質情報と接続し、適合率を確認します』

「短時間なら大丈夫?」

『保証はできません』

「ですよね」

 

 リオナは深呼吸した。

 

 萌亜が心配そうに見る。

 

「リオナっち」

「大丈夫」

「ほんと?」

「たぶん」

「たぶんは不安」

「萌亜もよく言うじゃん」

「言われる側だとチョベリバ」

「でしょ」

 

 リオナは笑った。

 

 そして、地上定着核へ手を伸ばす。

 

 金色の結晶が、彼女の指先に触れた。

 

 その瞬間。

 世界が、消えた。

 

     *

 

 リオナは、星の海に立っていた。

 

 いや、立っているのかも分からない。

 

 上下もない。

 前後もない。

 

 ただ、無数の星と、無数の終わった文明の残響が漂っている。

 

 声が聞こえる。

 

 祈り。

 悲鳴。

 笑い声。

 誰かの名前。

 遠い星の言葉。

 滅びた都市の歌。

 

 理解できないはずなのに、意味が胸に流れ込んでくる。

 

 重い。

 苦しい。

 

 頭が割れそうになる。

 

「っ……!」

 

 リオナは膝をついた。

 

 その時、目の前に巨大な影が現れた。

 

 安藤萌亜ではない。

 ギャルの姿ではない。

 金髪も、制服も、笑顔もない。

 そこにいたのは、アンゴルモアだった。

 

 無数の輪。

 無数の眼。

 星々を背負う黒い翼。

 

 見ているだけで、人間の精神が削られていく。

 

 でも。

 

 その中心に、小さな光があった。

 リオナは、その光を知っている。

 

 タピオカを見て目を輝かせる顔。

 チョベリグと笑う声。

 怖いと小さく言った夜の横顔。

 

 それは、萌亜だった。

 

「……萌亜」

 

 リオナは立ち上がる。

 

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 

 でも、目を逸らさない。

 

 手を伸ばす。

 巨大な終末存在の中心へ。

 

「萌亜!」

 

 その瞬間、星の海が震えた。

 

 遠くから声が響く。

 

『接続率、上昇』

『人間精神負荷、危険域』

『王の本質情報、流入』

 

 誰かが叫んでいる。

 

 カナメの声。

 ゼルヴァードの声。

 ネレイアの声。

 

 そして、萌亜の声。

 

「リオナっち!」

 

 リオナは、伸ばした手の先に温もりを感じた。

 

 普通の女の子の手。

 カフェでノートを開いていた時と同じ手。

 夜の東京でつないだ手。

 

 リオナは、その手を握った。

 

「捕まえた」

 

 世界が、光に包まれた。

 

     *

 

 リオナが目を開けた時、最初に見えたのは萌亜の顔だった。

 

 泣きそうな顔。

 

 いや、たぶん少し泣いていた。

 

「リオナっち!」

「……声、大きい」

「よかった!」

 

 萌亜がリオナに抱きついた。

 

 勢いが強すぎて、リオナは少しむせた。

 

「ちょ、苦しい」

「ごめん!」

 

 萌亜が慌てて離れる。

 リオナは深呼吸した。

 

 頭が少し痛い。

 身体も重い。

 

 でも、意識ははっきりしている。

 

「私、戻ってきた?」

「うん!」

 

 萌亜が何度も頷く。

 

「戻ってきた! ちゃんとリオナっち!」

「そっか」

 

 リオナは笑った。

 

「なら、成功?」

 

 ネレイアが静かに答える。

 

『試験接続、成功です』

 

 中央の地上定着核が、淡く輝いている。

 

『適合率、九十一パーセント。人間精神負荷は高いものの、王の本質情報との接続に成功しました』

「九十一って高いの?」

『極めて高い数値です』

 

 ゼルヴァードが信じられないという顔をしていた。

 

「ありえん。人間がアンゴルモアの本質に触れて、精神を保つなど」

「リオナっち、すごいでしょ」

 

 萌亜がなぜか得意げに言う。

 

「なぜ貴様が得意げなのだ」

「萌亜のマブダチだから」

「意味が分からん」

 

 カナメはリオナの前に膝をついた。

 

「体調は?」

「頭が少し痛いです。でも大丈夫です」

「無理をするな」

「はい」

 

 カナメはリオナを見て、それから萌亜を見た。

 

「……君たちは、本当に変だな」

「褒めてます?」

「半分は」

「もう半分は?」

「心配している」

 

 リオナは少し笑った。

 

「ありがとうございます」

 

 萌亜は、まだリオナの手を握っていた。

 離す気がないらしい。

 

「萌亜」

「何?」

「手、強い」

「あ、ごめん」

 

 萌亜は少し力を緩めた。

 

 でも離さない。

 リオナも、離さなかった。

 

 ネレイアは地上定着核を見つめる。

 

『本接続には、さらに準備が必要です。王の本質、地上定着核、人の娘の精神。この三つを安定させるためには、アトランティス中枢の最深部へ向かう必要があります』

「最深部?」

『はい。そこに、定着核を起動するための祭壇があります』

 

 リオナは嫌な予感がした。

 

「そこ、普通に行けるんですか?」

 

 ネレイアは静かに答える。

 

『現在、最深部は外宇宙汚染によって封鎖されています』

「やっぱり」

『防衛機構も多数残存しています』

「やっぱり」

『さらに、選定機関の観測干渉が始まっています』

「盛りすぎ」

 

 萌亜がにこっと笑う。

 

「つまり、行ってプチッとすればいい?」

『物理的破壊は推奨されません』

「チョベリバ」

 

 ゼルヴァードが言う。

 

「最深部に行くなら急ぐべきだ。試験接続で、選定機関にもこの核の存在が一部漏れた可能性がある」

「敵が来る?」

 

 リオナが聞く。

 

「来る。遅かれ早かれ」

 

 カナメが武器を確認する。

 

「なら、こちらも準備するだけだ」

 

 リオナは立ち上がろうとして、少しふらついた。

 

 すぐに萌亜が支える。

 

「無理しないで」

「大丈夫」

「ほんと?」

「ほんと。ちょっとだけ休めば」

「じゃあ休む」

「でも最深部行くんでしょ?」

「休んでから行く」

「珍しくまとも」

「リオナっちが倒れたら困るし」

 

 萌亜は真剣だった。

 リオナは少し照れくさくなって、視線を逸らす。

 

「じゃあ、五分だけ」

「三十分」

「長い」

「一時間」

「増えた」

 

 ネレイアが不思議そうに首を傾げる。

 

『休息時間の最適値を算出しますか?』

「しなくていいです」

「してして。リオナっち休ませたい」

「しなくていい」

 

 アトランティスの中枢記録殿。

 

 深海に沈んだ文明の記憶の中で、終末存在と人間の少女は、手をつないだまま言い合っていた。

 

 外宇宙選定機関は迫っている。

 処分機構は動き始めている。

 最深部には、まだ見ぬ危険が待っている。

 

 それでも。

 今の萌亜は、ひとりではない。

 

 リオナがいる。

 ゼルヴァードがいる。

 カナメがいる。

 ネレイアがいる。

 

 そして、ノストラダムスが遺した未来がある。

 

 萌亜は、リオナの手を見た。

 

 小さな手。

 人間の手。

 でも、確かに自分をここにつなぎ止めている手。

 

「リオナっち」

「何?」

「ありがと」

 

 リオナは少し驚いて、それから笑った。

 

「どういたしまして」

「どいたま?」

「それは古い」

「えー」

 

 深海都市の記録結晶が、青く輝く。

 

 その光は、まるで遠い星空のようだった。

 アトランティス観光は、だいたい遺跡が重すぎる。

 

 けれどその重さの中で、確かにひとつの鍵が見つかった。

 

 王を地上へつなぎ止める鍵。

 それは、結晶だけではない。

 人の娘が差し伸べる、小さな手でもあった。

 




第7話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、アトランティス内部の探索回でした。

前回は深海都市に到着するところまででしたが、今回はアトランティスがどんな文明だったのか、そしてなぜ深海に沈んだのかを少し描きました。

この作品のアトランティスは、外宇宙選定機関に気づき、それに抵抗した古代文明です。

見られれば測られる。

測られれば選定される。

だから、彼らは観測から逃れるため、自ら都市を深海へ沈めました。

滅びるためではなく、未来へ記憶と対抗策を残すためです。

そして今回、萌亜を地上へつなぎ止める鍵――地上定着核が登場しました。

これは萌亜の現在人格を固定し、選定機関による再調整や強制帰還から守るためのものです。

ただし、萌亜自身では起動できません。

起動できるのは、萌亜を地上につなぎ止める人間。

つまり、リオナです。

今回は試験接続という形で、リオナが萌亜の本質に触れました。

終末存在としてのアンゴルモアを見ても、それでも萌亜を呼ぶ。

怖がりながらも、手を伸ばす。

この二人の関係が、物語の中心にあることを改めて示す回になったと思います。

黒瀬カナメも、少しずつ萌亜への見方が変わり始めています。

彼女は人類側の警戒心を持つキャラなので、すぐに萌亜を完全に信じるわけではありません。

ですが、萌亜が壊れた守衛に「おつかれ」と言ったこと、リオナを本気で心配したことを見て、少しずつ認識が揺れています。

ゼルヴァードは相変わらず偉そうですが、こちらも少しずつ変わっています。

本人は否定していますが、もうだいぶ地球側です。

次回は、アトランティス最深部へ向かう予定です。

地上定着核を本格起動するための祭壇。

外宇宙汚染された防衛機構。

そして、選定機関からの干渉。

少しバトル寄りの回になると思います。

たぶん。

それではまた次回。

深海遺跡でもチョベリグ。
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