魔法科高校の劣等生【終焉後のレジデュー】 作:伝言めも
どこまでも真っ白な空間に少年は立っていた。
見渡しても白、白、白。
少年の着ている服だけが黒く、周りに存在する色はない。
少年はただ眠かった。
希薄になっている自分の意識を自覚しつつ、それでも確認したいことが少年にはあった。
「やぁやぁ優さん!」
突如として、聞こえた声に少年は振り返る。
数m先に立っていたのは、仲間であり家族でもある少女だった。
「シノア!?...おま、何で?」
「何で?とはひどいですねぇ~...勝手に世界を創り直して、勝手にいなくなりそうな誰かさんに、せっかく会いに来たのに。」
ヘラヘラと笑う少女を、少年は訝しげな表情で眺める。
「勝手にいなくなる気はなかったよ。」
「まぁ、その当たりはぶっちゃけ、どうでも良いです。ですが、私達は新世界から弾かれているのが現状ですよ?」
「わかってるよ。」
「なら、これからどうします?」
「......どうすっかなぁー、困ったぞシノア。」
「困りましたねぇー、優さん。」
困ったと口にしながら、2人で笑いあう。
禁忌を犯して、世界の総てを救う。
代償が必要になるであろう御業にて、世界は新たな姿にて再構築された。
「まぁ私達がこんな場所にいるのは、『楽園』とやらを破壊した余波でしょうかね?」
「かもな、けど想像してた通りにはいかなかったな。」
「姉さんも似たようなこと言ってましたけど、人生そんなものですよ。」
「そっかー......」
少年は、自分を犠牲にするつもりなど毛頭なかった。
神々の存在するであろう『楽園』を破壊する時にさえ、死ぬ気はなかった。
再構築された世界に、彼の居場所は存在しなかった。崩壊した世界にどんな形で総てが復活するのか、未知数で予想ができない故の結果である。
少女は理を歪め、全てを救うことが間違いだと思った。故に、少年と戦う選択をした。彼が世界を救うために犠牲になる可能性を許せなかった。
魂だけで存在を保ち、その身体に直接真祖の力を受け取った自分達だけが、新世界から弾かれたことを理解した。
少年を孤独にさせないために、彼の元に辿り着いた。
「まぁ、見ろよシノア。」
「...姉さんと中佐ですかね?」
白い空間に映し出されたのは、何処かの街で腕を組んで笑っているシノアの姉と義兄(仮)の姿、その周りには友人たちが呆れたような視線を向けている。
優とシノアがいた世界では手に入ることのなかった2人の幸福だった。
「あっちも見てみろよ。」
「ミカエラさんですね。」
百夜ミカエラ、優一郎の家族であり、相棒であった存在。
彼は、百夜茜という少女と手を繋いで歩いていた。
他にも、妹と一緒に買い物をする君月、姉と過ごす与一、姉に勉強を教えてもらう三葉など、2人の知人が新しい世界で笑っていた。
「皆、笑ってますね。」
「ああ、笑ってる。」
シノアは優の口角が上がっているのを確認し、視線を映像に戻す。シノアとしても、彼等が笑っていることは喜ばしいことだ。ただ、自分達も其処にいたかったなんて、寂しさや悔しさを吐き出したかったのは間違いなかった。
柊シノアは百夜優一郎と一緒に生きて、生きて、死にたかっただけ。
「...優さん、私達どうなるんでしょうね?」
「生まれ変わったりするんじゃねぇーの?」
優の言葉に、シノアは少しだけ思案した。そして、思い付いたように、ニヤリと笑う。
「なら、優さん!もし生まれ変わったら、私とずっと一緒に居てくれますか?」
「おう、いるいる!」
あっさりと答えを返してくれた優に、シノアは自身の顔が緩むのを感じていた。映像を見ている優に気づかれないように、静かに顔を揉む。
「そろそろ時間ですね...優さん。」
「えぇー!後5分!」
「もう、寝起きじゃないんですから。」
最後まで締まらない優の姿にシノアは呆れながらも、笑ってしまう。
「優さん、こっち向いてください。」
「ん?なんだっぁ!?」
シノアは振り返った優の唇を奪った。
シノアが唇を離すと、優はわずかに頬を赤くし、何が起こったのか、理解が追い付かない。
「優さん。愛してます。また出逢えたら、今度はデートとか行きたいです。」
「...シノア。あの時、置いていって悪かった。」
「許しますよ。私は優さんが大好きですから。」
シノアは笑う。
少年への恋は既に愛となり、共に過ごし、戦い、互いの喜びも悲しみも知っている2人は、未来の幸福を誓い合う。
「約束する。必ずお前を見つける。」
「約束です。必ず貴方に見つかる。」
そして、世界は完全な白に染まった......
魔法と呼ばれる技術が発達した世界。
そんな世界においても、誰も知ることのない。
後に、『剣聖』と『境界の超越者』と呼ばれた、2人の少年少女の前世の終わり。
そして、「千葉優一郎」と「四葉紫乃朝」の始まりだった。