正直、鈴仙の言葉の意味は、理解出来なかった点が多い。だがまあ、気を付けておけば大丈夫だろう。
竹林には、外に通じているという小さな通り道が一つ、永遠亭の正面に出来ていた。その通り道には別れ道が多く、迷いやすいらしいのだが、別れ道があったら引き返せば良いだけだろう。一本道であれば、迷うこともない。
俺はまた歩き始めた。鈍った体をゆっくりと動かし、着実とした足跡を残していく。竹林は、時折流れる涼しい風で枝を揺らし、幹がその揺れに合わせてゆっくりと揺れる。自身の体が、竹林の道へと入っていくにつれて、その竹林に吸い込まれていくような、そんな不思議な感覚が俺の頭を満たして行った。
十分ほど歩いた。道は直線ではなかった為、後ろに永遠亭は見えない。見えるのは、なおも曲がりくねった小さい竹林の中の道と、その道を覆う広大な竹林のみだ。俺の足跡の残っている方が今通って来た道で、足跡の無い方が、竹林の中へと続く道だ。
俺は、なおも前に進もうと足を踏み出した。
「止まるのだ、そこの人間よ…………」
どこからか女の、いや子供の声が聞こえた気がした。俺は言われた通り足を止め、周りを見渡す。すると、右手の竹林の下のほうで何かが動いた。
「お前、
「へ?」
茂みの中から姿を現した子供は、なぜか鈴仙と同じように頭からうさぎの耳を生やしていた。身長は、俺の胸の位置にも届かないほどだ。しかし腰よりかは高いから、最低でも小学生、よくて中学生と言ったところだろうか。
その子は、両腕を胸の位置に組み、俺を吟味するかのように周りから見回した。やがて、呆れたかのようにその場で大きくため息を吐くと、右手で俺の事を指さした。
「服の着方が下手くそだっ! 帯の締め方は
俺は、いきなり
「ごめんね、俺……小さいときに習い事でしか和服を着れなかったんだ。だから着方が良く分からなくって…………。よかったら君、教えてくれないかな?」
「まあやぶさかじゃないな」
その後、なぜか俺は子供に和服の着方を教えてもらうという、大人としてなんとも情けないことをやってのけた。この子は、面倒くさそうな顔をしつつも、善行を積むことの楽しさは感じているようで、なにやら得意げな顔も見ることが出来たから良かった。
「まあこんなところだな…………。いいか? 和服は、右の
「そうか、ありがとう。本当に助かったよ! 優しいね、君。名前はなんて言うのかな?」