俺は呻き声を無理やり抑えると、左腕を見た。血が、左腕上腕の部分から少しずつ流れ出し、服をどす黒く濡らしている。
――――今の銃撃戦でやられたのか!
俺は急いでIFAKを開き、中から止血帯を取り出した。そして傷口より心臓に近い位置に、その止血帯のベルトをまこうとするが、肝心の左手が使えない所為で上手く巻けない。こうして手こずっているうちに、敵は次の手を打ってくるだろう。俺は焦りを覚える。
建物の入り口を警戒しながら、止血帯をやっと巻き終えたとき、時間はかなり経過していた。だが新たな敵は、未だ中に突入してこない。先ほど倒した敵も、入口付近で倒れた者以外はそのままその場に放置され、今や生気を失っている。
俺は、敵が突入してくる前にリロードをしておこうと、健常な右手をマガジンポーチに伸ばし、新しいマガジンを掴んだ。そして銃に装填された古いマガジンを、震える手で何とか引き抜こうとしたとき、なぜか一瞬強い光が見えた気がした。
意識が途絶する。視界から光が奪われ、何も見えない。
気づいた時、俺は埃まみれの部屋に横たわっていた。目をやられたのか、頭を打ったのか、視界がぼやけている。
至る所から血が流れ出している。傷口付近の服が、まるで血だまりを作ったように、どす黒く服の色を変色させていた。恐らく敵のRPGにやられたんだろう。部屋の入口正面に出来た丸い穴が、その証拠だ。だが幸か不幸か、その壁と1m以上の距離があったおかげで、即死は免れたようだ。だが体中破片でやられている。もう自身での第一線救護は不可能だ。どうやらここまでらしい。
俺は消え入りそうな呼吸を必死に続けた。これまでの自身の思い出が、自然と想起される。
もともとPMCのコントラクターとなったのは、戦場の情報収集及び経験を蓄積し、それを自衛隊に流布する為であった。俺は名目上、第一空挺団を依願退職しているが、俺の本当の所属は特殊作戦群だった。隊員には海外のPMCに一定期間所属し、経験を積んでから帰ってくる者が多い。俺もその中の一人としてPMCの研修に来ていたのだが、戦場での戦闘研修も入っていた為、念を入れて依願退職していたのだ。これは戦死した時、現職の自衛官だと判明すると、自衛隊の立場が危うくなると考えたからである。そのうち日本に帰国し、また再度自衛隊を受験して特戦に戻るつもりだったのだが、どうもそれは叶わないらしい。だがやはり一応退職していて良かった。
馬鹿みたいに辛い訓練や戦友の記憶が、走馬灯のように流れる。やはり人間は死ぬとき、自身のこれまでの人生を振り返る物らしい。
それもそうか、死ぬときだもんな。物語が終わるときだって、最後はその物語を最初から見直したくなる。