前世がYAMA育ちな菜月昴の異世界生活   作:雨天

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第十二話 敵の正体

 

 

 

「よいしょっと。無事買い出しコンプリート!個人的なミッションも達成出来てウキウキだぜ」

 

 俺は屋敷の玄関に樽を置いて一息吐く。

 やはり休憩を取らずとも持って帰れた。最近食事などで魂が余剰エネルギーを持つようになったのでそれを肉体の強化に充てているのが効果有るらしい。

 何故かこの世界の食事は魂まで太らせる。魂がデブにならないように上手く活用した結果である。

 エミリアたんとかは魂がデブってないのを鑑みると俺だけの特殊技能であるらしい。また変な機能が増えた俺氏である。

 

 他にも色々と便利な機能がついており、俺を作ってくれた前世の親には感謝している。

 まあ、自分の手で殺したが。

 

 流石に魂そのものを一から作り出すとかいう激ヤバ実験は表沙汰に出来ない。その技術が都合の良い軍隊の作成とかに使われたら個人で軍を所持できるようになるし、国家が絡むと利権やら軍備の強化やら厄ネタは沢山ある。

 だから仕方なく、家ごと燃やし尽くして消し去った。

 

 そしたらまあ無国籍の身分証一つない怪しい男が一人生まれる訳で、就労するにはかなりの苦労を伴った。

 当たり前みたいにブラック企業しか就職先はないし、その果てが過労死である。

 山の中で暮らしていた方がよっぽど長生きできたのかもしれないと思うと、無知で愚かな子供だった己を悔いるしかない。

 

 とは言っても、今更考えても詮無いことである。

 俺は思考を断ち切って現実に意識を戻した。

 

 屋敷の玄関は相変わらず豪奢で掃除が行き届いている。

 玄関掃除はレムの担当なので、見れば見る程勉強になる。

 

 俺が食い入るようにレムの掃除の痕跡を見ていると、横から声がした。

 

「あはぁ、三人とも一緒だったんだねぇ。手間が省けて助かるよぉ」

 

 屋敷の主人、ロズワールが微笑を浮かべてそう口にする。

 その格好は普段の道化のような服装とは違い、誰が見ても真っ当だと口にするであろう礼服に身を包んでいた。

 

「余所行きの格好、か?」

「ご名答。いんやぁ、私もあんまり好きじゃないんだけどねぇ。普段の装いだと、どぉしてもやっかむ輩がいるものだから、仕方なぁくこうした礼服も着る訳だよぉ」

「来客ですか?」

「外出ですか?」

 

 レムとラムがロズワールに問いを投げる。

 ロズワールは苦笑して答える。

 

「ラムが正解、外出だ。少しばぁかり、厄介な連絡が入ってねぇ。確かめにガーフィールのところへ行ってくる。遅くはならない気だけどねぇ」

 

 レムとラムがロズワールのその言葉だけで全てを察したと頷いた。

 俺は雰囲気に流されて軽く頷くに留めた。

 

「そぉんなわけで、暫し屋敷を離れる。どちらにせよ、今夜は戻れないと思うからラム、レム。任せたよぉ」

「はい、ご命令とあらば」

「はい、命に換えましても」

「忠誠極まってんなー…俺はまだそこまでの忠義は見せられねえわ」

「そぉれで良いとも。出会って数日でそこまでの忠誠を捧げられても気持ち悪いしねぇ。でもまぁ、君にも任せるよ、スバル君」

 

 ロズワールは俺の肩を叩き、片目を瞑って黄色の瞳だけに俺を映す。

 

「きな臭いものを感じる。私のことは構わないから……エミリア様のことだけはしぃっかり頼むよぉ?」

「あぁ。それはマジで任された」

 

 これまでにない展開でも乗り切ってみせる。

 そして皆で明日の朝日を拝むのだ。

 

「それじゃぁ、ちょっと行ってくる。何事もないことを祈るが、ね」

 

 ロズワールの姿が玄関の向こうへと消える。

 俺はふと湧いた疑問を口にした。

 

「二人はついてかねえんだな。オマケに馬車なりなんなり来てた形跡ないけど……まさか、歩き?」

「行っても仕方ないですから。足手纏いになるだけです」

「忠誠心じゃ空は飛べないもの。スカートの中が見えるし」

「飛べんの!?…そりゃあ馬車もいらない訳だ」

 

 魔法で飛んでるのだとすれば、俺も飛べるようになる可能性はあるだろう。何せ、空飛んでる本人から世界一を目指せる素質があると言われているのだから。

 魔法の習得も必須科目だな。魔法の扱いに長ける精霊に聞くのが早いか?

 

 俺が今後の予定を立てているとレムが口を開いた。

 

「ロズワール様がいなくても、レム達の仕事は変わりません。寧ろ、ロズワール様がいないからこそしっかりやりましょう」

「優等生な意見だこと。でも、うっし。やるとすっか」

 

 状況は変化した。それも明らかな襲撃を予感させる変化だ。

 呪術師の正体を一刻も早く暴かなければならない。だが、仕事も熟さなければならない。両方を達成しなければならないのが傭兵兼雑用の大変なところである。

 

 俺は重い腰を持ち上げて作業を開始した。

 

 

 

 

「エミリアたん、今時間ある?」

「スバル?どうかしたの?」

「実はパックにお願いがあってな。パックいるか?」

「いるよー。でも眠たいから用件は早めにね」

 

 眠そうに目を擦るパックに俺は用件を口にする。

 

「ちょっと俺が呪われてると思うんだけど、確かめてくれない?」

「え?呪われてるって……」

「嘘は…言ってないみたい。分かった、確かめるよ」

 

 パックは俺に近寄り、眉を顰めた。

 

「術式の気配…本当に呪われてるよ、スバル」

「やっぱりか。んじゃその解除と何処が呪われてたか教えてくれ」

「良いよ。リアの恩人を見殺しには出来ないからね」

 

 パックはそう言うと掌を白い光で覆い、俺に向けた。

 

「今から術式の刻まれた呪印を破壊するから参考にしてね」

「おう。布石は打ってあるぜ」

 

 誰が術者でも驚かない自信がある。

 村の大人達でも子供でも、あの子犬でも。

 

 パックが俺の左手に触れる。

 左手がじんわりと熱を持つのが感じられる。黒い靄が手から滲み出し、パックの手の中に収まるとぐしゃりと潰される。

 

「今のが、呪術師が触れたとこで合ってんだよな?」

「うん。今の場所が確実に呪術師が触れて、呪印を施したところだよ」

 

 嫌な予感はしていた。

 最悪も想定していた。それが、万が一の可能性が当たってしまった。

 あの子犬が、恐らくこの世界の魔物か何かに類する存在で、噛み付く奴全員に呪いを振り撒いてやがった。

 

「エミリア、このままだと村が危ない。呪術を使う犬が子供達と接触しちまった」

「それって……っ!」

「時間が経てば村の子供達全員が死に至る。もっと最悪なことを考えると大人も犠牲になるかもしれない」

「そんなっ!?どうにかしないと!」

「今すぐ村に行って子供達の呪いを片っ端から解いていくしかねえ」

「急ぎましょう!ラムとレムにも話さないと!」

 

 エミリアと共に屋敷を駆け抜けて玄関に辿り着く。

 そこには既に先回りしていたかのようにラムがいた。

 

「ラム!村にいたあの子犬は呪術師だ!急いで呪いを解きに行かないと子供達が危ねえ!」

「それを信じる根拠はあるの?」

「パックが証人だ。エミリアも俺に掛かった呪いを解く現場にいた」

「姉様…これは?」

 

 ラムの背後の大扉を開けてレムが姿を現す。

 ラムが端的に情報を伝える。

 

「バルスが村にいる呪術師を退治する為に向かうと言い出したわ。どうしたものかしらね、レム」

「スバル君の仕事の第一優先は傭兵です。ですが─」

「一人で行かせる訳にはいかない、だろ?どうせロズっちから監視の任務出されてんだろ。子供達に掛けられた呪いの解除の為にエミリアとパックも連れてくから二人も来たら良い。その方が確実だ。」

「屋敷を空けることになるからラムが残るわ。帰りが遅いと感じたら援護に行く」

 

 俺はラムの案に頷いて答える。

 これで状況は有利に進められている筈。見落としは、ないと思いたい。

 

「レム、そういうことだからお願い。屋敷はラムが護るわ。そっちのことも、ちゃんと視てるから」

「姉様、あまりその目は……」

「言っている場合でもない。レムもそうしなさい」

 

 ラムの淡々とした物言いにレムはそれ以上の言葉を差し挟めない。

 二人にしか分からないやり取りを経た上でレムは幾つも言葉を飲み込み、決して友好的ではない視線を俺に向ける。

 

「スバル君、詳しい話が聞きたいところです」

「走りながら話す。大事なことだから二回、三回話すぞ」

「いえ、一度で充分です」

 

 レムの淡白な返事を聞きながら、俺は玄関の扉を開けて走り出したのだった。

 

 

 





・オリ主
前世の親は自分の手で殺している。
食事の栄養が魂にも行くようになった。魂が力を付けると肉体性能は飛躍する。

オリ主の魂について
転生する際に魂が分裂した為、複数のオリ主がそれぞれ違う世界で生きている。
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