ヤンデレを育てよう   作:とんとんた

3 / 3
のじゃろり銀狐3

浅葱が家へ来ることは、いつの間にか特別なことではなくなっていた。

 

朝起きて顔を洗い、おばさんの作ってくれた朝ご飯を食べながら居間でのんびりしていると、決まって玄関の引き戸が開く音がする。

 

もちろん、その音が聞こえるのは僕だけだ。

 

「おはようなのじゃ」

 

そう言いながら銀色の髪を揺らして居間へ入ってくる浅葱を見て、「また来たの?」と聞くのも、もはや毎朝のやり取りになっていた。

 

「またとはなんじゃ。失礼なやつじゃの」

 

頬を膨らませて文句を言うくせに、僕の隣へ座る速さだけは日に日に早くなっている。

 

最初の頃は夕方になると「神社へ戻るのじゃ」と帰っていたが、最近では神社にいる時間の方が短いんじゃないかと思うくらいだった。

 

以前、そのことを聞いたことがある。

 

「神社はいいの?」

 

「暇じゃ」

 

「神様ってもっと忙しいものじゃないの?」

 

「忙しい神もおる」

 

「じゃあ浅葱は?」

 

「暇じゃ」

 

あまりにも迷いのない返事に思わず笑ってしまうと、浅葱は「何がおかしい」と不服そうに眉を寄せていた。

 

そんな調子だから、一日中一緒にいるのが当たり前になった。

 

ゲームをしたり、漫画を読んだり、散歩に出たり、昼寝をしたり。何をするわけでもなく縁側に座って田んぼを渡る風を眺めているだけの日もある。

 

八月の日差しは容赦なく照りつけ、蝉は朝から夕方まで飽きもせず鳴き続ける。古びた扇風機はぶうん、と気の抜けた音を立てながら首を振り、畳の匂いと冷えた麦茶の香りが混ざる居間は、不思議と心地よかった。

 

浅葱はそんな時間が好きらしい。

 

「人間は面白いのう」

 

「何が?」

 

「何もせんでも、一緒におるだけで満足そうな顔をする」

 

「それは浅葱じゃない?」

 

「わしか?」

 

首を傾げる姿がおかしくて笑うと、「また笑ったの」と少しだけ嬉しそうに頬を緩める。

 

そんな日々の中で、一つだけ変わったことがあった。

 

ゲームをクリアした日に何気なく頭を撫でたのが始まりだったはずなのに、いつの間にか浅葱は理由もなく撫でられに来るようになった。

 

漫画を読んでいると肩へ頭を預けてくる。

 

ゲームをしているとコントローラーを持つ腕へ額を擦り寄せてくる。

 

昼寝をしようと横になると、いつの間にか隣へ転がってきて耳だけをこちらへ向けている。

 

「……何?」

 

そう聞くと、浅葱は少しだけ耳を動かして、

 

「待っておる」

 

と言う。

 

「何を?」

 

「分かるじゃろう」

 

最近ではもう、「撫でるのじゃ」とすら言わなくなった。

 

頭を差し出されれば、ああ撫でろということか、と分かってしまう自分もどうかと思う。

 

仕方なく髪を撫でると、耳がぴくりと震え、尻尾が機嫌よく左右に揺れる。その様子を見ると、ついもう少しだけと手が止まらなくなるのだから不思議だった。

 

「裕は学習能力があるのう」

 

「誰のせいだよ」

 

「褒めておるのじゃ」

 

「褒められてる気がしないんだけど」

 

「気のせいじゃ」

 

浅葱は満足そうに笑っていた。

 

それから数日が過ぎた頃、今度は別の変化があった。

 

ある朝、暑苦しさを感じて目を覚ますと、目の前に銀色の髪があった。

 

一瞬夢かと思ったが、ゆっくり瞬きをすると浅葱と目が合う。

 

「起きたかの」

 

「……何してるの?」

 

「おるだけじゃ」

 

どうやらタオルケットの中へ勝手に潜り込んできたらしい。

 

「普通、人の布団には入らないからね」

 

「そうなのか?」

 

「そうなの」

 

浅葱は少しだけ不思議そうな顔をしたあと、「人間は難しいのう」と呟いた。

 

起き上がろうとすると、浅葱の鼻先が肩口に近づいてくる。

 

くん、と小さく音がした。

 

「今、嗅いだ?」

 

「嗅いだ」

 

まるで悪いことをしていないと言わんばかりの返事だった。

 

「何で?」

 

「落ち着くからじゃ」

 

「匂いで?」

 

「うむ」

 

浅葱は僕の服の袖を指先で摘まみながら、小さく頷く。

 

「最初は気づかなかったんじゃが、おぬしの匂いを嗅いでおると安心するのじゃ。神社の御神木の近くにおる時みたいにな」

 

狐だからなのか、神様だからなのか、それとも浅葱だからなのか。

 

理由は結局分からなかった。

 

ただ、それ以来の浅葱はさらに遠慮がなくなった。

 

隣へ座れば肩が触れるくらい近いし、ゲームをしていても漫画を読んでいても、気づけば僕の肩口で小さく鼻を鳴らしている。

 

「それ、もう癖になってない?」

 

「そうかもしれんの」

 

少しも反省した様子はなく、そう言って笑う。

 

ある昼下がり、扇風機の風を受けながら漫画を読んでいると、浅葱がいつものように肩へ寄りかかってきた。髪が腕に触れ、小さく「くん」と鼻を鳴らす音が聞こえる。

 

呆れながら頭を撫でると、浅葱は目を細めて身体の力を抜いた。

 

「おぬしの匂いを嗅ぎながら撫でられておると、本当に幸せじゃのう」

 

照れもなくそう言って笑う浅葱に、返す言葉は見つからなかった。

 

代わりにもう一度だけその頭を撫でると、浅葱は喉を鳴らす猫みたいな顔をして、嬉しそうに尻尾を揺らしていた。

 

 

祐が眠りに着いておおよそ1時間が経とうとするころ、眠ってしまった祐に抱きついている浅葱の息遣いは、どんどん荒くなっていった。

 

「祐、、祐、、、、」

 

「あぁ、、わしの祐、、」

 

ぐりぐりと頭を強く埋め恍惚とした表情を浮かべる。祐が起きている時とはまた違った雰囲気を纏い浅葱は甘く蕩けるような時間を楽しんでいた。

 

祐の足に自分の足を絡め独占欲をあらわにする。

 

「んん、、浅葱、、、」

 

今だに眠りについている祐が、寝苦しそうに浅葱の名前を呼ぶ祐。

 

「ああぁぁぁ」

 

名前を呼ばれて嬉しさに身を震わせる。

 

「本当に愛やつじゃのぉ」

 

仰向けの祐の上に体制を変え、黒く濡れた瞳でまじまじと見つめる。

 

「このまま食ってしまおうか」

 

両の手の指を絡め、目も細くして捕まえた獲物をどうしようかと浅葱は考える。

本能では祐をここで番にしてしまえと叫ぶがそれを止めるのは、祐から求められたいという女としての気持ちであった。

 

「やはりここは、お主からじゃな」

 

自分の中での葛藤の末勝ったのは、女としての自分だった。

 

「今日はこれだけだ許してやるのじゃ」

 

軽く口付けをして再び裕の腕枕の元に帰っていく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

純潔騎士団は童貞神父の色に狂う 〜拗らせ処女の巣窟で女神が純潔の戒律を撤廃したらどうなるか。反動ですんごいことになった〜(作者:ジョイントリーゼント)(オリジナルファンタジー/恋愛)

 人類の敵、魔族が強大な脅威としてある世界。聖十字教会は対魔族の有力な対抗馬と目されるも、魔族軍の強大さに苦戦は必至で、最前線へ駆り出されるだろう白銀聖騎士団は危険も大きい。▼ そんな状況で、信仰に殉ずる信徒たちへの褒美として、女神は遂に決定した。――聖騎士に課せられた「純潔の戒律」を撤廃することを。▼ 結果、これまで押さえ込まれていた騎士たちの想いは爆発す…


総合評価:345/評価:7.22/連載:16話/更新日時:2026年04月22日(水) 20:55 小説情報

奴隷商の下働き、炎に炙られて魔術の才が開花する 〜というのは嘘で、実はヤンデレ竜人奴隷の仕込み。天邪鬼な上位種の独占欲はいつでも強火!〜(作者:ガイアの目覚め)(オリジナルファンタジー/恋愛)

「さあ、早うわらわの角を噛むのじゃ――――な、旦那さまぁ……」▼ スラム出身の少年レックスは、病気の妹のために、悪いことと自覚しつつ奴隷商の下働きとして日々を過ごしていた。そんな中せめて人として正しいことをと、奴隷たちへの誠実な対応を心掛けていた結果、生まれてから一度も善意を向けられてこなかった炎竜の少女ドラコの心を灼くこととなる。▼ そうして、嫌われるから…


総合評価:56/評価:-.--/連載:4話/更新日時:2026年05月04日(月) 00:47 小説情報

うすほそな幼なじみを口説き落とすRTA(作者:アホ面オムライス)(オリジナル現代/恋愛)

五歳の春、黒瀬湊は砂場の隅で膝を抱える少女を見て「放っておいたら死ぬ」と直感した。以来十二年、彼は彼女を幸せにするための「最短ルート」を走り続ける。これは善意100%のRTAが、いつしか彼女を誰よりも重く育てていく物語。▼高評価だけ忘れずにポチッとよろしくお願いします!!▼※カクヨム・なろうでも公開中▼https://kakuyomu.jp/works/29…


総合評価:943/評価:7.87/完結:10話/更新日時:2026年07月16日(木) 22:01 小説情報

【完結】鶴が恩返ししないんだが(作者:エタリオウ)(オリジナル現代/恋愛)

生まれつき鳥に好かれやすい高校生・佐鳥鳳介の家に、ある雪の夜、一人の美少女が訪ねてきた。▼これはまさか、現代版・鶴の恩返し――?▼だが、その出会いを境に、鳳介の日常は少しずつ鳥に侵食されていく。▼彼を守ろうとする居候。▼クラスメイトはストーカー。▼完璧すぎる幼馴染。▼そして、彼の過去へ踏み込んでくる後輩。▼鳥に愛され、鳥に狙われ、鳥に振り回される。▼これは、…


総合評価:5065/評価:8.89/完結:26話/更新日時:2026年06月26日(金) 20:07 小説情報

世界のために死んだら俺を殺した子がヤンデレになっていた(作者:散髪どっこいしょ野郎)(オリジナルファンタジー/恋愛)

世界の均衡を保つために死ぬ→神々の寵愛を受けて転生する→自分を殺してくれた子がヤンデレ化していた←今ここ▼なおヤンデレは一人だけではない模様▼


総合評価:316/評価:7.9/完結:4話/更新日時:2026年06月08日(月) 21:46 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>