ソシャゲ転生したら主人公の偽物だったので、偽りの久条運命としてGARDENに所属します 作:木津
「それで?」
おでかけを終えて自室に戻ると、すぐにリリィ様に呼び出された。向かった先は、脳内にあるリリィの本屋さんだった。
「何か言うことはあるかね、キミ」
運命陛下の偽物として参加したおでかけについて、総評を始めると言われたのだが、リリィ様は明らかに怒っている。
GARDENの住人に不審がられることはなかったし、カノンたちとも交友を深めることができた。我ながらパーフェクトなお出かけだと思っていたのだが……
「何騎士に運命の好きな服装を教えて奴らの恋路をサポートしているんだ、キミは! 運リリこそ至高とか言っていなかったか!?」
「そこですか!?」
リリィ様が当たり前だ! とこちらに掴みかかってくる。
「お、落ち着いてください! 確かに好みの服装は教えましたけど、あくまで自分の意見ですし! 自分は運リリ至高ですけど、GARDEN箱推しでもあるというか……」
「何ガタガタ言ってるんだ。だいたいキミも騎士たちにデレデレしすぎだ! 運命の偽物としての自覚が足らない!」
どうしよう。陛下はわりと騎士たちにデレデレしてるんじゃ、とか言っても火に油を注ぐだけだ。
というかリリィ様がわりとヤキモチ焼きなのは知っていたがこっちにも飛び火するとは……
毎度のように陛下と騎士のイチャイチャを見せられ、不満が溜まっていたところに、偽物の自分まで似たようなことをしたのでとうとう我慢の限界が来たのかもしれない。確かに途中からリリィ様のこと忘れておでかけ楽しんでしまったけれども……!
そんな感じでリリィ様にガクガクと揺さぶられていると、いつの間にか陛下がやってきていた。
「どうしたの?」
リリィ様はぱっと手を離すと可愛く振り向く。
「何でもないぞ、わが読者♡」
「何でもないですよ、陛下♡」
きゃるんとしたリリィ様に合わせて自分に出せる最高の可愛いボイスでセリフを合わせる。
「……仲いいね」
運命陛下は少し呆れたようにそう言った。
「それで、今後のことなんだけど」
運命陛下は僕の向かいに腰を下ろすと、本題を切り出した。
「楽園聖典から命を魔界に降ろす許可が下りた。さすがに単独行動はさせられないから騎士たちと一緒に行ってもらう。そのためにまず騎士たちとの顔合わせや連携訓練をすることになったよ」
「了解です」
そのまま、今後の行動について話し合った。脳内の本屋で会議をすれば、現実ではそれぞれの部屋で休憩しているようにしか見えない。密談にはうってつけの場所だ。
しかし、この脳内通信がどこまでつながるかはわからない。GARDEN内なら問題なさそうだが、魔界に降りた場合や神域に入った場合は繋がらなくなる可能性もある。与えられた役割をこなせるよう、万が一に備えて入念な会議を行う。
訓練についてのレクチャーや騎士たちとの接し方についても陛下からアドバイスを貰った。
「このくらいでよさそうだね。他に何かしたいことはある?」
「そうですね……。許可が貰えるならGARDENの中を散歩したいです」
「散歩?」
「はい。まだわからない場所も多いですし、せっかくなので」
「そっか。じゃあ、好きに見て回るといいよ」
「ありがとうございます、陛下!」
こうしてGARDEN散策の許可を得たのだった。
――というわけで。
リリィ様の案内でGARDENをふらふらと探索している。とはいえ、GARDENはかなり広いので、今回は自室の近くだけだ。建物は近未来的な意匠でできているので、見慣れない施設や通路を眺めたり、行き交う人々を遠巻きに観察したりするだけでも楽しかった。
しばらく散策を続け、運命陛下の部屋の屋上まで来ていた。
浮遊大陸だけあって空が広い。
眼下にはGARDENの景色が広がり、その向こうにはどこまでも続く青空がある。
屋上の手すりに体重をかけ、ぼんやりと空を眺めた。
この世界に来てから、いろいろなことがあった。運命陛下と出会い、リリィ様と話し、騎士たちと交流して。
自分は軌道修正が用意した無自覚なスパイで、いきなり操られてGARDENで破壊活動を始める。挙句の果てに、騎士たちに討ち取られる――そんな悪い妄想ばかりしていた。
けれど、今のところ問題はなさそうだ。安心したような、拍子抜けしたような、何とも言えない気分だった。
どこか現実的でなかった世界がどんどんと現実になっていく。まるで世界に受け入れられたようだ。
……などと、少しばかり感傷に浸っていた、そのときだった。
キラリ、と視界の端で何かが光った。
「ん?」
次の瞬間。
ゴツンッ!
「痛っ!?」
何かが頭に直撃した。頭を覆う仮面が無かったら即死だったかもしれない。
頭を振りながら足元を見ると、そこには小さな青い結晶が転がっていた。
「これは……ダイヤか」
蒼空結晶ダイヤ――リバxリバでいうガチャ石だ。超純度のエネルギー結晶体で、嘘か真か魔界の空から生まれるとされていた。まさか本当に空から降ってくるとは。
手を伸ばしてそっと拾う。
「蒼空結晶ダイヤ……ダイヤねぇ」
持ち上げて光にかざしてみる。
透き通った青色。角度を変えるたびに、きらきらと光を反射する。
ダイヤ越しに青空を覗く。
この空の向こうに、君がいるのかい?
――。
つぶやいた名は、音にならず空に消えていった。
(……何を言っているんだね、キミは)
頭の中に、リリィ様の呆れた声が響く。
「いや、ほら。青空に向かってポエムるのは騎士の生態みたいなとこあるじゃないですか」
(騎士にそんな生態はない)
リリィ様にバッサリと切り捨てられてしまった。手持ち無沙汰になり手でダイヤを転がして弄ぶ。
(そのダイヤはどうするんだい?)
「
(……そうか)
1個だけもらっても陛下も困るだろうし、もらうならドカっとガチャ10連分くらいは欲しいだろう。
ダイヤをそっとポケットに忍ばせ、屋上を後にした。