ソシャゲ転生したら主人公の偽物だったので、偽りの久条運命としてGARDENに所属します 作:木津
「とかなんとか言って、
実験地獄からいったん解放された俺は、偽運命改め
今は運命陛下の脳内にあるリリィ様の本屋で、運命陣営の三人による会議中だ。リリィ様が予想した楽園聖典の会話内容を聞いている。
ゲーム内のストーリーでもたまにこうした異次元の把握をしていたが、本当にそんな会話をしていたのだろうか? こうして相手の会話を予想できるということはリリィ様は楽園聖典への理解度が高いのかもしれない。
「さて、楽園聖典にも歓迎され命がうまくGARDENに所属できた。これからの命の行動を決めよう」
「命のスペックがわかってよかったね。能力は大丈夫そう?」
運命陛下は実験結果がまとめられた資料をぱらぱらとめくりながら問いかけてきた。実験で判明したこの体のスペックは運命陛下とほぼ同じだった。不老不死であることも判明したのはかなり大きい。普通の人間スペックだったら足手まといになるところだった。
「実験中に一通り使いはしましたが、ぶっつけ本番で実戦は厳しいですね」
何年も乗っていない自転車に乗るような感覚ともいうか、できるとは思うけどあまり自信が無いことを正直に伝えておく。
「そこはおいおい慣れてもらうしかなさそうだね」
「幸いにして楽園聖典もしばらくは命をGARDENから出すつもりはないようだからな。数日はわが読者の部屋に泊まるのだろう?」
「はい、お世話になります」
実験中は実験室で生活していたが、一通りのデータが採り終わり分析の段階に入るとのことなので、行き場を失った自分は監視も兼ねて運命陛下の部屋に滞在することになったのだ。今のところ追加の実験予定も入っていないので実験地獄から解放されたと言っていいだろう。
こうして脳内で会議をしているが、現実では早速運命陛下の部屋でくつろいでいる。ゲームで何度も見たホーム画面そのままだ。広々としていて、ソファーなどもあってかなり過ごしやすい。
「そういえば自分の記憶について本当に楽園聖典に伝えてしまってよかったんですか?」
ゲームのことを思い出したついでに気になっていたことを尋ねる。記憶に残っているストーリーを、自分が経験した出来事として運命陛下とリリィ様に伝えたところ、二人はそれを全く経験していなかった。
全く違うパラレルワールドに転生したのかと焦ったが、会話を続けた結果、どうやら現在は原作本編開始前の時期である可能性が高いと判明した。自分たちしか知らない未来の知識という名の原作知識。情報面で大いに役に立てると思った矢先にこれを楽園聖典にも共有するように指示されたのだ。
「未来の記録があるといっても確定じゃない。話を聞いている限り未来の情報である可能性が高いというだけだ。完全なるパラレルワールドの記憶だったら意味が無いし、ただの記憶障害という可能性もある。検証するには我々だけでは難しい」
「記憶が信頼できるとわかったら、未来の知識があるということは楽園聖典にも把握してもらっていた方がいいよ。知識前提の動きをしやすくなるからね」
「確かにそうですね」
この記憶がただの妄想であったらだいぶ悲しい。だが思い出せる範囲がおかしいのも事実だ。メインストーリーの最後まで見届けたような感じもするのだが、すべてを思い出すことができない。しかし、今後思い出していけるだろうという謎の確信もある。
「思い出したことは楽園聖典に伝えずにまずこちらにだけ伝えてくれ。伝える情報を制限して状況をコントロールできるのがベストだからな」
「もちろんです」
リリィ様がにやりと悪い笑顔を浮かべる。原作知識は二人にすべて伝えておけばどれを楽園聖典に開示すれば指示がもらえることになった。自分だけではどう原作知識を使えばいいか判断が難しかったので二人に相談できるのはかなりありがたい。
「それで今後私はどう行動すればよいですか?」
「ひとまずは楽園聖典の命令に従っておいてくれる? まずは騎士達の信頼を得つつこのGARDENに慣れてほしい」
とりあえず楽園聖典の言うことを聞いておけ、というオーダーを受けたので快諾する。下手に高度なことを求められるよりはずっといい。
「せいぜい利用させてやろう。奴らも命が完全に信用できるとは思っていないはず。どう対応してくるにしろ手は掛かる。その分わが読者に割ける手も減るからな。命もそれでいいな?」
「承知しました」
話がまとまったところで意識を現実に移す。運命陛下は現実で会議しながらリリィ様と会話をするどころか、いちゃつくことすらできるが、自分はまだ慣れない。ここも練習が必要そうだ。暇を見つけてリリィ様に構ってもらうことにしよう。
「今は楽園聖典からの指令もなくてこの部屋で待機してるだけだよね?」
「はい」
「丁度いい機会だし、命に頼みたいことがあるんだけどいいかな?」
ソファに座っていた自分に運命陛下が話しかけてくる。何故かディスプレイの顔がニコニコしており、とても嬉しそうな雰囲気だ。
「書類、手伝ってくれる?」
「え、まぁはい」
自分の机に積まれた書類を指しながら運命陛下にお願いされた。GARDENの皇帝陛下は忙しい。常に書類に追われていると言っても過言ではないだろう。だから普段は騎士を一人サポーターとして部屋に呼び仕事を手伝ってもらっている。
現在は偽運命という自分の存在の都合上、部屋には運命陛下のみで他に騎士はいない。だから騎士の代わりに自分が陛下の仕事を手伝うのは自然な流れ……なのだが、明らかに陛下が嬉しそうというか計算通り! みたいな雰囲気を醸し出しているのが気になる。
(……我が読者。まさかとは思うが、自分が二人になれば書類仕事も半分になると思って命を受け入れたのか?)
(いやいやいや、そんなことはないよ)
リリィ様の呆れたような声に運命陛下が脳内で否定の言葉を返すが信用ならない。
割とすぐ陛下は自分を受け入れようとしてくれていたが、目的はこれだったのか……
GARDENで最も忙しいとも言われる運命陛下だ。彼の負担を減らすことは仲間としてかなり大事なことだ。
仕事を手伝うことはやぶさかでないものの、少し腑に落ちないまま、俺は運命陛下に促されて書類の前へ座った。
【
命が覚えていたゲームの記憶。原作知識を自身が経験した記憶として運命たちに伝えている。
思い出せる範囲に制限がある。とある世界で語られている物語の範囲とリンクしているのかも知れない。